織田信奈の野望 〜乱世に迷いし少年〜   作:ふわにゃん二世

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真面目すぎるのにも困る

卯の刻、まだ日が昇らぬ明朝に長門は目を覚ます。

 

「この時間は、やっぱり冷えるな」

 

そう言いながら俺は、布団を押入れにしまうと槍を取り、屋敷の庭に出ると、早朝の鍛錬を始める事にした。何でわざわざこんな時間にやるかっていうのは、まあここの生活も慣れてきてから始めたんだけど、義兄上たちに早く追いつきたいからっていうのが一番強い。

日本史には緋村家なんて大名なんていないから知らなかったけれど、緋村家は武勇に富んでいて、かなり強いらしい。他家からは『緋村は鬼の住まう家』とまで言われる武力チートな家らしい。

 

「ふっ!ふっ!はっ!せいっ!」

 

一定のリズムを守りながら槍を振る。誰も起きていない静かな空間に響く槍の風切り音は心地よかった。槍、木刀と素振りをしていると、家臣の高次も起きていた。

 

「おはようございます長門様。今日も鍛錬ですか?」

 

「ああ、おはよう。習慣だからな」

 

実は俺はこの高次と二人で暮らしているのである。未来人脳の俺は流石に夫婦でない男女が一つ屋根の下で一緒というのは如何なものかと思ったが、高次もはっきりと否定しないし、なし崩し的にそうなってしまった。

まあ俺が間違いを犯すことはないとは思うが………なんせ未来人は草食系男子だからな。すまん、全国の草食系男子よ………

 

「では、今日は私とお手合わせを………きゃあ⁉︎」

 

縁側から降りようとした時に、自分の足に引っ掛けて盛大にすっ転んだ。暫く高次といる時に気付いたが、高次はしっかりとしている癖に何処か抜けているっていうか、何かとドジを踏むドジっ子だったのだ。戦や政務をこなしている時は優秀だが、普段は別人なほどにドジを踏む。所謂ギャップ萌えってやつかと笑いをこらえながらうずくまっている高次に駆け寄る。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「だ………大丈夫です……」

 

「うわぁ……」

 

あろう事か、高次は鼻から血を流していた。まあ確かに顔面から落ちたもんな。溜息を吐きながら俺は布を手に取る。

 

「ったく……ほら、取り敢えず止血だ」

 

「だ、大丈夫ですよ‼︎ 自分でできますから。主にそのような事をさせるわけにはいきません」

 

布を高次の鼻に当てようとした時に、何故か顔を赤くして俺から布を取ろうとする。

 

「堅い事を言うなこんな程度の事で、いいから任せろ」

 

「い、いえ。ほ、本当に大丈夫ですから!」

 

俺と高次は布一枚に無駄な争いを繰り広げていた。我ながらなんて不毛な争いだと思った事か、だがなんとなく引けない状態になってきて俺も意地になっていた。

だが、その不毛な勝負は俺に勝利の天秤が傾き始めた。

 

「〜ッ‼︎ああもう!大人しくしとけ‼︎」

 

「ふがぁッ⁉︎」

 

やや強引ではあるが布で鼻を抑える事に成功した。

 

「ほら、もうだいじょ……う…ぶ?」

 

俺が抑える前にはツゥという感じで大して出ていなかったのに、白い布はみるみる赤く染まってきた。

ビクッとしてつい布を離してしまった。そしたら、鼻血が噴水のように吹き出していた。

 

「お、おい!高次⁉︎しっかりしろ‼︎ありえない量の血が出てるぞ⁉︎」

 

揺すって叫ぶが何故か笑顔で痙攣していた。俺の叫び声に飛んできた女中と共に高次を緊急処置をして懸命の処置の果てに一命はとりとめた。鼻血の原因を離したら女中たちから「それは長門様のせいですよ」とニヤニヤしながら言われた。解せぬ!

 

 

鼻血でダウンした高次を寝かせた長門は今日の債務に取り組んでいた。長門は大量の書簡を相手に筆を走らせていた。長門は前世では成績は良い方だったが字の違いややり直しのきかない筆の扱いに苦戦し、最近やっと慣れてきたところであった。

書類には民の問題解決や自然災害によって損壊した橋の修理など報告書を纏めていた。

そして数刻後、完成した書簡を義隆の確認を貰い、その後に隆成に提出し今日の債務は終了した。

長門が屋敷に戻る時には復活した高次が涙目になっていた。

 

「も、申し訳ありません長門様!長門様の家臣でありながら、債務の全てを長門様に!如何なる罰も受ける所存!」

 

「おいおい落ち着けよ。ちょっと本気以上に頑張ればなんとかなる量だったし、気にすんなって。罰なんざないよ」

 

地に頭をつけて謝る高次に狼狽える長門は頭を上げさせようとする。

 

「な、長門様がお望みならば………その……身体で……」

 

「オイィィィィィィ!それは違うだろ‼︎」

 

気が動転している高次をに激しいツッコミを食らわせた長門は、真面目すぎるのも問題だと、思っていた。

 

 

その後、食事をとった後に長門は食後のお茶を飲んでいた。高次は湯呑みを置くと長門に視線を向ける。

 

「長門様、これから斎藤は織田の下に降るのでしょうか?」

 

「多分な。織田のお姫様は今、弟と家督争いになっている最中だし、正式な美濃の譲渡は織田が尾張を統一してからだろうな」

 

現在尾張では、織田信奈は弟が幾度も謀叛を起こしているらしく、尾張の国勢も安定はしていなかった。

 

「ただ、一つ懸念もあるがな」

 

「懸念?いったいどういうことですか」

 

「道三殿は確かに織田のお姫様に美濃を渡すとは言ったが、道三様は家督を嫡男の義龍殿に譲っている。それに義龍様は美濃譲渡をよしとはしないだろうな」

 

「ということは……」

 

「長門様!ここにおられましたか!」

 

そこに高次の言葉を遮った兵が庭に膝まづいた。

 

「申せ」

 

そして長門の懸念が当たることになったのだ。

 

「ハッ! 斎藤義龍様、ご謀叛!打倒道三様に兵を掲げました!」

 

「それは本当ですか⁉︎」

 

ある程度想像していた長門は兎も角、高次は驚いていた。

 

「なお、今より軍議を開くため、長門様は御出席なされますよう」

 

「分かった。御苦労だった。具足を持て!」

 

そこからの長門は早かった。具足を身につけ、厩戸から馬を取り出し、黒野城へと急いだ。

 

(さて、どちらに着くかそれによって立てる策が違ってくる)

 

城に向かう時にも長門の頭はずっと回転していた。

 

 

 

 

 




日常風から戦闘描写へ。なんという展開の速さ!本当にゴメンナサイ(泣)

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