Fate/Problem Children   作:エステバリス

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ジンくんは十六夜さんに影響されて飛躍的に成長しますが、当作品では影響を及ぼす先人が原作より多いっていうのが作者的にすごく嬉しいです。

原作キャラで最も(マトモかつ当初の予定を超えて)変化を遂げるのは間違いなく彼です。




くえすちょんせぶん 作戦会議と、犯人捜索

 

現生人類が地球という惑星に生を祝福されておよそ二十万年、彼らは常に人類の敵に対抗して来た。

例えば旧石器時代にはナウマン象。例えば古代から現代まで続くものには病。

 

そして得てしてその傾向にあるのは、人類自身である。

 

……人間讃歌、という言葉がある。その意味はそのまま人間を讃える歌、という意味だ。

 

それはようするに、ヒトの素晴らしさを褒め称える為の敵を仮定し、創作する事に相違ない。

 

この二つは基本的に相関関係にある。ヒトを讃える最も手っ取り早い方法とは単純明快。ヒトの敵を倒す事実を造り上げるか、そういう物語を創作する事なのだから。

 

しかし、ここで矛盾(パラドックス)が発生する。

 

━━━何故、ヒトを讃える歌であるにも関わらず人類の敵たる人類そのものを倒さねばならないのだろうか。

 

人類はどちらの立場も有してしまっているのだ。讃えるべき人類。人類を脅かす敵。

 

詩人は、神は。悩んで悩んで、悩んだ挙げ句一つの結論を出した。

 

━━━時に人と手を取り、時に人を陥れる。そんな都合のいい役割を押し付けられる新たな()()()()()()()()を創作すればいいのだ、と。

 

巨人族とはそういう集まりである。その為に巨人達が祀り上げる神さえ生まれた。

 

それは巨人に限った話ではない。竜、魔猪、害犬、時には神すらも。その枠組みに入ってしまう。

 

世界はそういう風に出来ている。人類悪とは、人類に滅ぼされなければならない宿命を背負う絶対悪である。

 

あるいは、このような当事者からすれば悪辣極まりない発想をする神や詩人とそれを単なる讃歌と受け止める人類こそが、本当の意味での人類悪なのかもしれない。

 

現にこうして無法を働く巨人達は、滅ぼされるべくして滅ぼされる。自らの運命をある者は享受し、ある者は否定するように慟哭している。

 

ヒトを殺して悦に浸る巨人もいるが、それもただ人類の敵として与えられた動物本能に過ぎなかったのだ。

 

◆◇◆

 

仮面の騎士、フェイス・レスと遭遇した耀はすぐさまヘッドホンの事を思い出して宿舎に戻っていた。どうか間違いであって欲しい。そんな偶然あってたまるものか、と。

 

結論からいって。春日部 耀の鞄に入っていた十六夜のヘッドホンは粉々に粉砕していた。

 

当たり前だろう。巨人達が大暴れしていたのだ。普通、なんのギフトも宿っていないヘッドホンが壊れない方がおかしい。

 

「春日部さん……どうしたの突然。それに顔が真っ青よ」

 

「……あ、あ……すかぁ……」

 

何とか声は出てくれたが、最早今の彼女は戸惑いと罪悪感でいつ心臓がその身を食い破るのか、と言わんばかりに躍動していた。

 

いっそ、逃げてしまおう。弱気な考えが頭を支配した時、折れた大樹の根が彼女に降り注いだのだった。

 

◆◇◆

 

”アンダーウッド”収穫祭本陣営。織田 信長を名乗る女性に助けられたジンはその後、黒ウサギとともにサラに呼び出されていた。

 

二人と同じく呼び出されていた”ウィル・オ・ウィスプ”のメンバーとともに黒ウサギが彼女に問う。

 

「サラ様。これはいったいどういう事なのでしょうか。魔王は十年前に滅ぼされた、と聞き及んでいましたが」

 

その追及を聞いてサラははぁ、と溜め息を吐くと背凭れにもたれ掛かり大きく天を仰いだ。

 

「……すまない。今晩詳しく説明するつもりだったのだが……彼奴らめ、随分と急ぎ足のようだ。……キミ達をこの”アンダーウッド”に招いたのには理由があるのだ。……聞いてくれるだろうか」

 

その言葉に全員が無言で頷く。それに感謝したサラは身を乗り出して説明を始める。

 

「この”アンダーウッド”が過去に魔王からの襲撃を受けた事は聞いたな?」

 

「はい。十年前の話だと聞き及んでいます」

 

「うむ、魔王は倒せたのだがな。残党は残ってしまったのだ。それに”アンダーウッド”にも浅くない傷跡がの囲ってしまった。奴らは我々に復讐を望んでいるようだ」

 

「……それが、さっきの巨人族だと?」

 

「そうだ。それにそのほかの様子もおかしい。先ほどペリュドンら殺人種も集っている。グリフォンの威嚇にもまるで動じなかった。さながら、何かに操られているかのようにな」

 

「なるほど……しかし、あの巨人族はいったい何処の巨人で? あの仮面に見覚えはありませんが」

 

ふむ、とサラは言葉を切る。

 

暫く言葉を選ぶように悩んだあと、ゆっくりと話しを続ける。

 

「あの巨人は、箱庭に逃げ込んできた巨人達の末裔だ」

 

やはり、と黒ウサギは頷く。

 

「箱庭の巨人はその多くが異界の敗残兵だ。基本的にフォモールの巨人達が多いが、北欧のモノもいる。箱庭に来た経緯から、気性は温厚なものが多い物造りに長けた種なのだが……五十年前にある部族が”侵略の書”という魔導書を手にし、”主催者権限”を用いて他の部族を纏め上げ始めたのが発端だ」

 

「”侵略の書”……もしや、そのギフトゲーム名は”Labor Gabala”というものではありませんか?」

 

「そうだが……知っているのか?」

 

その問いに黒ウサギはコクンと頷く。

 

「ウサ耳に挟んだ話ですが。別名では”来寇の書”と呼ばれる、領土を賭け合うギフトゲームを強制させる”主催者権限”だ、と聞き及んでおります」

 

「そうだ。”主催者権限”の中では最もポピュラーだと言われている魔導書を使って奴らはコミュニティを拡大させていった」

 

しかし、敗れたのだ。侵略者達はその瞬間に敗残兵に戻っていった。

 

それならば何故、気性穏やかな彼らはこうして再び侵略行為を働いているのか。

 

サラは自らの後ろにある連盟旗を捲ると、そこにある隠し金庫から一つの岩石を取り出す。

 

「ヤツらの狙いはこの瞳だ」

 

「……瞳? この岩石が、ですか?」

 

「そうだ。名を”バロールの死眼”という。いまは封印されているが、開封すれば百の神霊を殺せるといわれている」

 

百の神霊。一行はつい一ヶ月前に苦労をして一体の神霊を打倒したところなのだ。息を吞むのも仕方ない。

 

だが─────その名は息を呑ませるより先にお否定が飛び出してしまう程のものだった。

 

「ご、ご冗談を! ”バロールの死眼”といえば付与系ギフトにおいても最強格、”視る”だけで死のギフトを植え付けるケルト最凶最悪のギフトですよ!?」

 

─────バロール。それはケルト神話における巨神。その瞳から放たれる光に触れたものは例外なく石になるというギリシャ神話の女怪メドゥーサと同様のモノだ。

 

黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”ペストが風に死を乗せる神霊ならば。

 

巨神バロールは光で死を強制する神霊なのだ。

 

「しかし、バロールの死と共にその眼は消えた筈。何故そんなものが今更になって」

 

「そうおかしな話ではないさ。ケルトの神霊はその多くが功績と信仰によって後天的に神に成り上がったもの達だ。それにバロールの死眼の開眼経緯は有名だ。それとバロールになるための霊格(功績)さえ確立しているのなら第二、第三のバロールが現れても不思議ではあるまい」

 

サラの言う通り、ペストように後天的に神性を得て神霊となるという事も可能だ。

 

ケルトは祖霊崇拝と自然崇拝を主流とする神群で、なおの事この傾向にある。

 

「連中はなにがあってもこれが欲しいのさ。適正がなければ使えぬが、それでも驚異的なギフトである事には創意ない」

 

「ヤホホ……ようは、この収穫祭という忙しい時期に来るであろう巨人族からこの眼を守ってもらいたい、と?」

 

カボチャのジャックとアーシャは露骨に嫌な顔をした。

 

彼らは力こそあるが、コミュニティは商業を本分としている。前回のような巻き込まれならいざ知らず、自発的に参加、というのは渋りたいところなのだろう。

 

「だけどよ、こういうのはまず”階層支配者”に相談っていうのが筋だろ? ギフトゲームすら開かず襲う無法者っていうのは間違いなく裁きの対象になるだろ」

 

「……残念だが、今この南側には”階層支配者”は存在しない」

 

「……は?」

 

「つい先月、キミ達が”黒死斑の魔王”と交戦していた頃とほぼ同じ時期だ。七000000外門に突如現れた魔王に前”階層支配者”が討たれた。その後の安否も不明、敵がどんな魔王化も不明とくる」

 

「なっ……」

 

アーシャも、残りの三人も絶句する。まさか”階層支配者”が妥当されたカタチで不在になっていたとは夢にも思うまい。

 

「我々は代行として白夜叉様に相談をした。だがそう簡単に新たな”階層支配者”など見つからない。そこで提案されたのが、”龍角を持つ鷲獅子”連盟の五桁昇格の話と”階層支配者”の任命の話だ」

 

それに黒ウサギとジンはハッとしたように叫ぶ。

 

「で、ではこの収穫祭というのは、”龍角を持つ鷲獅子”連盟の五桁昇格と”階層支配者”任命のギフトゲームなのですか!?」

 

「そうだ。”階層支配者”になれば”主催者権限”と共に強力なギフトが贈られる。それさえあれば彼奴らにも負けることはないだろう。南側の安寧のためにもこの収穫祭、何としてでも成功させねばならんのだ」

 

強固な決意で語るサラ。話の内容に唖然としていたが、黒ウサギは納得もしていた。

 

”龍角を持つ鷲獅子”連盟は歴史の長いコミュニティだ。恒星クラスに離れた東側にも”六本傷”の支店があることからそれはわかる。

 

「昔跡を継げば北側の”階層支配者”にもなれるなどと言われていた私がこうして他コミュニティの議長の席に座るのみならず南側の”階層支配者”になろうなど滑稽極まりないが……そうも言ってられんのだ。どうか、お力添えを願いたい」

 

「……そう、いわれましてもねぇ」

 

それでもジャックは難色を示す。しかしそこを譲れないのはサラも同じだ。

 

「無論、タダでなどと無粋な事は言わん。多くの武勲を立てたコミュニティにはこの”バロールの死眼”をさしあげようじゃないか」

 

その言葉に今度こそ一同は仰天した。

 

「聞けば”ウィル・オ・ウィスプ”の頭領ウィラ・ザ・イグニファトゥスは生死の境界を行き来できるそうじゃないか。それなら”バロールの死眼”も使いこなせよう」

 

「ヤホホ……確かにウィラならば”バロールの死眼”も操れましょう。しかし、そんなものを下層で扱えるとなればウィラ程度しかいないでしょうね……」

 

ちら、とジンを見る。

 

ジャックはああは言ったが、”ノーネーム”も使いこなせるであろう人材がいると踏んでいるのだ。

 

「心配せずともこれは”ウィル・オ・ウィスプ”と”ノーネーム”に限定させてもらうつもりだ」

 

「ぼ、僕達もですか?」

 

「しかしサラ様、我々には死眼の適性者がおりませんが……」

 

難色を示す二人に対してサラは思い出したように話を切り出す。

 

「ああ、すまない。すっかり忘れていた。実は白夜叉様から”ノーネーム”に新たな恩恵を預かっているんだ」

 

「え?」

 

「白夜叉様から聞いているだろう? 例の”The PIEDPIPER of HAMELIN”をクリアした報酬の事だ。これさえあれば”バロールの死眼”も操れることだろう」

 

パンパン、とサラが柏手を打って使用人を呼ぶ。

 

使用人が持ってきた双女神の紋章が象られた小箱を開ける。

 

ジンはその中身を見て面食らった。

 

「こ、これが……新たなる恩恵(ギフト)……?」

 

「そう、お前達”ノーネーム”は”The PIEDOIPER of HAMELIN”のゲームクリア条件を()()()()()()。これはその特別恩賞だ。受け取るがいい」

 

そこにあったのは、笛吹き道化────”グリムグリモワール・ハーメルン”の旗印が刻まれている指輪が入っていた。

 

◆◇◆

 

(……此処、何処……?)

 

耀が運ばれたのは緊急の救護区画として編成された場所だった。

 

どうやら樹の根が頭に当たって気絶してしまったようだ。

 

(……デジャヴ)

 

ジンに止められた時もこんな風にまずはベッドで目覚めた。

 

しかし、疑問はある。何故自分は樹の根を頭にぶつけたにも関わらずたんこぶ程度で済んでいるのだろう、と。

 

「春日部さん? 起きたのね?」

 

 

「……あすか」

 

ベッドを仕切るカーテンの向こうから飛鳥が現れる。

 

よく見ると彼女もまた腕に包帯を巻いている。助けてくれたのだとすぐに理解した。

 

「……飛鳥」

 

「私の事はいいわ。それより、コレについて説明してもらえるかしら?」

 

差し出してきたのは、焰のエンブレム。

 

それがすぐに十六夜のヘッドホンの成れの果てなのだとすぐに理解した。

 

「……それは」

 

「春日部さんが持ち出したの?」

 

「…………ちがう。でも、私の鞄に入っていたのは確か」

 

「じゃあ、入れた覚えは?」

 

「ないよ。それだけは絶対ない」

 

そこだけは絶対、と即答した。彼女が準備をした時には確かに入ってなかったのは確かだ。

 

しかし、耀の鞄に手を出す者などいないだろう。そもそも彼女は鞄を自室の外に持ち出したのは今日、コミュニティから離れるその瞬間しかない。子供の悪戯な訳もない。

 

「……整理しましょう。春日部さんが荷造りを終えた後、犯人は十六夜くんのヘッドホンを持ち出して春日部さんの鞄に忍ばせた。これができる人物Xと言えば?」

 

「……私?」

 

「春日部さん以外でっ!」

 

「そ、そういわれても私の鞄に触れる某だなんて……────あっ」

 

ある。たった一人だけ。耀に疑われる事なく、耀の鞄にこのヘッドホンを忍ばせられる者が、たった一人。

 

だが、その人物に至ったからこそ耀は苦虫を嚙み潰すような顔になる。

 

「……飛鳥、ちょっとそのヘッドホン貸して」

 

「え?」

 

「もしかしたら犯人の匂いがついているかもしれない」

 

飛鳥は両手をポン、と打つ。こういう時にこそ彼女のギフトは真価を発揮するのだ。

 

耀は飛鳥からヘッドホンのエンブレムを受け取るとそれに鼻を近づける。

 

十六夜の匂い。これは元々十六夜が身に着けていたものだから当たり前だろう。

 

ジャックの匂い。彼女はよく十六夜に抱き着いている。匂いが残っていても不思議ではない。

 

そして三つ目────これだ。彼女が探していた匂い。

 

「……あった」

 

犯人は解っただが、その人物が犯行に及んだ意図が耀にはまるで解らない。何故、という思いが耀の頭を埋め尽くしている。

 

「……行こう。彼を問い詰めに」

 

「え、ええ……」

 

そう言ったまさにその瞬間、耀の言っている()が姿を現した。

 

◆◇◆

 

「……という感じです。……僕らに協力してくれませんか? 信長さん」

 

所変わって”アンダーウッド”の一角。そこでジンは偶然信長に声を掛けていた。

 

彼女ははじめこそ「おお、小僧、小僧ではないか! 息災だったか? ま、このわしが助けてやったのじゃから無事なのも是非もないよネ!」と大変好意的かつハイテンションだったのだが、ジンが話し終える頃にはそのテンションはすっかりなりを潜めてしまっていた。

 

彼女は大きく息を吐いて一言だけ。

 

「うつけか? 貴様」

 

と言った。

 

「えっ……」

 

「いや、これはうつけじゃろうに。えーっとなんじゃっけ? ようはあの木偶共を討ち滅ぼしてそのバロールのマンガンとかを守り通し、この祭りごとを大成功に収めるのが大優先なんじゃろ?」

 

「死眼です」

 

そうじゃったか? という信長。

 

「ええい、この際名前なぞ些末な問題じゃ。小僧、これらの物事に優先順位をつけてみい」

 

「優先順位ですか? ええと……大局的に見れば祭りの成功、巨人族の殲滅、死眼……だと思います」

 

「うむ、その通りじゃ。次に木偶共の最優先は?」

 

「死眼です」

 

そう言うと信長はにい、と笑う。

 

「わかっておるではないか小僧。それなら簡単じゃ。死眼は一旦ヤツらの付近にでも置いておけい」

 

「は!? ちょ、何言ってるんですか!?」

 

信長のその突然の言葉にジンも驚いた。それは巨人族に死眼を明け渡すといっているようにも見えたからだ。

 

「話は最後まで聞けと学士に教わらんかったかうつけ。おぬし何処ぞのドラ娘のようじゃぞ」

 

「な、なんか凄くバカにされたみたいで嫌なんですけど……」

 

「だーから聞けといっとるんじゃ。良いか、奴らの最優先その眼。極論それさえあれば奴らの本懐は果たされる……であれば、目の前にぶら下げられたニンジンに飛びつかぬ馬はいまい」

 

「……つまり?」

 

「うむ、ようするにわしがその眼を持って戦場で暴れ回ればノー問題という訳じゃな!」

 

あ、この人結構残念な人だ。途中まで結構割と納得できる事をする人なのに、詰めで納得させられない系の残念な人だ。

 

ジンはそう思わずにはいられなかった。

 

 






最近ジャックが出てこないのに一部読者様方が心配したりモヤモヤしたりしているでしょうが、ご安心ください。

一番モヤモヤしてたり不安になったりしてるのは当の作者ですっ!!





以下茶番

ぐだぐだ明治維新、いったい誰が出てきてしまうんですかね……作者的には恐らくC.V.Y木 Aさん例の設定がちょくちょく変わるあの褐色肌のセイバーが来てほしいです(正直者)


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