Fate/Problem Children 作:エステバリス
新年あけおめデース! エルキがダブってカルナさんをお迎えした作者デース! 口調は気にしてはいけまセーン!
まあおふざけはさておき、今年もFate/Problem Childrenをよろしくお願いいたします。
さて、それでは今回の物語の大きな壁となる少女、己の名前すら喪失した哀れな少女の話をしよう。
彼女はかつて、ごく普通の村で生き、豊作の象徴と冗談混じりに褒め称えられた、いつかは何処かの家に嫁ぐ普通の少女だった。
だが、世の中というものは万物に等しく残酷だ。普通の人生を歩んだからと言って、その結末が普通という道理はない。
━━━黒死病。古くは哲学者ソクラテスが従軍したというペロポネソス戦争の頃から断続的にヨーロッパで流行し、中世にその猛威が振るわれ、当時のヨーロッパ市民の三分の一、世界大戦による死者数を優に上回る三千万もの死者を出したと言われている最悪の病。
三百年単位で見るならば八千万、億単位に迫る程の死者を叩き出している。
突然自身を襲った高熱に魘され、少しだけ楽になったと思った途端、彼女の世界は太陽の日射す黄金の麦畑から常闇の牢となっていた。
意味が
その牢に刻まれた文字は果たして彼女の親の最後の親心か、彼女が牢に閉じ込められた理由が詳細に書いてあった。
『お前は死を運ぶ厄災に蝕まれた。今後お前をこの牢から出す事は叶わない。お前はその牢で飢え、孤独に死ぬ宿命だ。私は此より貴様と縁ある者、私と縁あった者悉くを根絶やしにする。恐らくは、貴様が最期だ』
今度こそ思考が止まった。私が死ぬ? 友が殺される? いや、そもそも━━━私の親は自身の家族すらも殺すというのか?
わからない、わからない。そもそも厄災とは何だ? 私はそれを知りたい。
━━━知ってどうする?
決まっている。その原因全てを取り除く。例え原因そのものを利用しようとも、私はそれを取り除く。
それは私が助かりたいからじゃない。それは、それは━━━
それは、助けたいからだ。
私の親が
それら全てを、いや違う。私達と同じ身の上にある者達全てを。すくう、救おう、
━━━ならば手を取れ。この手を。全てを救いたくばこの手を取り、
いいとも。それで救済えるのなら。私は━━━霊長を守護する復讐者となろう。
全ての同胞を救済する復讐者、私の名は、そう━━━
かくして彼女は復讐者でありながら霊長を守護する者となった。霊長を滅ぼす霊長にその病を与えて殺してはそれを憐れみ、自らが率いる。その旅の中途に同胞がいれば救済の希望を与えて率いる。死してもいつかは己が杯に、箱庭に願い
復讐者の根底にあるものは、尽きる事のない人類への愛なのだから。
◆◇◆
━━━ヴェーザーとラッテンが消えた。
ペイルライダー、ペストがそれを感じたのはハイドの悪意がヴェーザーの首を吹き飛ばしたのとほぼ同時だった。
ラッテンも静かな波動に包まれて消えた事を確認する。
この場からカルナとアリスが離脱した事も僅かに切り離した霊から伝わっている。
成り行きでリーダーとなった自分に忠誠を尽くしてくれた。黒死病という過去を改変するという自分の馬鹿げた願いにも笑わなかった。
そんな二人を想い暫く瞳を瞑り哀悼すると、やがて眼を開く。
「━━━やめた」
「は?」
彼女と対峙していた黒ウサギ、サンドラ、セイバーは唐突な発言に首を傾げた。
やめた、とは?
「時間稼ぎは終わり。白夜叉以外全員、ジンもサーヴァントも要らないわ。皆私の一部に統合してあげる」
刹那、漆黒の旋風はその勢いを増した。
奔流は雲海を突き抜け、その場にいたネズミ、鳥、全てが瞬く間に黒死病に侵され死亡する。
「全て全て、悉くを呪い殺しましょう。されど魂は我が血肉となりて━━━」
途端、たった今死んだ筈の鳥やネズミ達が起き上がる。その肉体は溶け、まるで
「"
旋風が襲う、屍が襲う。鉄の処女が生き血を求めて口を開く。炎が溢れる。
旋風と眼球が顎や嘴にまで垂れ落ちた死体を黒ウサギの金剛杵とセイバーの魔力によって産み出された雷で払いながら苛立たしげに叫ぶ。
「ぐっ、この、やはり与える側の神霊のような存在ですか! であれば天の英霊……」
「ってことはアレか? オレには不利かよ……って、すぐに死ぬ恩恵を与える神霊って、バロールみてぇだなクソ!」
三人は思わずペストから逃げるが、参加者を無差別に狙った死の旋風は周りの"サラマンドラ"の同士を襲う。
「や、やめ━━━グガァ!?」
旋風が音も無く皮膚を溶かして殺す。
「なんだ貴様ら、寄るな! 来るな━━━ギァァァァ!!」
腐敗した嘴と牙が喉笛を引き裂いて臓器と脳髄を補食する。
「やめて、助けて! ごめんなさい、ごめんなさ」
刺に覆われた鋼鉄の棺桶に囚われ、悲鳴が漏れ出す間もなく八つ裂きにする。
「嫌だ、熱い、熱い! 早く殺してくれ! こんな、こんな地獄のような責め苦を味わされるくらいなら死んだ方がマシだ! 息が出来ない! 頭が侵される! 熱い、熱━━━」
炎で肌を焼き、酸素を消し去り、息が止まり中毒症状が発生する。
この世の地獄とは、正にこの事だろうか。悲鳴、我こそはと助かろうとする怒号、怨嗟。
それら全てをペストは一心に受け止め、新たなる魂の同志へと
「……痛いでしょう、苦しいでしょう。出来れば使いたくなかったわ。同胞が増えるのは嬉しいけれど、同胞が生まれてしまう事は寂しいもの」
「しまっ、ステンドグラスを探している参加者が!」
「畜生ッ……サーヴァントらしく狙うならオレを狙えってんだ!」
(仕方ありません……まだジャックさんが来ていませんが、手を切るしか……!)
黒ウサギがギフトカードを取り出し、使おうとする━━━が、そこにはゲームに参加していた木霊の少年の姿が。
「こ、こんな時に!」
旋風が少年を襲う。逃げの一手に徹してしまっていた三人では間に合わない。三人が歯噛みして少年を内心見捨ててしまったその時━━━
「薙ぎなさい、ディーン!」
『DEEEEEEEEEEEEN!!』
深紅の巨兵を引き連れた飛鳥が現れ、兵の一薙ぎで旋風が消えた。
病は生物に効く者。なれば機人である飛鳥の新たなるギフト、ディーンに効く道理などない。
「飛鳥さん、よくぞ御無事で!」
「感動の再会は後! 立てるかしら?」
「は、はいっ」
「よろしい、なら早く離れなさい。ステンドグラスは後で処理すればいいわ」
ホッと一息をつく黒ウサギだったが、ペストの方に目をやるとそこには旋風と鉄の処女が迫っていた。
「オイコラ余所見してんじゃねえぞ駄ウサギ!」
側面から現れた十六夜の蹴りが旋風と鋼鉄を砕く。そして同時に現れたジャックが旋風の中をものともせずに駆け抜け、屍を細切れに切り裂き、迫る鋼鉄に炎を呑ませて自壊。ペストに一撃を浴びせる。
「ぐっ━━━ギフトを砕いた上に黒死病を受けなかった? 貴方達、」
「言っとくが俺は正真正銘人間だぞ魔王様!」
チョッパーの一撃を貰い軽く仰け反った瞬間、ジャックはペストの顎にムーンサルトを浴びせ、直後にハンドスプリングの要領で踵落としを頭部にぶつける。
ペストは暫しふらついたが、やがてにやけながら服の解れと自らの傷を癒す。
「……そうね、確かにそうだわ。星を砕けない程度の力では私は死なない。大した脅威じゃないわ」
「━━━へえ、随分言ってくれるじゃねえか。
「ちょ、ちょっとお待ちを! 仮に十六夜さんがそんな切り札を握っているといってもそんなものを撃たれては周りまで被害が来ます!」
黒ウサギは慌てて引き留め、十六夜はむっと眉を顰めた。
「……しょうがねえ。ここはウチの黒ウサギとサーヴァント、そして坊っちゃんに花を持たせてやるか」
「ええ、旋風の対策もこれでバッチリ。此より魔王と、此処にいる主力━━━皆纏めて、月に御招待致しますとも!」
白黒のギフトカードの輝きと共に急転直下、周囲の光は暗転し、星が巡る。
温度は急激に下がり、大気が凍り付く死の大地へとその風景は激変した。
「これはまさか……"
「YES! これこそが我々"月の兎"が招かれし神殿! 帝釈天様と月神様より譲り受けた、"月界神殿"にございます!」
そう、此処は月そのもの。一部の人間とペストのみがこの場に隔離された事により参加者が病死する心配は消え失せた。
「これで参加者側の問題は解消! ジン坊っちゃんが
◆◇◆
そして、太陽が沈み、輝きと共に街の真上に現れた月を見たジンは左手に目をやる。
「全ての準備は完了……後は僕だけ」
左手に宿る赤い紋様━━━令呪を掲げる。
「令呪を以て我がサーヴァントアサシンに命ずる!」
それは、サーヴァントへの三画の絶対命令権。仮令それがサーヴァントが本来不可能な、自らの身に合わないものであろうと強制的に引き出す切り札━━━
「
◆◇◆
「━━━うん、殺っちゃおう」
ジャックがそう呟いた瞬間、月は猛毒の霧に包まれた。
「此よりは地獄。わたしたちは、炎。雨。力━━━殺戮を此処に」
ペストが異変に気付いたが、もう遅い。ジャック・ザ・リッパーの力は既に牙を剥いているのだから。
「━━━"
「━━━なっ、ぐっ、」
ペストが苦悶の声を漏らすがもう遅かった。ジャックが宝具の名を呟くと同時にペストの内臓、霊核たる心臓が引っ張り出された。
「ギッ━━━」
"
ただしそれには切り裂きジャックが活動していた夜、当時のロンドンの有り様を再現する霧、そして切り裂きジャックが襲った女が必要となる。
それだけにその呪いはまさしく必殺の一撃━━━なのだが。
「ッ━━━こんな、たかが霊核を引っ張り出されたくらいで終わると思って!?」
ペストを引っ張り出された内臓全てを掴み、自らの身体に収め始めた。
「はっ、冗談キツいぞ。クー・フーリンか何かかよ……」
その姿にはさしもの十六夜も驚愕せざるを得なかった。しぶとい。心臓を引っ張り出せば死ぬのが生物の道理であるはずなのに、死なない。
「まだ、まだ終わらない……!」
「いいえ、貴女はこれで終わりよ。"黒死斑の魔王"! 穿ちなさいディーン、"
『DEEEEEEEEEEEEN!!』
ペストが心臓を掴もうとした矢先、黒ウサギに託された必勝の槍の模造品が飛鳥の指示によりディーンが放つ。
狙いは寸分違わず、ジャックが引っ張り出した心臓に命中する。
「ッ……! 今更、こんな槍程度で!!」
「無駄で御座います。その槍、"
幾千万もの雷に身を焼かれながら、それでもペストは抵抗を示す。
しかし無駄だ。天の雷は万から億、億から兆へと加速度的に力を増す。
ペストは"死を風に乗せる"のならば。
インドラは"勝利を武具に乗せる"のだ。
「そんな……私は、まだ……!」
「━━━さようなら、"
「ばいばい」
飛鳥とジャックが別れの言葉を告げると同時に一際激しい雷光が月を照らす。
豪、という響きを立てた軍神の槍は圧倒的な熱量を撒き散らし、魔王の心臓を穿ち共に爆ぜ消えた。
章末に二章で登場したサーヴァントのデータマテリアルを出します。ペストの宝具、"
ではでは改めまして、今年もシクヨロ!