ロキファミリアの囮役   作:杉山杉崎杉田

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推理

 

 

死体は無残なものだった。頭の上半分が無くなり、目玉が一個落ちていて、血が飛び散っていた。下半身のみに下着をつけていてる。

 

「うわあ……」

 

ブラムがウヘェっと声を漏らした。そして、後ろのレフィーヤに言った。

 

「レフィーヤさん、見ないほうがいいですよ」

 

「へっ?」

 

「北斗の拳みたいになってますから」

 

「………?」

 

レフィーヤが首を傾げる中、ブラムは死体の匂いを嗅ぐ。

 

「お、おい!なんだテメェ!ここは立ち入り禁止だぞ!」

 

「やぁ、ボールス。悪いけど、お邪魔させてもらってるよ」

 

一同がここに来る前にいた男の一人にフィンが言った。

 

「僕たちもしばらく宿を利用するつもりなんだ。落ち着いて探索に集中するためにも、早期解決に協力したい。どうだろう、ボールス?」

 

「けっ、物は言いようだなぁ。てめぇらといい【フレイヤ・ファミリア】といい、強ぇ奴等はそれだけでなんでも出来ると威張り散らしやがる」

 

すると、ブラムから声が上がった。

 

「………死んでからまだそんなに経ってない。それと、多分だけど女の人の匂いがする……。特に、首から。多分、首の骨折れてますねこれ」

 

「女……?ボールス、宿の主人は顔見てないのかい?」

 

フィンが聞いた。それには近くで頭を抱えていた獣人の男が答えた。

 

「それが、ローブで顔が見えなかったんだ。それと、全身型鎧の冒険者が一人の二人でここに通したんだ。昨日の夜にな。宿を貸し切らせてくれって頼まれたんだ」

 

「たった二人なのに、客室を全て貸し切り……ああ、そういうことか」

 

「ああ、そういうことだ。うちの宿にはドアなんて気の利いたもんはないからよ、喚けば洞窟中にダダ漏れだ。やろうと思えば覗き放題だしな」

 

「………?どういうことですか?」

 

キョトンと首を傾げるブラムの頭をフィンは撫でながら、「まだ知らなくていいよ」と言った。

 

「まぁ、男の浮かれたような声に何しに来たのかわかっちまったからな、こっちは白けたがもらうもんもらっいまったし……くたばっちまえなんて思いながら部屋を貸したら、このザマだ。ゾッとしちまったよ」

 

「ねぇ、団長。そういうことってなんですか?」

 

「その女の特徴は?」

 

「ロープの上からでもわかるくらい、めちゃくちゃいい体してたな。思わずむしゃずりつきたくなるような女だったぜっ」

 

「おお。実は俺様も街中でちらっと見かけたんだが……ありゃあーいい女だ。顔は見えなかったが間違いねぇ」

 

主人に続き、ボールスまでもが熱弁する。それをゴミを見る目で女性陣は、とりあえずブラムを自分達の元へ連れ戻した。

 

「? なんですか?」

 

「ブラムは知らなくていいのよ。そのままでいて」

 

ティオネにまで頭を撫でられ、頭の上には「?」が出るものの、尻尾はフリフリさせていた。

 

「……その様子だと、ローブの女の目撃者は誰もいないみたいだね?」

 

「おお、全くいねえ。子分どもに聞き込みをやらせてはいるが、今の所なんの手がかりはなしだ」

 

「そっか……。ブラム、匂いで犯人を追えるかい?」

 

「うーん……僕、そこまで匂い嗅ぐの得意じゃないですし……もしかしたら臭い消されてるかもしれませんよ?ほら、ご主人も獣人ですし、匂いでバレることを恐れて……」

 

「………そっか。そうだね。とにかく、この男の身元を調べよう」

 

「おい、『開錠薬』はまだか⁉︎」

 

フィンが言うと、ボールスが声を上げる。すると、ちょうどいいタイミングでそれを持って来た。

 

「開錠薬って確か…」

 

「眷属の恩恵を暴くためだけの道具だ。正確な手順を踏む必要はあるがな」

 

で、男の一人がそれを使った。

 

「どれどれ…っといけねぇ、【神聖文字】が読めねぇ…」

 

「あ、僕読めますよ」

 

「私も読める」

 

「私も」

 

と、ブラム、リヴェリア、アイズが背中を見た。

 

「名前は、ハシャーナ・ドルリア」

 

「所属はガネーシャ・ファミリア」

 

その声に動揺する男達。

 

「ガネーシャ・ファミリア⁉︎オラリオ上位派閥だぞ!」

 

「おいっ、間違いないのかよ⁉︎」

 

「待て!」

 

その中でボールスの声がより一層強く聞こえた。

 

「待て待て待て、今なんて言った⁉︎ハシャーナだと⁉︎冗談じゃねぇぞ……【剛拳闘士】っつったら、レベル4じゃねぇか⁉︎」

 

それに全員が動揺を見せた。そんな中、フィンが冷静に聞いた。

 

「ボールス、確認させてくれ。この遺体が発見されてからここのものを動かしたりは?」

 

「……」

 

だが、ボールスは無言だ。それはなかったと語っている。

 

「争った跡も、複数が立ち入った痕跡もナシ…少なく見積もってレベル4、あるいは……第一級冒険者。レベル5と同じか、それ以上の能力の持ち主」

 

 

「……にしても、意外だね」

 

フィンが現場の検証をしてる中、ティオナがブラムに言った。

 

「?何がですか?」

 

「ブラムって死体とか見ても平気なんだ?」

 

「へ?は、はいまぁ……。夜眠れなくなるだけで今は別に」

 

「眠れなくなるんだ……」

 

「だ、だってぇ……怖いじゃないですか……」

 

「お化け信じてるんだ?」

 

「い、いいじゃないですか!」

 

「やーい、子供ー」

 

「もう!」

 

なんて一幕をまるで無視しながらレフィーヤが口を開いた。

 

「ほ、本当にこの人は力ずくで殺されてしまったんでしょうか?その、毒とか……」

 

「身動きを取れなくなったところで、息の根を止められたってこと?」

 

ティオネに聞き返され、レフィーヤはぎこちなく頷いた。

 

「それはないですよ。アビリティ欄に『耐異常』がありましたし、何より毒物の匂いがありません」

 

ティオナとじゃれてたブラムが口を挟んだ。

 

「情事に乗じることで油断させていたとはいえ、第二級冒険者の寝首をかける女、か……」

 

「……【イシュタル・ファミリア】のところの戦闘娼婦?」

 

フィンの言葉にティオナが思いつきで言った。

 

「そうだとしたらわかりやすくていいんだけどね……まぁ疑ってくれと言ってるようなものかな」

 

「そうよ、あからさま過ぎるじゃない」

 

「そうですか?レベル4の首をへし折れる女性という時点で犯人なんて限られて来るのに、毒殺を選ばないで力ずくで殺しましたよね。案外、そんなに考えて犯行をしたわけではないのでは?」

 

フィンの返答にティオネが続け、それにブラムの長台詞が続いた。すると、男の一人がアイズ達に指を向けた。

 

「そ、それらしいこと言ってるけどっ!今ちょうど街にやってきたって顔をして、本当はお前らの誰かがやったんじゃないのか⁉︎」

 

「ああ、それはないです」

 

ブラムがあっさり言った。

 

「匂いが残ってませんから」

 

「身内の言うことなんてアテになるか!」

 

「この人を僕達が殺してなんの得があるんです?」

 

「そんなものは犯人が知ってるに決まってんだろ!」

 

「じゃあ、僕達が殺したとして、ここに戻ってくるメリットは?」

 

「そ、それは……!」

 

ブラムに論破され、悔しそうに男は口を閉じる。フィンがまた口を開いた。

 

「一度この場を検証したい。ものに触るけどいいかな?」

 

「ああ、好きにしろ」

 

ボールスが投げやりにフィンに現場を指揮する権利を譲った。死体をジロジロ見た後、フィンは荷物の方を見た。バックは引き裂かれていた。

 

「……ローブの女は特定の荷物を狙って近付いたのかもしれはいね」

 

「おー、わかりますくていいなぁ。それで、ハシャーナの野郎はまんまと色仕掛けにのって殺されちまったってわけだ」

 

「この荷物の状態を見るに……焦っていたというより、相当苛立っていたようだな」

 

フィン、ボールス、リヴェリアと声が続く中、ブラムが荷物の方に歩み寄った。

 

「その特定の荷物が見つからず、癇癪を起こして死体に当たった……筋は通りますね」

 

「なんかティオネみたいだねー」

 

「私だってこんなことしないわよ⁉︎」

 

一緒にするな!とティオネがティオナに吠える。

 

「いやあ、ティオネさんは団長の為なら殺人くらい余裕で……あっ、いやごめんなさい殴らないで殴らないで」

 

茶化して謝りながら荷物を漁ってると、一枚の紙を摘み上げた。

 

「何それ?」

 

隣にフィンがやって来た。

 

「多分、冒険者依頼の依頼書ですね。30階層……単独で、採取……内密に……ダメだ。読めないですね、血が邪魔で」

 

「まぁ、察するにハシャーナは30階層に犯人に狙われる何かを一人で取りに行ってたって所かな?」

 

「そうでしょうね。内密にって所から、多分ファミリアの人にも話さずにね」

 

「しかし、ガネーシャ・ファミリアほどの有名なファミリアほど有名なファミリアの一員が、持ってるだけで命を狙われるような怪しいものをどうこうするクエストを引き受けるか?」

 

「どんな物なのか知らなかったんじゃないですか?もしくは、大金を積まれたか」

 

「………なるほど」

 

そして、しばらく親指を顎に当てて考えたあと、フィンはボールスに言った。

 

「……ボールス、街を一度封鎖してくれ。リヴィラの街に残っている冒険者を出さないで欲しい」

 

「まだ犯人が何気ない顔で街を出歩いてるってか?オレ様だったら、とっくにトンズラこいてるがなぁ」

 

「犯人が探してたものは、よほどの代物のはずだ。殺人まで犯してる。もしまだ確保できてないとしたら、手ぶらでは帰れないだろう。……きっとまだいると思うよ。勘だけどね」

 

それに、ボールスは「わかった」と頷いた。

 

「北門と南門を閉めろ。それから街の中の冒険者を一箇所に集めるんだ。従おうとしねえ奴は犯人だと決めつけて取り押さえちまっていい。ヴィリー、新しく来た冒険者には事情を話して別のところにまとめておけ」

 

「わ、わかった」

 

ボールスの指示で宿の主人も従う。その様子を見ながらティオネが呟いた。

 

「……前も思ったけど、ブラムって頭良いのね」

 

「……確かに、戦闘の指示も出来る」

 

「可愛い顔してますし、料理も出来ますし、優しいですし、囮役をやる度胸もありますよね」

 

ティオネ、アイズ、レフィーヤと言った後、三人はティオナを見た。

 

「「「……どこに惚れたんだろう」」」

 

「ど、どういう意味だあ!」

 

ティオナは怒った。

 

 


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