Fate/Problem Children   作:エステバリス

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 最近、ジャックがマトモに喋らない! いや、立場や境遇から彼女を主題にして動かす事ができないからなのですが、それにしたってここ最近ジャックが喋らない……

 喋らない間にジンくんが意味不明な方向に向かうし、手元のプロットにある予定が意味わかんねえし……

 そんな事はさておいて本編行きましょ。




くえすちょんふぉう 苦悩、流せず

 

 

 その日の夜、ジンはやはりというか、信長の下に足を運んでいた。十六夜達には人に会いに行く、とだけ伝えてある。

 何故か物凄くからかわれたが、それはまあ余談という事で。

 

 今回彼が信長の下へ来ているのは単に彼女に呼ばれたからだ。彼女は会議前に一言ジンに

 

「こんな侘び寂び溢れる場所で一人でおれとか無理な相談じゃし、夜わしんとこ来い小僧!」

 

 なんて口説かれたからである。

 ジンとしても別に織田 信長を名乗る彼女は嫌いではないし疎ましくもない。それに何と言っても日本にとって最大の歴史の転換期(パラダイム・シフト)であろう戦国の世を生きた三英傑、そのトップバッターである者と話すという事は己の指揮者としての成長を見込めるかもしれないとも思っての判断だ。

 

 信長は居住区の一角、見事に崩れた一軒家の瓦礫に昼間見た軍服とは一風異なる着物に身を包んで腰掛けていた。

 あぢー、と言いながらその着物を適当にはだけさせて胸元を煽る姿は年頃のジンには大変よろしくないものだったが、同時に彼女の女らしさの無さが露呈している。

 

「……む? おお、来たな小僧」

「えっと、ご無沙汰してます、信長さん」

「畏まらんでも良い。ほれ、(ちこ)う寄れ」

「で、では失礼します」

 

 ちょこん、と信長の隣に座る。彼女は手に持った赤黒いギフトカードから一升瓶に丸々入った酒と猪口を二つ取り出すとそのうち一つと酒瓶をジンに手渡す。

 

「……えっと?」

「注げ、わしの奢りじゃ。それくらいはやらねばバチが当たるというものよ。ま、わし神仏のバチとか全く信じてないんだけどネ!」

「あ、あの。僕まだ十二なんですけど」

「構うな構うな! お主のその謙虚さは買うが行き過ぎるとロクな事にならんぞ。

 うつけはのう、己に煌めく器がないからと手に持った器を磨く事を否定する。わしはそれが嫌いで仕方ない」

 

 挙げ句の果てに器が無くとも手に入れられた地位を投げ棄てる等してみよ! 最高にうつけ者じゃぞ! とまるで既に酒が入っているかのように笑う。

 

「ま、本音を言うと戦国(わしの時代)では戦場に行けば酒なぞ付き物であったからな。小僧には戦国の流儀に合わせて貰うぞ?」

 

 だからほれ、と猪口を揺らす。納得はしなかったが理解はしたジンは仕方ないとばかりに溜め息を吐いてから酒を注ぐ。とくとく、という清酒の音を久方ぶりに聞いたジンはつい三年前酒注ぎをしていた事を思い出す。

 

「なかなか上手いのう小僧」

「父とそのご友人がかなりの酒豪だったので。父は特にその傍らで酒造りにも精を出していたので大体の種類も解ります。軽くでしたら、造り方も」

「ほほ~う、それはまた良い。お主は実にわし好みの要素を多く持っておる」

「そ、それはどうも」

 

 ジン=ラッセルは意外にも多才な少年である。学習意欲は旺盛で理解力もある。そして同時に三年前までは児童世代で当時はまだ幼さの残っていた黒ウサギに次いで最年長であった事もあり責任感もあり、東側トップであった”ノーネーム”の下で育てられた過去もあり、才覚は人間の範疇で言えばかなり優秀だ。

 

「お主が欲しくて堪らんわええい。仮に小僧がわしの忠臣であったら猿との二枚岩であったろうに……あ、草履は暖めんで良いぞ?」

「女性の草履を懐で暖めるとか僕にはレベル高すぎて無理です」

「呵呵呵! 言いよるわ小僧! うん、正直な話あの時の猿はさしものわしも引いた!」

 

 殿の為最善を尽くしました!と犬のように信長に自慢をする(木下藤吉郎)の姿が何故か容易に想像できた。

 ジンはその姿を暫し想像した後ふう、と一言。

 

「ないな」

 

 とだけ呟いた。

 戦国三英傑のうち二人のイメージがたった数日で瓦解した瞬間だった。

 

「うむ、しかしそれにしても。この光景もまた風流よな」

 

 そんな事を思っていると信長はふと、そんな事を呟いた。

 

「え?」

 

 思わずジンは問い返す。愁いを帯びた目と表情でそう呟くのだ。彼の耳にはまるでこの”アンダーウッド”のだ惨状を彼女は受け入れて楽しんでいるかのように聞こえたのだ。

 

「ん、どうかしたか小僧」

「い、いえ。僕の聞き間違えじゃなければ信長さん、今この景色が良いものだ、と言いましたよね?」

「ああ、言ったぞ」

「なんで」

 

 ジンの奇異な物を見る目に信長はんー、と頭を掻くと廃屋の中を漁り、おもむろに一枚のボロボロになった屏風絵を引っ張り出す。

 

「小僧、これどう思う?」

「これですか? そうですね……痛ましい、と思います」

「うむ、他には?」

「他?」

「あるじゃろ、痛ましい以外にも」

「え、えっと……勿体無い?」

「……そう来るか」

 

 なんじゃ、と少しだけ残念がる信長。だが同時に何処か安心したような顔も見せる。

 

「……わしはのう、物にはこういう風に"壊れ、用途を失った時に感じるもの"にこそ真価があると考えておる。

 まあ価値観は人それぞれじゃ。あくまでわしの持論じゃし、小僧の感想を否定するつもりも毛頭ない」

 

 信長は愛おしそうに屏風を撫でる。屏風には金箔が振られた跡が見られるが、肝心の何を描かれていたのかが解らない。

 

「ほれ、言うじゃろ? 戦争の爪痕を残す事で戦争の悲惨さを伝える、とか。

 そういうのと一緒じゃ。壊れた物はいずれ壊れた姿に価値を見出だされる。本来人が想定しなかった役割を得た物というのはそれだけで美しい。

 なにせそれは何者よりも歴史を雄弁に語る最高の道具じゃからな」

「……そういうものなんでしょうか」

「少なくともわしはそう思う」

 

 栄華咲き乱れる立場から一転して疎まれる者となったジンには”破壊から生じる美しさ”を理解する事ができない。

 一方で女だからと疎まれながら育ち、やがて戦国の世に覇を唱える者となった信長は”失う恐怖”を知らない。

 

 二人は平行線で、しかし互いを認め尊ぶ。信頼関係、という程二人は深い仲ではないが、価値観の相違で相手の価値を否定する程信用していない訳ではない。

 ジン=ラッセルがこうして織田 信長の下を訪ねているのは単に偉人から学ぶのではなく、価値観の異なる相手が見る世界に興味があったからなのだろう。

 

 信長がジンの猪口に酒を注ぐ。よくよく見ると彼女の猪口の水かさは一切減っていない。どうやら本気で呑み相手にするつもりだったらしい。

 

「くく、この箱庭は確かに基礎を築いたのは修羅神仏であったのだろう。わしの記憶には確かにそう刻まれておるし、これを刷り込みの類いとは思わん。

 だがどうじゃ。今の”アンダーウッド”を築き上げたのは間違いなくその時代を生きる全ての者達で、それを今壊しているのも人の血族じゃ。この光景は決して神の産物ではなく、我等が破壊と創造を以てして産み出したこの世の真理の一つだ。

 この真理は、例え神であろうとわしは覆させん」

 

 満天の星空を指差しながら信長は立ち上がり呵呵と笑う。寂れた景観に似合わない彼女の笑い声は夜の"アンダーウッド"を木霊し、見聞きするジンにも不思議と活力を与える。

 

「何故ならば! 例え我等の元居た星すらも神の恵みによって栄えたものだとしても!

 世界を築いたのは天に座す俯瞰者でもなければ土着の崇拝対象でもない、時代を駆け抜けた志士達なのだからな!!」

 

 ワハハハハ! と大仰な高笑いをしてすぐ、彼女は瓦礫の中に座るジンに手ではなく猪口を差し伸べる。

 

「さあ、酌み交わそうではないか小僧。朝まで騒いで声を枯らせ! この景色にあるのは惨事ではなく新たな希望の狼煙であると敵味方にすべからく、あの空の城に居る者にすら知らしめてやろうぞ!」

「―――はい!」

 

信長の勢いと弁舌に充てられたジンは拒んでいた酒をあっさりと口に着ける。慣れない味に身体を火照らせ一気に飲み干して叫んだ。

 

「―――苦い! 不味い!!!」

「なんじゃとぅ!? わしの渾身の酒が飲めぬと言うか小僧! 罰として敦盛踊れ敦盛!」

「嫌ですよ、信長さんが踊ればいいじゃないですか!」

「わし踊ったら死亡フラグじゃぞ!」

 

 二人が怒られたのはその一時間後、騒ぎを聞き付けてやってきたサラにこっぴどく叱られたのだった。

 

◆◇◆

 

 久遠 飛鳥は消沈する。疲労に苛まれ身体は気だるげになり、しかし内側は酸素を求めて奔走する。貴族令嬢として大事に育てられた結果でもある人形のように流麗な手足はまるでその生活を嘲笑うかのように震える。

 

「……結局このザマ、か」

「大丈夫かしら、お嬢様? 貴女、あんまりにも隙だらけなものだから途中から趣旨が変わってしまったけれど」

「……いえ。ごめんなさい。私こそ五回も付き合わせてしまって悪かったわ」

「それは、そこの二日酔いマスターに行ってあげるべきじゃない?」

「あれは自業自得よ」

 

 飛鳥とペストの視線の先には顔を真っ青にしながらも二人の手合わせを見ていたジンの姿がある。

 

 事のいきさつを説明するとこうだ。

 先日の攻略会議の後、十六夜と飛鳥がちょっとした言い合いをした。と言っても、言い合いと言えるようなものでもない。ここ何度かのコミュニティの総力戦で十六夜が意図的に飛鳥と耀を最前線から遠ざけていた事に難色を示したのだ。

 飛鳥とて己を過大評価する程落ちぶれた人間でもない為、彼がそういう行動をとった理由はすぐに自分達の未熟にあると察した。”黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”との戦いやペルセウスとのギフトゲームでは力不足は痛感していた為より確実な勝ちを狙って十六夜に従った。

 

 だが、理解と納得は異なるものだ。飛鳥にとってそれはむしろ理解しているからこそ屈辱的でもあったし、恥を払拭する努力と成果を築いて来たつもりだ。

 十六夜もそれは知っている。故に彼女を無下にせず諦めさせるため、希望のある無理、”ペストに一撃入れろ”を要求した。

 結果はこの通り、ペストが飛鳥を終始圧倒し、結局飛鳥は一撃も入れられずに終わり、ついでにジンは二日酔い。

 

「やっているな、”ノーネーム”」

「あ、サラ様。セイバーさんも」

 

 二人の戦いの騒音を聞いてやってきたサラと彼女のセイバーが歩いてくる。意気消沈する飛鳥と弱い者虐めに躍起になっているかのような構図に辟易しているペストを見て、サラは黒ウサギに問う。

 

「あの赤い少女、随分背負い込んでいるな」

「そう、ですね。飛鳥さんにも思う所があるそうで……」

「思う所、か」

 

 サラはそう言うと隣のセイバーに目を向ける。

 

「セイバー、お前はどう思う?」

「……心は十全だ。だが力と心の行き所を昇華させる才覚に欠けている」

 

 淡泊だが的確な指摘をするセイバー。だがすぐに彼は自身の発言を撤回するかのようにしかし、と続ける。

 

「剣術にしろ人形操作にしろ型は出来ている。それもいい出来だ。問題はその型に嵌まり過ぎてパターン化している事なのではないだろうか。

 余計な事かもしれないが、柔軟な行動が出来るようになれば彼女は彼女が持つ十を十二にする力を十五とも二十とも進化させられる筈だ」

「そ、それはとてもご親切にどうも」

「親切か……すまないサラ、黒ウサギ。親切ついでに少し彼女と話しがしたいのだが」

「私は構わんが」

「えと、黒ウサギも構わないのデスヨ」

「すまない、恩に着る」

 

 二人に頭を下げるとセイバーは飛鳥の方に向かっていく。

 謙虚というより腰の低い男性だな、と黒ウサギは思った。

 

「すまない、少しいいだろうか」

「―――え?」

 

 飛鳥の前に立ったセイバーは一言断ると彼女の腕や足、腹部に目を移してふむ、と呟く。

 

「ちょ、ちょっと何なの。流石に何も言わずに女性の身体をジロジロ見るのはどうかと思うわ。十六夜くんじゃあるまいし」

「っ、すまない。気に障ったろう。この通りだ。オレはどうとでも罵倒してくれても構わない。だが、オレがこのような男だからといって我がマスターサラを侮辱はしないで貰えないだろうか」

「……してないわよ。大体自分の非を詫びる殿方に理不尽な糾弾をする趣味もないわ、私」

「……すまない。こんな男で本当にすまない」

 

 やり辛い。実家にいたような単にへこへこしている人間でなければ十六夜のように傲岸不遜とは程遠く、ジンより卑屈。これまで飛鳥が出会った事のないタイプの面倒臭い男性であった。

 

「そ、それより。私に何か用でもあるの?」

「あ、ああ。すまない、そうだった。その、もしキミが嫌でなければオレが自衛程度はこなせるように実践向きの剣術を伝授しようかと思ってな。

 嫌ならそうと言ってくれ。いや、嫌だろう。すまない」

「だから、何も言ってませんと言っているでしょう。むしろ有難い話よ。

 出自は知らないのだけれど、剣術の英雄であるセイバーに手ずから剣術を教えて貰えるだなんて願ってもいない話だもの」

「そうか……すまない。ありがとう」

 

 飛鳥は謝り謝るセイバーが最後に言った”ありがとう”にほんの少し違和感を抱いた。彼の言葉は一つ一つが言葉を選んで失礼のないように取り繕われた真摯なものというイメージだったのだが、その言葉だけはそういうものとは違う感覚を感じたのだ。

 

 その脇でフラフラと黒ウサギとサラの方にペストを伴って寄って来たジンはうぇぇ、と言いつつ腰を着く。

 

「ジン、貴方昨日相当飲んでたわね」

「うう、面目ない……」

 

 はあ、と溜め込んだ疲れやら酒に任せて発散しようとしても出来なかったフラストレーションやらが落ち着いたせいか一気に溢れてくる。

 個人的にジン=ラッセル最大の恥だ。

 

「まさかジンが少し見ないうちに不良になっていたとは、信じたくなかったぞ」

「黒ウサギもなのデスヨ……」

「そ、その話はもういいでしょう……」

 

 顔を真っ赤にしながら俯く。酔いの影響でセンチメンタルになっているのにこの追撃とは優しくない。ジンはそう思う。

 

(やっぱり信長さんに言いくるめられなければよかったなぁ……信長さん、話の途中で逃げちゃったし)

 

 数時間前に彼女が説教中に「あー! わし急用思い出した! あとは頼む小僧!」などと言って消えていった信長の姿が今も目に映る。酔っていてその時は何も思わなかったが、あの消え方はどう見ても———

 

「サーヴァント、だったよなぁ……」

 

 織田信長という名を聞いた時点である程度の予測はしていたが、あれは明らかにサーヴァントが共通して持つ固有ギフト"霊体化"だった。一度サンドラのセイバーが見せたそれと酷似していたのだ。

 

 火縄銃を用いた物量戦法から察するに恐らく彼女はアーチャーなのだろう。銃を弓と言い張っていいのかは甚だ疑問だが織田信長らしいクラスを考えるとアーチャーかバーサーカーしかない。

 そしてバーサーカーと言うには二転三転とする表情はあまりにもおかしい。そのため消去法的に彼女はアーチャー。

 

(ゲーム再開までにはちゃんと戻ってくるんだろうけど、来てくれるか)

 

 思考に耽っていたジンは不貞腐れているとでも思われたのか、サラと黒ウサギにいっそうからかわれた。

 心外だった。

 

 






 教訓、酒は飲んでもなんとやら。



 茶番
バスターメスゴリラ「やはりおっぱい美女か、いつ出発する? 私も行こう」(クリティカル無しで鬼級丑御前ワンキルしつつ)

作者「武蔵院」


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