ブラムとティオナは二人、手を繋いだまま出掛けた。
「あの……それで今日は……?」
「んーっとね、ブラムの洋服作ってもらおうと思って」
「へっ?」
「だって、死んだ時に服が燃え尽きてたりするんでしょ?だったら、破れない服を作ってもらったらいいんじゃない?」
「えっ、そんなの作れるんですか?」
「ほら、不壊属性の服とかさ」
「ああ〜……いや、可能ですかそれ」
「さぁ?まぁいいじゃん。とにかく、お願いしてみようよ」
「アテがあるんですか?【ゴブニュ・ファミリア】とか?」
「あそこには頼みづらいかなー……ほら、ウルガ壊してるし……いや、ブラムのって頼めばある意味引き受けてもらえるかも……」
「へ?なんで僕なら引き受けてもらえるんですか?」
「よしっ、まずはそこに行こう!」
「ち、ちょっとティオナさーん……!」
【ステイタス】に明らかな差があるため、ブラムはなす術なく連れて行かれた。
「………あっ」
その途中、ブラムが声を漏らした。クレープの屋台が目に入ったのだ。
「? どしたのブラム?」
「あ、いえ……」
ブラムの視線の先をティオナが見ると、ニヤリと微笑んだ。
「……食べたいんだ?」
「あ、いえっ。僕、服と一緒に財布も切り刻まれてお金、部屋で貯金しといた分しかありませんから。………ははは、これからどう生きていけばワカンネー」
「奢ってあげよっか?」
「い、いやいやいや!いいですよ!大体、クレープくらい材料あれば【ファミリア】で作れるし!」
「いいからいいから。私も食べたいし。ねっ?」
「………は、はぁ。すみません……」
本当にどうしたんだこの人は……と思いながら、ブラムはティオナの後をついて行った。が、その足を止めた。
「待った」
「んっ?」
「ティオナさん、今お金ありませんよね?確か、武器を借金して作ってたような……」
「それなら大丈夫、ティオネのフィン用の結婚資金(笑)からパクッ……借りて来たから!」
「えっ、今なんか不穏な言葉が聞こえたような……」
「いいから、行くよ!」
「は、はい……」
ティオナに手を引かれ、クレープ屋の屋台に連れられた。
*
「おいぃ!クソ女!暴れるな!」
「ちょっと離して駄犬!殺す!あいつ殺す!」
「駄犬でいい!この際駄犬でいいから大人しくしてろバレるだろうが!」
「後で本当にボコボコにする……!」
グヌヌッと悔しそうに唸るティオネを何とか抑えながら、ベートは二人の様子を覗き見た。
買ってもらったクレープを、ブラムは嬉しそうな顔で頬張っていた。
「チッ……男の癖に奢られやがって。情けねえ……」
「何よ、なんだかんだあの子のこと気になってるんじゃない」
「ちっげーよバカ。本当のことを言っただけだ」
「ツンデレ」
「殺すぞ」
「それよりベート、私もクレープ食べたい」
「ああ?あいつら消えたら買ってくりゃいいだろ」
「私もクレープ食べたい」
「だからテメーで買って来いって……」
「買って?」
「ああ?なんで俺がテメーなんかに奢んなきゃいけねんだよ。寝言は寝て言えカス」
「男は女に奢るものなんでしょ?」
「そうは言ってねえだろ。男が女に奢られるのが情けねぇって言ってんだろうが」
「じゃあ私、ベートの分のクレープも買ってきてあげる」
「ああ⁉︎テメッ、汚えぞ‼︎」
「ねぇ、どうするの?」
「チッ……わーったよ。クソ女。あいつらが消えたらな」
「やりっ♪」
嬉しそうにガッツポーズするティオネだった。
*
クレープをあーんしてもらう、というテンプレイベントを終えたあと、二人はようやく【ゴブニュ・ファミリア】に到着した。
「こんにちはー!」
「げぇ⁉︎壊し屋⁉︎また壊したのかお前!」
開口一番で酷いことを言われても、ティオナは気にした様子なく笑顔で言った。
「違う違う。今日はこっちの装備を作ってもらおうと思って」
ズイッとティオナに前に突き出される形でブラムは出て来た。
「いいだろう。なんでも作ってやる」
「………その変わり身、ムカつくなぁ」
不満そうにティオナは言うも、【ゴブニュ・ファミリア】のメンバーは態度を変えようとしない。そのままブラムに聞いた。
「それで、何を作って欲しいんだ?」
「そのっ……不壊属性の洋服が欲しくて……」
「不壊属性の?また無理言い出したな」
「で、ですよね……。すみません、お邪魔しました……」
「いやいやいや、無理言い出したってだけで無理だとは言ってないから。だからそんな泣きそうな顔するな、俺たちの嫁」
「よ、嫁⁉︎僕、男の子ですよ!」
「男の娘だって嫁になれるんだよ」
「あれ、なんかニュアンスに違和感が……」
「とにかく、任せろ。おいテメェら!今やってる全部の仕事をキャンセルしろ!不壊属性の服を作るぞ‼︎」
「ええっ⁉︎ちょっ……僕だけ特別扱いなんて……!」
「いいから俺たちに任せな。お代はいらねえ」
「えええええ⁉︎いやそんな流石にそれは……!」
「良かったね、ブラム」
「ティオナさん⁉︎全然良くないですよ!」
「いいんだよ。こういう時は従っておけば」
「は、はぁ……。なんか、すみません……」
「いいんだ、まかせとけ!嫁!」
「だから嫁じゃないですってば!」
「じゃ、寸法とか服脱いで取るからこっちこい。………ふひひ」
「変なことしたら私キレるから」
「すいませんでした」
*
夕方、帰宅中。あの後、色んな店に寄ったりして、ほとんどカップルのデートだった。
「ふぅー、どうだった?ブラム?」
「楽しかったです、けど……どうしてこんな、急に誘ってくれたんですか?」
「うーん……何となく?」
「な、何となく?」
「うん。ブラムが死んじゃったって聞いたときさ、すごく悲しかったんだよね。それで、今思えばからかってただけだなーって思って。だから、たまにはいっぱい遊ぼうと思ってさ」
「………ティオナさん」
「楽しんでくれたなら良かったよ」
ニコッと微笑まれ、ブラムはどきっとした。やっぱこの人は可愛い、そんな事を思いながら尻尾をふりふりさせていた。
*
「………成長したわね、ティオナ」
「お前はなんで、親目線なんだよ」
その話を後ろで聞きながら、ティオネはウンウンと頷き、ベートはジト目でティオネを睨む。
「だから言ったろうが。取り越し苦労だって。お前どうしてくれんの?今までの時間、俺クレープ奢ってストーキングしてただけなんだけど」
「いいじゃない。あ、もしかしてアイズの方が良かった?」
「おい、クソ女。お前ほんと殺すぞ」
「は?あんた、今日一日でクソ女って言い過ぎだから」
「あ?やんのかオイ」
「上等よ」
街中で喧嘩してたまたま通り掛かったガレスに怒られた。