ロキファミリアの囮役   作:杉山杉崎杉田

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女子力

50階層、野営地。フィンがテントに入ろうとすると、「団長!」と声をかけられた。

 

「ひどいよ!今にして思えば、また騙しましたね⁉︎」

 

「ま、まぁそう怒らないで……」

 

「怒るよ!何回か死に掛けたと思ってるんですか!」

 

「僕は、君なら必ず生きて帰れると信じて……」

 

「もう、騙されませんからね!そんな上手いこと言ったって無駄ですよ!」

 

「ほ、本当だよ……」

 

過去に終わってから文句言われることなんてなかったので、どう躱そうか悩んでると、ブラムの目が急に変わった。

 

「へぇ〜…あくまでそう言い切りますか、そうですか……」

 

「な、なんだよ……」

 

するとブラムは後ろを歩いてるティオネに声をかけた。

 

「ティオネさん、団長が今夜は一緒に寝たいって」

 

「いっ⁉︎」

 

ギクッとなるフィンとピクッと反応するティオネ。瞬間移動ってレベルでフィンの両手を掴んだ。

 

「本当ですか団長⁉︎」

 

「や、今のは……!」

 

「なら寝ましょう!すぐ寝ましょう!今寝ましょう!」

 

「ち、ちょっと待て……!ブラム〜!」

 

恨みがましい視線を送るも、ブラムは逃げてしまった。

 

「くっ……!やられた……!」

 

悔しそうに奥歯を噛むフィン。だが、不意に自分の体が浮いたのがわかった。

 

「ありっ?」

 

「さぁて団長、私とテントに行きましょうね〜」

 

いつの間にかティオネに担がれていた。

 

「うわああ!は、離せティオネ〜!」

 

そのままテントの中に連れて行かれた。

 

 

ブラムは15歳の獣人だ。戦闘は決して苦手ではないし、むしろ得意な方だ。だが、運が超絶悪い。攻撃対象というスキルのせいで、モンスターにかなり狙われやすい。だから、今回のようによく囮役にされる。

 

(みんなの役に立ててるならいいんだけどさ……)

 

そう思うも、やはり自分もティオナやアイズのように戦いたい。いや、大した理由はないけど強くなりたかった。頭上の耳をしおしおと下に向けて歩いてると、ガバッと後ろから抱き着かれた。

 

「うえっ?だ、誰ですか……?」

 

「だーれだっ♪」

 

「もう、そういうのいいですからさっさと離れ……」

 

振り向くと、ティオナが抱きついていた。

 

「ほぉああああああッッ⁉︎」

 

思わず飛び退いた。飛び退いた先に木があって頭部を直撃、頭を抱えながら地面に転がった。

 

「ぐおっ……くおお……」

 

「だいじょーぶー?」

 

「だ、だいじょうぶで……へあっ⁉︎」

 

目の前にティオナの顔がある。お陰でまたビックリして後頭部を木にぶつけた。

 

「あははっ!相変わらず面白い反応するね〜ブラムは」

 

顔が真っ赤になるブラムを見てティオナが笑ってると、そのティオナを後ろからアイズがチョップした。

 

「ティオナ、あまりブラムをからかわないの」

 

「えーだって面白いんだもんー」

 

「可哀想ですよ」

 

後ろから付いてきたレフィーヤもそう言った。

 

「だって、自分のこと好きでいてくれる子がいるんだよ?からかいたくなるじゃん!」

 

「っ⁉︎」

 

自分の気持ちが本人にバレてることに気付き、ブラムはさらに顔が赤くなる。そのブラムにティオナは顔を近付ける。

 

「私の男になりたいならぁ、もっと男らしくなってて欲しいかな〜」

 

「あ、あわわっ……うわああああっ!」

 

ダッ!と逃げ出すブラム。

 

「ティオナ……」

 

「えへへ……」

 

アイズがジト目でティオナを睨んだ。だが、まったく悪びれる様子のないティオナにアイズはため息をつく。すると、前方から「むぎゅっ」と悲鳴が聞こえた。歩いてたベートにブラムが直撃した音だ。

 

「アア?」

 

「痛て……って、ベート様⁉︎」

 

「様⁉︎」

 

「ご、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

「や、別に怒ってな……」

 

「ちょっとベート、ブラムを虐めないでよー」

 

「お前ェに言われたくねェよクソ女!」

 

そこはベート様の言う通りです……と、ブラムは思った。そのままギャーギャー言い争いを始める二人を捨て置いて、アイズとレフィーヤがブラムに手を差し伸べた。

 

「大丈夫?」

 

「…………無理です」

 

「……無理なの?」

 

「いや……まさかバレてたなんて……死にたい……」

 

いや、見てりゃ誰でもわかるから……とアイズもレフィーヤも心の中でツッコんだ。

 

「男らしく、かぁ……」

 

「大丈夫だよ。ブラムは男の子だよ」

 

レフィーヤが言った。

 

「モンスターの群れの中に単独で向かって自分から囮になるなんて、私じゃ絶対できないもん」

 

「レフィーヤさん……」

 

「それに、ブラムのお陰で私達は安全に戦えてるんだから」

 

安全に戦うってそれ戦いなのかな……とブラムは思いもしたが、何も言わなかった。

 

「それより、野営の準備手伝お?」

 

「はいっ!」

 

レフィーヤに言われてブラムは元気良く返事をした。

 

(とりあえず、男らしく、か)

 

で、ブラム達が任されたのは炊事だった。

 

「じゃあ一番手はあったしー!」

 

元気良く言ったのはティオナだった。「たぁー!」「とぉー!」と威勢良く食材をぶった切り、テキトーに煮込み、分量を計りもせずに調味料をブチまけた。

 

「出来た!」

 

ババーンと皿に盛り付けて見せ付ける。

 

「豪快……」

 

「お、思い切りがいいですね……」

 

「流石はアマゾネス、というより男料理ですね」

 

アイズ、ブラム、レフィーヤと呟いた。次はレフィーヤの番。

 

「こう見えて、料理は得意なんですから!」

 

(こう見えてって……どう見ても料理うまそうだよあんた)

 

ブラムは心の中で思った。案の定、手際よく調理を進めるレフィーヤ。

 

「出来ました!ダンジョン産野草のクリームシチュー四色ハーブ幸せ盛りです!」

 

「「「おおおー‼︎」」」

 

その出来ように三人は感嘆の息を漏らす。

 

「この料理はですね!戦闘で不足しがちな塩分を多めにしつつ、あらゆる種族・年齢・健康に配慮した栄養バランス!隠し味のエルフ特製ハーブで疲れも消えちゃうんです!」

 

「すごーい」

 

「がんばったね」

 

(こいつら分かってないだろ)

 

テキトーな感想を言うティオナとアイズを横目で見ながらブラムは拍手しておいた。

 

「さぁ、みんなで食べ……!」

 

言いかけたレフィーヤがそのシチューを持って三人の元へ駆け寄る。が、転んでブチまけた。

 

「うわー全部こぼれちゃってるよ……」

 

ティオナが呟き、レフィーヤは膝をついて号泣した。そのレフィーヤの頭にアイズが手を置いた。

 

「泣かないで」

 

「アイズさん……」

 

「…みんな、頑張ってくれたから。今度は私の番」

 

言いながら何故か包丁を二刀流で構える。

 

「アイズさんがんばって!」

 

「握りがナイフになってない⁉︎」

 

「食材、あと乾パンしかないんですけど……」

 

三人のツッコミも気にせずにアイズは乾パンを切った。乾パンが四つに切れた。ドヤ顔でこっちを見た。

 

「アイズ、それは料理じゃない」

 

「っ⁉︎」

 

ティオナにツッコまれ、アイズは思わずショックを受ける。

 

「あぁ〜〜でもでも、ちゃんと食べれますから!」

 

レフィーヤがフォローすると、乾パンを差し出してくる。

 

「えっ、乾パンだけはちょっと……」

 

「すみません!すみません‼︎私が贅沢でしたー!」

 

ズーンと体育座りするアイズを捨て置いて、ティオナが自分の皿を高らかに見せつける。

 

「と、いうわけで!優勝はあったしー‼︎」

 

仕方なさそうにレフィーヤは拍手する。

 

「あの、僕の番は?」

 

「「「んっ?」」」

 

ブラムの台詞にアイズ、ティオナ、レフィーヤが顔を上げる。

 

「いや、ブラムくんは料理できないでしょ?」

 

「男の子だし」

 

「歳下だし……」

 

レフィーヤ、ティオナ、アイズに言われてムッとするブラム。

 

「じゃあちょっと食材もらってきますね」

 

「えっ、ちょっとブラム……!」

 

ティオナの制止を無視してブラムは余り物の食材をもらった。で、調理開始。10分後、

 

「出来ました」

 

完成したのは凄く美味そうな野菜炒めだった。

 

「「「おおおー‼︎」」」

 

女子三人組が感激したような声を出す。

 

「すごいねブラムくん!料理できるんだ!」

 

「こう見えて得意です」

 

レフィーヤに褒められて胸を張るブラム。

 

「あ、味の方は?」

 

ティオナが一口食った。

 

「お、美味しい!何これ⁉︎」

 

「わ、私も……」

 

アイズも一口もらう。口には出さなかったものの、かなり幸せそうな顔をした。

 

「おお!こんなアイズの幸せそうな顔初めて見た!」

 

ティオナが言った後、今度はレフィーヤが頂く。

 

「おいしい、ですけど……」

 

「どしたの?」

 

なぜかガッカリするレフィーヤにティオナが聞いた。

 

「女子力で男の子に負けました……」

 

「…………あー」

 

ズゥーンとする三人を不思議そうな顔でブラムは眺めた。

 

 


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