信奈たちが箕作城の攻略に取り掛かっている時と同刻、柴田勝家を大将に和田山城を取り囲んでいた。
和田山城は箕作城、観音寺城とも近い和田山の山頂に建てられた山城でこの城はもともと対織田の城ではなく、浅井長政との戦いで敗れた際に対浅井の牽制として建てた城だった。
六角承禎は織田軍が最初に攻めると想定しこの和田山城に多くの兵を詰めたのだ。
勝家は悶々としていた。出立する直前、長門の残した言葉が勝家をイライラとさせていた。
「長門めぇ‼︎ 何で攻めちゃ駄目なんだよぉ、兵力じゃこっちが勝ってるんだから一気に攻めればいいじゃんか」
簡易で建てた陣で地団駄を踏む勝家。ついこの前まで敵だった長門に指示される事も癪に触らないというわけではないが、この勝家は何より信奈に褒められたいということを第一に考えており、自力で和田山城を落としてしまいたかった。
方やその長門は逐一箕作城に攻勢をかけていた。
「あぁぁ‼︎ 我慢出来ない! こうなったらあたしも突撃を………」
「駄目です、勝家殿! 長門殿が動いてはなりませんとおっしゃってたのです。それにこれは信奈さまのご命令でもあるのですよ」
「勝家、我慢する」
「うう〜………」
勝家と共に和田山城を囲んでいた新参者の明智光秀と虎の被り物を被った前田犬千代が勝家を抑える。勝家が突撃をしそうになった度に信奈という単語をいうとすぐにおとなしくなる。
あぁ姫さまぁ〜と兵の前ならば士気の下がりそうな情けない顔で嘆く勝家。夕暮れの空がまるで勝家に同情するかのようにどんどんと暗くなっていった。
あたりは直ぐに暗闇に包まれ視界の頼りは松明の炎だけであった。勝家は一度兵を陣に戻し、警戒を怠ることもなく休息を取らせていた。
「なぁ光秀、あいつって何を考えてるんだろうな」
「長門殿ですか………彼は昔から偏屈な人なのです。でも、どこか落ち着いていて、不気味なくらいに」
勝家らは長門の愚痴大会となっていた。あいつは偏屈だとか、何を考えてるか分からないなどと、言い合っていた。
「勝家、良晴が来た………」
「何、サルが?」
勝家が遠させると良晴が陣に入った。
「何のようだサル! あたしは長門のせいで機嫌が悪いんだ!」
「その長門から伝言を預かったんだよ『今夜のうちに箕作城は落とすので落としたと同時に和田山城を攻めて欲しい』………だってさ」
「たったの1日で? 長門殿は本気ですか?」
「何でも敵に内通者がいるんだってさ」
「内通者が⁉︎ ………流石は長門殿」
「え? あたし難しい事わかんないんだけど」
「詳しくはこれを読めって」
良晴は懐から書状を取り出した。直ぐに光秀はそれを見ると合点がいったように書状から目を離した。
「勝家殿、攻撃の準備を! 」
「え? あ、ああ‼︎」
勝家は何のことかはイマイチ分かっていなかったが取り敢えずやっと動ける事に喜びを感じ始めていた。
*
勝家以下、一万と二千の兵は今か今かと出撃の時を待っていた。勝家は早く戦いたくてウズウズしていた。
それと同時に箕作城で大きな歓声と煙が上がっていた。そして薄っすらと見える城から松明の火が灯され振られていた。
「勝家殿!」
「行くぞ‼︎ 和田山城を攻め落とせぇ!」
勝家はいの一番に駆け出していた。光秀や犬千代らもそれに追随するように駆ける。
「織田軍が突っ込んで来たぞ! 迎え撃て!」
和田山城の守備を任されていた一人田中治部大輔は織田の攻勢を見ると慌てて弓兵部隊に指示を出した。
だがあたりは暗く、敵兵の顔を確認することが出来ない。ならばと松明の辺りには間違いなく敵がいる。
田中は即座に弓兵に松明兵を狙わせるべく指示を出す、その時にある事が耳に入って来た。
「箕作城、陥落!」
田中治部は自分の耳を疑った。そして箕作城を見ると箕作城には織田の旗が掲げおり、この喧騒の中に勝鬨を聞き取った。
その凶報は直ぐに兵たちにも伝わり同様が広がっていた。
「み、箕作城が落ちたじゃと⁉︎」
「そんなたったの1日で………」
「もう駄目じゃぁ」
和田山城の守備兵らは箕作城の早くもの陥落と眼前の柴田勝家の狂ったような強さに戦意をなくしていた。
「オラオラー! 今のあたしは誰にも止められないぞ!」
鎖を外された犬が嬉々してのを駆け回るように暗い中だというのにそんなのは御構い無しと言わんばかりに大暴れを繰り広げていた。
織田軍はその勢いのまま城門を突破し一気に攻め入った。
「オラオラ〜!死にたい奴からかかってこい!」
半ば暴走状態の勝家を止められるものなどいるはずもなく和田山城もすぐさま降伏をしたのだ。
*
「みんな、良くやったわ!」
あの後箕作城、和田山城の落城の件を聞いた観音寺城の六角承禎は降伏し、甲賀の里に落ち延びていった。
六角の残党は各地でゲリラ戦を挑んできたがあまりの数の違いに打ち取られていった。
最後まで抵抗の意思を示していた蒲生堅秀、氏郷親子だが、最後は降伏し信奈の傘下に加わったのだ。
現在信奈たちは琵琶湖の三井寺に将兵を集めていた。
「それと緋村長門、あんたの策は見事だったわ。おかげで余計な犠牲も無かったのだもの」
「身に余るお言葉」
長門はその場で平伏した。恩賞第一項は満場一致で長門であった。誰もが納得した表情で見ているが、ただ一人、丹羽長秀だけは複雑な気持ちになっていた。
*
時は箕作城まで遡る。
長門が通じていた者、坂下新八ノ介を切り捨てた。長門は顔に飛び散った鮮血を手拭いで拭う。
「長門様!」
そこに高次が走り寄ってきた。高次は倒れている新八ノ介を見て顔を少し曇らせた。
「………斬ったのですね」
「ああ、それより誰にもつけられなかったよな」
「はい、どさくさに紛れて抜けてきました。長秀殿にも…………」
「私が何ですか、十点」.
長門と高次が振り返るとそこには長秀が怪訝な面持ちで佇んでいた。バツの悪そうな顔を浮かべた長門は長秀を一瞥すると直ぐに目をそらす。
「…………何故ですか」
「何故とは?」
「惚けないでください!」
何故自分と内通していたものを殺す必要があったのか、長門も聞かずとも分かっていた。
「この男はもともと寝返りを繰り返して来た男だ。その場の優劣で直ぐに寝返る、これほどいざという時に裏切るかもしれない者は排除すべきだ」
「でも…………」
「誰かは泥を被らなければならない。信奈様にはそんなことはさせられない。出来るならばそれは私が引き受ける」
「長門どの…………」
「この事は誰にも言わないでください、長秀殿」
そう言うと長門は兵を呼び、死体を運ばせた。
「…………すまん」
「え?」
去り際に微かに聞こえた長門の言葉、その言葉の後には何も語らず、兵を纏めるためにその場を後にした。
*
(長門どの…………)
長秀はその時の長門の表情が忘れられなかった。葛藤を無理矢理押し込めたような眼はいつか己自身を闇に引き込むような眼をしていた。
その眼を見てから長秀は心の中がモヤモヤとしたものがあふれていた。
(私は貴方が何を考えているのかを知りたい。何を考えているのか、貴方と言う人を…………)
長門が何を考えているか、それは今の自分では分からない。だから長秀はまず、長門という人物をもっと知る事にした。
(長門様…………)
高次も同じく長門の危うさを危惧していた。目的のためならばどんな汚れ役を引き受けることのある長門を高次は昔から知っていたのだった。
故にいずれその抱えたものに押しつぶされないか、それが心配していた。
(私はどんな時でも長門様を支えます。たとえ…………誰もが長門を信じなくなっても)
高次はそんな主君をいつまでも支えていく決意を固めた。例え、誰を敵に回しても
翌日、六角勢のあまりの敗北の速さに動揺した三好勢はろくな抵抗を見せずに畿内へと逃げ帰っていった。
ここに織田信奈は上洛を達成したのだった。
取り敢えず今の所ヒロインは高次ちゃんと長秀さん(?)と言うところでしょうか。
勝家ってあんな奴だったっけ?微妙にキャラ崩れ気味なところがあったね。
みっちーも口調が変な感じがしたし。
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