Fate/Problem Children 作:エステバリス
忙しくなると言ったなあれは嘘だ! 忙しくなったのは事実だけどこうして何日かかけて投稿する余裕はあった!
もののついでにEXTELLAもプレイしましたさ! 後半涙腺がぶるっと来ましたね! おっとまだ菌糸類の定めたネタバレ禁止期間は過ぎてませんね、失敬。
今回は少々文字数少なめです、では。
「……終わったか」
耀の敗戦を目にした十六夜はぽつんと呟く。
「ええ、負けてしまったわ」
付近に座る飛鳥も同調する。二人はただ、敢えて結果にだけ触れていた。
(春日部さん……焦っていたのね。わかるわ、私にも痛いほど。だって私も)
本質はどうあれ子供のジャックに殺し合いなどしてほしくないから。サーヴァントだとか、切り裂きジャックだとかは関係無く、彼女がジャックなのだから戦って欲しくない。
内心、あまり感情を表にしない耀が自分と同じ感情を抱いていた事に喜びもした。だがそれでどうになると言うのか。"審判権限"によりギフトゲームの参加が稀有な黒ウサギと文字通り規格外の力と知識を持つ十六夜に、殺し慣れているとでも言うように駆け回るジャックの三人に比べれば耀も飛鳥も未熟者。中途半端な力で中途半端な心配をする事こそいけない事なのか、と思わずにはいられない。
(それに……また謎が増えてしまったわ)
小さな精霊に"ジャック"の名前を冠した何者かが造った人形。そして二人の"ジャック"。精霊の件だけでも頭を抱えたくなるというのに、この仕打ちはなんなのだ。
(この子の事はともかく、ジャックの事は皆に話すべきよね)
そう思いながら彼女は服の内側に隠れている精霊を撫でる。精霊は「あすかー?」と言いながらその指に甘えている。
「大丈夫よ、貴女は何も心配はしなくても━━━」
飛鳥の精霊を元気付けるための言葉は最後まで紡がれなかった。
「━━━え、何、あれ……」
空に浮かんだのは黒い羊皮紙。ただの羊皮紙ならいい。それはギフトゲームのルールを示す物なのだから。
だがあれは、ああ、あれはただの"契約書類"ではないと飛鳥も直感で理解する程に異質だ。
やがてそれに書かれた内容が皆の目に入る。そこには決闘場という華々しさの溢れる場には不釣り合いな物で━━━
『ギフトゲーム名"The PIED PIPER of HAMELIN"
・プレイヤー一覧:現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター:太陽の運行者・星霊、白夜叉。
・ホストマスター側勝利条件:全プレイヤーの屈服・及び殺害。
・プレイヤー側勝利条件:一、ゲームマスターを打倒。二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
"グリムグリモワール・ハーメルン"印』
そう、その黒い羊皮紙はつまるところ━━━
「……ま、魔王が現れたぞオオオオオオォォォォ━━━!!!」
これから始まる狂演の、オープニングなのである。
◆◇◆
「……さて、相手になるのはざっと四人ってところかしら?」
慌てふためく闘技場の上でケラケラと笑う銀の踊り子のような服を着た女性が言う。
「いや三人。"ジャック・オー・ランタン"がここにいるのは展示品としてだ。ゲームルールを満たしていない」
参加者には入れんさ、と黒い軍服を着て巨大な笛を携えた男が呟く。
男と女性の後ろに控えるその巨人はなにも言わない。当然だ、造り物なのだから。
そして二人の真ん中にいるのはアヴェンジャー。彼女は多くを語らない。二人の会話に耳を通しているだけ、とでも言おうか。
「いや、四人だ」
そして━━━また別の声。
三人がそちらに目を向けると、そこには黄金の鎧と白髪を持つランサーと、彼に抱えられたアリスがいた。
「向こうにはもう一騎サーヴァントがいる。それも知名度で言うならばトップクラスだろう」
「あら、これはご無沙汰をしているわ槍兵殿。して、その真名は?」
「あら、あら。教えて欲しいの? 向こうは私達を何も知らないのに?」
クスクス、とアリスが挑発的に笑う。女性はその物言いに何かを言おうとするが、アヴェンジャーが彼女を止めるとアリスの方を向き、言葉を発した。
「教えて頂戴マスター。ここで私達が白夜叉と多くのコミュニティを傘下に加えればそちらにも有利になる事は目に見えているでしょう?」
「ええそうね、アヴェンジャー。確かにその通りだわ。……じゃあ、教えてあげましょう」
アリスは勿体ぶるように、大仰に腕を広げる。舞い散る黒い"契約書類"に祝福をしているようにも見えるその動作はまさしく、彼女の今の心境そのものなのだろう。
「サーヴァント・アサシン! しかしてその真名は、
どう、どう!? どうかしら!? アリスは愉しげに叫ぶ。その一句一言に込められた感情は果たして、このような小さな少女が発して良いものなのだろうか。
「でも安心して、
「━━━承知したわ、マイマスター。それじゃあラッテン、ヴェーザー。ゲームを始めましょう」
「はい、マスター。邪魔する者は」
「殺しなさい」
「了解だ」
◆◇◆
闘技場の真ん中に未だ佇む清少納言は震えていた。パニック状態に陥る民衆など目にもくれず、舞い散る羊皮紙を仰ぎ、上を見上げている筈なのに、顔が見えない。
「もし、ミス清少納言? 貴女は戦闘力などないでしょう? どうかお早く避難を」
「そうだ、アンタ仮にも"主催者"のサーヴァントだろうが」
ジャックとアーシャが耀を抱えながら動こうともしない清少納言に語りかける。だが彼女はその心配から来る発言すらも耳には入っていない。
「━━━な、」
ふと、彼女は震える身体を抑えながら呟いた。
「「な?」」
二人もそれに反応する。フルフルと震える清少納言はやがて、両手を頭に押し付けて大きく仰け反る。
「なんて事! なんて事なんて事なんて事!! なんて━━━なんて、
「「━━━は?」」
それまでパニックになっていた民衆でさえもその声を聞いて平静になってしまった。今この女は何と言った? 今ハッキリと、魔王の襲来を好みの展開と言ったのか?
「ふふ、ふふふ、ふはははははは!! いいわ、いいわ! まさか白夜叉の仕掛けた対魔王の守りをすり抜けてやって来るだなんて! ああ筆が進む! この展開を物語の前置きを読んだ後のプロローグだとすれば━━━ああ! なんて壮大! なんてエゴイスティック! なんて絶望的で希望的なんでしょう!?」
清少納言の笑い声が響き渡る。ひときしり叫び終えると彼女は再び空を見上げる。
「さあ戦いなさい勇者達! 戦って、私好みの物語を綴る為の原子になって分子となって、遺伝子となって組織となって臓器となって、物語そのものになるがいいわ!!」
◆◇◆
清少納言の叫び声を聞いたジキルは思わず歯噛みした。全くこれだから、と。
「これだから作家という生き物は━━━いや、作るという意味では僕も同じか」
彼もまた、広義的には作家なのだ。だが彼の場合は清少納言のように、自分のやりたい事をやって偉名を刻まれたのではなく、すべき事をやろうとして忌名を刻まれた者。
「白夜王との約定だ。魔王、箱庭の危機とあっては僕も、正義の味方として魔王の軍勢と相対しよう」
彼女に乗せられるのは癪だが、とも付け加える。
「此処に集いし勇者達! 僕は白夜王がサーヴァント、アサシン! 自らの武に覚えがある者は混乱を諌めたキャスターに感謝し、魔王と相対せよ!」
キャスターに不用意な不満が及ぶのは宜しくない。今士気に影響を及ぼされるのもそうだが、なにより彼女を使役する白夜叉の信用をこんな下らない要素で落とさないように。
「戦え、戦うんだ! 見事魔王を打倒した暁には白夜王がサーヴァントとして、白夜王より何らかの褒美を授ける事を約束しよう!」
そう言うとジキルは自らを縛る"無力の殻"のギフトを解除し、落ち込んだ身体能力を解放する。
無力の殻、その力は能力を幾つか封印する代わりに自身をサーヴァントと感知されなくなるもの。
こうして自身の霊格を解放する事でジキルは自身を囮にする算段なのだろう。
次いで、"怪力"を解放。柔和な姿からは想像もつかない力で、数秒跨いで上空に居る魔王の軍勢に肉薄をした。
「なっ━━━二人目だと!?」
軍服のヴェーザーの驚愕した言葉の通り、既に其処にはもう一人、十六夜がランサーと打ち合っていた。
「おう、アサシンか! まさかお前にそんな馬鹿力があったとは━━━あ、いや。出来ないでもないか?」
「残念な事にね。さて、魔王の軍勢。僕はサーヴァントアサシン。死合おうか」
「言ってろ優男!」
ヴェーザーの握る魔笛とジキルのナイフがぶつかり合う。ジキルの力はかなりの物で、両手に収まりそうな小さな得物でヴェーザーの巨大な武器を押さえきっている。
横目で十六夜を見ると彼とランサーはその場を離れていく。乱戦となってサーヴァントの防御補正を働かせない為だろう。
「なにやってんのヴェーザー! そんな優男一人、さっさと殴り殺しなさい!」
「わかってるよラッテン! だがこいつ、想像以上に重い!」
銀の服の女ラッテンがヴェーザーに激を飛ばす。それを聞いたヴェーザーは腕に力を籠めるが、ジキルはそれでもビクともしない。
「自白してしまったね、
「ちっ、頭も切れやがるか!」
「童話は実は少しだけ齧っていてね、ハーメルンの笛吹は僕の研究の着想にもなった。善悪の彼岸という点でね」
ジキルの足が拮抗する笛を蹴り、拮抗状態を破る。明確な隙を晒したヴェーザーに彼はナイフを突き立てようとし、すんでのところで腕を掴む。
「ぐっ……」
「押し切れない……!」
「くそ、力が互角となれば根比べか……?」
いや、とヴェーザーは直ぐ様自身の発言を心の中で撤回する。このままでは自分達は地上に落ちる。となれば地上1,000メートルから着地した衝撃が待っている。これに耐えたとしてもまずマウントポジションを取られる。
たらりと冷や汗が垂れる。早く打開策を講じねば詰みだ。かといってこの膠着状態から逃れようとすれば向こうは容赦なくこちらを殺しに来る。
「くそっ……!」
だが、地上1,000メートルからの落下に向こうも耐えられるのか? という疑問も同時に生じた。だがそれは直ぐ様耐えられる、という結論に達する。
相手は聖杯戦争ではキャスターに次いで非力なアサシンとはいえ、サーヴァントなのだ。頑丈じゃない訳がない。それにそもそも、飛べない身で空中戦を仕掛けたという事は耐えられるという事なのだろう。ともかく、ヴェーザーは片手で魔笛を振るおうとするが、ジキルの片腕で制止される。
「テメエ……何処の英霊だ? こんな規格外な力を持っていてアサシンだと? じゃあなんだ、お前がジャック・ザ・リッパーか?」
「生憎だが不正解だよ。僕はそんなものじゃない、もっと醜悪な生き物さ」
「言ってろ━━━」
そうしているうちに地表が見えてきた。未だに二人は膠着状態。どちらかが一瞬でも逡巡すれば、その状態は途切れる。
ジキルに迷いはない。ヴェーザーは迷っている暇がない。であれば二人は地に落ちる流星が如く地表に着地するのは、当然だった。
結果はヴェーザーの予想通りだった。自分も向こうもダメージを負ったが、マウントポジションはジキルが取っていた。魔笛で反撃しようにもその長大さがかえって足枷となってしまっている。
「ぐっ、ぐがっ……!」
「……勝負、ぐっ……ありだ。ヴェーザー河の悪魔、お前にはここで消えてもらう」
「ハッ……消えるかよ。例え死んでもテメエを殺してやる……!」
「……それが、遺言か」
ジキルが静かにナイフを掲げ、ヴェーザーの首に突き立てる━━━
その時だ。
「“審判権限”の発動が受理されました! これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELN”は一時中断し、審議決議を執り行います! プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください! 繰り返します―――」
「なっ━━━!?」
「……まさか、敵に助けられるとは」
黒ウサギのこの場を勇める為の正しい判断は、とても悪いタイミングで起こってしまったのだった。
幸運Dは伊達じゃなかった。ともかく運が悪いですねジキルさん。
不用意に殺したらつまらないし、こーいう終わり方もいいかな、と。
以下、いつもの茶番トーク
さて、やって参りました復刻クリスマス! ジャックかわいいよああああああジャックジャックジャックアリス! またあの二人のお願いとサンタさんの優しいところを見れるとなると胸が熱くなりますねジャック!
さて、僕は知り合いの人が何人か晴れておかあさんになったり宝具レベルが上がったおかあさんがいたりとご満悦です。うへへへジャック。