Fate/Aristotle   作:駄蛇

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メッフィーのセリフって脳内で子安ボイス再生しながら書くと「ぁぃぅぇぉ」が乱立しすぎるから調整が難しいですね
書いてるときは楽しいんですが


悪魔への要請

 ――そして、私は観測する。

 

 アリーナを模した結界。そこに響き渡る悪魔の笑い声。

 奇声とも取れる声を発する狂人は地面に降り立つとすぐさま跳躍し、立ちすくんでいたアサシンに襲いかかる。

「パァッハァッ!!」

「ちっ!」

 言葉としての体裁を整えてない奇声とともに振り下ろされた巨大なハサミをアサシンはすんでのところで回避するも、反撃に転じられずに距離を開ける。

 いつの間にか少女の髪の長さも一般的な長さに戻り、重力に逆らって蠢く様子もない。どうやら魔力消費を懸念して宝具を解除しているようだ。

「で、あるならばぁ! まだまだ行きますよぉ!」

 四つん這いからの地面すれすれを滑空するような跳躍で迫る。その姿はさながら黒光りする頭文字Gの昆虫のようだ。

 アサシンもその姿に何かしらの嫌悪感を抱いたらしく、眉間にしわを寄せ、迫りくる道化師を排除にかかる。

「絶痛に(わら)え――」

 懐から投擲剣を取り出し、迫るキャスターに向けて放つ。

妄想感電(ザバーニーヤ)

 弾幕のように投げられた投擲剣には彼女の宝具が込められており、あたりに紫電を撒き散らしながらキャスターの逃げ道を塞いでいく。

 そして各々の投擲剣から発せられる紫電はお互い繋がり合い、弾幕と弾幕の間をまるで網のように張り巡らされた結果、少ない隙間も完全になくなってしまった。

 勢いの乗ったキャスターは今から急旋回して回避することは不可能。その手握る得物で投擲剣そのものは弾けても、その剣が纏う電撃までは防ぐことはできない。

 そのはずだが、悪魔の顔から笑みから変わることはない。

「きひひひっ!

 コードキャスト、add_invalid();起動ォ!!」

 紫電が悪魔の身体を襲う刹那、彼の背後から現れた小さな棺桶が淡く光り出し、半透明な壁が悪魔を守るように展開し雷撃を防いだ。

「なん……っ!?」

 目の前で起きた予想外の展開にアサシンの反応が遅れ、さらに己の宝具によって若干動きが鈍っていたことでキャスターが懐に飛び込むのを阻止することができなかった。

 僅かな隙をこじ開けるように肉薄したキャスターは、アサシンを挑発するように自身の持つハサミをチラつかせながらゆっくりと開く。

「舐め、るなぁ!!」

 しかし彼女も英霊として呼ばれたサーヴァントの一人。回避は不可能だと判断するとすぐさま攻撃で相殺しようと魔力をさらに消費する。

「血肉を穿て。狂想(ザバー)――」

「それ、頂きますねぇ」

 アサシンが右手を突き出して放とうとしたのは骨を改造した白く歪な槍。

 ライダーの一閃を防ぐそれならばキャスターの攻撃を防ぎつつ反撃することも可能だろう。とっさの判断であるというのによく考えられたアサシンの対処は、しかしそれさえもキャスターの予想の範囲内でしかなかった。

 黒いローブを翻し右手を突き出したのを確認したのち、あろうことかハサミを手放したキャスターは、虚空から一本の棒を取り出す。

 片方が小さく二又に分かれ、反対側には鳥を模した装飾が施された杖。二人のウィザードが協力して作り上げ、『セトの雷』と名付けられたその概念礼装が、悪魔の手によって振るわれた。

 歪な白い槍と概念礼装の杖が打ち合う。

『特定の行動を起こしている相手に打ち付ける』という条件を満たした概念礼装は内蔵された力によってアサシンを雷撃が襲う。

「が、ああぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁぁっ!?」

 その場にうずくまり絶叫するアサシン。その腕は薄く焦げはしてもそれほど深刻なものには感じられない。この痛みは、受けた本人にしかわからないものだ。

 行動を封じ、もし破れば激痛を伴うこの概念礼装の効果が適応されるのは『特定の行動』を起こしている最中のみ。

 それはつまり、この礼装の効果が適応された直後はまだ『特定の行動』をしている途中であるということ。ならば、こうなるのは必然。

 今頃、彼女は右腕を何度もナイフで刺されるような、ぐちゃぐちゃにかき回されるような、想像を絶する痛みに悶えていることだろう。

 それほどまでに強力な効力であれば、使用者にも負担がかかるのは当然である。

「きひっ、ひひ……」

 紫の悪魔は相変わらず笑みを浮かべているが、その表情は引きつっていた。

 とはいえ、アサシンに比べれば動けないというほどではないだろう。その証拠に一度手放したハサミをもう一度手に取り、ゆっくりと近づいていく。

 未だ痛みでうずくまるアサシンに回避は不可能。

「ちっ、戻れアサシン!」

 だが、これは聖杯戦争。自身のサーヴァントをサポートするべくアサシンのマスターがコードキャストを起動し、魔力の弾丸でキャスターを牽制する。

 その隙にアサシンは転がり込むように黒衣の男のもとまで退却した。

「くそっ、何がどうなっている!?

 サラ・コルナ・ライプニッツはどこへ行った!?

 さっきの詠唱はなんだ!?

 なぜサーヴァントがコードキャストを使える!?

 そもそも、貴様は三回戦の時点で天軒に倒されたはずだろう!?」

「んふふふ、いいですねぇ。そういう反応ワタクシ大好物です」

 珍しく動揺を隠せないでいるユリウスの姿にキャスターはケラケラとあざ笑う。

「まあ久々の登場で気分もいいですから、一つ一つお答えするのも一興ですかねぇ。

 とは言っても、あなたの質問は一つの答えで説明がついてしまいますが」

 ゆらゆらと左右に身体を揺らし相手を煽るキャスターは突然天を仰ぎ、まるで演劇でも行うかのように語り出す。

「ワタクシはあの少年に倒された直後、元マスターが用意していた棺桶型の礼装の中に保管されていました。

 私の霊基が破壊されると自動的にそうなるようプログラムされていたのでしょう。

 そして窮屈な空間で耐えること数週間! ついに復活の時ィ!

 元マスターが先ほど唱えた詠唱は、聖杯戦争でサーヴァントを召喚し契約を交わす際に用いるものを改良したもの。どうやら魔術を学ぶ際にどこかで知識として蓄えていたのでしょうねぇ。

 それにより、ワタクシは元マスターの身体を依り代としこうして舞い戻ったのです!!」

 わざわざ魔力を無駄遣いし、背後に小さな爆発や紙吹雪を起こしてまで演出に凝った説明。

 ユリウスはその光景に眉をひそめつつも、説明の内容を冷静に分析していく。

「自身を依り代とする英霊の召喚……いや降霊か。ならばその肉体、テクスチャを変えただけでサラ・コルナ・ライプニッツのものだというのか?」

「ええ、その通りです。身体の主導権など諸々はワタクシのものですが、意識だけは共有していますよぉ。なんなら、積もる話でも交わしちゃいますか?」

「ほざくな」

「あら残念。ですがまあ、貴方の言う通り見た目は変わっても魔術回路はそのままですので、コツはいりますが元マスターが使っていた魔術もコードキャストも使えますよぉ」

 右手を振ってキーボードを展開する様を見せつける。と同時に、左手で懐中時計を数個放り投げる。

「もちろん、ワタクシ自身の魔術もぉ!!」

 道具作成のスキルによりあらゆる魔導器を作成可能な彼が作ったそれは、次の瞬間爆発とともに破片が周囲に飛散した。

 とっさにコードキャストでアサシンを庇うように防護壁を展開するユリウスだが、そのせいでアサシンともどもその場で足止めを食らう。

 その隙にすさまじいスピードで背後に回り込んだキャスターがその手に持つハサミを横薙ぎに払う。

「っ、断想体温(ザバーニーヤ)!!」

 サーヴァントはマスターを攻撃できない、というルールは存在するが、そのルールが適応されるのは決戦場のみ。

 当然この空間ではそのルールは適応されない。

 ゆえにキャスターのハサミはユリウスの首を目がけて振るわれた。

 キャスターを止めることも、ユリウスが自力で回避することも不可能だと判断すると、即座にアサシンは肉体を硬化させて自らが盾となる。

 しかし、帽子を被った道化師は待っていましたと言わんばかりに歓喜の表情を浮かべた。

「いただきまぁぁぁぁす!!」

 ハサミを虚空に仕舞い込み、セトの雷をその手に握って振り下ろす。

 硬いもの同士がぶつかり合う音と共に再び雷撃がアサシンを貫いた。

「が……っ! なめ、るなぁぁ!!」

 先ほどと同じ激痛が全身を襲い、立っているのも厳しいはずなのに歯を食いしばり、別の痛みで誤魔化しながらキャスターを蹴り飛ばした。

 執念ともいえるその攻撃にキャスターは虚を突かれたようで、とっさにハサミで防御しつつも道化師の顔は驚きの表情を浮かべていた。

 だが概念礼装による力は絶対だ。激しい痛みに抗うことができるのはよくて数秒。すでに宝具は解除されている。

 これで数日間ラニのバーサーカーが放った宝具にさえ耐えきった鉄壁の守りは展開することはできない。

「これで二つ目。わかっていれば我慢できないことはないですが、思ったよりこちらへのフィードバックも無視できませんよぉ、これ」

 相手に悟られない程度に身体の調子を確かめながら、この肉体の本来の持ち主に向かって恨み節を垂れる。

『それでも、お前ならやれると思うがな』

 脳内に響くもう一つの声は本来の身体の持ち主であるサラのもの。

 肉体はキャスターの主導権ではあるが、意識まで失ったわけではない。であるならこのように会話することも造作もない。

 対して、アサシンも自分の身に起きている状況を分析し始める。

「ユリウス、どうやら翁の御業を二つ封じられた。使おうとすれば魔術回路が焼けてしまいそうな痛みだ」

「あの礼装にseal系のコードキャストでも内蔵されているのか?

 それ以外の行動に支障は?」

「今のところは、ない。封じられた宝具を使おうとした場合だけ痛みがある限定的なものだ」

「となると効果は限定的な分かなり強力と考えるべきか。

 このタイミングでそんな礼装を持ち出したとなれば、相手の狙いは宝具をすべて封じることだろう。極力宝具の使用を控えて殺せ」

 ユリウスの指示に頷き、アサシンはローブを脱ぎ捨てる。これまでは見た目だけはアサシンらしく身を晒すのを避けている節があったが、それどころではないと判断したのだろう。

 投擲剣でけん制しつつその俊敏さを活かしてキャスターへ迫ると、今度は投擲剣を手に握ったままインファイトへ移行する。

 その攻撃をいなし、ときに反撃しつつ、意識の共存によりキャスターとサラは念話のように声を出さずに頭の中で会話を行う。

『あらゆる手を使ってセトの雷にインプット出来たザバーニーヤのデータは全部で15種。残り3種はわからず終いだが、全部が全部攻撃に転用できるものとは限らないだろう。

 中には断想体温のような防御特化のものや索敵系の業があってもおかしくない。

 そっちはどうしようもないから、お前はできる範囲で15種全部封印しなさい』

『き、きひっ、自分の言葉に矛盾が生じているのはわかっていますか?』

 サラの容赦ない命令にはキャスターの笑みがわずかながら崩れる。

『そもそも、自分の身体をワタクシに差し出していいんですかぁ?

 ワタクシあのライダーのマスターを結構恨んでるんですよ?

 このまま敵前逃亡してそちらに向かう、なんてことも……』

『それならそれで仕方ないな』

 彼女の声は穏やかだった。だがそれは諦めではなく確信に近いもの。

『だが、私はお前を知っているぞ。

 こういう時のお前はちゃんと主人の言うことを聞いてくれるってことをね』

『……ワタクシが?

 元マスターの貴女を裏切ったのにですか?』

『お前と最初に話した時点でそうなることはわかっていたんだよ。お前は聖杯戦争より、私との化かし合いを楽しもうとしていることぐらいはな。

 私の起源は『対話』。

 会話からその人間がどういうやつなのか知るのは、私が一番得意なスキルよ』

『……随分と自分のスキルに自信があるようで』

『間違っていればそれまでだ。

 だが、お前は自分が思っている以上に素直な性格だと思うぞ?

 溢れる狂気にそれが隠れてしまってたり、何かを企んでいて隠し事をしているだけで、口に出した言葉はふざけた言動だとしても嘘偽りはなく、基本は真実を語っている。

 たまに煽る目的でわかりきった嘘をつくことはあっても、それはちゃんと聞いていれば誰でも嘘だとわかる。

 ハンフリーの件をお前の世迷言だと切り捨てず信じたのも、お前の性格を理解していたからだしな。

 なにより、私はお前みたいな悪魔の性格には詳しいのよ?』

 はたから見ればそれは愚かだと感じるだろう。しかし彼女は迷いなく言い切った。

 お前の性格は理解している。それでもお前を信じてこの身を託す、と。

「……きひっ」

 悪魔の口から笑みがこぼれる。今までにないほど不気味で無邪気で純粋に。その表情を見たアサシンが思わず警戒して飛びのいてしまうほどに。

「これは困りましたねぇ。ええ困りましたよぉ!

 ワタクシの本質を見抜いていながらその背中を預け、あまつさえこうして肉体を預けるとは! こんな愚かなマスターが他にいるでしょうか!!」

 その言葉は紛れもない本心。

「これほど愉快な人間がそばにいるなんて、ワタクシ嬉しくてどうにかなっちゃいそうです!」

 この場にいるだれよりも残虐で、そして誰よりも幼稚な悪魔は、今この瞬間から正真正銘のマスターに従う存在(サーヴァント)として君臨する。




メッフィーってこれ書き始めた当初は嫌いでもなければ好きでもないキャラだったんですが、いざ動かし始めると愛着わくもんですね

ついつい筆が乗って2話分に伸びちゃいました

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