Fate/Aristotle   作:駄蛇

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新年あけましておめでとうございます
確定は騎を引いて無事ドレイク姐御を迎えることができました

今年も更新が滞らないように気を付けていきたいと思います


避けられない衝突

 翌日、再び朝を迎える。

 寝ぼけ眼で身体を起こして伸びをすると、昨日と同じくライダーは正座でこちらを見上げていた。

「おはようございます、主どの!

 今日も一日頑張りましょう」

「うん、おはよう。

 ライダーもよく眠れた?」

「四半刻ほど休ませてもらいました」

「四半刻って……30分!?」

「英霊はマスターからの魔力供給さえあれば食事や睡眠の必要はありませんから」

「それは今の僕らも一緒だ。

 それでも僕らが食事や睡眠をとっているのは、精神面の疲労を回復するためだ。

 ライダーだってわかってるだろう?」

「十分承知しています。

 ですがこれは体質的なものでして、硬い床で寝るのは戦の時を思い出してつい短い時間で目が覚めてしまうので、治すのは難しいかと……」

 ……これは、一刻も早くベッドか何か用意しなければいけない。

 マスターを守るのがサーヴァントの役目なら、サーヴァントが万全で戦闘を行えるようにするのがマスターの役目だ。

 今すぐどうにかしたいのはやまやまだが、ここまでの経験からしてすぐには難しい。

 長時間のアリーナ探索は疲労するのはもちろん、シンジとの遭遇率も高くなってしまう。

 加えて、もし一つ購入できたとしてライダーが譲るのは目に見えているから、必然的に二つ購入するから資金も大量に必要だ。

 決戦前までには用意したいが、アイテムの備蓄も考えると相当無理をしないといけないだろう。

「それを含めて、アリーナに向かう前にすることをまとめないとな……」

 昨日はトリガーの入手、シンジのサーヴァントの情報獲得など、色々と有益なものとなった。

 しかし、それで満足してはいけない。

 シンジのサーヴァント、イスカンダルは『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』を宝具の一端だと言っていた。

 つまり、最低でもあと一つ宝具を持ち合わせている。

 そしておそらく、そちらが切り札だ。

「イスカンダルの宝具に関する情報を集めないといけないな」

「では、図書室に向かいましょう。

 真名がわかっていることですから、糸口としては十分です」

「ああ、そうだね」

 マイルームを出て図書館に向かう。

 引き戸を引こうてした時、見覚えのあるツインテールの少女と顔をあわせる。

「遠坂……

 そっちも情報収集?」

「あら、天軒くん。

『も』ってことは、貴方も相手サーヴァントの真名探し?」

「あー、いや、ちょっと違うかな。

 真名は向こうがバラしてくれたから」

「真名をバラした!?」

 さすがの遠坂もそんな返しが来るとは思ってもみなかったのだろう。

 素っ頓狂な声を出して周囲の視線を集めることになった。

 集めてしまった視線はもう仕方ない。

 お互い自分の情報に直結するわけではないから、図書室に引き戸を閉めるだけでそのまま続ける。

「それってブラフじゃないかしら?」

「えっと、サーヴァント自身が自分のことをイスカンダルって言ってたんだけど、宝具にゴルディアスって名前があったし、シンジが本気で焦ってたからたぶんブラフではないと思う」

「宝具の名前を偽ってる可能性もあるけど、間桐くんの様子が本当なら嘘じゃないかもしれないわね」

 ……さすがにシンジのことが不憫に思えてきた。

「まったく、サーヴァント自身が自分の正体言うって……

 どうぞ殺してくださいと言ってるようなもんじゃない。

 まあ、相手が本当にあのイスカンダルなら死因は病だから戦闘には生かせないけどね」

「仮に名前が嘘だったとしても、実力は本物だったよ」

 今でも思い出せば背筋が凍る。SE.RA.PHの仲裁がなければおそらくここにはいないだろう。

「それで、間桐くんのサーヴァントについてさらに詳しく調べるためにここにきた、と」

「宝具が何個あるかわからないし、可能性がある情報は多いに越したことはないと思って。

 参考までに聞きたいんだけど遠坂ならどういうとこから調べる?」

「そうね……アーサー王のエクスカリバーほど有名ならやりようはあったけど、イスカンダルの史実を片っ端から調べるしかないかしら。

 史実から関連したワードも調べた方がいいかもしれないわ」

「つまり、しらみ潰ししかないってことか……」

「有名なものならゴルディアスの結び目やブケファラスね。

 ある程度絞ることはできるけど、彼は個でも軍でも逸話はいろいろあるし、諸説ある、なんて言われてるものも含めたらそれこそモラトリアム中に探すのは難しいと思うわ」

「まあ、覚悟はしてたけど……」

 これは予想以上の難関になりそうだ。

 そう結論を出しかけたが、遠坂から返ってきたのは違った答えだった。

「数が多いなら、優先順位を決めるのよ。

 まずは彼の戦い方とか、人となりとか……

 そういう精神面を知れば、宝具の効果はわからずともどんな攻撃をしてくるかはわかってくるはずよ」

「そうか……

 ありがとう、そうしてみるよ」

 遠坂からのアドバイスをもらい、図書室の扉を開ける。

 中では多くのマスターが思い思いの本を探して行き交っていた。

 俺もその中に入り、膨大な本の中から目的の本を探す。

「って、どこを探せばいいんだ……?」

 ジャンルごとに別れてるとはいえ、英霊だけでも古今東西様々な本が並んでいるこの中から探すとなると、それだけで日が暮れそうだ。

「まあ実際は日が暮れることはないだろうけど……っと!」

 突然戸棚が揺れ、こちらに少し傾いてきたので慌てて支えた。

 反対側にいる誰かが少し乱暴に本を戻したのだろうか?

『だ、大丈夫ですか主どの!?』

「大丈夫、少し驚いただけだから問題ないよ」

 特に大事には至らなかったのでよかったが、その拍子に本が何冊か落ちてしまった。

 元に戻そうと落ちた本を拾い上げると、その内の一冊に目が止まる。

「これ、イスカンダルに関する書物だ」

『素晴らしい幸運です!

 早速拝見しましょう』

 ライダーに促され、他の本を片付けてから中身を確認する。

 ――アレクサンドルス大王はファランクスとヘタイロイを主戦力に鉄床戦術を行っていた。

 膨大な情報量の中からその一文に目をつけ、さらに情報を探る。

 ヘタイロイは重装騎兵の一つで、ギリシャ時代のマケドニアで見られた集団のこと。

 ギリシャ文化圏の重装騎兵に比べると守りが薄く、機動性に重きを置いた装備が特徴。

 そしてファランクスとは、槍を持った重装歩兵の密集陣形のことのようだ。

 一通り調べてみたが、イスカンダルの優れた軍略と、彼の率いた軍隊に圧倒されるだけだった。

「やっぱり宝具を探すのは一筋縄ではいかないな……」

『伝承を元としているとはいえ、そのままの効果で宝具となるとは限りませんから……』

「ライダーの宝具もそうなのか?」

 言ってから、漏洩を防ぐためにライダーが宝具の情報を伏せているのを思い出した。

『いえ、それぐらいなら大丈夫です。

 ……そうですね、今の私の宝具の一つは、伝承が一つの集合体として宝具に昇華したものです。

 他にも、技が宝具の域まで昇華したものや、固有結界と言った類の宝具も存在します』

「固有結界?」

 聞き覚えのない名前に首を傾げる。

『心象風景の具現化。

 簡単に言えば、位相がずれた場所に新たな世界を作り出し、対象者をそこに引きずり込む大魔術です。

 キャスターのような高レベルの魔術を扱うサーヴァントがこの類の宝具を持つことがあるので、キャスター戦では注意しましょう』

「そうか……」

 ……やっぱり、説明を聞けば似たようなことを以前聞いたことがあるような気がする。

 一体だれから聞いたのだろうか……?

 

 

 日付が変わり一回戦の4日目。

 ついに決戦まであと3日。

 折り返し地点を通過した。

 資金調達も順調に進み、今日アリーナで稼げば一つぐらいなら寝具も購入できるだろう。

 などと考えながらマイルームを出ると、端末に第二層の解放と二つ目のトリガー生成の通知が入る。

 残り3日のうちに宝具の情報と共にこのトリガーを所得しなければならない。

「イスカンダルの情報も集まってるし、今日は直接アリーナに行こうか」

『はい、そうしましょう』

 ライダーの了解も得てアリーナへ足を運ぶ。

 どうやら、シンジはまだアリーナにはいないようだ。

「新しい階層だし、シンジが来る前に探索を進めよう。

 かち合うにしても、場所は一層の時みたいに広いところに誘い込みたい」

 いつもより速足でアリーナを突き進む。

 おかげで新たな礼装を手に入れることはできたが、丁度そこでアリーナにシンジが入ってきてしまった。

「どうしますか、主どの?」

 もちろん、ここで立ち向かうのも手だ。

 しかし、ライダーの弓だけではイスカンダルを牽制できないことは前回の戦闘でよくわかった。

 このまま弓だけの戦闘をライダーに強要すれば、下手をすると次の戦闘では負ける。

 戦うとすれば、抜刀をして全力を出してもらうことになるだろう。

「……今日は引こう。

 今日を逃せばあと2日だけど、逆に言えばまだ2日ある。

 それまでにトリガーを入手すればいい」

 できれば、次の戦闘は決戦まで先延ばしにしたい。

 その旨を伝えるとライダーはしばし考え込み、そして微笑んだ。

「わかりました。

 今回得た礼装を試せないのは残念ですが、戦には引き際が重要なのも事実です」

「ありがとう……」

 シンジに遭遇する前に手早くリターンクリスタルを取り出し、アリーナの扉前へと転移する。

 これで今日はもうアリーナに入ることは不可能となった。

 望まぬ形でアリーナ探索は終わってしまったが、かといってすることがないわけではない。

 まずは消費したアイテムを購入しに地下へ向かう。

 地下の食堂には通常の学校生活のように振る舞うNPCが多く見受けられるが、ちらほらとマスターらしき人物も会話の輪に加わっている。

 予選の時の名残かとも思ったが、そうでもないらしい。

 聞こえてくる内容は英霊の話題や目撃情報がほとんどだ。

「そうか、NPCから情報収集するのも方法の一つなのか」

『逆に言えば、こちらの情報もNPCからバレる可能性もあるということですね。

 今後の参考にしましょう』

 霊体化したライダーの言葉に頷きながら、食堂奥の購買に歩みを進める。

 購買委員として対応してくれるNPCからアイテムを購入すると、向こうから意を決したように話題を振られた。

「ねぇ、君の対戦相手ってあの間桐シンジだよね?」

「そうだけど、どうかしたのか?」

「いやさぁ、あいつのサーヴァントすごい手グセ悪いのよ。

 金ならあるだろうに払う気ないし……」

「つまり、シンジのサーヴァントが盗みを働いてるってことか?」

「盗みではないわ!」

 怒号とともにここの空気が一変する。

 見れば、そこにはシンジのサーヴァントであるイスカンダルが腕を組み佇んでいた。

 視線をずらせば、シンジもその隣に立っている。

「闇に紛れて逃げ去るのなら匹夫の夜盗。

 凱歌とともに立ち去るのなら、それは征服王の略奪だ」

「こ、ここにはここのルールがあります!

 こ、今後もアイテムを盗むのなら、金輪際あなた方のアイテム使用権限を制限することも検討しますよ!」

「なんだとぅ!?」

「ひっ!」

 イスカンダルの素っ頓狂な声に店員は店の奥に逃げてしまった。

 まあでも、2メートルを超える大男と対峙するだけ立派だと思う。

 そういう自分は、この数日間だけで結構肝は座ったようだ。

「……購買委員の言うことはもっともだと思いますよ」

「む、そちらは店主の言い分に賛同するのか?」

「はい、まあ……

 一応それがルールなわけだし。

 それに、シンジもアイテムが使用不可になるのは避けたいだろう?」

「はぁ? なに由良が生意気言っちゃってんの?

 第一、僕たちがアリーナに入ってきたのを知ってコソコソと逃げた臆病者が僕に刃向かうなよな!」

『こいつ、引き際もわからない若造が主どのを愚弄するなど……っ!』

「ライダー、抑えて」

 小さな声でライダーを制するが、爆発寸前だ。

 このままではここで戦闘になりかねない。

 かといって、購買委員の悲痛な訴えを無視するのもなんだか気がひける。

 彼の様子からして初日から悩まされていたのだろう。

 そして、迷惑とわかっていながら俺に相談してきた。

 我ながらお人好しだとは思うが、できれば彼の期待に応えたい。

「わかった、じゃあこうしよう。

 明日、アリーナ第二層の広場で待つ。

 シンジたちは好きなタイミングで来てくれて構わないから、そこで俺たちと戦闘をする。

 その結果で決めよう」

「……へぇ、そういう条件を提案するってことは、僕に勝つつもりでいるんだ。

 二日前に無様に這いつくばっていた凡人が言うねぇ!」

「俺も、ただダラダラと時間を過ごしてきたわけじゃないからね」

「ふん、ならその挑戦受けるよ。

 まあ、その覚悟に免じて、もし僕のライダーに一太刀でも入れることができれば君の勝ちでいいよ。

 明日、怖気づいて逃げるなよ?」

 高笑いしながらシンジは食堂を後にする。

 イスカンダルは去る前にその大きな手で俺の背中を叩いた。

 いきなりのことで驚き、ライダーも思わず実体化して抜刀しそうになる。

「貴様……っ!」

「なぁに、そちらのマスターの覚悟を讃えたまでよ。

 他人のために何かをするのはそうそう出来ることではあるまい。

 うちのマスターにも見習ってもらいたいものよ!

 ではまた明日会おう!」

 どこまでも豪快な大男はそのまま霊体化して姿を消してしまった。

 背中の痛みに顔をしかめるが、しばらくすれば痛みは引く。

 それよりも、まずするべきことがある。

「ごめん、ライダー。

 たぶん明日、ライダーには抜刀して戦ってもらうことになる。

 決戦まで引き伸ばせなくてごめん」

「何を言うのですか、主どの!

 他人のために動く主どのの姿に私は感動しました。

 やはり、主どのは素晴らしい人です!」

「……ありがとう」

 絶賛してくれるライダーの言葉に恥ずかしくなってくるが、こんな自分に信じてついてきてくれる彼女には感謝で一杯だ。

 イスカンダルがいなくなったのを見計らって、購買委員も奥からひょっこり顔を出した。

「本当にありがとう、私みたいなNPCのために……」

「まだ解決したわけじゃないし、お礼はまだ早いって。

 けど、必ずシンジには言い聞かせるから安心してくれ」

「うん、君なら出来るって信じてるよ。

 向こうが盗みを止めてくれたら、何かお礼するから!

 ……ところでさ」

「どうしたんだ?」

「君のサーヴァント、あれ君の趣味……」

「違うからな?」

 ……ライダーの実体化は本当に困る。

 主にこちらの風評被害的な意味で。

 念押しはしたが疑わしい眼差しで見送られたので絶対誤解されたままだろう。

 仕方ないと割り切って、今はマイルームで作戦会議だ。

 

 

 マイルームに戻り、まず椅子に座る。

 なんだかんだここの椅子を睡眠以外で使ったのは初めてかもしれない。

 睡眠をとるほど疲れてはないが、少しは休憩を挟みたい。

 さすがにライダーも少しの休憩なら文句は言わないはずだ。

「主どの、まだ休むには早すぎます。

 起きてください」

 ……どうやら、俺のライダーは妙なところでスパルタらしい。

 机にうつ伏せていた身体を起こしライダーと向き合う。

「まず主どのが入手した礼装の確認をしましょう」

「ああ、確か『守り刀』っていう刀だったはずだ」

 取り出して実体化してみると抜身の刀が現れた。

 ライダーの刀に比べれると長く感じるが、普通の日本刀の長さと同じぐらいだろうか。

「効果はダメージとスタン効果ですか。

 スタンに関しては条件が難しいので主どの自身の攻撃手段程度に考えてくれればよろしいかと」

 ダメージは微々たるものだが大きな収穫だ。

 これでライダーだけじゃなく俺も戦いに参加できる。

「ではお立ち下さい」

「え?」

「礼装はコードキャストを発動するアイテムですが、この礼装はそれなりの強度もありますし、魔力を消費せずに直接斬りかかることもできますよ」

「ま、待ってライダー。

 いくら頑丈だからって素人が使えば簡単に壊れるだろう?」

「ご安心を!

 刀の扱いなら私にお任せください!

 今日1日で主どのが刀を扱えるところまで仕上げてみせましょう!」

「そういう意味じゃなくて……」

「あ、まずは型からですね。

 私が教わった流派は短い刀身を使ったものなのでこの礼装では再現できませんが、基本ぐらいなら私にも教えられます!」

 マズい。どうやらライダーの中で変なスイッチが入ったらしい。

 一旦落ち着いて貰おうにも半ば強制的に刀の素振りが始まってしまった。

 

 

「――最初に比べればずいぶんマシになりましたね。

 今日はここまでにしましょうか」

 ライダーの許可が出てその場に仰向けに倒れた。

 時計の針が動いていないから体感でしかわからないが、丸一日みっちりしごかれた気分だ。

「お疲れ様です、主どの」

 ライダーが覗き込むそうに微笑んでくる。

 ……労ってくれるのはありがたいのだが、見上げる状態で彼女と接するのは目のやり場に非常に困る。

 疲れた身体に鞭を打って無理やり起き上がり、ライダーと向き合う。

「明日はよろしく頼む」

「はい、このライダーにお任せください」

 彼女の明るく前向きな性格には助けられてばかりだ。

 若干暴走することがあるのも今回わかったが、それも彼女の魅力の一つだろう。

 決戦前に避けられない戦闘を挟むことになったが、後悔先に立たずだ。

 今はゆっくり休んで明日に備えよう。




ユラ ハ カタナ ノ ツカイカタ ヲ オボエタ!!

ということで忠犬の暴走その1です(何度あるかは未定)
書いてるときは散歩中の犬に主導権を握られてる描写が浮かんで楽しかったです

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