ロキの部屋を出て、ブラムは部屋に戻ろうとした。だが、目の前にティオナが現れた。
「あっ」
やべっ、忘れてた。とでも言わんばかりに声を漏らした。ティオナはジロリとブラムを睨んでいる。
「………あ、あのっ、ティオナさん……」
「……………何」
「す、すいません……生きてました……。心配させて、本当にすいません、でした……」
「……………」
ビビりながらも、頭を下げた。だが、ティオナからの返事はない。
おそるおそるティオナの表情を伺うと、すごい涙目だった。
「ブラムー‼︎」
「ええっ⁉︎」
ガバッと音を立てて抱き付いてきた。
「良かった……良かったよぉ〜……!」
「て、ティオナさん……」
そんなに僕が生きててくれて嬉しかったのか……と、ほのかに感動し、涙を流しそうになるブラム。
「これで次の遠征も私達は安全だよぉ〜……」
「酷い!いくらなんでもそれは酷過ぎる!」
「冗談だよ冗談」
「ブラックジョークにも程がありますよ……」
ため息をつくブラム。「でもね」と、ティオナは続いた。
「良かった、っていうのは本当だよ」
「………!」
「さて、じゃあ一緒にお出掛けしよっか」
「ほ、ほんとです……⁉︎」
喜びかけて、言葉を止めた。どうせまたレフィーヤだのティオネだのがついてくるハーレムでもデートではないデートに決まっている。
「おっと、騙されませんよ?どうせティオネさんやアイズさんやレフィーヤさんがハッピーセットで付いてくるパターンですよね?いくら僕がちょろくてアホで学習能力皆無でもそのくらい……」
「………自分で言ってて悲しくならない?」
「……なります」
「それに、今回は二人きりのつもりだったんだけどなぁ」
「…………へっ?」
少し不機嫌そうに頬を膨らませていた。今更、カァッと顔を赤くするブラム。
「す、すみません!じ、じゃあ、行きましょうか!」
「最初からそう素直に言っとけばいいのに……」
やれやれ、と言わんばかりにため息をつきながらティオナは手を差し出した。ブラムの頭上に「?」が浮かぶ。
「あの、なんですか?」
「何って……手、繋いであげようと思ったんだけど……」
「ててててーてて、てってててて⁉︎」
「何の歌?」
「ほ、本気ですか⁉︎」
再び顔を真っ赤にし、手なんかあわあわと虚空を彷徨っている。ただし、尻尾はかなり素直で、ものすごいフリフリしていた。
「何、やなの?」
「い、嫌なんかじゃありませんよ!む、むしろ繋ぎたいというかっ!あっ、いやでも、下心は無くてですねっ⁉︎……いや、少しありますけど……」
かなりテンパっていた。その様子を見て、ティオナは「ぷっ」と吹き出した。
「じゃ、行こう?」
「は、はいっ」
内心、かなりドギマギしながらギコちなく手を繋いだ。
(………女の子の手って、柔らかいなぁ……)
「………ブラム?」
「は、はひっ⁉︎」
思わず、ニギニギしてると声を掛けられた。
「………あ、女の子と手を繋ぐの初めてなんでしょ」
「へっ⁉︎いやっ、そのっ……は、はい……」
「じゃ、行こうか?」
「よ、よろしくお願いいたします!」
終始、緊張しっぱなしだった。
*
「…………何、あれ」
その様子を見ながら、ティオネが呟いた。
「あん?どうした」
そう呟くティオネに、ベートが声を掛けた。
「ちょっと!見なさいよあれ!あんたの弟分が私の妹に絡まれてるのよ!珍しい事に!」
「誰が誰の弟分だ。つーか、自分の妹をそんな風に言うかお前」
「だって考えてみなさいよ!ティオナよ⁉︎あのティオナ!それがからかわずにデートするなんて……天変地異の前触れよ!」
「だからそこまで言うかお前」
「とにかく!後をつけるわよ!」
「なんでだよ!つーか俺も⁉︎」
「当たり前でしょ⁉︎あんたの弟分が今、ティオナの毒牙にかけられようとしてるの!」
「そこまで言うかお前。結構エグいなお前」
「い、い、か、ら、行くわよ‼︎」
「だからなんで俺……!」
ベートはティオネに引き摺られる形で、二人のあとをつけた。