ロキファミリアの囮役   作:杉山杉崎杉田

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砲撃

 

 

翌日、遠征部隊出発。戦闘員7、サポーター5、鍛治師1、囮1の14人パーティ。

先頭にブラム、前衛にはベートとティオナ、中衛にはアイズとティオネとフィン、後衛にはリヴェリアとガレス。

 

「もう、何でベートと前衛なのー」

 

「うるせぇ、馬鹿アマゾネス」

 

「そ、そ、それよりなんで僕が先頭⁉︎前衛ですらないんですか⁉︎何この前衛との嫌な距離感!」

 

そう言いながらブラムが振り返ると、ティオナと目が合った。直後、お互いに顔を赤くして目を反らす。

 

「………なんかあったのか?」

 

「う、うるさい!ベートには関係ないから!」

 

「はっはっ、いつだって賑やかなことだなぁ、【ロキ・ファミリア】」

 

三人のやり取りに、椿が大声で笑った。

 

「色々あったみたいよ、昨日ね」

 

「「ティオネ(さん)‼︎」」

 

意味深に呟いたティオネに、ティオナとブラムがツッコムと、フィンの表情が怖い笑顔になった。

 

「………何かあったのか?」

 

「「な、何にもない‼︎」」

 

慌てて口を揃えて答える二人に、椿はまた大声で笑った。

 

「レフィーヤ、呼吸が浅い。体から力を抜け」

 

「は、はいっ、リヴェリア様っ」

 

「ティオナたちのように振る舞えとは言わんが……まぁ、どっしり構えておれ。ほれ、ラウル、お前もじゃ!」

 

「は、はいっす⁉︎」

 

後方では、後衛の二人とサポーターのやり取りが聞こえてくる。

 

「さて、ここからは無駄口はなしだ。総員、戦闘準備」

 

「そもそもティオナさんが昨日夜這いしてくるから!」

 

「夜這いって言うなあああああああ‼︎体弄ってきたのそっちじゃん‼︎」

 

「弄るって言わないでくださいよ‼︎」

 

「おい、バカ二人聞いてるか?………それと、今話してた件についてあとで話がある」

 

フィンに言われて、二人とも肩を落とした。

階層西端の壁面に空いた大穴、50階層と51階層を繋ぐ連絡路は険しい坂となっている。

そこから急斜面を見下ろすと、階下には既にいくつものモンスターの眼光が闇に浮かび上がっていた。

 

「ブラム、行け」

 

「トランザム‼︎」

 

直後、ブラムは走り出した。そのあとに続くモンスター達。それらをベートとティオナが後ろから攻撃しながらブラムの後を追った。

 

「予定通り正規ルートを進む!新種の接近には警戒を払え!」

 

全員、フィンの指示に従いながら、続いた。

 

「先の通路から産まれる」

 

「前衛は構うな!アイズ、ティオネ、対応しろ!」

 

「はい!」

 

モンスターの産出を予期し、フィンが声を飛ばす。

それらをかたっぱしから片付けていると、前方から声が聞こえた。

 

「団長!新種来ました‼︎」

 

ブラムの声の直後、前からやってくる黄緑色の塊。芋虫が大量にやってきたのを、ブラムは落ち着いてひきつけていた。

 

「隊列変更‼︎ティオナ、下がれ!」

 

入れ替わりでアイズが前に出た。

 

「【目覚めよ】」

 

魔法を発動し、走り出してるベートと肩を合わせ、突撃する。

 

「アイズ、寄越せ!」

 

「風よ」

 

ベートの要請を受け、白銀のメタルブーツに風の力が宿る。

突風とともに暴れまわる二人は、自分達の後ろへモンスターを通さない。かたっぱしから芋虫を蹴散らして行った。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬……我が名はアールヴ】‼︎」

 

「総員、退避!」

 

リヴェリアの詠唱が終わった直後、前衛と中衛がばっと左右に割れた。目の前にいるのは芋虫の大群とブラムのみだ。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】‼︎」

 

三条の吹雪が通路中を突き進んだ。前方のモンスターをすべて凍結させた。

 

「いやはや、凄まじい『魔法』だ。これが『魔剣』で繰り出せるようになれればな」

 

「そんなことになれば我々の立つ瀬がない」

 

椿の台詞にリヴェリアが苦笑する。

 

「………あれっ、ブラムは平気なの?」

 

「さ、さぁ……」

 

ティオナとティオネが声を漏らした時、後ろから声がした。

 

「いやー……危なかった。流石に凍らされたら僕どうしようもないし」

 

「……………いつきたの?」

 

「放つ直前に。気付かなかったんですか?」

 

「……………」

 

レベル5の目でも追えない程に速くなっていた。

氷と霜に覆われた壁面からはモンスターも生まれない。凍りついた正規ルートを進む一同は、あっさりと下部階層に続く階段に着いた。

 

「ここからはもう、補給できないと思ってくれ」

 

52階層へ続く連絡路を前に、フィンはそう言った。

 

「行くぞ」

 

短い命令とともに52階層へ進出した。

 

「戦闘はできるだけ回避しろ!モンスターは弾き返すだけでいい!ブラム、昨日話した的役頼む!」

 

「了解です」

 

昨日の夜、ティオナと何かあった後、呼ばれたフィンに命令されたこと。

 

『52階層からは、下の階層から階層を無視して砲撃が飛んでくる。それらをうまく避けて、52階層のモンスターに当てろ。出来るか?』

 

その台詞に、ブラムは二つ返事で返した。

 

『楽勝』

 

と。

先に一人先行するブラム。壁から生まれるモンスターがブラムに襲い掛かる。

直後、聞こえてくる竜の遠吠え。

 

「『俊足分身』‼︎」

 

少し前に名付けた分身の名前を意外にもまだ覚えていたブラムは、大声でそう言うと、52階層のモンスターの前に一体ずつ分身を作った。

直後、地面が爆砕した。ブラムの『攻撃対象』により上手いこと52階層のモンスターに下からの砲撃が直撃した。

 

「全員、走れ!」

 

ブラムの走ったあとに空いた穴を飛び越えて全員が続いた。

52階層のモンスターはすべて全滅し、残りはブラムだけとなっていた。

 

「芋虫型を引き寄せてもいい!リヴェリア、防護魔法急げ!」

 

「【木霊せよ、心願を届けよ。森の衣よ】!」

 

「敵の数は⁉︎」

 

「7以上です‼︎」

 

竜の砲撃を避けながらの移動。爆発が止まない中、最後尾のガレスが叫んだ。

 

「ラウル、避けろ‼︎」

 

「えっ?」

 

直後、通路の横穴から迫り来る太糸の束。思わずレフィーヤは手を伸ばした。

ラウルをバックパックごと突き飛ばす。直後、レフィーヤの腕が太糸に絡め取られた。

捕縛され、ぐんっと隊列から引き剥がされる。引き剥がしたのは、『デフォルミス・スパイダー』だった。

 

「レフィーヤ⁉︎」

 

ブラムがデファルミス・スパイダーの穴の中に飛び込んだ。スキルが発動し、レフィーヤを途中で離すと、蜘蛛の太糸はブラムに襲い掛かった。

太糸にブラムが捕まる直前、さらに下から砲撃が来た。地面をぶち割って、蜘蛛をブラムごと蒸発させる。

 

「ッ⁉︎」

 

「ブラム……‼︎」

 

直後、レフィーヤの足元が崩れた。

 

「ッ…⁉︎」

 

砲撃によって崩れた足場から落下した。

さらに、下から飛んでくる砲撃。空中で身動きのとる術のないレフィーヤに、それはどうすることもできなかった。

 

「「レフィーヤ‼︎」」

 

「っ⁉︎」

 

自分の名前を呼ぶ声がして、ハッとした。

 

「足引っ張るんじゃねえノロマァッ‼︎」

 

ティオナ、ティオネ、ベートが縦穴の壁を蹴って降りてきていた。

 

「『ヴェールブレス』‼︎」

 

さらに、上から魔法名が聞こえてくる。

レフィーヤ達に緑色の衣が纏わり付いた。リヴェリアの防護魔法だ。

三人の第一級冒険者は、瞬く間にレフィーヤに追い付いた。

 

『ヴァアアアアアッッ‼︎』

 

直後、下から飛んで来る砲撃。

ティオナが壁を大きく蹴って、大剣を振りかぶった。

 

「んにゃろおおおおおおおおお‼︎」

 

大火球目掛けて不壊属性の大剣を振り下ろした。

大爆発、そして相殺。

火球が食い止められ、爆裂した。

 

「ティオナさ……⁉︎」

 

「あっちぃー⁉︎」

 

それでも五体満足で帰って来るティオナ。

 

「ティオネ、ベート!飛竜が来る‼︎」

 

そう言う通り、56階層付近からワイバーンが飛翔してきた。

 

「『跳ッッッ躍』‼︎‼︎‼︎」

 

上から大声が聞こえた。透明のジャンプ台を大きく蹴り飛ばして、ブラムが音速で降りてきて、ワイバーンの上に着地した。

 

『グルァアァアアア⁉︎』

 

自分の背中に降りられ、振りほどこうとするワイバーン。そのワイバーンに、他のワイバーンと下から砲撃してきてるヴァルガング・ドラゴンの一斉射撃。

 

「ティオネ、そのノロマ守っとけ‼︎」

 

ベートがワイバーンの一匹に駆け込み、二本の双剣を上から突き刺した。

ワイバーンの首を落とすと、別の獲物に向かって斬りかかる。ティオナも同様、大剣を振りかざしてモンスター達を蹴散らしていく。

 

「う、うぁ……⁉︎」

 

捲き起こる大爆光。墜落していくモンスター。何より、燃え尽きているブラム。自分も、当たればああなるのか……。

この世のものとは思えない光景に、レフィーヤは完全に臆していた。

 

「息を吸いなさい!」

 

そんなレフィーヤに側にいるティオネが声を掛けた。

 

「ビビるな!私達が守る‼︎」

 

その声と強い眼差しに、胸が震えた。

ティオネに頷き返し、手の中で杖を握りしめた。

 

 

一方、パーティ本隊。

 

「アイズ、行くな!」

 

ティオネ達を助けに行こうとしたアイズにフィンから声が掛かった。

 

「ラウル達が縦穴に落ちれば全員は守りきれない、僕達は正規ルートで58階層を目指す!君はこっちに残れ!」

 

大穴の淵に足をかけていたアイズは顔を歪めるが、的確な指示に従うしかなかった。

 

「ガレス、ベート達を頼む!」

 

「おう!」

 

二本の斧を手にしたガレスがアイズの代わりに大穴に飛び込んでいった。

 

 


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