袋の中。
「……………………」←体育座り
*
袋の外。
「これ、誰が持つ?」
「上層では【ステイタス】の低い者に戦わせるらしいですし、第一級冒険者の方に持ってもらったほうがいいのでは?」
「えー、私は重いから嫌よ?団長でもないし」
「俺もパスだ。面倒臭ぇ」
「あ、あの……もし良ければ……」
「私が持つよ」
「ありがとうございます。アイズさん、お願いします」
「うん」
「はぁ……」
*
袋の中。
「………………モノ扱いかよ」←体育座り
*
袋の外。ダンジョンに入った。アイズは袋を抱えながら歩いていた。
「ねえねえ、ティオネ。どうして他の【ファミリア】の人達がパーティにまざってるの?」
「馬鹿ティオナ。前の遠征の撤退理由、もう忘れたの?」
「?」
「彼らは鍛治師だ。ティオナ」
「あぁ!」
呆れ返るティオネと、丁寧に説明するリヴェリアの話を聞き、ティオナは納得したように相槌を打った。
「でも鍛冶大派閥の上級鍛冶師が付いてきてくれるなんて、ホントすごいねー⁉︎」
「神ヘファイストスに無理言って、ね。粗相を働かないでくれよ、ティオナ?」
「分かってるって!」
ティオナはそう言うと、アイズの背中に抱きついた。
「アイズ、アイズ、聞いてた?【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛治師達がついてきてくれるんだって!」
「うん……聞いたよ。すごいね」
「ブラムも聞いてたー⁉︎」
「……………」
「むっ、ブラム。聞いてるー?」
袋を開けると、ブラムは爆睡していた。袋がなければ、母親に抱っこされて寝ているような絵面だ。
「………むかっ」
イラっとしたティオナは、ブラムの頭を叩いた。
「いたっ⁉︎何⁉︎モンスター⁉︎階層主⁉︎」
「私だよ」
「ヒィッ⁉︎ティオナさん⁉︎」
「………なんで、私が一番ビビられてるのかな」
ぷくっと頬を膨らませるティオナ。
「まったく、遠征の途中で寝るなんて……。そんなにアイズに抱っこされてるのが気持ちよかったの?」
「は、はい……。お恥ずかしいながら、つい寝ちゃいました……」
たはは、と微笑みながら頬をかくブラムに、ティオナはさらにイラッとした。
「……………ふんっ」
ティオナは頬を膨らませたままそっぽを向いた。すると、その様子を見ながら、全力でニヤニヤしてるベート、ティオネ、フィン、リヴェリアに気付いたティオナは、全力で四人を追いかけ回した。
「あの、僕何か悪いことしました?」
きょとんとアイズに聞いた。
「した」
「ほんとに?」
「した」
「は、はぁ……」
場所は7階層。そんな遠征というより遠足のような空気の中、四人の冒険者たちが相当取り乱した様子で接近してきた。
「なーんか、やけに慌ててるね。声かけてみる?」
「やめなさい。ダンジョン内では他所のパーティに基本不干渉よ」
「ねえっ、どうしたのー!」
「……ばかたれ」
ティオネの制止を無視したティオナの声に、冒険者たちが気付いた。
「何だお前ッ……って、ゲェッ⁉︎あ、【大切断】⁉︎」
「ティオナ・ヒリュテぇっ⁉︎」
「ていうか、【ロキ・ファミリア】⁉︎え、遠征⁉︎」
冒険者たちは一気に尻込みし始める。
「だからさぁ……なんであたしばっか……」
二つ名を呼ばれ恐怖されるティオナが目をすわらせながらぶつくさ呟く中、ベートが彼等に何をやっているのだと問うた。
「………ミノタウロスが、いたんだ」
「………あぁ?」
「だからっ、ミノタウロスだよ!あの牛の化け物が、この上層でうろついてやがったんだ!」
その台詞にベートは一瞬動きを止める。その場にいた他のメンバーも、その異常事態に顔色を変えた。
「………申し訳ない。あなた方が見たものを、僕達に詳しく聞かせてもらえないだろうか?」
「あ、ああ……」
部隊を代表して、フィンが尋ねた。
「さっきまでいつものダンジョン探索をしていたら、広間につながる一本道の奥で……ミノタウロスを見つけたんだ」
そして、顔を青ざめながら続けた。
「それで、白髪のガキが襲われているのを見て、でも俺ら、あの化物の咆哮当てられて逃げちまって……!」
直後、ブラムが袋から飛び出た。その特徴はほぼ間違いなくベルだと確信した。
「⁉︎ ブラム……⁉︎」
「その場所は何処ですか?」
「へ?お前どこから出てきた?今袋から出てこなかった?」
「物扱いされてたんだよ!いいから答えろ‼︎」
「え、あ、うん。律儀に答えてくれてありがとう。9階層の正規ルート、E-16の広間だよ」
直後、ブラムの姿が消えた。ティオネやリヴェリアが完全に見失うほどの速さでその場から走り出した。
「⁉︎ お、おいブラム……!」
「は、速っ……!」
ベートとフィンが声を掛けたが、すでに姿はなかった。
「………あれ、ティオナとアイズは?」
遅れてティオネが聞くと、他の団員も二人がいなくなってることに気付いた。
*
(走れ、走れ、速く……もっと速く……‼︎)
心の中でそう呟きながら走る。途中で倒れてる小人族の女の子がいたが、それが目に入らなかった。
そして、指定された広間の一つ前の広間。そこまでモンスターも何もかもが気付けなかった速さのブラムの前に、手が伸びた。
「ッ⁉︎」
慌ててその手を蹴って、空中で回転しながら距離を取る。
目の前には、【フレイヤ・ファミリア】首領の【猛者】、オッタルがいた。
「止まれ」
「あ?」
焦っているブラムは荒々しい声を出した。
それに大して気にした様子なく、オッタルは背中の剣を抜いた。
「………手合わせ願おう」
「はぁ?今忙しいんですけど。つかなんで?」
「対峙してる【ファミリア】の団員がダンジョンで出会えば、それで理由は十分だろう」
「………チッ」
そう言ってブラムは腰に手を当てて下を向いた。
そして、ニヤリと微笑んで背中の剣に手を掛けた。
「やなこった」
直後、ブラムの姿が消えた。最速でオッタルの隣を通り過ぎようとした。
だが、その前に剣が降って来た。
「っ⁉︎」
「レベル4にしては大したものだが、その程度のスピードで俺を出し抜けると思うな」
「………ここを抜けるには、あんたを消すしかない、と?」
「そうなるな」
【逃足】と【猛者】が正面から激突した。
ブラムのキャラがブレッブレですが、戦闘時だけです。
囮のときはまたアホに戻ります。