織田信奈の野望 〜乱世に迷いし少年〜   作:ふわにゃん二世

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戦場描写を描いてみようかと思います。


初陣へ

ーーー美濃国、黒野城ーーー

 

 

あの日から五年後、千熊丸は元服し長門と名乗っていた。長隆の長を取っての名前であるが本人としては慣れ親しんだ名前であることは内心嬉しかったそして、武芸、軍略、政略において、上達していた。現在は兄である隆成と手合わせをしていた。

 

「ふっ!はっ!たぁ!」

 

「ふっ、腕を上げたな、長門よ」

 

長門は次々に木刀を振り下ろす。その剣尖は五年前とは比べものにならないほどに上達していた。しかし、長門に才能があり、上達していようとも、緋村家の猛将である隆成にはまだ敵わない。

 

「ふっ!」

 

「甘い!」

 

長門が木刀を振り下ろすが隆成は、それを難なく弾く。長門の手から木刀が消えて、カランと音を立てて木刀が地面に落ちた時には成秀の木刀の切っ先が、長門の首に向けられていた。

 

「………参りました。兄上」

 

「なに、お主もここまで強くなったではないか。このまま日々の鍛錬を重ねればお主は良き将になれるぞ」

 

隆成が差し伸べた手を取り立ち上がる長門。

 

「おお、義隆。お主も長門と手合わせをしていくか? お主らの手合わせは近頃やっておらんのだろう?」

 

「いえ、それはまたの機会にしておきましょう。今は私も政務で忙しいですからな」

 

涼しげな笑みを浮かべる緋村義隆。長隆の次男で情熱的な隆成とは違い常に落ち着いており水面のように静謐な男で隆成の諌め役であり隆成が一番に信頼する人物でもあった。普段は債務や検知、後方支援を主にしているが一度槍をとれば鬼の緋村の名に恥じぬ働きを見せる。

着流しを整えた長門は渇いた喉を潤そうと水を飲みに行こうとした時に、隆成の部下が息を荒らげながら走ってきた。

 

「何事だ!屋敷を走りおって!」

 

「申し訳ございません!火急の事態にござります故」

 

「何があった、申してみよ」

 

「近江の浅井軍が黒野に向けて進行中!その数七千との事!隆成様!義隆様、長門様は急ぎ、城に戻られよとの事!」

 

「何だと⁉︎浅井が……!」

 

「兎に角まずは城に戻りましょう!軍議を開かねば」

 

長門達は身支度を整えて直ぐに黒野城に向かった。

 

 

黒野城では当主である長隆を中心に軍議が行われていた。浅井の軍勢は約七千、対する緋村は三千ほどである。先程伝令兵によると斎藤道三の援軍が到達し四千になった。

家臣の中で軍議は盛んに、急速に行われていた。

 

「軍を率いているのは浅井久政、彼奴は戦下手で無駄に慎重。防御を固めれば手を出して来ず直ぐに国に引き返すでしょう」

 

「ですな、敵は包囲する程の軍勢でもない、久政に城を落とせる策は無い」

 

籠城を進言するのは義隆と緋村家家老の長束広家である。長束広家は元々近江国の出身だが、緋村家に士官し政務と長門の教育係りを務めていた。

 

「しかし、この黒野城は籠城には不向きな城。ただ籠城するにはこちらにも有利では無いでしょう」

 

「うむ、いっそ野戦で押し潰すのはどうだ」

 

対する隆成と緋村家家老筆頭の前田玄以は打って出るべきと意見は割れていた。前田玄以も美濃の僧侶で広家と同様に緋村家に士官し政務を取り仕切っていた。この意見の対立に長隆は腕を組み悩んでいた。籠城にしろ、打って出るにしても漠然としており、具体的な策が出てこない。

どうにかしないと、と考えていると地図を見ながら何やら思案する様子の長門が目に入った。

 

「長門よ………お主はどう考える?」

 

「………私………ですか?」

 

長門は少し驚くような表情を浮かべる。

 

「何か考えがあるのだろう?構わん、申してみよ」

 

そう長隆に言われ、長門はふぅ、一つ溜息をついと正面を向いた。

 

「………打って出ましょう」

 

「長門、なぜそのように思った」

 

「確かに、籠城は私も考えました。しかし、それでもこの黒野城は平城で籠城には適しませんし数では浅井が上です。ならばその数の不利を利用するまでです」

 

「………ならば、何か策でもあるのか?」

 

「ええ、一種の賭けですが成功すれば浅井を撃退出来る策です」

 

長門は地図を広げ、策を話し始めた。それを聞いた長隆は目を間開いた。

 

「こ、この策なら……!」

 

「ああ、確かに危険だが、やる価値のある策だ」

 

「よし、長門。お主の策を採用する!」

 

「はっ!では、まずは父上は黒野城にて千八百を率いて待機を、兄上達はそれぞれ四百ずつ率いて下さい。私が残りの四百を率いて……」

 

長門の策が採用され、長門は地図を指しながら陣形を指揮し始めた。

 

 

 

軍議が終わり各々の所定の場所へと移動し始めた。長門も甲冑を着込み、戦支度を進めていた。

 

「長門様!」

 

そんな長門の下に甲冑を着た一人の少女が走ってきた。義隆によると姫武将というものらしく、第一子が女の場合は女に家督を継がせるらしい。どこもそれほど人が不足しているらしい。

艶やかな黒髪を現代で言うポニーテールにした少女は片膝をついた。

 

「高次、準備は出来たか」

 

「はい!長門様は初陣とお聞きしましたので、私が貴方様をお守りします!」

 

京極高次、もともとは浅井方の人間であるが浅井を出て緋村に士官してきた。そして今は長門の小姓として使えていたのだ。

 

「ふふ、頼もしいな。だが記憶が正しければお前も初陣のはずだが?ではよろしく頼むぞ?」

 

うう、と顔を赤らめる高次の頭を撫でると長門はあつまった四百の兵に向かって叫んだ。

 

「これより敵は浅井、数は七千。こちらは援軍を合わせて四千。だがその程度の数、我らにとっては然程のものでは無い‼︎ 奴らにこの地に踏み入ったことを後悔させてやれ‼︎」

 

おお‼︎と兵達からは雄叫びが上がり、黒野城を出立した。

これが転生者緋村長門の初陣である。

 

 




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