Fate/Problem Children   作:エステバリス

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 今回から書き方を変更してみました。少々見にくくなってしまうと思うのですが、視覚的に文のメリハリをつけた方がいいかな、と思っての判断です。

 では、本編です。




くえすちょんつぅ 広がる謎の、攻略会議

 

 

 春日部 耀という少女は根本的には求愛、献身の徒だ。友の為、自分を必要とする誰かの為ならば彼女は自分の身を厭わない傾向がある。

 元来人との関わりを持たない彼女は自身のそういった性質には気付いていないのだが、彼女の隣人は得てして彼女の性質には危惧を抱いている。

 

 例えば、逆廻 十六夜。彼は自分の多干渉を避ける癖に同胞の心配に関しては人一倍だ。

 そういう矛盾した感情を一番に発露しているのは間違いなくジャックで、ジャックもまた彼の複雑な感情を全て信頼、好意に置き換えている為に二人の関係は極めて良好。また、彼は耀とは違い自分の面を理解しているため精神的にも安定していているため周囲には頼られる傾向にある。耀もまた、その一人。

 

 例えば、ジン=ラッセル。彼は十六夜のような導く存在とは異なり、自身の弱さと向き合い、共に超える関係。故に多くの人に頼り、頼られようと在る。

 だからか、彼は自身と同じタイミングで、同じ理由で強く在れと彼女に願い、彼女に願われる。

 

 例えば、カボチャのジャック。彼は彼女の事をよく知っている男だ。何故、というのは彼のパーソナルの重要な部分に干渉するのでカットするが、彼は彼女らを出会う前から心配している。それはハロウィンの愉快なカボチャとしてもそうだし、一人の大人としてもそうだ。

 故にジャックは口に出さないものの他の報われない子供達同様に露骨に耀を心配して、ちょっとだけ手助けをする。

 

 今回もまた、彼らが耀に対して危惧する無茶を彼女は敢行した。

 

 巨龍の眷属に”アンダーウッド”の子供達が攫われる様を見て反射的に身体が動いたのだ。

 

 好意的に捉えれば、それは人命救助に自らの労やリスクを厭わないという事だが、同時に空に浮かぶ城がどういうものかも解らずに突入したという無謀、無策の表れでもあるだろう。

 現に彼女は突入した先の城下で出会ったカボチャのジャックに内心で毒突かれてもいた。

 

「―――ハッ」

 

「お、起きたかい嬢ちゃん」

 

 目覚めた彼女を迎えたのは城に攫われた”アンダーウッド”の住人の一人、”ノーネーム”一動が東側で常連するカフェの経営も行うコミュニティ”六本傷”の大老ガロロ=ガンダックであった。

 しまった、横になるだけのつもりが完全に眠りこけてしまったらしい。

 

 どういう訳かギフトゲームのペナルティを課せられてしまった耀達は黒ウサギの”審判権限”の有無に関わらず十日以内にギフトゲームのクリアをしなければ死亡する未来が待っている。現在耀やジャック達は文字通り猫の手も借りたいような想いで非戦闘員である筈の彼らと共に城下に繰り出しているのだ。

 

「ガロロさん、私どれくらい寝てた?」

 

「ん? 二時間とちょいってところだ。猶予期間はまだあるし嬢ちゃんには有事の時にしっかり動けるようもっと静養していてもらいたいんだが……」

 

「そうしているわけにもいかない……さっきより大分マシになったし」

 

 耀の言葉は事実だ。実際のところこの数日の彼女は驚天動地の事態や戦い続きで目に見えて疲労が溜まっていてそれを慮ったアーシャとジャック、ガロロが大人しくしているように言ったのが彼女が眠っていた理由なのだが、どうにも彼女の性質上長く眠る事が出来なかったのだ。

 

「……ジン、勝手にこっち来ちゃったの怒ってないかなぁ」

 

 意識せずに最初に呟いたのは一番頼れる人(十六夜)ではなく一番近しい人(ジン)だった。当然、特に意識していなかったので彼女が最初にジンの名前を出した理由は解らない。

 ただまあ、口に出してしまった以上横にいたガロロには丸聞こえであった訳で。

 

「……彼か?」

 

「!? ち、違う」

 

 猫の癖に出歯亀である。ニタニタとした顔をするものだから耀は反射的に必死になって否定するもののそれがまた彼の商人根性を剥き出しにしてしまう。

 

「へへぇ~。見た感じ他人に関心が浅そうだってのになかなかどうして、最近の人間は大人じゃあないの」

 

「……余計なお世話。だいたいジンと私はそういう関係じゃ……ない」

 

「……ふ~ん」

 

「なに」

 

「なんでも」

 

 春日部 耀は気付かない。自分の発言に少し悲しさに似た感情があった事を。

 春日部 耀は気付けない。自分の内に眠る何かが胎動を始めている事を。

 春日部 耀は知っている。自分に去来する何かは、自分の根源に何か関係していると。

 

 それを全て理解しているのは決して彼女ではなく、彼女を良く知り、彼女の目の前にいる人物ただ一人であった。

 

◆◇◆

 

 ”アンダーウッド”収穫祭本陣営。

 

 黒ウサギが出した”審判権限”により一応ゲームが中断され、十六夜達+琥珀は大樹の中腹にある連盟の会議場に足を運んでいた。

 集まったコミュニティは四つ。

 

 ”龍角を持つ鷲獅子連盟”所属、”一本角”の頭領にして連合の議長であるサラ=ドルトレイクと彼のサーヴァントセイバー。

 ”六本傷”頭首代行、キャロロ=ガンダック。

 ”ウィル・オ・ウィスプ”参謀代行、フェイス・レス。

 ”ノーネーム”から頭首ジン=ラッセル、逆廻 十六夜、久遠 飛鳥、そして”ノーネーム”所属サーヴァントのアサシン。

 ”サウザンドアイズ”からの派遣者、清少納言。

 そして最後に十六夜の要望で特別に参加席が設けられた剣士のサーヴァント、琥珀。

 信長は絶対話をややこしくすると思ったジンがお留守番にした。なんとかおだてて。

 

 黒ウサギは会議の進行役として前に立ち、ぱっと委任状を長机において切り出した。

 

「えー、ではこれよりギフトゲーム"SUN SYNCHRONOUS OUBIT in VAMPIRE KING"の攻略会議を始めたいと思います!

 他コミュニティから今後の方針について委任状を渡されておりますので各コミュニティの代表、特に収穫祭"主催者"コミュニティのサラ様とキャロロ様は責任を持った発言をお願い致します」

 

「承知した」

 

「了解でーす」

 

 それぞれの性格がよくわかる返事を聞いた黒ウサギは早速会議に移ろうとする。

 

 が、そこで十六夜がキャロロの鍵尻尾に既視感を覚えてあ、という声を出す。

 

「もしかしてお前、二一◯五三八◯外門で喫茶店やってる猫のウェイトレスか?」

 

「あ、気付いちゃいましたお客様?

 その通りです、あの喫茶店は我が"六本傷"が経営しているんですよ。今後ともご贔屓にお願いしますよ常連さん」

 

 にゃふふ、なんていう一見わざとらしい猫撫で声を出す彼女をサラは同志として誇らしげに紹介する。

 

「彼女は”六本傷”の頭領ガロロ=ガンダック殿の二十四番目の娘でな。ガロロ殿に命じられて東側の支店を仕切っているのだ」

 

「実は諜報活動もやっていたりするんですよ~。無論、常連さん達の目まぐるしい活躍も余す事無く(ボス)にお伝えしておりますとも!」

 

 へえ、と十六夜と飛鳥は思わず関心する。そう言えば彼女は初対面の頃から情報通の面を持っていたのだが、まさか本当にそういう方向の人間だったとは思いも寄らなかったのだろう。

 

 ニッタァ、と十六夜が嫌な笑みを浮かべる。

それを見たジンはあっ……と嫌な予感を抱いたが最早自分には止めようがないと即諦める。

 

「なるほどなぁ。一店員であるアンタがこの”アンダーウッド”に顔を出しているっていうのはそういうわけか。

 いやこれは参った、でもこういう事を聞いた以上は今後あの店には入れねえなぁ、お嬢様?」

 

「ええそうね十六夜くん。迂闊にコミュニティの沽券に関わる事を知られてしまっては堪らないわ。

 それにそれまであのカフェで喋っていた事も全て筒抜け。怖くて使えたものじゃないわね」

 

「……へ、え?あの、常連さん?」

 

「これは一つ、二一◯五三八◯外門の”地域支配者(レギオンマスター)”としてビシッと周辺に注意喚起しておくべきじゃないか? そうだな、『”六本傷”の旗下に間諜の兆しあり!』とかで」

 

「ちょ、ちょちょちょちょちょっと!?それじゃウチのお店商売上がったりになっちゃうんですけど!? 取り潰しになった挙げ句(ボス)に何言われるか解ったもんじゃないんですけど!?」

 

 キャロロがそう言った途端、二人のにやけ顔が一層強烈なものになる。

 キャロロとて常連さんのそんな悪い顔の意図を理解出来ない程鈍くはない。少なくともこうして頭領の代行を出来る程度には聡いと自負している。

 横暴だ。紛う事無き横暴である。

 世が世なら間違いなく脅迫罪と公務員職権濫用罪で逮捕される案件である。

 

 うぐぅ……やらぬぬ……やらと唸り、やがて彼女は断腸の思いで口を開く。

 

「こ、今度から皆様に限り! 当店の商品を全額一割引きで提供させていただきますっ!」

 

「「三割」」

 

「うにゃあああああ!!! サ、サラ様ぁぁぁぁ!!」

 

「……よしよし、今度からは軽率な発言は控えような」

 

 よしよし、と優しく頭を撫でつつサラっと辛辣な事を言う。サラだけに。

 

 そんなぐだっとした空気を見て流石にこれ以上は、と思った仮面の騎士はあの、と口を出す。

 

「……そろそろ進めてはいかがでしょう」

 

「そ、そうですね……それでは攻略会議を。と行く前に、サラ様から皆様にお伝えしたい事があると伺っています」

 

 何? と一同が首を傾げる。サラは表情を変えて沈鬱そうにうむ、というと重たい声音で喋り始める。

 

「……皆、これから話す事はこの場だけの秘匿事項にしておいて欲しい。伝えねばならない情報ではあるが、伝えてはならない情報でもあるのだ」

 

「……? はい、解りました」

 

 代表してジンが答える。サラは沈鬱とした表情を繕おうともせず、少しの沈黙の後に切り出した。

 

「……まず一つ目。先ほどの音の発生源、”黄金の竪琴”と同時に”バロールの死眼”が盗まれた」

 

「バ、”バロールの死眼”が!?」

 

「それは本当なのですか!?」

 

「ああ。凡百の巨人には使いこなせなかろうが、ヤツらの戦力が大幅に増えた事は違いない。死眼にはまた別で対策を練ろう」

 

 そう言うとサラは表情の暗さを一層重いものに変え、また話し出す。

 

「それと二つ目。これの方が思い事態だ。”アンダーウッド”の平穏に関しても、箱庭そのものの平穏に関しても」

 

「……と、言いますと」

 

「ああ……休戦前に連絡が入った。キャスター殿がこちらに救援に来る直後の事だそうだ」

 

「清原ちゃんと呼んで頂戴な」

 

「……では百歩譲って清原殿だ。彼女が南に来た直後、北側と東側の”階層支配者”が魔王の襲撃に遭ったとの事だ」

 

 息を呑む音すらも聞こえる静寂。どうやら司会進行の黒ウサギも初ウサ耳の事態のようで口をあんぐりと開けて呆けている。

 

 それが事実ならば現在箱庭は二人の”階層支配者”がいる北側への襲撃の都合、四体の魔王が一斉に襲撃を仕掛けているという事だ。

 その異常性は箱庭での日が浅い十六夜と飛鳥でさえ解る。

 

「……これ、偶然じゃないわよね。まるで示し合わせたかのように。それってつまりその複数の魔王を統率する某がいる事は」

 

「疑いようもないわね……でもああ、なるほど。納得するには十分な内容がてんこ盛りね、読者サマ」

 

「だな。作者サマ」

 

 清少納言と十六夜だけが納得したように声を出す。

 黒ウサギはそのニュアンスと二人の妙にフランクな会話を見て頭に疑問符を浮かべたようで、二人に質問を投げ掛ける。

 

「えと、納得、と言いますと? それに御二人様方、随分と仲が良さそうなのが気になるのですが……」

 

「その事ね。最初の事については後回しにしておきましょ。後者は……私あんまり興味ない事だったから読者サマに任せるわ」

 

「OK、任されたぜ作者サマ……んじゃ、まずサラって言ったな。お前が元”サラマンドラ”の後継者だったっていうのは本当か?」

 

「そうだが、それがどうかしたのか?」

 

「じゃあ一ヶ月前に”サラマンドラ”が火龍誕生祭で魔王に襲われたっていう話は?」

 

「無論だ。出奔したとはいえ生まれ育ったコミュニティだぞ。知らぬ筈がない」

 

 コケにされていると思ったのか、サラはむっと眉を顰める。

 しかし十六夜は緊迫した表情になり、その場にいる一同を見回してから、

 

「じゃ、その魔王の侵入の手引きをしたのが”サラマンドラ”そのものだっていうのは知ってたか?」

 

「なんですって!? それ本当なの十六夜くん!」

 

 サラ達が驚くより先に飛鳥が十六夜に掴みかからんという勢いで迫る。

 対して十六夜が落ち着け落ち着け、と言うと飛鳥は何か言いたそうな顔をしながらしぶしぶと席に戻る。十六夜がこんな事態に他コミュニティの不祥事を理由もなく暴露する人物ではないと解っているのだろう。

 

「……それは初耳だ。しかし理解もできる。

 幼いサンドラが”階層支配者”になる事に反感を覚える者達への見せしめにする腹積もりだったのだろう……そしてマンドラも百も若い妹にその座を譲らざるを得なかった己の不甲斐なさから異議を唱えられなかった。

 いざサンドラが死んでもあの父上だ。病に伏すなど到底考えられないし自分がまた再任すればいいとでも思ったのだろう……まったく、あの父上のやりそうな事だよ」

 

 吐き捨てながらそう言う。

 

 サラの様子を見ていた黒ウサギはウサ耳を垂れさせながらあのぅ、と聞き辛そうに質問する。

 

「でしたら何故前頭領様はサンドラ様にコミュニティのリーダーという座を譲ったのでしょう……?」

 

「さあな。その辺りはそこの少年と清原殿の方が詳しいのではないか?」

 

 サラが再び視線を二人に戻す。十六夜は先程よりも難しい面持ちになり、小さな声でああ、と答える。

 

「俺も最初はサンドラの顔立てだと思ってた。マンドラも本気でそう思っていたんだろうな。……が、どうにもそんな単純な話じゃなさそうだ」

 

「と、言いますと?」

 

「……あ、見えてきました」

 

 黒ウサギが問うと同時にジンが事態の内容を大雑把に掴んだようで声を挙げる。

 

「よし、んじゃこっからは御チビにパスだ。間違ってたら全力で小バカにしてやるから安心しとけよ?」

 

「それに安心する要素がないんですけど……と、じゃあ答えさせて頂きます。

 黒ウサギ、そもそも以前の誕生祭に現れた魔王、”黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”ペストの目的はサンドラじゃなくて()()()()()()()()()

 

 ジンのその言葉にとうとう黒ウサギも息を飲む。彼に一歩遅れたが朧気でも正答が見えてきたのだろう。

 

 太陽の運行を司る白夜叉の参加を命じられ、なおかつその権利を強制的に剥奪させる”主催者権限(ホストマスター)”、これほど稀有な能力もなく若手と言えど白夜叉への対抗策としては十分な手札だった。

 

「誕生祭のメインホストはサンドラ、白夜叉様はあくまでゲストだった。当然"サウザンドアイズ"の主力は連れてこず、白夜叉様が直接使役するサーヴァントのジキルさんとせ……清原さんだけ。

 その上南側の前階層支配者はペストの襲撃とほぼ同時期に討たれた。

 ……偶然にしては出来すぎてるんだ。元来魔王は魔王同士では群れない。それが無意識に思考の外側に投げられているとしたら、考えられる事は一つだけだ」

 

「で、ではまさか━━━」

 

「恐らく()()()()()なんでしょう。仮称”魔王連盟”は何の目的があってかはいざ知らず"階層支配者"を討ち果たせるようほぼ同タイミングで襲撃をしたと考えれば納得が行きます」

 

 ですよね?と前回の魔王戦での考察発表よりも一段と自信に満ちた声で十六夜に向き直る。

 十六夜は軽薄な笑みを崩さずにニッと笑うと、

 

「グレートだ御チビ。満点をくれてやる。

 補足すると、これらの一件にはそれが可能になるように手引きした組織もいるって訳だ」

 

 十六夜の視線がサラを鋭く射抜く。

 

 この時ばかりはサラも肝を冷やす。流石に出奔したとはいえ故郷がそこまで鎖果てていたとは考えたくなかったのか不安そうに問い直す。

 

「少年。お前はこれらの一件を手引きしたのは私達の父上だ、そう……言いたいのだろうか」

 

「いや?俺が言いたいのはあくまで”サラマンドラ”の前頭領が関与している可能性が高いって事だ。しかも推測が半分で確定材料になりはしない。

 だいたい動機も不明と来たもんだ。他の”階層支配者”を貶めて何になる?」

 

十六夜の嘘偽りのない真摯な眼差しにサラは 一先ずほっとする。

だがそんな彼女に追い討ちをかけるように質問を投げ掛けてきたのは仮面の騎士フェイス・レスだ。

 

「……サラ様、確認しておきます。現時点での”階層支配者”は”サウザンドアイズ”、”サラマンドラ”、”鬼姫”連盟、そして休眠中の”ラプラスの悪魔”で間違いはありませんね?」

 

「うん?ああ、そうなるな」

 

「……”階層支配者”のうち三つが不在となった時箱庭は臨時の手段としてそれの上位権限”全権階層支配者(アンダーエリアマスター)”を決める必要があります。

 敵の狙いはもしやそれではないかと」

 

 何?と声が上がる。

 

 サラもジンも、黒ウサギでさえ初耳の聞き慣れない単語を口にしたフェイス・レスに一斉に視線が集まる。

 

「あ、それなら私も聞いた事あります……っていうか聖杯から箱庭に関する情報を叩き込まれた時に情報の一つとして入って来ました」

 

 だがしかし、もう一人それを知る者が。

 琥珀だ。彼女はアホ毛をピコピコと揺らしながらはいっ、と右手を顔の辺りまで上げてそう言う。

 

「いえ、私は知らなかったわ」

 

「わたしたちも……」

 

「すまない、俺も同じくだ」

 

 しかし彼女と同じくサーヴァントであるはずの三騎は一様に知らないと否定する。

 あれぇ?と首を傾げる琥珀だが、すぐに話を引き留めてしまった事を思い出してフェイス・レスに頭を下げる。

 

「あ、ごめんなさい差し出がましい事を!どうぞ是非続きを!」

 

「いえ……この状況で続けろと言われましても困りますが。まあいいでしょう。

 私も以前”クイーン・ハロウィン”に聞いた程度ですが、その話によるとなんでも、”階層支配者”が全滅、あるいは一人を残すのみとなった場合に限り、暫定四桁の地位と相応のギフト―――太陽の主権の一つを与え、東西南北から他の”階層支配者”を選定する権利を与えられると」

 

「んなっ」

 

「そんな制度あるのですか!?」

 

 箱庭を巡る太陽には二十四の主権がある。それが”黄道の十二宮”と”赤道の十二辰”。これら二十四の主権を持つ最多の権利、それが太陽の主権というものである。

 

「私も女王に聞いただけの話なので何を戴いたのかは知り得ません。

 ですが、彼女の話によると過去にその権利を頂戴したのは二人。東の”階層支配者”、白夜王白夜叉とたった今我々にギフトゲームを仕掛けた魔王、レティシア=ドラクレアと聞いています」

 

「レ、レティシア様が”全権階層支配者”……!?」

 

 黒ウサギが更に驚いたような声を挙げる。だが黒ウサギ以上に驚いていたのは、そのフェイス・レスである。

 

「……知らなかったのですか? ”箱庭の貴族”ともあろうお方が」

 

「うっ……く、黒ウサギは一族でもぶっちぎりの若輩な上そこまで詳しく聞く間もなく里が滅んでしまいましたから……」

 

 ウサ耳をへにょらせて凹む黒ウサギ。

 十六夜はその姿を見てやれやれ、と言いながら助け船を出す。

 

「まあぶっちゃけ、黒ウサギは”箱庭の貴族(笑)”だからな」

 

「その渾名を定着させようとするのはおやめなさい!!」

 

 スパーン! と豪快一閃。その様子を見ていた仮面の騎士は表情を変えずにポツリ、と一言。

 

「成程、”箱庭の貴族(笑)”でしたか」

 

「真顔で便乗するのもおやめなさい!!!」

 

 再び豪快一閃。とうとう”ノーネーム”以外の人間にも突き刺さったハリセン。

 フェイス・レスは名前に反する程感情的な面持ちで黒ウサギに痛いです、とだけ言う。

 

 しかしそんな彼女にむっとした飛鳥が黒ウサギを庇うように立ちはだかり、

 

「ちょっと貴女、ぽっと出の新人の癖に私達の黒ウサギを解っているような物言いは止めなさい。第一彼女は”箱庭の貴族(笑)”なんかじゃないわ」

 

「あ、飛鳥さん……!」

 

「彼女は”箱庭の貴族(恥)”よ」

 

「って何言ってるんですか!?」

 

「それだッ!!!」

 

「まったくもってそれじゃないですよ!!!」

 

「……成程、申し訳ありません。”箱庭の貴族(恥)”でしたか」

 

「もーーーーーいい加減にしなさい!!!!」

 

 スパーン!! という快音が三つ同時に鳴り響く。

 石火春雷、一閃にて証を示す。かの侍っぽい誰かがそう言っていた。これぞ黒ウサギの秘奥義、秘閃ウサギ返し。ハリセンの一閃を三つまったく同時のタイミングで放つ回避不可の魔ハリセン。人間が体得するには一生涯を剣に捧げた剣豪が一生を掛けて体得するような必殺の攻撃を、黒ウサギのたゆまぬ努力と月の兎の優れた身体能力、そしてボケの過剰供給によって問題児達が来た数ヶ月で我が物としたのだ。

 

 そういえば昔”ノーネーム”とそれなりに親交があったコミュニティに超強い農民がいたな。十六夜さんには言いたくないな、とジンは頭のどこかでそう思いながら緊張感を一気になくした空気の中用意されていた南の渋いお茶を口に着ける。

 

「うわ、渋……」

 

 彼はまだ詫び寂びとざっくばらんな断捨離の心地よさを理解できていないようだった。

 

 






 ジンくんがどんどん穢れていく今日この頃。このままだと連盟旗編辺りでエンブリオ編のジンさんになりそうで怖いです。

 三巻からちょくちょくっとフラグを建設しているのですが、ストーリーの本筋に入るとか、メインキャラ追加とかそういう意味ではここからが本番です。

 え? 本番に入るまでに一年半掛かってるって? 知るかよ!(開き直り)





 こっから茶番

 キアラさんがな、呼符で来たんじゃ……ボブ改めデミヤは出なかったんじゃ……

 オルタの資料とかせっかくキアラさんが来たんだから、と思ってたのに……ちくせう……


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