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稲葉山城内広間の奥座に胡座をかいている義龍の前に、長門らは集まっていた。長隆が織田を撃退した旨を伝えると、義龍はそうかと満足そうにうなづく。
織田の墨俣への築城の妨害、さらに織田きっての猛将柴田勝家を撃退したならば斎藤の士気は上がるだろう。
そして義龍は長隆の陰に隠れる位置に座していた長門に目を向ける。
「緋村長門よ、おぬしの働きも聞き及んでおる。大義である」
「はっ! 有り難きお言葉」
「うむ。長隆どのよ、もう下がってもよい。兵たちをゆっくりと休ませてやれ」
「では、そうさせて貰おうかのう」
長隆がそう言うと長門たちも広間を後にした。
そして兵たちに飯を与え始めた。長門は私室に篭って地図を眺め始めた。暫くそのまま地図を眺めていたがふとある事に気付き地図から目を外した。
「いいぞ………入れ」
「………はっ」
「全く………私が一人の時は入ってきていいって言っただろう」
「………いえ、長門さまのご許可が無いと…………」
天井裏から現れたのは梅だった。長門が勝家を撃退した後に梅を尾張に忍び込ませていたのだった。だが梅は長門が入れというまでずっと天井裏で待っていたようだった。
「織田の様子はどうだった?」
「………柴田勝家が失敗し、次は相良良晴が築城に取り掛かると」
「やはりか………」
「………?」
「奴が本当に未来から来たというならば奴の性格ならばいつかは築城を買って出るだろうとは思っていた」
長門は「自分も未来から来ましたー!」などと言えるはずもないため、適当な理由をつけた。梅はそれで納得したのかそれ以上その事を言及する事はない。
梅が再び天井裏に姿を消すとほぼ同時に高次が盆に湯呑みを持ってきた。
「長門様、お茶をお持ちしました」
「ああ、すまない」
お茶を受け取ると一口含む。熱すぎず、かといってぬるすぎるずじんわりと体内を温めていく。
もともと身の回りの世話を小姓や女中にあまり任せず、一人でこなす事の多い長門。しかしお茶は高次に汲ませている。(高次の名誉のために断っておくが長門は何も高次にお茶汲みだけををさせているわけではない。あくまで高次のお茶が好きなだけである)
「先の戦はお見事でした。長門の知略に勝る者は無しですね」
「そこまで過大に評価をするな。しかしまぁ、柴田勝家は強いな。戦には勝ったが勝負には負けた気がするな。まあ戦にかったから良しとするか」
高次は長門をしっかりと立ててくれている。しかも上辺や隠している事もないその眼は高次の心の清廉さを物語っているようだった。
「まぁまた直ぐに戦になるだろうがな」
「それは………どういう意味でしょう」
「梅からの報告だ。相良良晴が今度は築城に取り掛かるらしい」
「相良良晴………あのサル顔の者ですか?」
「まぁ、今夜には取り掛かるだろうな。兵の消耗もあるが明日だとこっちも体制は整うからな」
「もし、今夜だったらまた同じ様に攻めれば良いのでは?」
「普通ならな。だがそこはあっちも承知だろう。それに対策を講じないのならただの無能だと判断せざるを得ないがな」
それと、と長門は続ける。
「面白い情報が入ってな。明日までに稲葉山城を落とせなかったら織田のお姫様は浅井に嫁ぐらしいんだ」
「えぇ‼︎それは本当ですか」
「ああ、それなら勝家のあの気迫も説明がつく。相良も長政のそれを邪魔する目論見だろう」
そう言うと長門はお茶を飲み干し、戦支度を整える。
*
時は移り、相良良晴とその相棒蜂須賀五右衛門、そしてその五右衛門に従うロリコン集団である川並衆。その数は数百人程度であった。その少なすぎる手勢のなかで良晴は天下に名高い「墨俣一夜城」を作り上げようとしていた。
良晴が選択したのはツーバイフォー工法を利用する事にした。あらかじめ別の場所て建物の部品を作り、それを現地に運んで一気に組み立てる方法である。
良晴たちは早速行動に移した。斎藤軍の眼の届かない山中で気を切り出し部品を組み立て、廃寺となった建物を解体して部品に加えた。そして切り出した部品を筏に乗せ、激流である木曽川を下った。
「相良氏。墨俣にござる………朝が来る前に城を組み立ててちまいまちょう」
「そうだな。ここからは一刻を争う勝負になる」
良晴はそうつぶやき築城に取り掛かった。真っ先に柵を立て囲いを作り、美濃勢の襲来に備えながら次々と組み上げていく。わずかな手勢のなかで当初は順調に進んでいた。
しかし天運尽きたか、朝日が東から登り築城部隊が丸見えとなりたちまち美濃勢が怒涛の如く押し寄せてきた。その数は八千近くにも及んだ。
美濃勢の先陣を切ったのは長門の言葉を聞いて警戒していた緋村勢だった。
「彼奴等は数百人、包囲しながらじわじわと追い詰めよ!」
先鋒で陣頭指揮を執る隆成。頭が硬いところが難点だが、武力と指揮能力では長門を遥かに凌駕する。
「弓兵、矢の雨を降らせよ!鉄砲隊も打ちまくれ‼︎」
弓矢と鉄砲玉の二つの飛び道具の弾幕が、ゲリラ戦術をとる五右衛門と川並衆を次々に襲う。
「歩兵、突撃をかけよ!」
長隆の下知に緋村勢は一気に攻め込んだ。その中には自らも槍を振るう長門の姿もあった。
自分に襲いかかる川並衆を一息に撫で斬りにし、拙い槍さばきで暴れまわっている良晴と対峙した。
「残念だったな良晴。あと一息だったのにな」
「うるせえ!いまはどいてくれ、俺は五右衛門を守るんだ!」
全身から気迫が滲み出ている良晴。ここまでの気迫を出している良晴を長門は今までは見たことが無かった。
(この世界で少し変わったかな?)
親友の変わり様に乱世の持つ雰囲気に関心した。
だが、
「そんな、生半可な覚悟で乱世を生き残れるかぁ‼︎」
槍を構えた。
「うおおおおお!」
良晴は槍を長門に向かって振り下ろした。しかしそれは所詮素人の槍、前世の喧嘩の記憶と転生後の17年間の修行を積んだ長門には部が悪い。
「大振り過ぎる!もっと脇を閉めろ!」
振り下ろされた槍の軌道を槍で変え地面に受け流す。上体を崩した良晴はよろめくが何とか体制を立て直した。良晴が再び突きに転じようとした時に横からの力で倒された。
「………うにゅう」
五右衛門が良晴をかばい種子島の弾を受けたのだ。目を回しながらぐったりと倒れる五右衛門。
「五右衛門……!嘘だろ……おい死ぬなぁぁぁ!」
「………おのこは、いずれ選ばねばなりませぬ………選ぶ勇気を持たれよ、ちゃがらうぢ………」
そう言うと五右衛門は静かに目を閉じた。良晴は五右衛門を抱えて吼えた。
「これじゃ、話が違うじゃねえか………!」
「そうだ、同じな訳がない」
五右衛門の死に悲しんでる良晴を嘲笑うように長門は現実を突きつける。
「お前はすでに
「えっ………?」
良晴は耳を疑ったなぜ彼がそのことを知っているのだろうか未来からやってきたことは伝えたが今川義元が歴史では死んでいることは言った覚えがない。
ならば。
「お前は………誰なんだ?」
「私が誰だろうとも関係ない。お前はどうするんだ?お前が思い描いた歴史とは違い、大切なものを死なせてしまった。お前はこのまま変わり始めた歴史の波に消されるのか?」
「…………」
「抗ってみせろ、この絶体絶命の窮地に、そして時代に‼︎」
「………」
しかし良晴の目に輝きはない。長門は興がさめた。
「所詮はその程度か………お前の覚悟は。とんだ期待はずれだな」
長門は刀を抜き上段に構えた。
(じゃあな良晴………どうやらお前はこの時代に相応しくないらしい)
良晴は見覚えがあった。入学式に不良に絡まれた時に助けてくれた背中に、普段はクールなくせに心は誰よりも熱く真っ直ぐな言葉を。そして一番の決め手は『彼』の好きなゲームの台詞。
(………長門?お前なのか?)
良晴が顔を上げた。確かに面影はある。しかしその顔は殺す事に躊躇いのない一人の武将の顔だった。
(いや、いまはいい。確かに俺は馬鹿だった。俺が歴史と違う行動をとれば歴史は変わる。あいつの言う通り俺には覚悟が無かった)
変わりゆく歴史に抗う覚悟が。良晴は自分の心に鞭を打ち、自身を奮い立たせた。
長門の刀か良晴の首を目掛けて振り下ろそうとしていた。しかし直前の所で本陣から悲鳴に近い声が上がった。
「た、竹中半兵衛重虎、義によって………いえっ、義より大切なもののために良晴さんに助太刀いたしまします………!」
「こーん!前鬼見参!」
「後鬼、見参」
「「「「「「十二天将見参! 名乗りは長いので省略!」」」」」」
「ににに西美濃三人衆筆頭、この安藤伊賀守も仕方なく相良の坊主にお味方いたす………あう、あうあう」
「な、なんだと………?」
驚愕の表情を浮かべる長門。彼にとって計算外の事が起こったのだった。天が良晴の味方をした瞬間だった。
長門の正体をほぼ理解し始めた良晴。
歴史に抗う覚悟が出来るのか、そして信奈の結婚を邪魔できるのか?
誤字感想あればよろしくお願いします。