地下迷宮49階層。そこで一人の少年、ブラム・アデスは、全力で逃げていた。
「く、クソォ〜!卑怯だぞ〜!」
モンスターの群れから。すると、正面にいるフィンから声が掛かった。
「ブラム!早くこっちに逃げろ!」
「そ、そんな事言われても無理ですよー!というか、団長が突撃させたんでしょー⁉︎」
涙目で言い返した。
「な、なんでいつもいつも僕ばかり……!」
泣き言を言いながら逃げるブラム。こう見えても第二級冒険者なのだが、スキル《攻撃対象》により彼を見たモンスターはほぼ100%、彼に襲い掛かるのだ。
「……まったく、まぁ仕方ないか。ティオナ、ティオネ!」
フィンの号令で、アマゾネス姉妹の二人が横からモンスターの群れを殴る。
「だいじょーぶ?ブラム」
「て、ティオナさん……!」
自分の想い人に心配され嬉しい反面、「情けない姿をまた見せてしまった……」という悔しさがブラムの中に残る。まぁ、嬉しさの方が大きいので、思わずニヨニヨしてしまう。だが、そのニヤニヤもフィンの次の命令で掻き消された。
「後衛組、ブラムに向けて攻撃開始!ただし、足元は狙うなよ!」
「うえっ⁉︎」
その命令にブラムは驚くが、後衛組は弓やら魔法やらを放つ。
「う、うそぉおおおおッ⁉︎」
驚きながらブラムは迫って来る魔法やら矢やらを避ける。お陰で、後ろのモンスターの群れに攻撃が直撃していく。
「団長ォオオオオオッッ‼︎謀ったなァァアアアアッッ‼︎」
「毎回騙される方が悪い」
ブラムの必死の叫びをあっさり一蹴するフィン。すると、その横から一人の女性が飛び出した。アイズ・ヴァレンシュタイン、剣姫と呼ばれる第一級冒険者だ。
「ちょっ……アイズ⁉︎」
フィンに呼ばれるも、アイズは無視してブラムの真上を通り過ぎた。
「ゔ、ヴァレンシュタインさん……!」
助かった!といったニュアンスで名前を呼ぶブラムに、ニコッと微笑むと、アイズはモンスターの群れを捌いて行く。その隙にブラムはフィンの所まで転がり込んだ。
「ひどいですよ、団長!あんなのまるで囮役……!」
ガバッと顔を上げて、そう言いかけたブラムの肩にフィンが手を置く。
「すまないね、でも今回の作戦も君のお陰、で成り立っているんだ。許してくれるか?」
敢えて、「お陰」を強調した。すると、パァッと明るくなるブラム。
「こ、今回だけですからね!」
((((ちょろい))))
その場にいた全員がそう思った。すると、モンスターの群れがブラムの所に一斉に駆け寄ってくる。
「あ、あわわわ……!あいつら、ぼくが何をしたっていうんだよ!」
「盾構えぇーーーッ‼︎」
フィンが次の命令を下す。盾を持った冒険者達が壁になった。
「後衛組は攻撃を続行!リヴェリア、詠唱開始!」
その命令で、リヴェリアは詠唱を唱え始める。するとフィンはブラムの肩にまた手を置いた。
「君にしか、できない仕事だ。でも危険なことでもある。頼めるかな?」
「任せて下さい!」
二つ返事でOKした。
「リヴェリアの詠唱が終わるまで、奴らの目を引いてくれないか?終わったら僕が指示を出す。そしたら、君は逃げるんだ」
「はい!」
そのままブラムは敵の群れに突撃した。最初は複数相手でも善戦したものの、やっぱり辛かった。
「ひぇええええっ‼︎」
鬼ごっこが始まった。その様子を見ながら一人の弓兵が呟いた。
「………あいつ、ちょろ過ぎないすか?」
「言ってやるなよ。お陰で僕達は安全なんだ」
なんとか、アイズやベート達のお陰で逃げ回るブラム。すると、リヴェリアの詠唱が終盤に入った。
「戻れブラム!」
「ええっ⁉︎今ですかぁ⁉︎」
フィンの言葉が聞こえたが、ブラムは何処に逃げればいいか分からず、パニックになりかけ、転んでしまった。
「ヤバッ……!」
死んだかも……と、ブラムが思った時、グイッと襟首を掴まれた。
「ぐえっ!」
服が喉を締め付けて、思わずカエルのような声を出してしまった。
「『汝は業火の化身なり、ことごとくも一掃し大いなる戦乱に幕引きを、焼き尽くせスルトの剣、我が名はアールヴ!』」
その瞬間、詠唱が終わり、リヴェリアから魔法が放たれる。
「『レア・ラーヴァテイン』ッ‼︎」
モンスターの群れを大炎が一掃する。その様子を空中から見ながらブラムは呟いた。
「あっぶなかったぁ〜……あんなのに巻き込まれたら……」
「ブラムも炭になる所だったね」
「そうですね……。あ、助けてくれてありがとうございま……」
お礼を言いながら上を見ると、ティオナが助けてくれていた。
「すっ?」
「大丈夫?」
「……………」
顔が真っ赤になるブラム。
「あはは、顔真っ赤〜」
言いながら笑うティオナを見て、ブラムは更に顔が赤くなる。
「………きゅうっ」
で、気絶した。