ロキファミリアの囮役   作:杉山杉崎杉田

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食われた

「ええっ⁉︎モンスターが逃げ出した⁉︎」

 

ブラムが声を上げると、口を手で塞がれた。

 

「デッカい声出すな!……そうだ。だからお前も捕獲を手伝え」

 

「分かりました。モンスターは何匹逃げたんですか?」

 

「九匹だ」

 

「僕がモンスターを引き付けるので捕獲の方はお願いします」

 

そもそも自分は役員ではないだとか、そういう訂正を一切せずにブラムはモンスターを探しに行った。

 

「お、おい!……ったく、まぁいい」

 

 

近くの塔のテッペンに登って、ブラムは街を見下ろした。そして、大きく息を吸い込む。

 

「ティオナさんはAカップゥゥウウウウウウウッッ‼︎‼︎」

 

大声で叫ぶと、聞こえた人全員はこっちを見たが気にしなかった。作戦としては、音でモンスターの気を引き、自分のスキルを利用してこっちに集中させることだ。ティオナにも聞こえていれば、確実に自分を消しに来るだろうし、ついでにモンスターも消してくれるだろうという作戦だ。と、ティオナへの仕返しも少々。

そして数秒後、狙い通り脱走した九匹のモンスター達がブラムのいる塔に走って来るのが見えた。いや、一匹モンスターじゃなくてティオナだなアレ。

 

「一匹足りないけど……まぁいいか。あとはティオナさんが全部やってくれるでしょ。後は、ラスト一匹を探せばいいよね」

 

言うとブラムは塔から飛び降りた。そのまま屋根の上を歩き回ること数分、

 

「っ?」

 

ぐらりと地面が揺れた気がした。その直後、ドオオオンッ!と轟音が響き、そっちから土煙が舞い上がる。

 

「! な、なんだ⁉︎」

 

慌ててそっちへ向かうと、蛇に酷似した長いモンスターがいた。

 

「何これ、新種?」

 

今までどんなモンスター相手でも囮をこなしてきたブラムでもわからないモンスター。それがブラムを見た。

 

「あ、あははっ……」

 

苦笑いを浮かべるブラム。その瞬間、モンスターが襲い掛かってきた。

 

「ほぉあああああああッッ‼︎」

 

ヘッドスライディングで避けた。

 

(ダメだ……!街の人がまだいる。逃げられない……!)

 

ブラムは心の中でそう呟くと、「『跳躍』」と、魔法を発動し、モンスターを飛び越えた。

 

「こっちだ!」

 

呼ぶと、モンスターは当然振り返る。そして、先端の部分がガパァッと開いた。

 

「⁉︎ 花ぁ⁉︎」

 

それがブラムに迫る。

 

「ひええええええ!き、キモい〜!」

 

悲鳴をあげながら何とか避ける。

 

(………周りに人はいない。そろそろ逃げてもいいよね)

 

そう思った時だ。「ふえええ」と泣き声が聞こえた。

 

「っ……⁉︎」

 

見れば、獣人の女の子が建物のすぐ横で頭を抱えて泣いていた。自分がいれば攻撃されることはないが、巻き添えを喰らってもおかしくない。

 

「ッ!」

 

ブラムは迷わずに女の子に直進した。モンスターからの攻撃をかい潜り、女の子を抱えた。

 

「大丈夫⁉︎」

 

「ふええええっ」

 

すぐに逃げようとしたが、周りはいつの間にか増えていた人食い花の頭に囲まれていた。

 

「ま、マジ……?」

 

逃げ道はない。四方八方を囲まれている。

 

(責めて……この子だけでも……!)

 

ブラムは獣人の女の子を投げた。その瞬間、ブラムの真上に人食い花の頭がドゴゴゴゴッ‼︎と突っ込んだ。

 

 

「だぁれがAカップだぁーっ‼︎」

 

ドゴォオオンッ!とティオナの拳がモンスターを粉々に砕く。後ろで一緒に戦っているアイズが引き気味に見ていた。

 

「ティオナ、落ち着いて」

 

「落ち着けるかぁ!ブラム殺す!ぜぇーったいに殺すんだから!」

 

「気持ちはわかるけど……」

 

「そんな立派なモン持ってる奴に何が分かるかぁー!」

 

うがぁー!っと叫ぶティオナ。

 

「ティオナ、それよりティオネとレフィーヤとあっちの方に行って。なんかすごいのか見えない?」

 

「いいよ何でも。とりあえず殺せればなんでもいい」

 

「……………」

 

アイズにドン引きされる中、ティオナは人食い花の方に向かった。ティオネとレフィーヤと人食い花の方へ向かった。

 

「ティオナ、私達で叩くわよ。レフィーヤは様子を見て詠唱!」

 

「わかった」

 

「は、はいっ!」

 

ティオネの指示に二人は返事をした。そして、人食い花の所に到着。獣人の女の子が一人、倒れて泣いていた。花は何故か一箇所に集中している。とりあえず三人は女の子を助けた。

 

「大丈夫⁉︎」

 

ティオネが確認のために聞くと、女の子は涙と鼻水でグチャグチャになった顔で花の方を指差した。

 

「お、おにっ……、お兄ちゃんが……!」

 

「お兄ちゃん?あなたの?」

 

「ううん、違うの!でも、獣人のお兄ちゃんが……!」

 

すると、花がユラリと起き上がった。

 

「あなたは逃げて!」

 

ティオネに言われて女の子は号泣しながら逃げた。

 

「獣人って……」

 

レフィーヤが唾を飲み込むと、ぺっと花が何かを吐き出した。それは、ガネーシャファミリアの団員のつけていた奴にそっくりのマスクだった。

 

「こ、これって……!」

 

見た瞬間、ティオナとティオネが花に向かって直進した。

 

「これの本体を……」

 

「吐き出せぇええええッ‼︎」

 

二人の拳を廻し蹴りが花のボディに炸裂。だが、

 

「っ⁉︎」

 

「かったぁー⁉︎」

 

拳と足を抑えてピョンピョン跳ねる。その二人に花は突撃してきた。なんとか躱す。

 

「打撃は効果がない……⁉︎」

 

それを見るや否や、レフィーヤは詠唱を始めた。

 

「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ妖精の射手。穿て、必中の矢】!」

 

レフィーヤが魔法を放とうとした時だ。地面からメコッと何かが生えてきた。

 

「⁉︎」

 

それが、レフィーヤの脇腹を捉えた。ゴフッと血を噴き出す。

 

「レフィーヤ!」

 

ティオネが声を上げるが、レフィーヤは後ろに倒れる。ティオネとティオナがレフィーヤの元へ向かおうとするが、花に道を阻まれ動けない。

 

「レフィーヤ、おきなさい!」

 

「あーもう、邪魔ぁっ‼︎」

 

倒れるレフィーヤに迫る花の頭。口を大きく開いて、涎を垂らしながらゆっくりと。

 

「っ……!」

 

レフィーヤは地面を這いつくばって逃げようとするが、逃げ切れるはずもなかった。

 

(嫌だ……嫌だ……!)

 

涙が目から溢れた時だ。

 

「…………ーい」

 

声が聞こえた。ハッとして花の方を見ると、口の奥に何かが見えた。

 

「………?」

 

「…………ーヤさん」

 

何か、人のような物が入っている。目を凝らすと、何かが手を伸ばしていた。

 

「……ィーヤさん。逃げて……」

 

スゴイグロいことになってるブラムだった。

 

「キィヤァァアアアアッッ‼︎ホルァアアアアッッ‼︎」

 

怪我のことを忘れてダッシュで逃げる。すると、シュタッと何かが降りてきた。

 

「レフィーヤ、大丈夫?」

 

「む、無理無理無理無理!貞子!獣人の貞子がいる!」

 

「…………?」

 

言われてアイズは花の中を見ると、ブラムが手を伸ばしていた。

 

「……!……!」

 

サァーッとアイズまでもが顔を青くする。だが、

 

「……インさあん!たぁすけてぇ〜……」

 

という聞き覚えのある声でブラムだと確信した。

 

「ブラム……!」

 

アイズは急いで花の首を切り落とす。そして、なんとかブラムは脱出した。

 

「ウエー……気持ち悪い……ベトベタする……臭ぁい……」

 

と、涙目で自分の腕の匂いを嗅いでるブラムの真上から花が突っ込んできた。

 

「って、ほあああああ!」

 

慌てて避けるアイズ、ブラム、レフィーヤ。

 

「あ、あぶなかっ……」

 

「見つけたぞクソガキャアッ!」

 

すると、今度はティオナの跳び蹴りがブラムのボディに減り込んだ。

 

「ゴッファアッ!」

 

「誰がAカップだぁ!」

 

「ま、待って!今そんな場合じゃないでしょう!ほら、今にも襲いかかってきそうだよ!」

 

「あたしがお前に襲い掛かりそうだよ!」

 

ブラムが花を指差して言うも、ティオナは攻撃をやめようとしない。そのティオナの肩にティオネが手を置いた。

 

「そこまでにしときなさいよ。やるのは後にしなさい」

 

「結局やられるんですか僕⁉︎」

 

「とにかく、まずはあっちを殺るわよ」

 

ティオネの台詞で全員が花を見た。

 

「ブラム、指揮を」

 

「えっ?僕ですか……?」

 

「前に芋虫の時にあなたが指揮を取ったでしょう?」

 

「そ、それはそう、ですけど……」

 

「なら、やりなさい。あなたの指揮は正確だったわ」

 

ティオナは何のことだか分かってないが、レフィーヤもアイズも頷いていた。

 

「分かりました。奴に打撃の効果がないのは体内から二人の攻撃を感じていたので分かっています。あとこの花はレフィーヤさんが詠唱をしてる時に狙っていたことから、魔力に反応して、率先して潰して来ています。つまり、魔法に弱いはずです。レフィーヤさんは魔法を詠唱、ティオナさん、ティオネさんはレフィーヤさんを護衛、斬撃は通用するので、アイズさんは少しでも花を仕留めてください」

 

「ブラムはどうするのさ」

 

ティオナに聞かれた。それに、微笑んで答えた。

 

「僕は、いつも通りです」

 

言うと、ブラムは「『跳躍』」と呟き、大きく跳んだ。それに反応し、花がブラムに突っ込む。

 

「私も……!」

 

アイズも花に突っ込み、茎を切り倒していく。

 

「レフィーヤ、詠唱!」

 

「は、はい!」

 

ティオネに言われて、レフィーヤは詠唱開始。ブラムは空中で跳躍を連発、攻撃を片っ端から避けて行く。

 

「! あんな魔法の使い方してたら、精神疲労で倒れるよ!」

 

ティオナが叫んだ。だが、ブラムはやめない。魔法を使い続けることによって、万が一自分のスキルより魔力を優先して狙う相手だったとしても、こっちに注意を引けるからだ。

だが、ブラムは午前中はフィンと特訓、その後に花に丸呑みにされている。精神疲労はすぐに来た。

 

「っ!」

 

クラッとして空中移動中に体が言うことを聞かなくなる。

 

「やべっ……」

 

グラリとバランスを崩し、空中から落下した。だが、

 

「『風』」

 

アイズが飛んでブラムを抱きかかえた。そして、レフィーヤの詠唱はもうほとんど終わっている。

 

「【吹雪け、三度の厳冬。我が名はアールヴ】‼︎」

 

「………この魔法」

 

ティオネが呟いた時だ。レフィーヤは魔法を発動。

 

「『ウィン・フィンブルヴェトル』‼︎」

 

それが花に向かって思いっきり放たれた。そして、見事に凍らせた。

 

「ふぅ……!」

 

「ナイス、レフィーヤ!」

 

「散々手を焼かせてくれたわね、この糞花っ‼︎」

 

息をついた横からティオネとティオナが走り込み、大きくジャンプした。

 

「はぁっ‼︎」

 

足を思いっきり振り上げ、氷を中の花ごと思いっきり打ち砕いた。そして、ブラムを抱えたアイズがパキィィィンと見事に空中から斬り裂いた。

 

 


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