オーバーロード ~破滅の少女~   作:タッパ・タッパ

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エ・ランテル編始まりですが、今回は前フリなのであまり動きはありません。

これからオリ展開増やそうと思っています。


2016/3/24 魔法詠唱者のルビが「スペル・キャスター」だったのを「マジック・キャスター」に訂正しました
2016/10/7 ルビの小書き文字が通常サイズの文字になっていたところを訂正しました
2016/11/18 「~来い」→「~こい」 訂正しました


第13話 冒険者モモン エ・ランテルに立つ

 その日、エ・ランテルに身知らぬ二人組が訪れた。

 

 一人は漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包み、深紅のマントを羽織っている。そして、その背には二本のグレートソードが揺れている。

 もう一人は長い赤毛を三つ編みにした誰もが振り返るような美しい女性。褐色の肌とその笑みからは野性的な魅力を感じる。その女性は膝まであるチェインメイルに、肩当てやブレストプレートを始めとした金属製の部分鎧を身に着け、長柄のウォーハンマーを手にしていた。

 

 二人は五階建ての冒険者組合の建物に入ると、ほどなくして首から銅のプレートのついたネックレスを下げて出てきた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 冒険者御用達の安宿から、明らかにその宿にはふさわしくないような豪華な漆黒の全身鎧(フルプレート)を着た人物が一人出てくる。

 その人物は町中を物珍しそうに眺めながら歩みを進める。どこか目的地があるというでもなく、ただ街をぶらついているという風体だ。

 しばらく市場を歩いた後、店と店の間、通行人や買い物に来た客達の邪魔にならない位置で立ち止まった。

 

《もしもし、ベルさん、どーぞ》

《はいはい。こちらベルです》

《今、エ・ランテルの市場にいるんですが、分かります?》

《OKでーす。ばっちり見えていますよ》

 

 ナザリック地下大墳墓の執務室。豪華な椅子に座り、目の前に据え付けられた〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉をベルが覗き込んでいる。

 その鏡面には、エ・ランテルの市場の片隅で、周囲を見回しながらたたずむ漆黒の全身鎧(フルプレート)を着た人物が映し出されていた。

 

 アインズが冒険者としてエ・ランテルに行くにあたって、ベルは様々な警戒態勢を整えていた。〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉による状況の確認もその一つ。

 

 そして、もう一つが――

 

《ええと、ラの4番は市場の方へ。その辺りに黒い鎧を着たアインズさんがいるから、そこへ》

《ラの4番。ベル様へご報告。アインズ様の下へ到着いたしました》

 

 〈伝言(メッセージ)〉でシャドウデーモンに指示を出すと、ほどなく、アインズさんのところにたどり着いたようで〈伝言(メッセージ)〉が送られてきた。

 机の上に置かれたエ・ランテルの地図の上で、ラの4番と書かれたコマをソリュシャンが移動させる。

 

《周辺は人間どもの声で大変騒がしい状態です。周囲に聞こえる主な声は、リンゴ売りの女の声。焼いた鶏肉を売っている男……む? 『泥棒ーっ』と叫んでいる声がします》

 

 〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビユーイング)〉の鏡面には走って逃げる男とそれを追う男が映し出されている。そいつらがアインズさんのすぐ近くを通り過ぎていった。

 今、シャドウデーモンから報告されたことを、そのままアインズさんに伝える。

 

《ええ。だいたい正確ですね。今、追いかけっこをしている二人が脇を通り過ぎていきました。大丈夫そうですね。そのシャドウデーモンでの警戒は》

 

 

 監視用として現在愛用している〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉には欠点がある。

 

 見ることは出来ても音を聞くことが出来ないということだ。

 

 やはり相手を見ることが出来ても、その声を聞くことが出来ないというのは不便だった。そして、しゃべった言葉が自動的に翻訳して聞こえるらしいこの世界では読唇術などは使えない。まあ、仮に使えても、ベルにもアインズにもそんな心得はないのだが。

 

 そこで考えたのはシャドウデーモンを使う方法。

 シャドウデーモンを音が聞きたい場所付近に潜ませ、聞いた内容を〈伝言(メッセージ)〉でこちらに伝えるというやり方だ。直接聞くのではなく、間にシャドウデーモンを挟む為、文字通り伝言ゲームになる危険性はあるが、それでもメリットの方が大きいと判断した。

 〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビユーイング)〉とシャドウデーモンの中継、二つを併用することで画と音の両方を、その場ではなく遠隔地にいながら知ることが出来る。

 すでに、エ・ランテルの街には〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビユーイング)〉の監視やシャドウデーモンの存在に気づける者がいないことは確認済みである。

 そして、ここしばらくかけて、シャドウデーモンたちには何をどのように報告すべきか、優先順位は何かという事を教育し、訓練していた。 

 

 ただ問題は、シャドウデーモンからの報告は〈伝言(メッセージ)〉で送られてくるため、一度に複数の〈伝言(メッセージ)〉が送られてきたとき、誰が送った〈伝言(メッセージ)〉なのか、誰に〈伝言(メッセージ)〉を返せばいいのか、報告を受けた当のベルの方が処理しきれず混乱することである。

 

《ところで、アインズさん。お一人なんですか? お供のルプスレギナは?》

《ああ、宿に残してますよ》

《いきなり、個人行動ですか? エ・ランテルに着いた途端にいきなりそれって、守護者たちが知ったらなんて言うか》

 

 アインズ冒険者計画を知った時の守護者たちとのやり取りを思い出して、ベルはいささかうんざりした。

 

《いや、そこはベルさんと、この警戒網の最終チェックをするという事で……》

《はいはい、気を付けてくださいね》

《それにルプスレギナには私が出ている間に、ナザリックへの報告をするように言ってありますよ》

《ふーん。そうですか》

 

 耳を澄ませると、隣の部屋から「くふー! よくやったわ、ルプスレギナ! その調子で私の事をもっともっとアピールするのよ!」という大声が聞こえてくる。

 

《ああ。今、報告してるみたいですよ……。そういや、結局、名前はどうしました?》

《私がモモンで、ルプスレギナがルプーにしました》

《普通ですね》

《この前、二人で考えた名前も捨てがたかったんですが……、偽名なのだから、分かりやすく間違えないシンプルなものの方がいいとシズに言われまして》

《そうですか。そうだ、お金は大丈夫ですか?》

《ええ、まだ物価を調べているところですが、この調子ならすぐには無くなったりはしませんよ》

 

 今のところ、こちらが持っているこの世界の通貨は、周辺の村から集めた銅貨と陽光聖典の魔法詠唱者達が持っていた財布に入っていた分だけだ。陽光聖典の連中はそれなりに金貨や銀貨を持っていたし、わずかながら白金貨まで持っていた。さすがに銅貨は重すぎるためにごく一部だが、それらの大半はアインズさんに渡してある。この世界の町で暮らすには何かと入用だろうから。

 だが、とにかく一刻も早く資金を集める必要がある。金がないことには満足にこの地で動くことが出来ない。

 

《じゃあ、ベルさん。私はもうしばらく街をうろついてから宿に戻りますよ》

《了解です。私も〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉であちこち見て回りますよ。なにかありましたら、すぐ〈伝言(メッセージ)〉で連絡ください。セバスやユリ、ナーベラルらを派遣しますので》

《はい。その時はお願いします》

 

 そう言って〈伝言(メッセージ)〉を切った。

 〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉内のアインズさんが移動を始め、画面から消える。

 隣の部屋からは「ル、ルプスレギナがアインズ様と同じ部屋に宿泊するーっ!?」という絶叫が聞こえてきた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 その後、町中を〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉で見て回り、練習がてらシャドウデーモンを向かわせて報告させるなどしていた。

 

 活気あふれる市場、穏やかな雰囲気が漂う住宅区、昼間でも日が当たらない貧民街……。

 あからさまに危険そうな場所にでも足を向けない限りは、エ・ランテルは結構治安は良さそうだ。

 

 上空から街を見下ろしてみたり、売っている品物をアップで見て質を確かめたり、塀の上を歩く猫を追跡したりと気の向くままに〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉の視点を動かす。

 すでに時刻は夕暮れ時。家へと帰る者も多い中、街中では酒や女など夜の商売が始まろうとしている。家々には灯りがともり、基本的に灯りは使わず日が沈んだら寝てしまうカルネ村とはかけ離れたものを感じる。

 若い男女二人組が人気の少ない公園の茂みに入ったのを見て、思わずそこに視点を動かそうとしたが、すぐそばにソリュシャンがいるのを思い出し、さりげない風を装ってさらに視点を動かす。こっそり顔を盗み見たが、今の行為に気づいたかどうかはその顔からは分からない。ばれてないといいなぁ、と思いながら視点を進ませると――。

 

「おや?」

 

 ――こんな時間に墓地へと向かう、フードをかぶった人物が鏡に映った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 墓地の中を漆黒のフード付きマントをかぶった人物が進む。

 やがて一つの霊廟にたどり着くと中へと入り、石造りの台座の装置を作動させてその地下へと降りていく。

 そこは魂の安息を祈る場所とは全く異なる邪悪な空間であった。

 

「やっほー。カジッちゃん、いるー?」

 その声に赤いローブを着た痩せた男が物陰から姿を現す。

 

「クレマンティーヌか。首尾はどうだった?」

 

「ああ、いや、ダメダメ。ま~だ」

「ぬ? まだ、手に入っとらんのか」

「だぁってぇー。叡者の額冠獲りに法国に戻ろうとしたら、なんか急に王都に行ってこいなんて命令が来てさ。今、行って帰ってきたとこ」

「王都にだと?」

「そう。なーんかぁ、陽光聖典の連中が王国戦士長殺しに行ったのに、殺すどころか返り討ちにあって。しかも、そのリーダーが自殺もせずに捕虜になったっていうんだもん。下手に情報漏れたら大変だ、急いで殺してこい、って言うから急いで殺してきたの」

「王国戦士長ガゼフ・ストロノーフか……。確かに戦士としての腕前は英雄レベルだが、魔法に関しては全くの門外漢。そんな相手に、わざわざ自分たちから襲い掛かって逆にやられるとは。うわさに聞く陽光聖典も大したことがないようだな」

「まあ、エリート気取りのやな連中だからねー」

 

 嘲笑の顔を改め、カジットがクレマンティーヌに向き直る。

 

「まあ、そんなことはいいわ。それよりどうするつもりだ? これから、法国へ行って叡者の額冠を奪ってくるのか? 儂としては別にお主の計画、叡者の額冠とンフィーレア・バレアレを使って〈不死の軍勢(アンデス・アーミー)〉を発動するという事をせんでも、いいのだぞ」

 

 だが、その言葉にもクレマンティーヌは全く動じることなく、へらへらとした笑いを顔に浮かべている。

 

「んんー。そうだね。カジッちゃん頑張ってるもんね。……でもねぇ、それなしだと一体いつまでかかるのかなぁ?」

 

 その言葉にカジットが口をゆがめる。

 カジットはこのエ・ランテルで『死の螺旋』を行うために数年をかけて準備してきた。だが、まだそれが出来る段階ではない。儀式には大量の負のエネルギーが要る。実際に実行できるようになるには、まだまだ時間がかかる。今のままでは、ゆうにあと数年は要するだろう。

 カジットがクレマンティーヌの無茶ともいえる計画に協力する気になったのもそこに理由がある。〈不死の軍勢(アンデス・アーミー)〉を使って町中をアンデッドで埋め尽くせば、数年も待つことなく、すぐにでも儀式を開始できる。

 

「そういう訳で、もうちょっとの間だけ待っててね」

「ふん。もう一度聞くが、これからどうするつもりだ?」

「うーん。そうだねぇ。いっそ先にンフィーレアの方を攫っちゃおうか? 叡者の額冠は後で」

「ンフィーレアはまだ若いがこの街でも有名人だぞ。しかも祖母のリイジーは第3位階魔法まで使える魔法詠唱者(マジック・キャスター)な上に街の名士でもある。騒ぎになるぞ」

「んー。大丈夫じゃない? むしろ先に叡者の額冠奪って法国に追われながら儀式するよりいいと思うよ。それに、そのンフィーレアって薬師だから、たまに薬草取りに行くんでしょ。そこを攫っちゃえば当分の間はばれないんじゃない?」

 

 




 現在のクレマンさんはまだ法国に対して明確に裏切り行為はしておらず、裏切った後の潜伏先としてズーラーノーンに接触しているという設定です。

 シャドウデーモンが〈伝言(メッセージ)〉を使えるかどうか分からなかったのですが、とりあえず使えるという事で

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