織田信奈の野望 〜乱世に迷いし少年〜   作:ふわにゃん二世

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お久しぶりです。




長門、斎藤へ

半兵衛は稲葉山城を乗っ取ってしまった。斎藤飛騨守が一計を謀り、半兵衛に犬の小便をたらしその後に義龍以下美濃将勢が一斉に現れ半兵衛一行は囲まれてしまったのだ。そしてそれがいじめられたと感じた半兵衛はキレてしまい式神で義龍達を追い払ってしまったのだ。

その事実にいち早く気づいた安藤が「でかした半兵衛」と喜んでおり、半兵衛は事の重大さに気付き震え上がっていた。

しかし、また問題が発生したのだった。安藤伊賀守が浅井長政に誘拐されてしまったのだ。そして長政は伊賀守を返して欲しければ墨俣に半兵衛が来いという事だったのだ。そして半兵衛一行は夜陰に紛れて木曽川を下り、墨俣の地にたどり着いたのである。

しかし、そこには長政はおらず地面に書き置きが置かれていたのである。その内容は今度は一人で近江に来いと言うものだった。

 

「長政にしてやられたな……半兵衛を調略とみたら義龍たちに稲葉山城を奪還させるために墨俣まで誘き寄せたのか」

「くそっ! 長政め、ただの女たらしじゃなかったのか……!」

 

良晴は地団駄をふみ悔しがっているが、長政の周到な策に長門は感嘆を覚えていた。これで織田は自力では稲葉山城を落とせない。そして浅井に助力を乞うことになり織田は浅井に有利な形で同盟を組まなければならなくなってしまう。

 

「……これで姫さまは長政と結婚するしかなくなった」

「まだだ犬千代。俺は諦めない、稲葉山城を自力で落とす策を考えるぜ……というか長門。織田についてくれないか?」

「は?」

 

良晴の突拍子も無い発言に長門は素っ頓狂な声をあげていた。

 

「貴様! 長門様に向かって堂々と寝返れと⁉︎ 無礼も……むきゅ⁉︎」

「落ち着け高次」

 

正面切って「織田に寝返ってください」とお馬鹿発見をする良晴に腹を立てた高次の口を塞ぎ、抜刀しようとしていた右手をはたき落とすという妙技を炸裂した長門。

高次をなんとか宥めた長門は良晴に正対する。

 

「結論から言っておこう、それはあり得ない話しだ」

「そこを頼む! 信奈が天下を取るために、何としても自力で落とさなきゃならねぇんだ!」

「その為に緋村が斎藤を見限って、織田につけと? ハッ! 先程まで半兵衛には謀反人にしたくないなんて言ってた男の言葉とは思えんな」

 

良晴は墨俣に来る前に「半兵衛に謀反人としての運命を背負わせたくない」と言っていたのを長門は聞き逃さなかったのだ。今の長門には良晴の言葉は都合のいい子供の言い訳にしか聞こえなかったのだ。

しかし、自称戦国一の女好きの相良良晴も“半兵衛”という単語が耳に入り引き下がれなくなった。

 

「うるせぇ! 俺は日本全国のかわいい女の子の味方だ! 藤吉郎のおっさんの志を継いだ俺が半兵衛ちゃんにそんな悲しい思いをさせられないだけだ」

 

良晴ははっきりと言い切った。その目には嘘偽りもなかった。一片の曇りの無い目には女にかける良晴の情熱が感じられた。

 

(ここまで言い切るとは……やっぱり良晴は良晴か……)

 

これには長門も驚きを隠せないでいた。だが甘い、長門はそうも思った。その甘い考えではこの乱世は生き残れない。さらにかなり自分勝手だ。戦国を経験していない時代に生きていた良晴だからだろうか、女好きも相まって姫大名にかなり甘い。

 

(その考え………いずれ後悔することになるぞ)

 

そして梅が引き連れてきた井ノ口の町に止めておいた馬に跨った。

 

「なあ長門。もう一度言うが……」

 

「織田には下らない。今のは聞かなかったことにしてやる。次同じことを言ったら斬るぞ」

 

そう言い残すと長門は闇の中に消えていった。

 

 

 

黒野への帰路の道中、長門と高次はのんびりと馬を走らせでいた。

 

「長門様、よろしかったのですか?」

「何がだ?」

「いえ、あの相良良晴というもの、彼処で斬ってもよろしかったのでは?」

 

まさか、とその考えを否定するように笑う長門。暗闇で辺りは見えないが後方、良晴達のいる墨俣を見つめる。

 

「まあ確かにそうだろうが、ただ奴を見極めたいと思ってな」

 

(そう………お前の選んだ道はイバラの道だ。その覚悟で何処までやれるのか見せてもらおうか………)

 

 

そう言うと長門は再び馬を進める。会う時代が変わってもかつての親友は変わってはいなかった。その事実を知った長門は高次に見つからないように笑みを浮かべていた。

 

 

翌日、井ノ口には良晴や長門らの人相書きが辺りに触れ回っていた。これでは義龍が黒野を攻めるのも時間の問題。そう思った長門は白装束を着て、明朝から長隆に目通りをしたのだった。

 

 

「父上、この度は私の軽率な行いで、この緋村家の名に泥を塗るような真似をしてしまいました。この責任は私が腹を切りお詫び申し上げる次第!」

 

長門は頭を下げながらそう述べる。これは自分の責任だ。恐らく自分の首を義龍に差し出せば緋村は安泰するだろうと。

 

(すまんな良晴。俺はここまでみたいだ)

 

長隆は何も言わずそれを見つめている。そしてゆっくりと長門に近づき、

 

「馬鹿者ぉぉぉ‼︎」

 

思いっきり殴った。長門の腹を捉えたボディーブローで長門は宙に浮き、思いきり床に叩きつけられた。

 

「グハッ!」

 

体を叩きつけられた長門は肺の空気が外に吐き出され咳き込む。そして長隆は長門の胸倉を掴み、顔面を殴る。

 

「なぜ儂がお主の首を跳ねねばならんのだ⁉︎ 義龍の為にお主が腹を切る必要は無い。あやつがこの黒野を攻め立てると言うならば我が緋村家の恐ろしさを義龍に教え込むまで!」

「し、しかし……」

「話は終わりじゃ」

 

そう言い残すと長隆は広間を後にした。殴られた頬をさすりながらポカンとしている長門に隆成、義隆兄弟は肩を置く。

 

「長門、父上はああいうお方じゃ。失態は戦で返せば良い」

「そうだ。我ら緋村の武勇とお主の知略があれば義龍も恐るるに足らん!」

 

兄二人もそう笑いながら言う。

 

「ふ、ふふふ。ありがたき幸せ……この長門、より一層緋村家の為に身を粉して精進していきます」

 

つられながら笑う長門。その目頭からは光るものが滴り落ちていた。

しかしその翌日、義龍からの援軍要請が来たのであった。

 

 




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