織田信奈の野望 〜乱世に迷いし少年〜   作:ふわにゃん二世

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親友再び

 

 

 

 

 

緋村長隆が降伏を宣言した翌日、長隆は一門と重臣を連れて信奈のいる稲葉山城改め岐阜城に赴いた。

長隆らは謁見の為、岐阜城の広間へと案内された。暫くすると信奈がズガズガと大股で奥座敷に胡座で座り込んだ。

これには信奈を初めて見た長隆らは少なからず驚いた。でたらめな茶筅に結っている茶色の髪、湯帷子を片袖脱ぎにし、腰に巻いたわら縄に、太刀と脇差を指し、火打袋とひょうたんをぶら下げ、そして腰と足を覆う袴の上には虎の皮を腰巻きのように巻いていた。

長門は一度信奈を近くで見たが、戦場での南蛮鎧の格好からは想像が難しかった。

 

(なるほど、これは確かにうつけ姫と呼ばれるわけだ。普段着ならともかく謁見の間にふさわしい格好とは言えないな)

 

そんな事を考えながら長門は長隆らに倣い武家礼法に則り平伏する。信奈はそれを一瞥すると、まずは長隆に視線をむける。

 

「緋村長隆、何か言いたい事は無いの?」

 

「儂らは敗北した身。敗将が語る言葉がありましょうか」

 

長隆は信奈を前にしても毅然とした態度で話す。義龍にも勝るとも劣らない巨躯、そしてかつての軍神を彷彿とさせる顎髭からは歴戦の強者の雰囲気。こんな男を降伏させたのかと織田家家臣は辺りでひそひそと話し始めた。全盛期は「鬼神緋村」と呼ばれたその武勇一つで土岐氏と争いを繰り広げ、道三と同盟を結んだ。

道三と彼の違いは野心にあった。天下に想いを馳せていた道三とは対象的に、長隆はその野心が無かった。

 

「そう、じゃあ早速処遇についてだけど………」

 

信奈は一度間を置いた。その空気は静謐なものだった。

 

「黒野は安堵、ただしそれ以外の領地は没収、そして人質を私の元によこしなさい」

 

「「「はっ‼︎」」」

 

長門らは直ぐに平伏した。黒野だけとはいえ、領地を安堵され、お家の改易も無し。長門はこの破格すぎる処遇に胸中が穏やかでは無かった。

 

(馬鹿な、いくらなんでも甘すぎる。途中で寝返ったならまだしも、最後まで徹底抗戦したんだぞ?それが黒野以外の領地没収と人質だけってかなり甘いぞ)

 

実はこの裏では、長秀と良晴の働きがあったのだ。合理的な信奈に理を解き、緋村の利用価値を出しこの破格の処遇が生まれたのだった。さらに言えば信奈はもともと緋村は傘下に加えようと考えていたのである。

 

「じゃあもう終わりでいいわよ。だけど緋村長門」

 

「は!」

 

「あんたはここに残りなさい。」

 

「え………?」

 

突然の事に長門は暫く魚のように開いた口が塞がらないでいた。

 

 

 

長隆らが広間を後にする中一人長門は信奈の小姓に案内されながら歩いていた。

 

(なんだ俺だけ残されたんだ?何かあるんだろうが………ハッ!)

 

長門は長森での記憶が蘇ってきた。半兵衛の石兵八陣に細工を仕掛け、梅に焙烙玉で爆発させ仕込んでいた火薬を誘爆させ織田に被害を与えた鬼畜とも言える策を実行したのである。

 

(まさかその時の報復を⁉︎いやいや、それは織田としても立場がなくなる。だが俺の口を封じさせれば………)

 

策を練る時と同等否、それ以上の頭の回転でこれから自分の身に起こる事を次々に考えては捨て、考えては捨てという思考の無限ループに陥っていた。

 

「こちらにございます」

 

小姓が襖を開けると中には地球儀に虎皮の敷物、そして南蛮から買い求めた世界地図が壁に貼られていた。どうやらここは信奈の部屋のようだ。そしてそこには部屋の主の信奈と何故か良晴もいたのだった。

 

「よく来たわね。そこに座りなさい」

 

長門は信奈に言われるがままに腰を下ろし正座をする。信奈が自分をここに読んだ事も疑問だが、良晴が同席している事も疑問だった。

 

「緋村長門、あんたもこのサルと同じ、未来から来たの?」

 

「は…………」

 

信奈のどストレートな質問に長門は声が出なかった。何故ばれたかというのは十中八九隣のサルだろう。

 

「お前、長門だよな………」

 

「ええ、私は緋村なが……」

 

「そうじゃねえ! お前は長谷川長門だよな?俺の親友でゲーセンで俺をかばって死んだ長門だよな⁉︎」

 

良晴の剣幕に長門は言葉が途切れた。この前の戦まで良晴も他人の様に接していた。いつ良晴が気づいたのかと。

 

(良晴の忍びが死んだ時か………やっぱり余計な事はするもんじゃないな………)

 

長門は五右衛門が死んだと思っているが、五右衛門が目の前に現れ驚いたのは別の話。長門ははぁ、と溜息を吐く。

 

「確かに私は………俺は良晴とは親友と呼べる間で今でもそう思っております」

 

「でも墨俣でこのサルを殺そうとしたそうじゃない」

 

「それは、良晴の親友であるが、その前に私は緋村の三男の長門であるということであり、戦場では例え友でも斬る覚悟であった所存」

 

それが長門の答えであり、長門がこの戦国の世界で生きていくための覚悟であった。この前の良晴の行動には、その覚悟が感じられなかった。それだから長門は良晴を斬ろうとしたのであった。

 

「良晴」

 

長門は信奈に向けていた視線を良晴に向けた。

 

「戦の時にも聞いたが、もう一度聞くぞ? お前が選ぼうとする道はイバラの道だ。それでもそこから逃げず、抗う覚悟はあるか? その道は立ち止まることも振り返ることも許されないからな」

 

「………ッ!」

 

良晴は言葉に詰まった。長門の言いたい事はすぐに理解した。しかし、その覚悟を直ぐに決めるには良晴は欲が強すぎた。

長門はふぅ、と溜息を吐く。

 

「まあ、今直ぐにその覚悟を固めろとは言わん。だが近いうちにはその決断をする時が来る」

 

「ああ………」

 

良晴もその言葉に肩を落とす。長門はふっと笑みをこぼす。

 

「その時、必要だったら私に言え、いつでも力になる」

 

「ああ! ありがとな、長門」

 

長門と良晴は互いに手を取り合う。ここに、時空を超えて再会した親友達が手を取り合ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと無理やり気味でしたが緋村家は難を逃れました。普通じゃありえませんよね?
この展開はちょっと俺得な気がしますが後悔はしてません!
では誤字、感想あればよろしくお願いします。

〜おまけ〜
長門「ところでお姫様?」

信奈「なによ?」

長門「私を呼んだ理由は?」

信奈「あんたとサルが友達だったのかを確認したかっただけよ」

長門「え? それだけ………」

信奈「そうよ。他になにがあるのよ?」

長門「ええー…………」

良晴「長門………ドンマイ………」

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