「事情はわかりました。神ロキへの報告はやめます。が、今後はこういう行為はやめて下さいね」
厳重注意を受け、ブラムは自分を連行したギルドの女性と別れた。
「………なんで、こんな事に……」
涙目でトボトボと歩いていると、ハッとした。自分の葬式が始まってしまうかもしれない。
ギルドの人に支給された服を着て、慌ててギルドの外に出ると、いつもの賑わいがなかった。冒険者たちがいつも出入りしてるはずのギルドに向かう姿も見えない。
何事かと思ってしばらく歩いてると、こんな看板を見つけた。
『ブラム・アデス葬式場↑』
「」
言葉を失った。顔のパーツが手抜きになった。曲線の眉毛、点の目、クリリンと同じ鼻、波線の口、もはや落書き状態だった。
「可哀想になぁ、まだ10代のガキだったらしいぜ」
「何でも、ダンジョンでくたばっちまったらしい」
「俺たちもこれからはまた気を引き締めてダンジョンに潜んねぇとな」
「」
通り過ぎる人達の声なんて聞こえない。聞こえてても、脳が処理しきれない。
すると、さっきまで話してた冒険者の一人が落書き状態のブラムの肩に手を置いた。
「あんたも獣人みてぇだな。冒険者なら、これからは気を付けろよ」
「」
「死んじまったら何も残らねえんだ。どんなに無様でもいい、まずは生き残る事を考えようぜ」
「」
「おい。聞いてんのか?」
〔〕
直後、ブラムの〰︎状態の口から血が垂れた。その口がゆっくりと開かれ、そして、
「AAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーッッ‼︎」
読めない悲鳴と共に血を吐きながら猛ダッシュした。オラリオの街を抜け、メインストリートを抜け、細い裏道を通り、角を抜けまくり、もうそろそろ疲れて来たので立ち止まった所で膝を着いた。
「葬式開かれたああああああああああああ⁉︎」
声帯が潰れかねない勢いでの全力シャウトである。
「こんな仕打ち、あァァァあんまりだァァアァ‼︎なんで…なんで自分の葬式をこの目で見ることになるんだァァァ‼︎」
号泣しながら体を後ろに逸らして叫ぶ。
「そんな……なんで、僕が……いっつもいっつも僕ばっかりこんな目に……毎回毎回毎回毎回死にかけた挙句、今度は死んだことに⁉︎何ッッッでよ‼︎もういいよ!そんなに死んで欲しけりゃもういいよ!死ねば良いんだろ僕が!」
ブラムは自殺を考えた。だが、
「………死ねないじゃん僕」
死ねなかった。起き上がり、ブラムは膝を抱えて体育座りした。
もう、【ロキ・ファミリア】には戻れない。葬式まで開いてもらって、「ごめーん生きてました〜。てへぺろ☆」なんてできない。しかしそうなると、ティオナにも会えない。だからと言って自殺は出来ない。
「あの……」
ショボくれてると、声を掛けられた。ふと隣を見上げると、白髪の少年が立っていた。
「………?」
「どうかしたんですか?さっきから、ここでワーワー叫んでいらっしゃいましたけど……」
「……いえ、すみません。騒がしかったですか?ちょっと人生に絶望してるだけです……」
「い、いえ。大丈夫ですよ。あの、それより大丈夫ですか?」
「……?」
「なんか、死んだことになってるとか死にかけてるとか……」
「いえ、気にしないでください……」
「そ、そうですか?ならいいんですけど……」
「じ、じゃあ僕もう逝くんで……」
「は、はぁ……」
そう言って、ブラムは立ち去ろうとした。その直後、グゥッと情けない音がプラムの腹から鳴った。
「…………」
「…………」
そういえば、体が戻ってから、というか戻る前からずっと何も食べていなかった。
「………あの、もしよければ何か食べて行きますか?」
「…………すみません」
白髪の少年に言われ、ブラムは飯を食べることにした。
「あ、僕、名前はベル・クラネルって言います」
「あー……ブラム・アデスです。よろしくお願いします」