飯が終わり、ブラムは部屋で本を読んでいた。その時だ。
「ブラムー!」
バタンッ!と勢いよくドアが開かれ、反射的に読んでいた本を背中に隠した。現れたのはティオナだった?
「チョーっと、ダンジョンに……今、何隠したの?」
「い、いや……これは、その……」
言えなかった。対象年齢5歳くらいのヒーローモノの本を読んでたなんて。
「い、生き物図鑑です!」
「へ〜え?」
ニヤニヤと笑うティオナ。ダメだ、逃げ切れないと本能的に悟った。が、ティオナは構わず飛び掛った。
「見せろー!」
「ひゃあっ!や、やめて下さい〜!」
まるで襲ってるような絵面だった。当然、力比べでティオナに勝てるはずもなく、あっさりと本は奪還された。
「えーっと……なになに?絵本?」
「……子供っぽいですか?」
「ああ、これか。懐かしいな〜。あたしも子供の頃好きだったよ」
「……………」
意外とからかわれなかった。
「? でもなんで隠したの?」
「こ、子供っぽいってからかわれると思って……」
「そんなことしないよ?」
どの口が言うか!と思ったが堪えた。
「それよりダンジョン行かない?みんなでさ」
「? ダンジョンですか?なんで急に」
「実は少しお金稼がないといけないんだよね。武器の代金とか色々あって」
「………後先考えずに武器作るからですよ」
思わずジト目で見てしまった。
「お願い、手伝って!」
「いいですよ、別に」
「ほんと⁉︎いやー相変わらずブラムは優しいね」
「そ、そんなことないですよ!」
「お?照れてるの?照れてるな?」
「っ! て、照れてません!」
「よしっ、じゃあ行こっか」
「ちなみにみんなというのは誰がいるんですか?」
「アイズとティオネとレフィーヤとフィンとリヴェリアかな」
「団長も行くんですか?」
「うん」
「あーい」
*
で、外。ブラムは腰に二本剣をぶら下げて準備万端である。
「前から思ってたんだけどさーブラム」
ティオナに声を掛けられた。
「はい?」
「なんで剣二本あるの?使って無くない?」
「使ってないのは逃げ回ってるから何ですけどね……」
「あ、その事なんだけど、」
と、フィンが口を挟んだ。
「今日はブラムにも強くなってもらいたいから、僕と一緒に狩りしよう。なるべく、多対一にはさせないようにするから」
「団長……」
「だからさ、その……代わりと言ってはナンだけど……」
と、言いにくそうにフィンは口籠った。
「あ、明日から毎日僕のオムライス作ってくれ!」
「な、何言ってるんですか⁉︎」
「頼む!それくらい美味しかったんだ!」
「べ、別にいいですけど……」
なんてやってると、ブラムの顔面に拳が迫ってきた。
「うわっ⁉︎」
慌てて躱すブラム。
「チッ、外したか。ごめんなさい、蚊がいたの」
ティオネが不快そうな顔で白々しく言った。
「いやっ、外したかって言ってたからね⁉︎というか何するんですか!」
「いえ、団長に何か虫が寄り付いていたものだから」
「むしろ寄り付かれてましたけど⁉︎」
「いいから団長から離れろおおおおおお!」
「ギィヤアアアア!」
追うティオネと逃げるブラム。すると、ティオネの肩にティオナが手を置いた。
「ティオネ、ティオネ」
「何よ!」
「逆転の発想、ブラムにオムライスの作り方教わればいいんじゃない?」
「…………」
その瞬間、ティオネが急に土下座し始めた。
「作り方教えて下さいお願いします」
「変わり身早っ⁉︎」
と、一応解決して一同はダンジョンへ入った。
*
「おりゃりゃりゃりゃりゃーーっ!」
元気よく雄叫びを上げながらティオナは武器を振り回す。ミノタウロスがバラバラに飛び散った。
「危ないわね〜、当たったら痛いじゃないの」
「痛いで済むんですか?」
ティオネの台詞に苦笑いでレフィーヤがツッコミを入れる。
「よそ見をするなレフィーヤ!来てるぞ!」
「はっ……きゃあ⁉︎」
リヴェリアに言われ、前を見るとミノタウロスが迫っていた。
「ひぅっ」
ガッと悲鳴をあげながら顎を殴りあげた。
「喉をつけ!」
「はいっ!」
リヴェリアに言われた通り、喉を突いて倒す。
「お前は遠距離からの魔法に慣れ過ぎたせいか、敵に近づかれると慌てる癖がある。まずは心構えからだ。魔導士といえど近接戦は不可避と肝に銘じておけ」
「は、はいっ!」
と、リヴェリアの楽しいパーフェクト魔導士教室の少し離れた所では、フィンの戦闘教室をやっていた。
「ひぇえええええええ!」
「コラ、逃げるな!」
フィンに怒られるも、ブラムはミノタウロスの群れから逃げ回る。
「だから逃げるな!」
そのブラムの襟首をフィンが掴んだ。
「ぐえっ!」
「戦、えっ!」
と、フィンはブラムをミノタウロスに投げ付けた。
「うそぉおおおおおおおおおおおおッッ‼︎」
絶叫しながらミノタウロスと衝突。
「いでぇええええええ!」
鼻を押さえながら悶え転がる。そのブラムをミノタウロスが見下ろした。「喧嘩売ってんのか?」みたいな感じで。
「ご、ごめんなさぁあああい!」
『ヴォオオオオオオオオオオ!』
「うっふぉおおおおおおおお!」
慌てて躱す。そのブラムの手をフィンが掴んだ。
「ダメだ、逃げてちゃ!」
「だ、だってあの量……!」
「少しでも僕とアイズが相手にするから、ブラムも逃げない!」
「は、はいぃ……!」
涙目で返事をした。で、ミノタウロスと相対する。
(そうだ、少しでも強くならないと……!)
そして、地面を思いっきり蹴ってミノタウロスへ向かった。
「うわああああ!」
ミノタウロスの攻撃をかい潜り、ジャンプして肩を踏み台にした。剣を抜きながら背中を斬ろうとした時だ。目の前に二頭目のミノタウロスの顔がある。
「ジェットストリームアタックぅ⁉︎」
「ぶ、ブラム……!」
二頭目のドムタウロスの拳がブラムのボディを見事にとらえた。
「ぐあっ……!」
壁に叩き付けられ、地面に倒れる。
「いてて……」
「何やってるんだ……」
フィンがミノタウロスを仕留めた。
「大丈夫か?」
「………無理です」
「大丈夫そうだな」
「鬼ですか!」
冷酷な一言にブラムは思わず肩を落とした。
「でもフィン、もう階層王まで来ちゃったよ」
アイズに言われてフィンはため息をついた。
「ブラム、ここまでミノタウロス何匹倒した?」
「えーっと……四匹です」
「………はぁ、まぁいいか。階層王を倒して休憩にしよう。着いちゃったものは仕方ないしね。みんな、行くよ」
フィンが言うと、全員は階層王のフロアに突入した。だが、
「ありゃ?階層王いないけど誰か倒しちゃったの?」
何もいなかった。
「ンー街の冒険者が総出で片付けたみたいだよ。交通が滞るからって」
で、一同は18階層に降りた。
「ん〜、ようやく休憩〜」
「いつ来ても綺麗ですねこの階層は」
「今はどうやら昼のようだな」
ティオナ、レフィーヤ、リヴェリアと言った。
「うう……疲れました」
「お前は四匹しか倒してないだろ」
「でも僕が一番動いてたと思うんですけど……」
疲れた体を引きずりながら愚痴るブラム。一同は街の奥に進んだ。
「買い取り所で魔石やドロップアイテムを引き取ってもらって、それから……」
「宿はどうするの?またいつもみたいに、森の方でキャンプ?」
「ンー、今回くらいは街の宿を使おうか。野営の装備も持って来ていないしね」
「でも、団長……一週間も寝とまりすれば結構な金額になると思いますよ?ここはリヴィラなんですから……」
「宿代くらいは僕が払いますよ。ティオナさんとかに払わせたら、結局武器のお金稼げないですから」
「いいのかい?ブラム」
「いいですよ別に。僕はお金あっても使いませんし」
「そうか。じゃあ頼むよ。でも明日からの特訓は1mmも負けねぇからな」
フィンに言われ、ぎくっと肩が震えた。で、一同は宿へ向かった。すると、リヴェリアが言った。
「……街の雰囲気が少々おかしいな」
「そういえば、いつもより人が少ないような……」
レフィーヤが賛同したように言った。で、宿に到着。が、ヤケに人が集まっていた。
「何これ、何事?」
「殺しだよ」
聞いてもいないのに群れの中の一人が言った。
「殺し?」
フィンが聞き返す。
「ああ」
「……みんな、ちょっと僕が見てきますね」
「僕も行くよ」
ブラムとフィンが足の間を通って突撃した。
「団長⁉︎待ってください!」
ティオネが止めたが、無視して二人は突撃した。
「ちょっとあんた達道空けて……!団長が一人で危険地帯に……」
「えっ?一人?」
「お願いだから聞こえてるでしょ…!団長が…ねぇ……!」
で、ブチ切れた。
「道あけろって言ってんだろ⁉︎はっ倒すぞ!」
踵落としで地面を叩くと、地割れのように前の人が横に分かれた。
「団長〜私もお供します♪」
「あぁ…ほどほどにしてくれよ……」
引き気味にフィンが言った。で、宿の中を進むと、異臭がした。
「………これ」
「どうした?ブラム」
「死体の匂いだよ。それも、人の死体」
「………なんだと?」
そして、ブラムの鼻を頼りに進むと、一つの部屋に辿り着いた。
「ここからです」
で、フィンが中に入ると、異臭が一層強くなかった。そして、床には頭の上半分が無くなった男の死体が転がっていた。