Fate/Problem Children   作:エステバリス

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 丸ごと一ヶ月のサボりの末、何もやらないッ!
 果たしてこれ以上に至福な怠惰があるだろうか、いやない。反語。




くえすちょんしっくす それぞれの場所で、始まる変化

 

 

 巨人族が仕掛けてきた三度目の強襲もまた、突然にして起こったものだった。

 前回と異なるのは、濃霧に紛れた襲撃ではないという点。本当に彼等は前触れもなく、突如現れたのだ。

 

「ウオオオオオオオッオオオオオオオッ!!!」

 

 巨人の咆哮が大地を震わす。それだけで自然の木々は今にも倒れかねない程に揺らぐ。

 とてつもない声量を誇る歌手がその声を制御する事なく反響させればガラスのコップを粉砕する事ができる、なんていう眉唾にも思える話があるが彼等の叫びはまさしくそれで、再三の襲来を見越して即興で築かれた堤防にヒビが入る。

見張りの守衛は這い這いになって命からがらといった風にまんまと逃げおおせて来たようで目にしたものを恐怖混じりに伝える。

 

「巨人族です! もうすぐそこにまで!!」

『なんだとッ!? 議長の話では高原の方まで退却していったのではなかったのか!?』

 

 ”二翼”を治めるヒッポグリフが驚いたように叫ぶ。

 他方では黒ウサギはジンと飛鳥、そしてジャックを呼び出して改めて現状の確認を行う。

 

「やっぱりこのタイミングで狙ってきましたね」

「当然といったら当然かしら。私達の戦力が分散されたのだもの、これを狙わない手なんてないわ」

「ええ。ですが僕らとて嫌々殿を任されたわけじゃない。行こうペスト」

 

 ジンが笛吹き道化の指輪を翳すとそこから黒い旋風を巻き上げて斑模様の服を着こなした少女、ペストが現れる。

 ”The PIDEPIPER of HAMELIN”のMVP賞とも言える証である彼女は召喚されるや否や飛鳥とジャック、黒ウサギを見てふい、とそっぽを向く。

 一度共闘した上に一週間顔を合わせていたのに、今更自分を殺した相手と共闘しているという実感が出てきたのだろう。ジンは少し気まずさを覚えながら目の前にいる全員に主だった戦略を伝え始める。

 

「まず巨人族ですが、彼等はペストの司る黒死病に非常に弱いです。そこは先日僕らが確証を得た事です。

 問題はバロールの死眼。あれをどうやって攻略するかなんだけれど……」

 

 ジンがそういった時にペストがちょっと、と口を挟む。

 

「私それ聞いてないわよ。何それ、バロールの死眼を相手取るの?」

「うん。正確には同系統の死眼だとサラ様は言っていたけれどね」

「同系統って……それってつまり使える権能そのものに差はないって事でしょ? アレの持つ”バロールの威光”は”ゴルゴーンの威光”と同じく開眼すれば回避も防御も意味を為さない一級品よ?

 それこそ同規模の神霊か星霊でも持ってこない限りは相手にもならないでしょうに」

「うん。だから僕は考えたんだ。

 それなら、()()()()()()()()()()()()()

 

 そう言うとジンは黒ウサギの方に目を配らせる。

 あ、と得心が言った黒ウサギはおずおずと質問。

 

「あの、もしかして黒ウサギの出番だったりします?」

「うん。黒ウサギの持つ”マハーバーラタの紙片”―――”疑似神格・(ヴァサヴィ・)日輪よ、死に随え(シャクティ・レプリカ)”ならば”バロールの死眼”をも穿てる筈。

 バロール退治の伝承によればケルトの主神が放った神槍も、必勝のギフトが付与されたものだったらしいから」

 

 ジンの言葉を聞いて少しむっとなるペスト。また自分の死因が活躍するのか、と内心穏やかではないのだろう。

 

 ―――ジンの言う『バロール退治』とは文字通りケルト神話の魔王バロールを打倒した伝承の事だ。

 巨人族の中でも強力な力を持っていたバロールはその肉体もまた剛鉄が如く鍛え上げられており、必殺の魔剣、クラウソラスの力を以てしても倒せない屈強な戦士だったという。

 

「魔王バロールの倒し方は開眼した死眼を”神槍・極光の御腕(ブリューナグ)”で穿つ事。

 その代行を同系統の力を持つ黒ウサギの槍でやろうっていうわけなんだけど……できるかな?」

「YES! 任されたのですよ!」

 

 シャキン、とウサ耳とデカいおっぱいを揺らして返事をする黒ウサギ。

 

「よし、じゃあ整理しよう。

 まずは作戦の前段階として飛鳥さんとペストが巨人族を叩く。ジャックは僕の目から離れない程度で好きに暴れて欲しい。うまく行けば必ず死眼を投入してくる筈だ。

 巨人族が”目”を使ったのを確認したら黒ウサギが必殺の一撃を叩きこむ。……どうかな?」

「まあ、無難と言えば無難ね。それにこっちにはインドラどころかスーリヤとチャンドラの力まであるバケモノウサギさんがいるものね」

「バ……!?」

 

 箱庭の貴族(())なんていう素敵ネーミングではないだけマシだろうか。それともド直球にバケモノ呼ばわりされた事に異議を申し立てるべきか、そんな事を思っている間にペストは飛鳥と示し合わせ、巨人族の群れに向かって一直線に飛んで行った。

 

「あ、ちょ!」

「さ、黒ウサギも準備して。頼んだよ、アサシン」

「うん」

 

 ジンがジャックをクラスで呼ぶ時は開戦の合図か、他のマスターと会話をする時に限る。

 ジャック自身もジンの己への呼び方でスイッチを殺す方向に傾け、巨人達の周囲に現れた霧に身体を溶かすようにして消えていった。

 

 動き出した”ノーネーム”一同を皮切りに、戦局は動いていく。

 

◆◇◆

 

 他方では、吸血鬼の古城。

 そのころ、耀達は星の分割に狙いを絞り、十二に分かれた宮殿を巡り、手にした”黄道十二宮”を示す代物を持ち寄っていた。

 ガロロとカボチャのジャックにこれも経験、と一行のリーダーを押し付けられた耀は一応、立場上、なんとか普通に見せられる程度になった対人コミュニケーション能力を発揮して子供達を纏める。

 

「それじゃ、報告会を始めよう。

 ジャックは空から色々見て回ってくれたみたいだけど、何か見つかった?」

「ヤホホ……残念ながら主だった進展は特にありませんでしたね。都市が十二分割されている事と、そこには一つ一つ異なる十二宮を示すサインがあった事程度でしょうか」

「十二宮のサイン? それってアストロロジカル・サインとかそういうヤツ?」

「ああいえ、申し訳ない。占星術のサインと被ってしまいましたね。

 この場合のサインは星座を示す記号の事です。ほら、天秤座にΩの下に線が一本走ってたりするアレです」

「ああ……」

「失礼、話を戻しましょう。

 私達が最初にいた場所にはその天秤宮(ライブラ)のサインがありました。そこから順に天蝎宮(スコーピオン)人馬宮(サジタリウス)という風に繋がっていました。

 この並びは十二宮の順番とも合致していますが、それ以上の事は」

 

 ふむ、と頷く耀。ありがとう、とだけ言って次に成果を聞く。

 

「アーシャとキリノ達はどうだった?」

 

 耀が問うと二人は自身ありげにふふん、と笑って大きな布袋を取り出した。

 

「……これは?」

「十二宮の星座と、その他十四の星座が刻まれた何かの欠片です!」

 

 ジャジャーン! と中身を広げる二人。

 その一方で耀とガロロは驚いたように彼女らが見つけてきた欠片の数々を拾って確認する。

 

「……黄道十二宮以外の星座が見つかった?」

「オイオイ、まさか俺達何かのミスリードに引っかかったのか……?」

 

 まさか、十二星座以外の星座が見つかるとは思いもしていなかったのだろう、二人は怪訝そうな顔で見合わせる。

 その二人の表情を汲み取ってしまったアーシャとキリノは褒められると思っていたからか、一気に表情を曇らせてしまう。

 

「わ、私達なんかやらかしちゃった……?」

「あー、いや、そうじゃねえよ。もしかしたらこの欠片そのものがミスリードだった可能性もあるわけで」

「私達、無駄足でしたか……?」

「いやだから、違ッ……!」

 

 フォローにしどろもどろになるガロロ。

 その横で耀は星座の欠片を手に取り、その欠片の完成図を予想してみる。

 

(……欠片の面は球面になっている。という事は完成図は球状になる筈。

 もし、仮に全ての欠片を組み合わせればパズルみたいになる筈なんだけど……)

 

 ガロロが二人の相手に手間取っている間に十二宮全ての欠片を当て嵌めていく。

 仮にこれがペナルティまでの時間稼ぎだとしたら自分達は主催者の掌で踊らされている憐れなフラメンコに過ぎないが、耀の直感が……というより、ここ最近、ちょくちょく耀の脳裏をよぎる何かがこれでいい、と叫んでいるのだ。

 

「……ねえキリノ。この欠片って何処で見つけたの?」

「え? 十二宮の欠片は神殿のような大きな廃墟にありました。残り十四は瓦礫の下から」

「そう、ありがとう」

 

 そっけなくそう返すと再び思考に耽溺。一旦自身の推論に誤りがないかゲームのキーワードも当て嵌めて考え直す。

 

(―――”獣帯”。”黄道の十二宮”。神造衛星に、太陽同期軌道。それに天体分割法と、”砕かれた星空”……砕かれた、星空?)

 

 ―――”蛇”は最早太陽に非ず!

 

「―――ッ、こんな時にまた……!?」

 

 聞こえてきた幾度も聞いた幻聴に文句を言いそうになったが、その幻聴が最後のキーだった。

 ふと顔を上げ、天秤宮、天蝎宮と人馬宮の三つを手に取り、天秤宮と天蝎宮がカチリと嵌まり、天蝎宮と人馬宮が嵌まらなかったのを見て、耀は確信したように呟いた。

 

「……解けた」

「「「え?」」」

「解けた……解けた、回答が、答えが見えた!」

 

 噴水から自分でもびっくりするくらいに意気揚々と立ち上がった耀は皆の方に振り向き、テンション高めに語り出す。

 

「”砕かれた星空”に衛星! 太陽の軌道! そして『砕き、捧げる物』に加えて『正された獣の帯』の一文! これで全部が繋がった!

 この欠片こそがこのゲームをクリアする為の最後の鍵、玉座に捧げるべき物なんだ!」

 

 正直なところ、自分でも信じられない事だった。

 彼女はあくまでこの探索は本命の十六夜達が来てからの攻略を円滑に進める為の行動という側面が大きかっただけに、まさかクリアのところまで行けるとは思ってもみなかったのだ。

 耀はこれまで誰にも聞かせた事もないような歓声を挙げて、十六夜風に言えば溢れ出る衝動に身を任せてアーシャを抱きしめた。

 

「え、わ、ちょ!?」

「お手柄だよアーシャ、キリノ! 凄くお手柄! これで私達もレティシアも助けられる! ”アンダーウッド”だって助かるんだ!」

 

 耀は勢いそのままにキリノの手を取り、一心不乱にブンブンと振り回す。

 感情の起伏が薄い耀が普通の人並以上に喜びを表しているのを見て、自然とキリノも笑顔になる。

 

「そ、それじゃあ!」

「うん、あとはこの欠片を玉座に捧げて、ゲームクリアだ……!」

 

◆◇◆

 

 他方では地上、とはいえ、”アンダーウッド”の大樹の天辺。

 黒ウサギは生い茂る水樹の葉の上にアタランテと共に移動していた。

 

「アタランテさん、六時方向にも巨人族がいます、複数で!」

「こちらでも確認した。四時方向の巨人と騒ぎに乗じたペリュドンを落とし次第狙う。

 ……全く、このような状況でペリュドンまで現れるとは腹立たしい。彼奴等の無益な殺生は好まんが、寄らば全て殺さねばなるまい」

 

 そう言いながら数キロはあろう距離まで離れた巨人族を己の愛弓で撃ち抜く。彼女の持つ弓”タウロポロス”の性質『引き絞れば引き絞る程強くなる』を利用して完全な射程外からの狙撃を可能にしているのだ。

 とはいえ、いくら射程を無視して攻撃する事のできる弓を用いたからといって弓で数キロ離れた地点にある移動物体を正確に狙撃する等、並の技ではない。獣の世界で育ち、獣の五感を宿すアタランテという弓の名手だからこそ出来る妙技なのだ。こればかりは彼女も他の弓術師には負けていないと本気で自負する事ができる。

 

 無論、その腕は隣で引き絞り、撃つというタイムラグの関係上手早く次の指示ができるように同行している黒ウサギも舌を巻く程の妙技であった。

 

(この方は驚異的な弓の腕をなさっている……ジャックさんはよくもまあこのような御仁を相手に勝利を手にしたものです)

「……あの子と我の相性の差だ。サーヴァントの格で実力に違いがあっても我等はあくまで英雄達の持つ力の一部のみを持ち込むケースが非常に多く存在しているからな」

「……と、いいますと?」

「うむ……我自身を例とするか。黒ウサギよ、汝は我がどういう結末を辿ったかは知っているか?」

「アタランテさんの、でございますか? はい、それは無論です―――」

 

 ”麗しのアタランテ”。それが”四本足のアーチャー”が持つ異名だ。アタランテの人生は常に何かしらの受難に見舞われ続け、彼女の生は最後の最後までおかしな何かが付きまとっていたという。

 彼女はかつてギリシャに存在したアルカディアという国を治める王の子として生まれた女だ———が、彼女の受難はまさに生まれた時から始まったのだ。

 

 男の子を欲しがり、当時女性への差別意識が強烈に根付いていたが故に父王はあろうことか、生まれた我が子を捨てた。それを哀れに感じた処女神アルテミスが送り出した雌熊によって育てられ、野に生きる純潔の狩人とあったのだ。

 

 閑話休題。彼女の言う結末とは文字通り、アタランテという狩人が最後の瞬間を迎えた、『彼女が狩人でなくなった話』である。

 それはアルテミスによって救われ、彼女を信奉し己も純潔を貫く誓いを立てたアタランテが、後継ぎが出来なかった事で彼女を王家に迎え嫁がせようと画策した父への反抗の結果であり、麗しの二つ名を持つ狩人に魅了された男の末路。

 父への反抗、そして己の誓いを貫く為にアタランテは己の結婚に一つの条件を父王に突きつけた。

 

「我よりいと疾き者を。相応しくない無謀者が挑み、無様を晒すようであればその者は誰であれこの矢で射貫く事を努々忘れる事なきよう」

 

 宣言通り、アタランテは己に挑戦する男達を返り討ちにしては射殺した。別に殺したくて殺した訳ではないと弁明はしておこう。無謀な挑戦である事実と挑めば間違いなく死ぬ事を知らしめる為の手段であった。

 であっても、神話における無理難題というものは常に予想を上回る手法によって覆される事が道理であり、常であり、お約束でもある。

 

 彼女への最後の挑戦者は力無き者ではあったが、知恵有る者であった。

 その名はヒッポメネス。彼はアタランテとの勝負に勝つ為、愛の女神アフロディーテの守護といかなる者も一目見れば取りにいかざるを得ない黄金の林檎をアフロディーテを信仰するという条件の元で授かり、アタランテはこの林檎の魔力に当てられた結果敗北。ヒッポメネスの妻として純潔の誓いを破る事となった。

 

 そして彼女とヒッポメネスは女神キュベレーの神域にてまぐわっていた所を咎められ獅子に姿を変えられた。これが彼女の身に耳と獅子の尾が着いている理由なのだが、それはまた別の話。

 

「我には本来身を獅子、あるいはそれに似た魔性に変ずる宝具があるのだが……この姿では生憎それを持ち込む事は敵わないらしい」

「それが力の一部である、と?」

「そうだ。そもそもの話、”槍兵(ランサー)”が”剣士(セイバー)”の武器を持ち込むなど無礼千万だろう?

 ギリシャの西にある島国には剣と槍、双方を携え互いを持った時こそ真価を発揮する者もいるらしいが……生憎我はそのようなおかしな輩はヘラクレスくらいしか知らぬが」

「や、やはりかの大英雄はそういう類の方だったのですね……」

「うむ、そういう類であった。

 まあそういう事だ。本来持つ力をクラスの適性に合った物のみしか持ち込めないから相性が生まれる。宝具の性質も同様、相性というものがあるがな」

 

 そう言いながら矢を番える。

 

「それより我は汝らのコミュニティの者達が気になるな。

 先日見事に立ち回ったジャックと尖り髪の少年、それとこうして策を講じて幾度の襲撃を見事に抑えたジンについては言わずもがなだが、少女二人だ」

「と、言いますと……耀さんと飛鳥さんですか?」

「うむ、先日の戦いを見せてもらったが、なかなか個性的ではないか」

 

 少しだけ楽しそうに語るアタランテ。やはり彼女も根っからの戦闘者なのだろう。見た事のない事物を扱うものには興味がある、という事だろうか。

 

「と言っても、黒ウサギはあの御二人の力が本質的にどういう力なのかは全く存じ上げてはいないのですよ。

 解るのはただ、御二人の潜在力は黒ウサギや並みいる英霊達をも凌駕する事、でしょうか」

「成程。しかし―――」

「いやっほおおおおおおう!!」

 

 アタランテが何かを言おうとした時、二人の背後からズドンと小気味のいい音を立てながら垂直に落下してきた。

 

 何故か黒ウサギを巻き込んで。

 

「え? きゃ、なああああああああ!?」

「わあああああああああああああ!!」

「く、黒ウサギーッ!」

 

 いっそ見事なまでの落下であったと、その場にいた獣耳の弓使いは後に語る。

 

 






 説明ばっかで話が進まない? 
 ジョジョ、それは無理やり進めようとするからだよ。
 逆に考えるんだ。「進まなくてもいいさ」と考えるんだ(AA略)


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