Fate/Aristotle   作:駄蛇

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すいません更新が一日遅れました

fgoVRなるものが発表されたみたいですね
CCCイベが導入されれば検討します

今回は決戦前日の話となります


覚悟の前夜

 決戦の前日。

 初めての布団で睡眠をとった朝は、心なしか身体が軽くなった気がする。

 横を見ると、ライダーはすでに正座してこちらの覚醒を待っていた。

「ライダー、もしかしてまた寝てないのか?」

「いえ、主どののおかげでしっかりと休息を取ることができました。

 こうして待っていたのは数分ほど前からですので、お気遣いなく」

 凛とした様子で頭をさげるライダー。

 彼女が嘘をつくとは思えないし、休めたというのなら事実なのだろう。

 明日は決戦。

 やり残しがないようにまずは朝食……いや、時間的に昼食か。

 食事をとりながら考えをまとめよう。

 

 

 食堂は今日も今日とて賑わっていた。

 適当な席に座って食事をとる。

 なんだかんだ予選が終わってからきちんと食事をするのは今日が初めてではないだろうか?

 そこに、シンジが近づいてきた。

「やあ、由良。

 どうやらそっちもトリガーは揃ったみたいだね」

「シンジ……」

「昨日は確かに遅れをとった。

 けど、もう君に切り札がないのはわかってる。

 サーヴァントの情報もしっかり集めてるから、情報アドバンテージで勝ってるとも思わないことだよ」

『……相変わらず癪にさわる言い方ですね』

 ライダーの不満は最もだが、シンジの言い分にも一理ある。

 ライダーの真名がバレれば、シンジならその対抗策を講じられるだろう。

 こちらもこの1日でどこまで自分を鍛えられるかが重要になってくる。

「おや、これは久しい顔ぶれですね」

 突然声をかけられてそちらを向く。

 そこにいたのは一人の少年だ。

 予選の間、短い時間だが言葉を交わした記憶がある。

 シンジは目を丸くして彼の名前を口にする。

「なっ、レオ!?」

 ……そう、彼は『レオ』。

 レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイだ。

 彼は自然体なのに、見るものを圧倒する存在感がある。

 しかし、彼はあくまで友人に接するような柔らかさで話しかける。

「やはり、あなたたちも本選に来たんですね」

「レオのおかげだよ。

 君の言葉が予選通過のきっかけになったんだ」

 予選の時のレオの言動を思い出す。

 あのときは何を言っているのか全く分からなかったが、今ならわかる。

 彼が俺にアドバイスをしてくれていたのだと。

「それは、よかった……」

 あれ、気のせいだろうか、今一瞬レオの表情が曇ったような……

 いや、ちょっと待て。それよりも気にすることがあるじゃないか。

 レオの存在感に感覚が麻痺していたのか、彼の背後に立つ人物に気付くのが遅れてしまった。

 汚れのない純白の甲冑を見に纏い、帯剣しているその姿。

 隠しもせず漏れ出る、人の域を超越した力。

 明らかにサーヴァント……っ!

「……ガウェインですか?

 ああ、僕としたことが失念しました。

 ガウェイン。挨拶を」

「従者のガウェインと申します。

 以後らお見知りおきを。

 どうか、我が主の良き好敵手であらん事を」

 レオは自分のサーヴァントに挨拶を促し、サーヴァントはそれに応える。

 ……ガウェイン卿といえば、アーサー王伝説を円卓の騎士としてあまりに有名だ。

 伝承によれば、その力は君主であるアーサー王をしのぎ、手にした聖剣は王の聖剣と同格の威力を持つとされる。

 クラスはどう見てもセイバーであるし、彼ほどの有名な英霊なら弱点だって探すのに苦労しないだろう。

 レオはその真名を明かした。

 事の重大さがわかっていないわけではないはずだ。

 シンジのイスカンダルが勝手に真名を名乗ったのとはわけが違う。

 つまりこれは、レオの自信の表れだ。

 明かすものは全て明かす。

 その上で勝利するのが彼の日常なのだとしたら……

「ほほう、これは戦いがいのあるやつが現れたものだ」

 我慢しきれなかった、とでも言わんばかりにイスカンダルが勝手に実体化してガウェインと対峙する。

 見た目の傷は癒えているようだが、まだ万全には程遠いだろう。

 その行動にマスターのシンジはまたも騒ごうとするが、イスカンダルに口を塞がれて阻止されていた。

「あなたは?」

「余は征服王イスカンダル。

 此度はライダーとして現界した」

「イスカンダル……

 これはこれは、あの征服王と名高いアレクサンダー大王と対面できるとは光栄です」

「うむ、この聖杯戦争ではどいつもこいつも名前を伏せて戦う腑抜けしかおらんのかと思ったが、ガウェイン卿がいるとなれば話は別。

 これは戦う楽しみが増えたというものよ!」

「こちらも、征服王と相見える時が来るのを楽しみにしています。

 では、僕たちはこれで。

 どうか、悔いのない戦いを」

 丁寧にお辞儀して、少年と騎士は去っていく。

 残された俺たちはその背中を見送り、見えなくなったところでイスカンダルが豪快に笑いだした。

「これは、何が何でも勝ち進む必要が出てきたわい!

 明日の決戦では手加減なしで戦う事になるだろう! 悔いのないように準備をしておくことだ!

 ではゆくぞ坊主、いざアリーナへ!」

「今日は図書館って言っただろうが!」

「む、そうであったか。

 ではこの滾る闘志は明日の決戦でぶつけるとしよう!」

 そう言うとイスカンダルはシンジの襟を掴んで食堂を去っていった。

『……嵐のような方ですね』

「うん、そうだね」

 まさか、対戦相手に激励の言葉を受けるとは思わなかった。

 とはいえ明日はイスカンダルの言った通り決戦だ。

 泣いても笑っても、明日の戦いの結果で勝者と敗者が決まる。

 そして、言峰神父の言っていた『死』の意味も……

 

 

 食堂で考えた結果、アリーナに入る前に敷地内を探索することにした。

 シンジのことで頭が一杯になっていたが、勝ち進むにはシンジ以外のサーヴァントも倒さないといけない。

 当然、レオと当たることもあるだろう。

 なら、今の内に他のサーヴァントの情報を探すのも必要だという結論になったわけだ。

 気が早いのは確かだが、この探索がシンジへの勝ち筋にもなるかもしれない。

 校舎内はもちろん、運動場、弓道場と足を運んだ。

 ……結果だけを言えば、NPCと雑談を交わす程度でシンジの情報はほとんど手に入らなかった。

 他のサーヴァントの情報もそれだけでは有益かどうかわからないものがほとんどだ。

 ただ、マスターについてはいくつか気になる情報を得ることができた。

 ゴスロリの服を着た双子の少女の幽霊が現れる、とだけ口を揃えて言われるだけだったが……

 ダメ元で探索してみたわりにはそれなりの結果だったと思う。

「あとは、有力なマスターを潰しているマスターがいるから注意するように、か……

 校舎内での戦闘は禁止されていたはずだけど、誰かがそれを守っていないということか?」

『問題はそこではないかと。

 校舎内では一人マスターを殺しただけでもSE.RA.PHから致命的なペナルティがかかるはずです。

 それを何度も行うというのは、ペナルティが怖くないほどの手練れなのか、何か抜け道があるのかもしれません。

 一度教会に行ってみてはいかがでしょう?』

「言峰神父がいるところか……

 そう言えば一度も行ってなかったな」

『あの方に対してはあまりいい印象はありませんので、主どのが嫌であれば私も強制はしませんが……』

「行くだけ行ってみよう。

 不安要素を増やすことになるかもしれないけど、マスター潰しが本当なら警戒しておいて損はないし」

 などと言ってる間に、校舎を抜けて教会前の噴水広場に出た。

 ここは庭園にもなっていて、色とりどりの花が咲き誇っている。

 心を落ち着かせるには丁度いい場所かもしれない。

 そこに、教会に向かって黙祷を捧げている一人の老人の姿が見えた。

 白髪に加えて髭も蓄えた老人に弱々しい印象はなく、むしろまだまだ現役という風な様子だった。

「あの人は……づっ!」

 屋上で遠坂と初めて会った時と似たような感覚に顔をしかめる。

 予選で会ったかもしれないが、シンジのようにはっきりとは覚えていない。

 遠坂のときのように名前を思い出すこともない。

 学生のアバターが多いなか老人で軍服を身にまとったアバターだから、すれ違った程度でも印象に残っていたのだろうか……?

 しばらく遠くから眺めていたが、さすがに気付いた老人がこちらに振り向いた。

「おや、こんなところにマスターが来るとは珍しい」

「教会にいる言峰神父に会おうと思って来たんですが……

 すいません、何か邪魔をしましたか?」

「いや、ただの老ぼれの習慣のようなものだ。

 気にしなくても構わない。

 それより、言峰神父に用があると言っていたが、あいにくと彼は今は不在のようだ」

「そう、ですか」

 確か彼は教会にいると言っていたはずだが……

 ああ、常にいるとは限らないとも言っていたか。まさか本当に不在だとは思わなかった。

「何か用があったなら見かけたときに伝えておくが?」

「あ、いえ……

 気になる噂を聞いたので確認したかっただけなので、また自分で伺います」

「変な噂?」

「マスターを潰しているマスターがいるという噂です。

 言峰神父なら知ってるかと思って……」

「マスター潰しか。まさか……」

 老人は自分の背後に視線を向ける。

 すると彼の背後で霊体化していたサーヴァントが姿を現した。

「いやいや、いくら俺でも関係ないやつ殺してる暇はありませんってば。

 そもそも、情報はサーヴァントじゃなくてマスターって話じゃないっすか。

 ちょっとおたく、俺の評価下げるようなこと言わないでくださいます?」

 緑色のマントに身を包んだ青年は軽い調子でこちらに話を振る。

 老人はそんな彼をまっすぐ見据える。

「お前がそう言うなら信じよう。

 ただし、疑われるような行為をしたことは自覚してもらう」

「……あーはいはい。

 その話はさっきも聞きましたってば。

 他のマスターにいつまでも姿見せるのもなんなんで、俺は消えますよ」

 煩わしそうに手を振りながら青年は姿を消した。

「……………………」

 その一瞬、こちらを見た彼の視線は狩る側の人間のものだった。

 イスカンダルの威圧とは違う、純粋な殺意しかない視線は、ただ見られただけなのに背筋が凍るような感覚だった。

「えっと、わざわざ教えていただいてありがとうございました」

「この程度構わんよ。

 それにしても、先日会った青髪の少年とは随分と違う。

 やはり礼儀正しさは人それぞれか」

 老人が口にした青髪の少年というのに一人の友人を思い浮かべる。

「それ、たぶん俺の対戦相手です」

「おや、ということは君が由良くんか」

 ……やっぱりシンジはいろんなところで言いふらしているらしい。

「明日はもう決戦か。

 昨日彼と話していたとき、私と当たったときは軍隊で圧倒してやると言っていた。

 何かしらの召喚術があるだろうから用心しておきなさい」

「…………え?」

 老人は雑談のような軽さでシンジの情報を提供してくれた。

 もしかしたら彼には不要な情報だったのかもしれないが……

「シンジの対戦相手である俺に教えてもいいんですか?」

「ふむ、ブラフと警戒する前にこちらを心配するとは、君は余程純粋のようだ」

「あ、そうか……」

「心配せずとも先程言った情報は事実だ。

 老いぼれの相手をしてくれた礼と受け取ってくれて構わない」

 老人はそう言って校舎へと戻っていった。

 名前を聞きそびれてしまったが、もし自分が二回戦に上がれれば会う機会もあるだろう。

 ……対戦相手として当たるのは勘弁願いたいが。

 

 

 鍛錬を兼ねたアリーナ探索から戻り、マイルームで対面する。

「明日はいよいよ決戦ですね、主どの」

「ああ、そうだね……」

 明日、泣いても笑っても決着がつく。

 アリーナの時のような強制終了がないということに、無意識に身体が震える。

 その手を、ライダーはそっと握る。

「あちらの情報は十分集まってますし、逆にこちらの情報はほとんど漏れていません。

 今日1日は調べることに没頭していましたが、おそらくそこまで進展はないでしょう。

 それに、主どのの刀の扱いは日を追うごとに上達しています」

「ありがとう、ライダー……」

 決着がつくということは、どちらかが敗北するということ。

 敗北者がどんな末路を辿るのかまだわからないが、最悪の状況になることも覚悟はしている。

 ただ、記憶が思い出せず、戦う理由が見つからない今の自分は、こうして誰かと争う資格があるのだろうか……?

「ライダーは生前、何のために戦っていたんだ?」

「私ですか?」

「うん、ちょっと気になって」

「そうですね……

 私は兄上の命令に従って戦場を駆けていました。

 この軍勢を討てと命じられれば何が何でも打ち滅ぼし、ある地へ駆けつけよと命じられれば四六時中馬を走らせ馳せ参じる。

 強いて言うなら、私は兄上のために戦っていた、といったところでしょうか」

「兄上?

 ライダーにはお兄さんがいたのか?」

 尋ねるとライダーはハッとしてバツが悪そうに視線をそらした。

「あ、その、できれば真名に関わるので兄上のことについては忘れていただければ……」

「わかってる。そのことは追求しない」

「ありがとうございます。

 しかし、なぜいきなりそのようなことを?」

「記憶が取り戻せないなら、新しく理由を作るべきだと思うんだ。

 だから、戦う理由の参考になるかなって思って」

「私のようなものの理由が参考になればいいのですが……」

「もちろん参考になったさ。

 そうか、誰かのために戦うってことも理由になるよね。ありがとう、ライダー」

「力になれたのなら本望です!

 では今日はもう休みましょう」

「ああ、そうだね。

 おやすみ、ライダー」

「はい、おやすみなさいませ」

 やれることはやった。

 あとは小さな覚悟を決めて、明日の決戦に挑む。




次回、ついに征服王との決戦です
先に言っておきます。二話に分けます

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