持ち前の速さと跳躍によって、調教師を上手く翻弄するブラム。ブラムの作った隙を逃さずに攻撃するアイズ。
「クッ……!」
よく考えたら、これ以上ないほどのコンビだった。
「『跳躍』」
「ッ⁉︎」
女の足元に透明のジャンプ台が現れ、バランスを崩した。その隙を逃さずアイズは攻撃、思いっきり壁に叩き付けた。壁が大きく爆発し、その向こうに女が落ちた。
女を追うために、ブラムとアイズは破壊された壁の向こう側に歩いた。
「レヴィス⁉︎」
「アイズさん、ブラムく……ブラムくん⁉︎」
向こう側には白髪の男とレフィーヤ、ベート、フィルヴィス、他に【ヘルメス・ファミリア】の面々がいた。
ベート達も二人の方を見る。直後、白髪の男含めて全員が半眼になった。
「あ、ベートさん、レフィーヤさん。どうしたんです?こんなとこで」
「………テメェ、逃足から変態に変わった方がいいンじゃねェのか?」
「なっ……いきなり何を言うんですか!」
「いいからブラムくん服着て!」
「へ?服?」
真っ赤になった顔を両手で覆うレフィーヤに指示され、ようやく自分の服装に気付いた。
「……………」
「……………」
「……………」
「僕ちょっと死んできます」
「待って!落ち着いて!ベートさん洋服貸してあげてください!」
「ふざけンな!俺だって今服貸せるほど余裕ねェよ!」
「ていうかどうして言ってくれなかったんですかアイズさん!」
「……そんな雰囲気じゃなかったから?勝ち誇って高笑いしてたし」
「うああああああ‼︎言わないでええええええ‼︎死ねえええええええ‼︎僕くたばれええええええ‼︎」
「やめて!本当に死んじゃうよ!」
壁に頭を打ち付けるブラムを止めるレフィーヤ、不機嫌そうな顔になるベート、どうしたらいいか分からないアイズ、まるでコントのような惨状になっていた。
直後、そのブラムの真上に巨大花が突っ込んで来た。
「ッ⁉︎」
いち早く気付いたブラムは、レフィーヤを突き飛ばした。
「! ブラムく……!」
声を掛けるが、ブラムのいた場所には巨大花しかいない。
「茶番はそこまでだ」
白髪の男はそう言うと、アイズの方にも巨大花を出す。
「おい、やめろ」
「止めるなよ、レヴィス。貴様の手に負えない相手を片付けてやる」
白髪の男、オリヴァスはそう言うと、アイズを花に襲わせた。だが、巨大花は無視してブラムの方へ突撃して行った。
「⁉︎ おい、巨大花!どういう事だ……⁉︎」
ブラムのスキル、《攻撃対象》によって、すべてのモンスターはブラムの方へ行く。それは調教されたモンスターでも同じだ。
「【目覚めよ】」
その花を、アイズは風をまとった剣によって、一撃で仕留めた。
レフィーヤ達の戦慄した目が、アイズに向けられる。一撃であの花を仕留めた。
「なっ、なぁっ……⁉︎」
オリヴァスはその場から一歩二歩と後ずさる。
「いてて……」
更に、全裸で粘液塗れのブラムが、花の死骸の隙間から顔を出した。
「だ、大丈夫なの?ブラムくん……」
「一応……うわあ……この体液臭っ……もう最悪……」
「………あ、はい。ハンカチ。でもそのハンカチもう返さなくていいから」
最後の一言で、涙目になりながらも、レフィーヤから受け取ったハンカチで体を拭いた。
アスフィが自分の羽織ってるローブをブラムに渡した。
「あ、すみません」
「いえ、私のそれも返さなくて結構ですから」
「………みんなひどくない?」
言いながらも、ローブを羽織るブラム。
アイズはオリヴァスを見据える。
「ヴィ、食人花ーーーッ⁉︎」
オリヴァスはそう言うと、残った食人花は全員突撃した。ただし、ブラムに。
「このっ……‼︎」
ブラムは跳躍で飛んで回避し、天井に逃げると、花を踏み台にして全員を巻き込まないようにレヴィスとオリヴァスの方へものすごい速さで逃げた。それを追う花。
「ええい!なんでそんなゴミを追う!なぜ言うことを聞かん!」
「躾不足じゃね?」
いつの間にかオリヴァスの目の前にブラムは迫っていた。そのブラムをレヴィスが斬り裂いた。ナノ単位で粉々になるブラム。
直後、花は勢い余ってレヴィスとオリヴァスに突っ込んだ。
「ッ⁉︎ しまっ……‼︎」
慌てて避けるレヴィスとオリヴァス。
花の上に、粉々になったブラムの破片が集まり、蘇生した。死なないと分かってから、ブラムの思い切りは随分良くなった。
「おい、レヴィス。なんなんだあのガキは」
「不死身だ。いろいろと差があり過ぎて私では奴を倒せん」
「なんだそれは……!」
直後、アイズが食人花を殲滅する。オリヴァスの額に冷や汗が浮かんだ。
「って、ああああ‼︎あ、アスフィさんのローブがああああ‼︎お前何してくれてんの⁉︎せっかくの一張羅が……!これお前僕にどうやって上に戻させるつもり⁉︎」
「いや、それはお前の自業自得だろ。それより、さっさと片付けるぞ」
ベートに言われ、冒険者達が再起動する。
「おい!魔石があるのはやっぱり頭だ!みんな頭を狙え!」
いつの間にかアイズが斬った花の頭を探っていたルルネが声を上げた。
「おら、出番だ」
「いやちょっとお⁉︎」
ベートにプラムは投げられた。残った食人花がブラムに集中する。
「ふおおおおおおおおおお⁉︎」
食われそうになった所を、他の冒険者達が攻撃を(ブラムに)集中させ、花を一掃した。
「ちょっと!あんたらちょっとは遠慮しなさいよぉ‼︎」
再生しながら文句を言うブラムに、全員がすっとぼけた顔で返した。
「だって死なないし……」
「なんなら少し腹立つし……」
「ねぇ?」
涙目になるブラムだった。
涙目なのはオリヴァスも一緒だった。花が全滅した。
「ば、馬鹿な……⁉︎」
手札を失ったオリヴァスは、半ばヤケクソ気味にアイズに突進した。
「ありえんっ、負けるなど、屈するなどっ……ありてるものかァッ‼︎」
それをつまらなさそうにアイズは斬撃で反撃する。オリヴァスの体に切り傷が刻まれ、全身から血飛沫を散らせた。
「……とんだ茶番だな」
それを見ていたレヴィスが、オリヴァスの方へ歩いた。
「す、すまない、レヴィス……」
「…………」
直後、オリヴァスの胸部に、レヴィスは手刀を突き刺した。
『っ⁉︎』
「なっ……」
全員が言葉を失う中、オリヴァスが言った。
「れ、レヴィス、何を……⁉︎」
「その目で周りをよく見ろ。より力が必要になった。それだけだ。モンスターどもでは、いくら食っても大した血肉にならん」
「まさか、よせ⁉︎私はお前も同じ、『彼女』に選ばれた人間……⁉︎」
「選ばれた?お前はあれが女神にでも見えているのか?」
「……⁉︎」
「あれが崇高なものである筈がないだろう」
「た、たった一人の同胞を殺す気か⁉︎私がいなければ彼女を守ることは……」
「勘違いするな。あれは私が守ってきた。これからもな」
オリヴァスから魔石を摘出し、それを噛み砕いた。オリヴァスは灰となり、消えていった。
直後、レヴィスは砲弾の如くアイズに襲い掛かった。ガードしたものの、アイズは吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた。