Fate/Problem Children   作:エステバリス

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つぅいに始まったバレンタインイベントォ!

しかしそこでプレイヤーを待ち受けていたのはハロウィンぶり、実に3、4ヶ月ぶりのメンテ明けメンテ!

この世はまさに世紀末!バレンタインはどうなっていくのかぁっ!(cv千葉繁)




くえすちょんしっくす 現に惑うは、故事の夢

 

さて、あの嫌味ったらしい男との交渉を終えて二日が経過した。

 

手前勝手に交渉を進めた……という名目で勝手に"ペルセウス"の下に行かないように謹慎処分を言い渡されていた黒ウサギはなにをするでもなく、自室でぼーっと外を眺めていた。

 

「あの日から十六夜さんも帰ってきませんし……愛想を尽かされたのでしょうか。十六夜さんの『つまんなかったらコミュニティ抜けるから』をはじめとしたエキセントリックな性格からしたら充分あり得ますね……」

 

はぁー、とそのままふて寝を決め込んでしまおうかと思った頃、コンコン、と控え目なノック音が響いた。

 

「黒ウサギ?起きているかしら」

 

「はいはーい誰もいませんし鍵も掛かってるので入ってはいけませんよー」

 

「……入ってもいいということかしら」

 

「かもね」

 

想像通りの反応を返した二人の声を聞いていたらなおのことふて寝をする気が湧いてきた。ガン無視しよう。

 

ガチャガチャ。

 

「あら、本当に鍵が掛かってるわ」

 

「抉じ開ける?」

 

ガチャガチャ。ガチャガチャ、ガゴッ、ガッガッ、ガチャガチャ。ドンドン。

 

「はいはい開けます開けます!ていうかこの音明らかに蹴ってますよね!?御二人とももう少しオブラートに」

 

「え、ちょ、ジャ━━━」

 

バタンッ!

 

「オブラアアアアアアアアアアトッッッッッ!!!」

 

「「煩い」」

 

絶叫。そして瞬時に批難。ツッコミながらなにをされたのかと向こうを向いた黒ウサギは更に言葉を失った。

 

「おじゃましまーす」

 

「ドアがっ……」

 

ジャックが鋸でドアをぶった斬ってた。やはり切り裂きジャックに常識は通用しない。

 

「そんなことより黒ウサギ。これを受け取りなさい」

 

「へ?」

 

大声でツッコんだり煩いとか言われたりしてテンションの浮き沈みが激しいことになっている黒ウサギを諭すように飛鳥が頭にある物を置く。なんだろうとそれを手に取ると、黒ウサギの手にはクッキーといった茶菓子が入った小袋が収まっていた。

 

「……これ、御三方が作ったのデスか?」

 

「いいえ、コミュニティの子供達が。これを黒ウサギに渡してほしいと言われたのよ……まったく、卑怯ね。あんな無垢なお願いを断れるのは鬼か悪魔くらいのものね」

 

「そうなの?」

 

「……そうなのよ」

 

これだこれ、といった風にジャックの頭を撫でる。十六夜の少々乱雑なそれとは違い、割れ物を扱うように優しいそれは少しジャックにとって不満だったようで、あまり目に見えた反応は返さない。

 

それを見ていた黒ウサギはふふ、と微笑を溢す。

 

「黒ウサギ達がしっかりせねばなりませんね。そうでないと皆さんお困りのようです」

 

「そういうこと。だから貴女を他所にやるわけにはいかないのよ。ジンくんだけじゃこのコミュニティは子供だけで成り立つことすらならなかった。私達は呼ばれた存在。このコミュニティは貴女がいないと成り立たないんだから」

 

「……はい」

 

何を考えていたのだろう、と改めて反省する。確かに同志を救うことは大事だ。だからといってそのためだけにコミュニティを崩壊させることなどできない。

 

同志を奪われたのなら奪い返すのが道理。盗られたものを等価交換で取り返すなんて阿呆のやることなのだし。

 

「……そういえば、黒ウサギの言う"月の兎"って、あの逸話の?」

 

「Yes。箱庭のウサギは総じて"月の兎"という同一の起源があるのです」

 

"月の兎"。傷ついた老人を救うべく、仏門における大罪とされた自殺を行い、己を食すよう炎に身を捧げた仏話の一つ。大罪とされたそれは自己犠牲によって成り立った慈悲の行いと帝釈天に召されて"月の兎"と成った。

 

箱庭の貴族、ウサギとは月の兎から派生した者達なのだ。

 

「十六夜さんの下に向かったときに髪色が変色いたしましたでしょう?あれは箱庭の中枢から力を引き出した影響なのです。個体差はございますが」

 

「そうだったのね……"月の兎"と言えば万葉集にも載ってるくらいよ。私の世界じゃちょっとした有名人ね」

 

「そ、そうですか」

 

「でもわたしたち、黒ウサをそんな目にあわせるつもりないよ。わたしたちは違うけど、あすか達を呼んだのは黒ウサだし、わたしたち、黒ウサのこと好きだもん」

 

殺気を飛ばされたり食べていいかと言われたり、果てには嫌いと大声で言ってたジャックが素直な感情を吐露したら、不思議と今まで張り詰めていたモノが決壊するような感覚が訪れた。

 

愛しい、犯罪的……そういった陳腐な言葉での表現が相応しくないと思えて、なにか身体の内から込み上げてくる感情が"この子を抱き締め死ぬまで手放すな"と狂気的に囁いてくる。

 

自然、手はジャックの頬下まで伸びて傷だらけの、しかし瑞々しさを併せ持った柔肌を蹂躙する。ツギハギに覆われた身体の隅々を暴いて此の小さな娼婦を私欲の尽くす限り━━━

 

「……黒ウサギ?」

 

「……へ?ど、どうかなさいました?」

 

「貴女の目、かなり危険だったわ」

 

「ゑ゛っ」

 

いつの間にかジャックと黒ウサギの間にはヤバいモノを見るような目をした二人が立ちはだかっている。━━━ちょっと待て。今自分はこの子にどんな感情を抱いた。死ぬまで抱き締める?隅隅の知る場所すら無くなる程犯す?

 

「……あ」

 

気づいた瞬間激しく死にたくなってきた。たった今同志に犠牲にはさせないと言われたばかりだが死にたくなってきた。

 

「邪魔すんぞ」

 

と、そんな時悪い意味で静まり返った空気をぶち壊すように、ベニヤとかで補強しかけていたドアを物理的に壊す声。

 

十六夜だ。

 

「い、十六夜さん……ていうか皆さん入室するときになにか壊さないと気がすまないのですか!?」

 

「だってほら、鍵かかってたし」

 

「あ、そうですか♪じゃあこのドアノブはなんですかってんです!だいたい元からボロボロだったのにそれを破壊するとか鬼畜ですか!?」

 

デヤァッ!と床が割れないように力を入れてドアノブを叩きつける。しかし当の十六夜はいつもの軽薄な笑みを残したまま「気にするな」と言うのだから始末が悪い。

 

「それより黒ウサギ、喜べ餞別だ」

 

ドサッと右肩に担いでいた風呂敷を机に起き、広げる。

 

その中身は蒼と翠、それぞれ二色の宝玉だった。

 

「十六夜くん、これは?」

 

「これか?コイツは"ペルセウス"に挑戦するのに使える……宝玉なんだとさ。白夜叉曰く、"ペルセウス"ほど高名な者のコミュニティはその伝説になぞって、かつて本人が為した偉業を果たせばそのコミュニティへの挑戦権を得られるだとかなんだとか……」

 

「え、しかし伝説をなぞるということはかなり高難度のギフトゲームのはずでは!?クラーケンとグライアイ……その二体をたった二日で!?」

 

「ああ、……と言いたいところだがな。実は俺が倒したのはグライアイだけなんだよ」

 

「……と言いますと?」

 

その問い掛けに十六夜は感謝と不承知が入り交じったような目をしており、なんとなく話すのに気が引ける、といった風だった。

 

「……男、だ」

 

「はぇ?」

 

「クラーケンのところに言ったら丁度ギフトゲームやってたんだよ。んー、大正?辺りの……俺と同い年くらいの男……あいや、女?が戦ってたんだ」

 

四人はいまいち話の内容が掴みにくかったのか、そろって頭の上に疑問符を浮かべている。

 

「……悪い、もうちょっとわかりやすく説明する努力をする。時間掛けるが……まぁ、取引まであと五日ある。ちょっとくらい話でもさせてくれや」

 

そう言うと十六夜は勝手にその時の出来事、男なのか女なのかはっきりしない男のことを語り始めた。

 

◆◇◆

 

「っと……クラーケンがいるってぇ場所はここか」

 

グライアイから戴いた翠の宝玉を入れた風呂敷を持ちながら大きな海に出る。確か白夜叉から聞いた話によるとこの辺りにクラーケンがいるはずだが。

 

"サウザンドアイズ"に特例で、しかも利子つきで貸してもらった船に乗りながらクラーケンのいる海域を目指す。こうしている間、十六夜は世界の果てのある箱庭で大海原があることに疑問とロマンを感じながら漣に耳を預けるばかりだ。

 

「やっぱグライアイはババアだったからな。つまんなかったが……さて、こっちはどうか━━━あん?」

 

ふと、潮の動きが大きな物になった。クラーケンが気づいたか、と音がした方角を集中して見る。

 

その先には巨大な海老。その大きさや、小さな島と間違っても違和感のないものだ。

 

「━━━なるほど。クラーケンにはその姿の諸説に龍や甲殻類もあると聞いたが、海老とはな」

 

だが十六夜はクラーケンが不自然な動きをしていることに僅かな疑問を持った。暴れまわっているかにも見えるその動作。もう少しだけ目を凝らして見ると━━━その先には商船だ。

 

誤ってクラーケンの海域に来たのか、それともあるいはクラーケンの海域とも知らない阿呆か。

 

兎角、余計な被害が出ることを嫌った十六夜は船から飛び降りた。そのまま海面に着水すると、まるで海面に足場があるかのように走り出す。

 

呆れるほどの速度を出して瞬く間に商船のすぐそばにまで駆け寄って、跳び移る。突然船に男が乗ってきた乗組員は焦ったように十六夜を見る。

 

「あ、アンタどうやって!?」

 

「んなことはどうでもいいだろ。俺は元々コイツに用があってな。相手しとくからさっさと逃げな」

 

「い、いや……それが」

 

「どうした?乗組員が食われたのか?それだったら━━━」

 

「違う、アイツを見た瞬間、同行者がアレに戦いを挑んだんだよ」

 

「━━━なに?」

 

ほら、と船員が指を指す。その方に十六夜が目を向けると━━━そこには大正辺りか、比較的十六夜からも遠くない時代辺りの着物を着た男がクラーケンの上に立っていた。

 

『GEAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

「━━━ッ!」

 

無差別に暴れまわっているクラーケンの上に乗った男はクラーケンの首の甲殻に突きを繰り出している。既に幾重も攻撃を積み重ねているのだろう、クラーケンの甲殻は所々割れかけた跡があり、男の口元や肩辺りにも鮮やかな血痕が残っている。

 

『GEAAAAAAAAAAAAAAAA!!GEAAAAAAAAAAAAAAAAURAAAAAAAAAAAAA!!』

 

声にもならない叫び、といえばいいのか。気味の悪い雄叫びを挙げながらクラーケンは触角を男にぶつけようとする。

 

「遅いっ!」

 

瞬間、男が消えた。超速度の移動とも瞬間次元跳躍ともつかないそれは十六夜も目を疑った程だ。

 

「せああああっ!」

 

ガギンッ!という音を立てながら突きは阻まれる。その間も迫る攻撃を避け、突き、避け、突きを繰り返す。

 

「……なんだありゃ……」

 

十六夜が疑問に思ったのは幾つか。疑問というより感嘆か。

 

まず根本的に、男は常に動く上に揺れ、クラーケンもその意図を以て男を落とそうとしているにも関わらず男の姿勢が()()()()()()()()()()()()。グラグラ動いても、その眼が捉える先は常にブレることがない。

 

そしてクラーケンの攻撃をまるで見ていたかのように、確認すら行わずに避ける。その上で攻撃は常に正確に━━━意図を気付かれないようにこまめに別の点を攻撃してはいるが、首筋に当たる一点を貫いている。

 

これほどの腕を持つ者が商船に乗り組んでいる━━━傭兵と考えれば納得もいくが、それでもこれほどの腕があれば各方面のコミュニティから誘いがかかるのは間違いないはず、という疑問は残るのだ。

 

好き好んで一人でいるにしても商船に乗ること事態不思議になる。

 

だがしかし唯一解りきっているのは━━━逆廻 十六夜は此の瞬間、今目の前で戦う剣客に間違いなく魅せられていたこと。

 

「………ハハッ」

 

思わず笑みが溢れる。だが仕方ない、こんなものを━━━神代の大英雄とて容易にはできないこの剣客の技術を、力を魅せられては逆廻 十六夜が嗤っていられない訳がない。

 

そう、まるで渇き、水を求めて荒野をさ迷う動物が至宝の場を見つけたような。なにもない闇の空間を(しるべ)もなく歩き続けてようやく光射す外へと続く道を見つけたような……否。こんな感情を言葉なんかに表そうとすることすら躊躇う。

 

今確かに逆廻 十六夜はロマンを見つけ、逆廻 十六夜に迫り得る"神秘"を体感した━━━!!

 

バキッ!と一際大きな音が立つ。意識をそちらへ向けると男がついにクラーケンの甲殻を割った。そのまま無情とも思える冷徹な一突きをぶつけ、クラーケンは大きな断末魔と共に沈んでいった。

 

わっ、と歓声が沸き立つ。船がクラーケンの下へと近づいていき、それを見た男はクラーケンの身体をつたって船へと帰ってくる。

 

「すげぇよアンタ!なんだってそんな腕を持ってるのにコミュニティに入ってないんだ!?」

 

「いえ、この程度ではまだまだ上がいます。ひとえに、この剣があの甲羅の強度に耐える強さを持っていただけです」

 

浮かれているようでもない。純粋にそう思っているのだろう。男はクラーケンの血を拭き取ると得物を鞘に収めると、そこで十六夜の存在に気づいたのかこちらへ近づいてくる。

 

「見ない顔ですが、貴方は?」

 

「逆廻 十六夜。ちょっとクラーケンに用があったんだが……オマエに先を行かれちまった」

 

「それは申し訳ないことを……私は琥珀と申します」

 

「いや、いい。しかしこれは参ったな……また別の手段を探そうにも……」

 

「なにかお困りですか?」

 

軽く頭を抱えているとすっと、男が十六夜の顔を覗き込んでくる。女みたいな動作だな、と思う。だがその感情は次の瞬間一瞬にして砕け散った。

 

「━━━あん?」

 

「どうかしましたか?」

 

ほんの一瞬だけだったが、男の姿がブレた気がした。十六夜と同じかそれ以上あった身長はその時だけ20cmほど小さく写ったようにも見えた。

 

あまりに唐突かつ、一瞬の出来事だったせいか一瞬目を擦って再度確認したが、その姿はやはり十六夜と同じくらいの背丈をしていた。

 

見間違いか、と結論付ける。男のあの、という言葉に先程なにか困っているか、と問われたことを思い出す。

 

「ん、あぁ、悪い。ちょっと俺の同志がピンチでな。交渉の道具にクラーケンの持ってるっつぅ宝玉を取りに来たんだが……」

 

「ああ、それならこれのことでしょうか。お仲間の危機とあらば、そもそも自分には必要のないものですし」

 

はい、と腰元に引っ掛けていた風呂敷の中から翠の宝玉を十六夜に手渡す。受けとるべきかどうか悩んだのか、十六夜はらしくもない顔をした。

 

「いいのか?」

 

「迷惑料代わりです。仲間を助ける以外にも個人的な愉悦も求めて来ていたでしょう?それくらい少し目を鍛えればわかるので」

 

だからと言って自分に戦いを申し込まないでくださいよ、と一言断る。どうやらコイツと戦ってみたいと思っていたことも見透かされているようだ。

 

「……そうかい。んじゃ遠慮なく受け取っとくぜ」

 

「ええ。それでは。また会えたら会いましょう……十六夜」

 

◆◇◆

 

「と、まぁこんなことがあってだな」

 

「そう……そんな優しい御仁に会えたなんて幸運ね十六夜くん。爪の垢でも呑ませてもらったら?」

 

「ヤハハ。俺が優しいヤツの爪の垢程度で変わるような人間かっつーの」

 

「それもそうね」

 

さらっと流す。しかし十六夜もそういう反応を期待していたのだろう。それに大して気を止めたような素振りも見せずにそら、と黒ウサギに話し掛ける。

 

「コイツでお前を助けられるんだろ?そのための手を持ってきたんだ、後はお前の意思次第だな」

 

「……十六夜さん……」

 

「まぁ、それで断られたんなら俺の苦労もあの琥珀とかいうのの温情も無駄骨だったってわけだ。よぉく考えてから決めろよ?」

 

悪戯っぽく笑う。冗談めかして言っているのだろう。ククッ、と笑う十六夜は不思議なことに最初に黒ウサギへ「この世界は面白いか?」と問うた時に似たような空気感を感じさせる。

 

それはきっと、決まりきった答えの返答を要求する彼の悪癖なのだろう。

 

「━━━はい。かの邪知暴虐のボンボンを叩きのめして我が同志レティシア=ドラクレアを取り戻す。そのために"ペルセウス"とのギフトゲームに勝利せねばなりません……行きましょう」

 

彼女の瞳はこれまでの諦感したような虚ろなものではなく、しっかりとした意思に満ちていた。

 

ならば、彼らもそれに応えるだけだ。自分達を召喚したこの愛らしいウサギを、自分が好きといったこのウサギに真の笑顔を取り戻すために。

 

 





実はサーヴァントに作者のオリジナル強化を施してるんDA☆敵側が強すぎると判断してしまったが故に。すまぬ、すまぬ……純正のサーヴァントが見たかった方々、申し訳ないですがそういう意味ではこの作品はオススメできませんと今更ながらに。

沖田さんとジャックから早速チョコレートを貰いました。二人とも可愛すぎか!死ねる!でも死ねない!


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