Fate/Aristotle   作:駄蛇

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じぃじ来なかった代わりにじぃじがお年玉(孔明、他星4鯖)をくれました
限定殺は酒呑童子含めて全敗中なのでどこかで頑張りたいところです

一回戦も終盤、今回が決戦前の最後の戦闘となります


決死の前哨戦

 そして翌日、早々にアリーナに向かい真っ先に行ったのは『守り刀』の試用だった。

 おかげで礼装の効果を直接目で見て確認できた。

 スタンが機能することは無かったが、元々スタンは出来たら儲けもの程度に考えていたのだから、攻撃手段が得られただけで十分だ。

 それに、昨日みっちり稽古をつけてもらったおかげで、付け焼き刃ではあるが刀としてもそれなりに扱うことができそうだ。

「……………………」

 守り刀をデータにして身体に装備させたあと、息を整え、第二層の広場でシンジが来るのを待つ。

 トリガーを取って置こうという考えも一瞬よぎったが、万全の状態でシンジと戦うためにその考えは捨てた。

 ただ静かにその時を待つ。

「……来ましたね」

 ライダーの声に反応して眼を凝らす。

 奥からゆっくりと来るシンジの姿は余裕そのものだ。

「やぁ由良。

 怖じけずに待っていたことだけは褒めてやるよ」

「自分から言い出したことだからね」

「ふん、由良のくせに言うじゃないか」

「……坊主、こいつは以前より気を引き締めた方が身のためやもしれんぞ」

「はぁ?

 僕が由良に負けるわけないじゃん」

「そうだといいんだがなぁ……」

 イスカンダルは得物を引き抜き、『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』を出現させてその手綱を握る。

 その姿からは押しつぶされそうな圧がひしひしと伝わってくる。

 この状況で浮いているのはシンジただ一人だけだ。

 自分の勝利が不動のものだと信じて疑っていないのだろう。

 それを証明するほどの実力があるのも事実だ。

 だが、優劣の差がすぐに埋まらずとも、勝敗が不動のものとは限らない。

 それを、今日ここで証明する!

「ウォォォォォォォ!!」

 イスカンダルの雄叫びを皮切りに両者戦闘を開始する。

 まず最初に動いたのはイスカンダル。己の宝具である牛車を唸らせてこちらに突進を開始する。

 遅れてこちらも横に飛ぶことで突進を回避。

 ここまでは前回と一緒だ。

「ライダー、打ち合わせ通り」

「お任せを!」

 手短に意思疎通を済ませてお互い離れる。

「征服王イスカンダル。

 今こそその首、打ち取らせてもらう!」

「おうさ!

 それぐらいの覇気が無ければこちらも張り合いがないわ!」

 ライダーは()を番いイスカンダルに向かって放つ。

 それを難なく避けて、イスカンダルはその手に握るスパタでライダーの首を狙った。

「っ!」

 それを間一髪でかわしたライダーは体勢を立て直しながら弓矢で応戦し続けている。

 そう、最初は前回と同様弓矢で応戦してもらう。

 刀を使う瞬間は、俺が決める手筈になっている。

 下手をすれば勝敗を分ける重役だが、だからこそ彼女のマスターである俺が責任を持つ必要があるのだ。

 そう考えると、無様な姿は見せられないと自分を奮い立たせることができた。

「前みたいに逃げ回れよ、由良ぁ!」

「もう、この前の俺じゃない!」

 シンジが次々とコードを入力し、様々な攻撃でこちらを攻撃してくる。

 時に雷を落とし、時に鞭のようなものを振るってきたりと、まるで遊んでいるようだ。

 いや、実際遊んでいるのだろう。

 一撃一撃は確かに脅威だが、狙いは雑だからちゃんと見れば避けられないほどではない。

 臆せずにその間を縫うように突き進む。

「こっちに向かってきた!?

 くそ、舐めた真似を!」

 このままではマズいと思ったのか、弾丸だけに絞ってけん制してくる。

 先ほどよりは狙いを定めてきているが、連射速度はそれほどのため逆に避けやすくなった。

 これを好機だと解釈し、シンジに向かってまっすぐ走り出す。

「くそ、由良のくせにぃぃ! shock(64);!!」

 叫びながら一瞬で入力されたコードが実行され、再び弾丸が放たれる。

 今までのような端末経由のものではなく、礼装を使ったものだ。

 威力も先ほどとは比べるまでもなく強力。

 シンジにとっては苦し紛れの一撃だったが、攻撃に時間がかかると高を括っていたこちらにとっては完全に虚を突かれることとなった。

 この軌道は、避けられない……!

 とっさに守り刀をデータから物体に変換させ、弾丸に対して垂直になるように刀の腹を立てる。

 弾丸が刀にぶつかると、甲高い音と共に弾丸は明後日の方向に飛んで行った。

「な……っ!?」

「よし、いける!」

 こんな使い方をしていればすぐに礼装が壊れてしまうだろうが、今は気にしていられない。

 防御に関しては後日ライダーに教えてもらえばいい。

 意表を突かれたシンジは攻撃の手を止めてその場に立ち尽くしている。

 その隙は絶対に逃さない。

 一気にシンジに肉薄して、その刀を振り下ろす。

 昨日ライダーに指導されて体で覚えた一撃は一片の狂いのない軌道を描く。

「……っ!」

 しかし踏み込みが甘かった。シンジが後ろに引いたことで間合いに一歩分の誤差が生じる。

 たった一歩、その微かな誤差により刀はシンジの腕を薄く斬る程度に終わってしまった。

「う、うわぁぁぁぁ!

 腕が、僕の腕がぁぁ!!」

 それでもシンジは尻餅をつき、斬られた部分を掴んでうずくまる。

 このまま決着をつけられるかと考えがよぎったが、嫌な予感がしてライダーの方を見る。

「どうしたアーチャーよ!

 貴様の力はその程度ではあるまい!」

「油断をしていると足元をすくわれるものですよ!」

「言うではないか!

 なら、本気を出さざるをえない状況にするまでよ!」

 手綱を強く握り、チャリオットを引く牛に号令をかける。

 直後、チャリオットから凄まじい放電が始まった。

 ……まずい、素人にもわかるような魔力があのチャリオットに集まっている。

 あれが発動されればライダーもただでは済まないだろう。

「そうはいかない!

 コードキャストhack(16);実行!」

 守り刀に魔力を流して振るう。

 その動作がコードキャスト実行の合図となり、斬撃が衝撃波となりイスカンダルに直撃した。

「む、身体が……っ!」

 申し訳程度のダメージを与えると、チャリオットに集まっていたイスカンダルの魔力が暴走し、彼を硬直させる。

 これは、スタンが成功したのか?

「そうか、あの魔力の集まる瞬間がスタンの……

 今だ、『ライダー』!」

「はい!」

 クラス名を叫ぶ。それが反撃の合図となり、ライダーは弓を収めて刀に手を伸ばす。

 絶好の機会にSE.RA.PHからはまだ警告のみ。

 ここで決着をつける!

 数メートルの距離を跳躍してイスカンダルに肉薄し、肩から脇腹にかけて一閃する。

 その一撃が相手に認識される前に、さらなる追撃をしようと刀を翻し……

 

『――戦闘を強制終了します』

 

 再び、無機質で無慈悲な声が空間を支配した。

 2日前同様空間を圧迫されるような感覚の後、戦闘前の位置に戻された。

 ただし、それぞれの状態(バイタル)は正反対なものとなった。

 こちらがほぼ無傷なのに対して、シンジは斬られた場所を押さえてうずくまり、イスカンダルは決して軽視できない傷を負っている。

「約束、守ってもらうよ、シンジ」

「ぐ……覚えてろよ由良!」

「あ、ちょっと待て!」

 こちらの制止を聞かずにシンジはアリーナを離脱してしまった。

「心配せずとも、あの小童はまだしも征服王の方は約束は守るでしょう。

 それより、先ほどの戦闘はお見事でした。

 このライダー、感激いたしました!」

「ライダーが俺を信じてくれたおかげだ。

 戦闘が終わってすぐで申し訳ないけど、トリガー入手とその後の探索も頑張ってくれるか?」

「もちろんです、主どの!」

 

 

 ――そして、私は観測する。

 

 校舎に戻ってきたシンジは呼吸を荒くしながら廊下を早歩きで進む。

 彼のサーヴァントであるイスカンダルが用があると言って別行動をとったことも災いして彼の様子は荒れに荒れていた。

「くそ、くそくそくそ!!

 由良のくせに、由良のくせに!」

 電子世界ではある程度の技術さえあれば必要以上の痛覚は遮断することができる。

 だから斬られたところが痛むことはないが、それ以上に格下と思っていた天軒由良から傷を負ったという事実がシンジの中で傷以上のダメージとなっている。

「あら、その傷……」

 聞き覚えのある声が廊下の隅から聞こえてくる。

 見ると、そこに立っていたのは真っ赤な衣装が特徴的な少女だった。

「もしかして、彼にやられたの?

 東洋の天才クラッカー様が、無様なものね」

「な……っ

 これは、あいつに花を持たせてやっただけさ。

 これから僕のサーヴァントがあいつを八つ裂きにしてやるんだからね。

 一度ぐらいは活躍させてあげないと」

 慌てて表情を繕って対応する。

 しかし目の前の少女は意味深な笑みを浮かべたままだ。

「あら、優しいのね。

 あの程度の攻撃でへこたれてたのも演技だというのかしら? へっぽこさん」

「僕のライダーのヘタイロイは最強だ!

 本気を出せば、あんな奴は一瞬であの世行きになるんだからな……っ」

王の友(ヘタイロイ)、ね。

 さぞかしお強いんでしょうね。

 あなたの大事な征服王は」

「はははっ!

 僕と対戦する時になってから謝っても遅いからなっ」

 遠坂に真名を断定されたということに気付いていないのか、シンジは捨て台詞を吐いてその場を去る。

「……残念だけど、あなたと戦う事はないでしょうね」

 遠坂の呆れたような呟きが彼に届く事はない。

 マイルームに戻ってくると、自身のハッキングで豪勢なものに変換したソファーに乱暴に腰を下ろす。

 目の前ではいつの間にか戻ってきていたイスカンダルも同じように胡座をかいている。

「この僕が由良に遅れを取るなんて、そんなはずは……」

「事実であろう」

「ライダー、お前アリーナから帰ってきてからどこに行ってたんだよ!」

「気にするな、ちょいと野暮用というやつだ」

「ちっ、まあそれはいいさ。

 けど、僕が由良に遅れを取ったのが事実ってのは納得できないんですけど?」

「余も坊主も傷を負った。

 SE.RA.PHの仲裁があったから無効になったとはいえ、誰がどう見ようと我らの負けだ」

「由良のやつ、自分のサーヴァントをアーチャーだって騙してたんだぞ!」

「敵を欺くも戦術の一つだ。

 向こうの方が一枚上手だったということであろう」

「てめえ、どっちの味方なんだよ!

 図書室の本を改ざんしようとしたら止めるし、まさか手抜いたんじゃねぇだろうな!」

「手を抜いて倒せるほど容易い相手ではないわ!

 それに、これが決戦でなかったこと、トリガーは昨日の時点ですでに揃っていること、なによりまだ1日猶予があることを喜ぶべきであろう?

 この傷ならお前さんのコードキャストやアイテムを使えば決戦には治る。

 その代わり安静にしておく必要はあるだろうが、まあ明日は情報集めに終始してもよかろう」

「ぐ……確かに、まだ由良のサーヴァントの真名はわかってないけど。

 この僕があんなやつに……」

「くどい!」

 イスカンダルのデコピンがシンジの額にクリーンヒットする。

 その痛みに悶えるシンジを仁王立ちで見下げるイスカンダルは重傷を負っているとは思えない威圧感を放っている。

「坊主、いつまでそう言っているつもりだ?

 確かにあやつらは最初の戦闘でこそ生まれたばかりの赤子同然だったが、この二日間で見違えるように成長していた。

 ハッカーとしての腕ならお前さんの方が断然強いだろう。

 それは余が保証する。

 しかしな、それは向こうのマスターも重々承知で挑んできている。

 ハッカーとしの腕が劣るなら、それ以外の知力、体力を駆使してお前さんに並ぼうと必死に鍛えてきたのだろう。

 しかも、ハッカーとしての腕も磨きながら、だ」

「………………」

 イスカンダルの言葉は正しい。

 だが認めたくはない。

 そんな心境がシンジの中で渦巻いている。

「……真名がわかれば、お前は由良に勝てるか?」

「それはお前さんの頑張り次第だ。

 マスターが全力で立ち向かうのであれば、そのサーヴァントである余も全力でそれに応えよう!」

「……まあ、この僕にかかれば由良のサーヴァントの真名なんて簡単に見つけられるさ!」

 相変わらずの自信家な発言をすると、シンジはさっさと横になってしまう。

 そんなシンジの行動さえもイスカンダルはその大きな器でよしとして、彼自身も休息に入った。

 

 

 トリガーを入手してからも鍛錬のため、しばらくアリーナを探索してから校舎へと帰還する。

『あれ、主どのどちらへ?』

「地下の購買部だ。

 一応、シンジたちがちゃんと約束を守っているのか知りたい」

『なるほど、承知しました』

 食堂には昨日同様マスターやNPCで賑わっていた。

 そんな人の壁を縫うように奥の購買部の元に行くと、購買委員のNPCが気付いて手を振ってくれた。

「ああ君!

 説得してくれてありがとう!」

「ということは、シンジがここに来たのか?」

「いや、サーヴァントだけだったよ。

 なんか肩から脇腹にかけて刀で斬られたような切り傷を負ってるのに迫力に衰えがないんだけど、そんな大男が頭を下げるんだもん!

 周りからすごく注目されちゃったけど、おかげでもう盗難に遭う心配はなくなったからホッとしたよ!!」

 興奮しているのか、矢継ぎ早に状況を説明する彼女に苦笑いする。

 やはりシンジは来なかったみたいだが、ライダーの言う通りイスカンダルが約束を守ってくれてよかった。

 体を張った甲斐があるというものだ。

「あ、そう言えば名前言ってなかったね。

 私は天梃(てんてこ)(まい)

「……え?」

「だから、天梃舞よ」

 天梃舞……てんてこまい……てんてこ舞い?

「えっと、名前でいいんだよね?」

「私なんてまだマシな方よ。

 図書室管理人の子は間目(まめ)知識(ちしき)、アリーナを管理してる子の名前なんて有稲(ありいな)幾夜(いくよ)だよ?」

 ……その、なんというか、SE.RA.PHのネーミングセンスはある意味すごい。

「じゃあ、舞さんでいいのかな?」

「舞でいいよ。

 どうせ私の名前呼ぶ人なんて君ぐらいだけどね。

 ああそうだ、これ謝礼金代わりに受け取って。

 前から物欲しそうに眺めてたでしょ?」

 そう言って渡されたデータは、俺が買おうとしていた寝具だ。

 しかも二つ分ある。

「こんなことしていいのか?

 これだって売り物だろ?」

「私からの餞別ってことで。

 シンジの盗みが無くなればこれぐらいの売り上げすぐに元が取れるし。

 あ、もしかして一つの方が良かった?」

 この子は一体何を言い出すのだろうか。

 不意打ちで少し顔が赤くなったかもしれない。

 テンションが上がってるからだろうが、少し悪ふざけがすぎる気がする。

「い、いや、二つくれるとありがたい」

「あははは、わかった。

 じゃあ、今日からはこれでしっかり休んでね」

「ありがとう、助かるよ」

 何はともあれ、これは素直にありがたい。

 貯めていた資金はそのままアイテム補充に回せると考えると、しばらくはアイテムに困らなさそうだ。

 

 

 マイルームに戻り早速寝具を展開する。

 ベッドだと日本出身だろうライダーが慣れるかどうか不安だったが、気を利かせてどちらも布団にしてくれたようだ。

「これでゆっくり休めるな」

「はい、あの体勢で休んでいる主どのには心配していたので、私も安心しました」

 ライダーの方が心配だったのだが、まあそれもう気にしないでおこう。

 ひとまず目標の一つを達成したことでホッと胸を撫でおろす。

「あ、お待ちください」

「どうしたんだ?」

「今日の稽古が終わってません」

 …………………………………………………………はい?

「ら、ライダーさん?

 まさかここから剣の稽古が始まるわけですか?」

「はい、もちろんです!

 実践も重要ですがそれとは別に基礎の稽古も必須です。

 今日は疲れていると思いますので、半刻ほどに短縮しましょう」

「はは、ははは……」

 ライダーの天真爛漫な笑顔が怖い……

 天使のような悪魔の笑顔とはこのことか。

 完全に善意による一時間の刀の稽古は昨日ものよりハードなもので、終わる頃には布団に倒れ込んでいた。

 その目の前で、装備を解いたライダーも腰を下ろす。

 ……目のやり場に困るので注意してライダーの方を見る。

「明日は決戦前日となります。

 やり残したことがないようにして、万全の状態で挑めるようにしましょう」

「ああ、そうだね。

 ……クラスを偽った奇襲作戦でイスカンダルにダメージを与えることはできたけど、あの傷はどれぐらいで回復しそうかわかるかな?」

「向こうのマスターの魔力やコードキャスト、それからアイテムの使用量にもよりますが、おそらく1日あれば完治されるかと」

 つまり、決戦ではこのアドバンテージはなくなっていると考えた方がいいわけだ。

「なら、明日は色々やらないといけないな。

 ……ごめん、予定は明日考えるから今日はこのまま寝ていいかな」

「はい、ゆっくり身体を休ませてください、主どの」

 ライダーの微笑みに見守られながら目を閉じ、静かに眠りについた。




天梃舞のネーミングは時間かけたものあって割と気に入ってたりします
EXTRAの購買委員は対戦相手が変わるごとに男子になったり女子になったりしてましたが、今作では基本的に彼女が購買委員として登場します

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