Fate/Problem Children 作:エステバリス
なんだかやる気に満ち溢れているので連日投稿です。
ジャックかわいい
円形のカタチをしたテーブル。そこにはサンドラ、マンドラ、セイバー、ジキルと彼女らと相対するような位置に座る斑の魔王、アヴェンジャーが。そして五人のになって仲裁をするような位置に黒ウサギが座っている。
そしてサンドラ達の傍らにはジン、十六夜、ジャック、清少納言。アヴェンジャーの側にはラッテン、ヴェーザー、アリス、ランサーが佇んでいる。
「━━━それではこれより、ギフトゲーム"The PIED PIPER of HAMELIN"の審議決議を始めます」
黒ウサギの緊張した面持ちの発言と共に、それが始まる。この決議が始まった理由は至極簡単。ゲームには"参加者"側のゲームマスターに白夜叉が任命されているにも関わらず白夜叉が参戦条件を満たせず封印されたという件についてだ。
参加を命じられているにも関わらず参加できない。端から見ればどう考えても不備、あるいは不正。そう断じたから黒ウサギの"審判権限"でゲームを中断させた、というわけだ。
「ではまず"主催者"側。"グリムグリモワール・ハーメルン"に問います。今回のギフトゲームについて」
「不備はないわ」
即答した。何の迷いもなく。
「……受理しても宜しいので? 黒ウサギの耳は箱庭中枢と繋がっています」
「ないからないと言っているの。こちらは無実の罪で訴えられているようなものよ。言いたい事、わかるかしら?」
「不備がないとわかればそちらに有利になるようゲームを再開させろ……と?」
「そんなところよ」
「……そうか。黒ウサギ」
はい、と黒ウサギはウサミミをピクつかせる。状況が状況でなければ面白い光景だ、と笑ってやりたいところなのだが。
やがて黒ウサギは神妙な面持ちになる。それは誰も答えを求める必要がない程、わかりやすい表情だった。
「……ただいま箱庭中枢から回答を戴きました。ホスト側には何の落ち度もない、と。白夜叉様の封印もルールに則った上での正当なものであるとも」
「当然ね、それじゃあゲーム再開の日取りを決めましょう」
「日を跨ぐのですか?」
珍妙そうにサンドラが問い返す。アヴェンジャーは不敵な笑みを浮かべながらええ、と言う。
「"箱庭の貴族"、延長は最大で何時まで?」
「延長期間、ですか? そうですね……今回のようなケースであれば、一ヶ月程かと」
「じゃあそれよ。一ヶ月後」
アヴェンジャーはそれだけ言うとさっさと席を立とうとする。だがその瞬間━━━
「「「待ちな/待ってください/待ちなよ」」」
遮る三人の男の声。それは十六夜、ジン、ジキルによるものだ。
「……何かしら? 時間を与えられるのが不満?」
「いや、不満ではないよ。むしろ嬉しいくらいだ。……でも、それは事と場合にも依るし、そもそも一ヶ月というのは戴けない。だけど理由は……"ノーネーム"に譲ろう」
「お? いいのかいアサシン。そんじゃあ……ジン坊っちゃん、先に言いな」
「あっ、はい。では主催者に問います。貴女の傍らに立つ笛持ちの男女はそれぞれラッテン、ヴェーザーと聞きました。そして現れた巨人はシュトロムとも。そして其処の十六夜さんには残りの二人の男女はサーヴァントとも聞きました。恐らく貴女達とは深い関係は無いものと断じて言います。……貴女はもしや、"ペスト"ではないですか?」
「答える義務はないわ」
ペスト、その名を聞いてマンドラやサンドラもどよめく。清少納言は何の反応も示さないが、内心は恐らく……といったところか。
「おい御チビ、そのペスト? っていうのは何なんだ」
状況がわからないセイバーはその名を出したジンに問う。ジンもそれに答えて軽く頷いた。
「ペスト、ていうのは疫病の一つだよ。五世紀に一旦ヨーロッパで流行して、十四世紀に爆発的な被害を与えた病気の事さ」
ペストによる死亡者の総数は約8,000万。当時の世界人口の実に三分の一の人間を死に至らしめたという恐怖の病。
第二次世界大戦の死亡者数を優に上回る。十六夜の生きた時代こそ原因や対策等が確立し、その脅威は鳴りを潜めているものの、その名は未だ世界に恐怖という功績を残している。
「義務は無くとも答え合わせはできます。貴女のギフトは
「………」
「沈黙は是なり、ですよ。"黒死班の魔王"」
ジンは容赦無く猛追する。その目を見たアヴェンジャーはやがて溜息と共に口を開く。
「……
アヴェンジャー、ペストはそれまで抑えていた笑みを浮かばせながら頬杖を突き、ジンに目を向ける。
「既にそちらには
「ジャ、ジャッジマスター! 彼等はゲーム中断時に意図的にゲーム説明を伏せていた疑いが」
「駄目ですサンドラ様! もし彼等が説明を伏せていたとしても、彼等にその説明責任はありません! また不利なルールを押し付けられるだけです!」
ジンは悔しそうに歯噛みしながらペストの言葉を受け入れる。
「……ねぇ、ここにいる全員が主力?」
「恐らくはその通りだ。サーヴァントも四騎、聖杯戦争に勝ち抜く大きな戦力増強にもなる」
「私の捉えた女の子も中々いい子でしたよマスター」
ランサーとラッテンの言葉を受けてペストはその笑みを更に強烈なものに変える。
「そう、それは僥倖。ならこうしましょう。ここにいる貴方達全員と白夜叉、私達の軍門に降りなさい。そうすれば残りの全員は見逃してあげる」
「なっ」
驚愕した表情になるサンドラを余所にペストはじっとジンを見つめたままだ。
「貴方、名前は?」
「……"ノーネーム"リーダー、ジン=ラッセルです」
「そう、ジン。覚えたわ。話を戻しましょう。サンドラは可愛いし、ジンは頭が切れるわ。月のウサギもいる上にサーヴァントも四騎、こんなの欲しがらない方が可笑しいわ」
そういう事だから、と言おうとするもジンはまたもや制止を掛ける。今度こそペストは苛立ったような表情になる。
「……なにかしら」
「僕の質問はまだ終わってません。サーヴァントペスト、貴女達のコミュニティ"グリムグリモワール・ハーメルン"は、新興のコミュニティなのではないでしょうか」
「それこそ答える義務はないわ」
「答える必要はありません。それもまた簡単な答え合わせですから。新興コミュニティなら人材確保に躍起になるのは当然でしょう?」
反論があるなら言った方がいいです、とも。だがペストは答えない。やはりこれも、沈黙は是なり。
「……やはりそうでしたか」
「……で? だから? そんな理由で私達が譲歩する理由になるとでも?」
「なりますよ。それなら貴方達は僕らを無傷で手に入れたい。普通に考えてペストの潜伏期間は二~七日。そこから発症して死亡するまで一ヶ月も要しません。なら何故一ヶ月後にゲーム再開と定めたか? 簡単です、脅しだ。最悪白夜叉様一人を手に入れれば目的は達成するのでしょうが、白夜叉様を支配下に入れたコミュニティとなれば箱庭中のコミュニティが潰しに掛かるのは言うまでもありません」
そこでジンは一息置く。頭の中で言うべき事を整理してからもう一度、喋り出す。
「いくら白夜叉様が強大だろうと対魔王の
ハッタリだ。大規模コミュニティの幹部にして旧魔王である白夜叉が"知恵"のゲームで遅れを取るとは考え難い。
だが、ここまで自信満々に言い切られてしまっては。切れ者と認めた者にそう言い切られれば。冷静に考えればブラフとわかるその言葉も信憑性が出てきてしまう。
「……なら、二十日後にすればいい。そうすれば病死前の人材は最低限確保できるわ」
「では、感染した者は悉くを皆殺しにしよう」
「━━━!?」
そこで口を開いたのはこれまで沈黙を保っていたマンドラだった。その目は嘘など微塵も言っていない、本気も本気だ。
「感染した者は殺す。サンドラであれ、"サラマンドラ"唯一のサーヴァントであるセイバーであれ、"箱庭の貴族"であれこの私自身であれ関係無い。殺す。サラマンドラに魔王の軍門に降る脆弱者はおらん」
「マ、マンドラ様。その決断は結構ですが、流石にリーダーを殺すというのはどうかと」
ジンは必死になってマンドラを宥める。そうして喋る者がいなくなったので十六夜がジンの代役として喋り出す。
「んじゃこうしようぜ魔王サマ。俺達はゲーム中断期間及びゲーム中の自決、同士討ちを禁ずる。その代わり再開は三日後だ」
「却下よ。二週間」
「なら黒ウサギも付ける。黒ウサギは"審判権限"の使用で十五日間ゲームへの参加はできない。だがそっちが認めるのなら参加は出来る筈だ」
「……十日。それ以上はないわ」
「いえ、なら期限も付けましょう」
ペストの悩ましい顔での意見に一言物申したのはジンだ。
「再開後のゲームに時間制限を設けましょう。ゲーム開始から二十四時間以内に僕らがゲーム攻略に必要な全条件を満たせなかった場合はそちらの勝利です。その代わり中断期間は一週間」
「本気なの、ジン? こちらの総取りも覚悟するだなんて」
「本気です。中断期間中に黒死病発症の危険性に怯え、ストレスが溜まる限界時間を加味してもこれがベストと判断しました」
「……そう」
ペストは苛立たしく答えた。不快だ、気に食わない。開始前の状況、勝利後の状況、何もかもこちらに有利になるよう進んでいるというのに何もかも向こうに好き放題ゲームを弄られている。
「……ねえ、ジン。貴方、一週間後に生き残っていたとして、私に勝てる気でいるの?」
「
勝てる、じゃない。勝つ。ジンはそう断言した。その自信に満ち溢れた言葉の一つ一つが気に食わない。
だが、同時に身体が震える。もしこの少年を手にしたら自分はどれだけ復讐に近付いてしまえるのだろうか。今から脳味噌が震える。
「……いいわ。宣言しましょう、ジン。私は貴方が欲しい。必ず手に入れてみせるわ」
それだけ言うとペストは立ち上がり、ラッテンとヴェーザーを伴って去っていった。
「………」
だが、ランサーとアリスはその場を動かない。その場に留まっている。
「キミ達も早く去ったらどうだい?」
「オレはすぐにでも去ろう。だが生憎彼女は此処を去ろうとしないのでな」
いや、正確にはオレも一つ用があるのだが。と付け足す。ランサーはそう言うと十六夜に目を向ける。
「貴公の名前を教えて貰いたい」
「ん? 俺かい? なんでだ」
「先日こちらの連れが其処の少女とぶつかった事を改めて詫びよう。名前を知っていた方がいいだろう」
ランサーの奇妙な理屈に十六夜は呆れる。だが不思議と嫌な感じはしなかった。
「逆廻 十六夜だ」
「そうか、すまなかったな十六夜。では、こちらも名乗るとしよう」
は? という空気が周囲を多い尽くした。サーヴァントが自ら名乗る?
そんな空気もお構い無しにランサーは身体に光の鎧を纏い、改めて名乗る。
「我が名はランサー。その真名は"カルナ"。叙事詩"マハーバーラタ"に語られる太陽神スーリヤーが息子だ」
「なにっ……!?」
「馬鹿な、カルナだと……!?」
「……おいおいマジかよ」
驚愕に揺れる一同を余所に、カルナは「謝罪はしたぞ」とだけ告げて下がろうとする。
だが、そんな彼を引き留めたのは黒ウサギだった。
「ま、待ってください!」
「……何か用か」
「っ……カルナ様、で間違いはないのですね?」
「ああ、嘘を言う理由は無い。元より詫びるつもりで言ったのだ、嘘を言うのはそれこそ問題外だろう」
カルナは真摯に黒ウサギを見据える。その風格に気圧されそうになった黒ウサギは暫く喉から声が出なかった。
「……で、ではカルナ様」
「なんだ」
「何故貴方様は、魔王に与するのですか? 貴方様は帝釈天様に認められる程の方の筈。ならば何故、」
「簡単な事だ。オレは魔王に呼ばれたサーヴァントだからな」
「それが解せないのです。貴方様程の大英雄が何故に魔王に従うのですか」
大英雄カルナであれば魔王が強力な悪であるという理由で平伏する筈はない、と言いたいのだろう。
カルナは黒ウサギの疑問に対して軽く頷くと、真摯に受け答えをする。
「確かにお前の疑問はその通りだ。"マハーバーラタ"にて実在したカルナが平伏するか否かはオレにはわからないが、少なくともオレは単なる悪に理由無く屈する人間ではないと思っている」
「では何故」
「……だが、それだけで敵対する理由にはならない。オレは彼らに召喚された。オレの力が必要だと求められた。故に俺は彼らのサーヴァントなのだ」
カルナのその答えに誰もが絶句した。だが当の本人はそんな事お構い無しに喋り続ける。
「そも、悪とは大衆の正義に当て嵌まらないものだろう。オレはオレの正義を貫き通す。故にオレはオレを求めた者が悪ならば悪となろう」
「……なるほど、ああ、アンタマジで英雄なんだな」
「自ら英雄と名乗った覚えはないがな」
震えた調子で答える十六夜。カルナは英雄ではないと応えるものの、何処かその様子は嬉しそうではあった。
「十六夜よ、一週間後、心行くまで戦おう。オレは戦うなと命じられていたが……貴公が相手とあらば話は別だ。オレが戦う必要がある強者だ。……いや、それも詭弁だな」
そう言うと次は黒ウサギに視線を移す。彼女もまた、カルナのその有り様に震えていた一人でその目に自らが映ったという事実が彼女に物怖じさせる。
「"箱庭の貴族"、神王の遣いよ。これで満足だろうかどうあれオレはお前達と敵対する意思がある」
「っ……いいえ、帝釈天様が貴方様をお認めになられた理由がよくわかりました。黒ウサギからはもう、何も」
「そうか……キャスター、お前は何か」
「いえ、いいのランサー。私は何も言うことはないわ。行きましょう」
クスクス、と笑いながらアリスは部屋から出ていく。扉を開けて出ようとした時、彼女は何かを思い出す演技をするかのように「ああ、そうだ」と振り返る。
「一週間後、また会いましょう。久し振りに貴女の顔が見れて嬉しかったわ━━━ジャック」
また、驚愕。アリスは明確にジャックを見ながら彼女の名前を呼んだ。一同、特に十六夜とジンは心底驚いたような顔をしながらアリスを見る。
「━━━アリ、ス?」
そしてジャックもまた、名乗ってもいない少女の名を答えた。その様子に彼女はひどく満足したようで、にこやかに笑いながら部屋を出ていった。
「……おい、ジャック。アイツと、あのキャスターと知り合いなのか?」
「わかんない」
「なっ、ふざけるな! あの女は明確にお前を見て名を言ったなアサシン! そしてお前はあの女の名を答えた! あの女は満足気になっていた! それはお前があの女を知っていたという事だろうが!?」
ジャックの曖昧な答えにマンドラが激昂する。ジャックの胸ぐらを掴み、彼女の身体がマンドラの頭と同じ程の高さまで浮いた。
「つまりお前は! いやお前達"ノーネーム"は魔王の内通者であったという事だ! そうしてお前達が魔王を呼ぶよう手引きした! 違うか!? 違うのならば反論をしてみろ!」
「落ち着くんだミスターマンドラ。彼らは誕生祭の初日にこの祭りの事を知った。たった一日で魔王侵入の手引きの準備をする事は不可能だし、対魔王コミュニティとして再起動した彼らが魔王と結託するなど論外だろう」
「ならばこの場で魔王を倒してみせろ! こいつらは今まで魔王を倒したか!? 倒していないのだろう!」
「……まったく、強情な人だ。確定証拠もなく白夜王が肩入れするコミュニティを迫害するつもりかい? なんなら今ここで、僕らが身内贔屓の白夜王に代わって"サラマンドラ"を潰してもいいんだけど」
もしここでジキルがマンドラを手にかければジキルは同士討ち禁止のルールを破ったペナルティとしてゲームに参加できなくなる。
ジキルもマンドラも、それをわかっている。だがジキルの目は本気だった。無用な混乱を収める為に混乱の素を潰す。成る程それは理に敵っている。
マンドラは見せしめとして殺されたとでも言えばいいという判断なのだろう。
「……くっ、俺は貴様を認めんぞアサシン。疑いを晴らしたくばお前自身の手で魔王を討つ事だ」
それだけ言うとマンドラは部屋から苛立ち混じりに立ち去った。彼に手を離された事で尻餅をつきながら落下したジャックはぼう、とした目でマンドラ達が出ていった扉に目を向けていた。
「……わかんない」
また、呟く。果たして自らの意思でそう言っているのかと疑問に思う程虚ろな目をしながら呟く。
「アリス……? わかんない。でも、でも……どこかできいた事がある、気がするの。アリス、アリス……」
でもでも、と彼女は一人呟き続ける。
「なにも、ない。わたしたち……おしえて、⬛⬛⬛……アリスって、⬛⬛⬛って、だれ……?」
アリスとジャック。二人の少女はこうして邂逅した。
少女は純粋に喜びながら、少女は戸惑いながら。
まだ少女はわからない。まだ少女は喜ぶ。
それはきっと━━━少女が導いた、大きな物語の小さな始まり。