Fate/Aristotle   作:駄蛇

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ソロモンとの最終決戦に参加された方、お疲れさまでした
私も無事、死霊魔術装備のぽんぽこが数回の復活のあと最後の留めを飾りました

今回はシンジのサーヴァントの登場、および戦闘です


初めての遭遇戦

 アリーナへ入った直後、ライダーが迷宮の奥を睨みつけ殺気立つ。

「わかってはいましたが、さっきの小童がいますね。

 このアリーナ、対戦相手とは共有されているようなので、こちらの探索とかち合うかもしれません。

 校舎同様、アリーナ内でのサーヴァント同士の戦闘は禁止されていますが、校舎ほど厳しくはありません。

 一定時間は戦えますので、注意して進みましょう」

 忠告に頷き、不意打ちなどに警戒しながら注意して進むこと数分。

 広く開けた場所で警戒していた人物と遭遇した。

「シンジ……」

「遅かったじゃないか、由良。

 てっきり逃げ出したのかと思ったよ」

 そして、間桐シンジの隣にいる2メートルを超える長身で豪快な印象を受ける男性が彼のサーヴァントなのだろう。

 ……本当にそうか?

 不意に頭の中をそんな疑問がよぎるが、なぜそう思ったのか考える前にシンジがこちらをあざ笑う。

「お前があまりモタモタしているから、僕はもうトリガーをゲットしちゃったよ!」

 そう言いながらこちらにシンジは不思議な色を放つカードを見せびらかしている。

 なるほど、あれが迷宮の最深にあるトリガーなのか。

「ありがとうシンジ。

 トリガーがどんな形をしているのかわかったよ」

「っ!?

 ま、まあお前には探せないと思うから、わざわざヒントをやったんだ。

 ありがたく思えよ」

 ただ感謝を述べただけなのに、シンジは狼狽する。

 対戦相手から感謝されるとは思ってなかったからだろうか?

「主どの、もしかして本当に無意識に言ったのですか?」

「いや、さすがに俺もそこまで平和ボケはしてないよ……

 強いて言うなら、さっきのお返しかな」

 とはいえ、シンジの性格は予選でよく知っているため、そこまで腹が立ったわけでもない。

 実際トリガーの形が分かったのはありがたいので、感謝9割、嫌味1割といったところか。

 そんなやり取りをしていると、突然シンジのサーヴァントが豪快に笑いだした。

「がははははっ!

 これはまた面白いマスターではないか!」

「いっ、あだっ、背中を叩くな!

 いいから、由良のやつを痛めつけてやってよ!」

「なんだ、もう語り合いはいいのか?

 あの小僧はお前さんの友人であろう?」

「それは予選の割り当て(ロール)だって!

 コイツとはただのライバル!」

 シンジはサーヴァントに指示を出すが、肝心のサーヴァントは乗り気ではないらしい。

「まあそうカッカするもんでもなかろう。

 それによく見てみろ、あんな可憐な少女と語り合いをせず終わるのは勿体ないであろう?」

「真面目にやれ!

 というか由良、お前のそのサーヴァントの服装どうなってんだよ!

 まるで痴女じゃないか!!」

 俺が聞きたい、と言いかけた言葉を必死に飲み込む。

 横目で見ればライダーは不思議そうに自分の身なりを確認している。

 一人に言われた程度では気にしないだろうが、先ほど遠坂に言われだばかりだ。

 立て続けに指摘されたうえにさらに痴女扱いされれば流石に彼女も気になったのだろう。

「主どの、そんなに私の身なりはおかしいのでしょうか?

 私としては不必要な部分を取り除いて軽量化しただけなんですが……」

「あ、うん……装備はいいんだけど素肌の部分が目立つ、かな」

「なるほど、鎧ではなく素肌が見えている方が問題ということでしたか。

 それは盲点でした」

 納得したように手を叩いているが、その結論に至る前に一度生涯を終えているということに頭が痛くなる。

 そして今の回答からすると直す気はないらしい。

 彼女がいいのならそこまで言うべきではないかもしれないが、それでも女の子がここまで素肌を露出させるのは如何なものか……

 今度彼女と話し合う必要があるかもしれない。

 というか家来も誰か指摘してやれよ、と悪態をつきたくなったが数百年前にもこのようなやり取りがあった可能性を考えて怒りより同情した。

 ……対戦相手と対峙しているというのに、こんなグダグダなやりとりをしていて本当にいいのだろうか?

 いや、よくないはずだ。

 目の前のシンジもしびれを切らして地団太を踏んでいる。

「いいから、僕の指示に従えよ!」

「切り捨てるには勿体無い逸材だと思うんだがのう。

 まあ、語り明かす前に己の力を見せつけるのもよかろう!」

「……っ!」

 どうやら彼の中でスイッチが切り替わったらしい。

 シンジのサーヴァントはピリピリとした殺意をこちらに向け、腰に下げていた獲物を引き抜いた。

 形状からしてグラディウスの類だと予想していると、その剣先を天高く突き上げる。

「我が名は征服王イスカンダル!

 此度はライダーとして召喚された。

 まずは手始めに我が宝具の一端を見よ!!

 神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)!!」

 剣を振り下ろすと、たちまち空間に切れ目ができ、雷撃によって辺り一面光に包まれる。

 そして光が収まるとシンジのサーヴァントは二体の牛が引くチャリオットの上で手綱を握っていた。

 ……いや、それよりもっと重要なことがある。

「はぁっ!?

 お、おまっ、お前なに真名バラしちゃってんの!?

 バカなの? バカなんですかぁ!?」

「最初に言ったであろう。

 余は真名を伏せて戦う気はないと」

「その後ちゃんと真名を伏せろと忠告しましたぁ!

 聖杯戦争で真名バラすのは自殺行為だってわからないのかよ!」

「名を知られた程度で遅れをとる余ではないわ!」

 イスカンダル。

 またの名をアレクサンドロス三世、通称ならアレキサンダー大王か。

 いろいろな呼び名があるが、それは即ち広範囲に知れ渡る人物だったということ。

 マケドニアの覇者で、ユーラシアのほぼ半分を支配下に置いた征服王。

 ならばあの剣はグラディウスより全長が長く作られているスパタか。

 いや、それよりも重要なのは彼の乗るチャリオット。

 本人が『ゴルディアス』と言っていたなら、由来はゴルディアスの結び目とその伝説に出てくる牛車だろう。

 不思議と知識は溢れてくるが、魔術師として未熟な自分には自身のサーヴァントとの力の差がわからない。

 ただ、少なくとも油断できないのはわかる。

「まあいいさ、倒してしまえばバレてないのと一緒だからね。

 蹴散らせ、ライダー!」

「おうさ!」

「っ、主どの来ます!」

 ライダーの言葉で咄嗟に横に避ける。

 直後、二人がいた場所をイスカンダルの牛車が雷撃と共に駆け抜けた。

「なんて速さだ……」

 広場で戦闘が始まったのは不幸中の幸いだった。

 もし狭い通路で出会っていたならさっきの突進でやられていたかもしれない。

「初めてのサーヴァント戦となります。

 主どの、どうか指示を!」

「昨日の手筈通りにいこう。

 ただ、向こうは正真正銘の大英雄だ。

 危険なら遠慮せずに刀を使ってくれ」

「承知しました!」

 まずはアーチャーのように振る舞い敵を欺く。

 その間に相手の情報を探るつもりだったが、その情報はすでに十分すぎるほど集まった。

 あとはこちらの情報をできる限り漏らさないことに専念するだけだ。

 ライダーの番えた矢は疾走するイスカンダルに吸い込まれるように放たれる。

「ふん!」

 しかしその矢はイスカンダルの一振りであっさりと防がれてしまう。

 更に二度、三度と放つがそのすべてがことごとく斬り伏せられた。

 

『――アリーナ内での戦闘は禁止されています』

 

 そしてアリーナに響くアナウンス。

 さっそくムーンセルがこの戦闘を感知し、強制終了の準備を始めたようだ。

 あと数分もすればこの戦闘は終了するだろう。

 その意味を理解してシンジも舌打ちし、トドメを急ぐように指示を出す。

 ただでさえ速いイスカンダルの疾走は地面を離れ、空を駆け抜けはじめた。

「空を駆ける牛車ですか。

 初めてですが相手にとって不足なしですね」

「ほう、この状況で笑うか。

 不思議とお前さんには惹かれるものがあるが、ますます興味がわいた!」

 手綱を握り、チャリオットを操る彼は時にチャリオットで突進し、時にスパタで切り掛かる。

 対するライダーも同時に番える矢を3本に増やしてイスカンダルの猛攻を凌ぐが、それでも彼の猛攻は着実にライダーへダメージを蓄積されている。

「武芸には秀でているようだが、いかんせん威力に難があるな、()()チャ()()よ!」

「とはいいつつ、先ほどより攻撃回数が減ってるように思いますが?」

「がはははっ!

 こりゃ参った、まだ反論する余裕があったとは。

 ならもう少し速度を上げてやろう。

 簡単にくたばるなよアーチャー!」

「…………っ!?」

 イスカンダルの猛攻は激しさを増し、ライダーの表情が苦悩に歪む。

 しかし同時にイスカンダルが彼女のことをアーチャーだと誤認したことにライダーは小さく笑った。

「あはははっ!

 僕のライダーは最強だ!

 由良程度のマスターじゃ歯が立たないんだよ!」

 高笑いするシンジの言う通り、致命傷は受けていないが明らかに劣勢だ。

 作戦は成功しているが、やはり素人考えの作戦を彼女に押し付けるのは無理があったか……

「いや、俺なんかのために頑張ってくれているんだ、今は俺も出来る限りの事をするべきだ!

 コードキャスト、heal(16);実行」

 データ化して自分の身体に装備している『鳳凰のマフラー』に魔力を流し、コードキャストを起動する。

 対象にライダーを選択したコードキャストは微量ながら彼女のダメージを癒す。

「主どの、感謝します!」

「あともう少し、どうにか持ちこたえるんだ!」

「ちっ、由良のやつ時間稼ぎをするつもりか。

 そうはいくか!」

 こちらの意図に気付いたシンジは一気に畳み掛けるつもりか、彼自身もこちらに攻撃を仕掛けてきた。

 端末を表示させて、素早く文字を打ち込むと弾丸が発射される。

 威力こそ低いが、自分が所有するコードキャストはさっき使ったheal(16);だけ。

 対抗策のない自分には十分脅威だ。

「ほらほらほらぁ!

 少しは抵抗しなよ由良!

 さすがに他のコードキャストも持ってるんだろ?」

「どうにか、ならないのか……っ!」

 サーヴァントからマスターへの攻撃が原則禁止されている以上、シンジからの攻撃は自分で対処するしかない。

 しかし今の自分には何もできない。

 そのことを悔やんでいると、とうとう避けきれずに弾丸が足を掠った。

 痛みでバランスが崩崩れて床に転がり、シンジはそこに追い討ちをかけるように弾丸を乱射する。

 幸い距離が離れているため転がれば避けられなくはないが、危機的状況なのには変わりない。

 さらにライダーの方も弓を弾かれて攻撃手段を奪われてしまった。

「……っ!」

 とっさにクラス名を言いそうになるが辛うじて抑える。

 ここでバレてしまっては彼女の頑張りが無駄になる。

 ライダーは一瞬だけこちらに視線を送るが、すぐにイスカンダルに向き直った。

 腰の刀に手を伸ばす様子はない。

 まさか、この状況を武器を使わず切り抜けるつもりか!?

 気づいた時にはもう遅い。

 向かってくるイスカンダルを迎え撃つように、ライダーは素手のまま構えて――

 

『――戦闘を強制終了します』

 

 そのとき、アリーナにアナウンスが流れた。

 直後に感じたのは空間を歪められるような圧迫感。

 それが治まると、まるで戦闘など最初からなかったかのように立ち位置などが戦闘前に戻されていた。

 しかし、自分は倒れたままでライダーが負ったダメージもそのままだ。

「ムーンセルに止められたとあっては、今日これ以上アリーナで戦闘をするのは無理であろう。

 決着は次に持ち越しだ。」

「ちっ、あと少しってときに……

 まぁいい、トドメを刺すまでもないからね。

 クラスはアーチャーみたいだけどその様子じゃハズレサーヴァントを引いたみたいだね。

 由良にお似合いだよ。

 そうやって這いつくばっていればいいさ」

 高笑いをしながらシンジはこちらに歩み寄り、見下ろす。

「由良ぁ、泣いて頼めば子分にしてやってもいいぜ?

 そしたら、このゲームの賞金も少しは恵んでやるよ」

「…………」

 実力の差を目の当たりにして、こちらは何も言い返すことができない。

 言うだけ言って満足したのか、シンジはその場を去っていく。

 今のが、サーヴァント同士の戦闘。

 エネミーとの戦闘とは別次元の力同士の激突に、いまだに呼吸が荒い。

 電子の身体に鼓動なんてないはずだが、ドクドクと速く心臓が脈打っている感覚に襲われる。

「主どの、立てますか?」

「ありがとう、ライダー」

 ライダーに手を借りてどうにか立ち上がる。

 足の方はただの擦り傷だから、たぶん大丈夫だろう。

 それより、こちらの無茶振りで彼女が危険な目にあったことは謝罪しなければ。

 と、そこにライダーの指がこちらの口に添えられる。

「あまり自分を責めないでください。

 主どのの作戦は問題なく成功しています。

 事実、向こうは私をアーチャーだと誤認していますから」

「ライダー……」

「それに、主どのが謝るのであれば、私も力及ばなかったことを謝罪しなければなりません」

 ……ライダーの言わんとしていることはわかる。

 確かに、ここで謝ってもいたちごっこになるだけだ。

 なら謝罪は口ではなく問題点を改善する形で行うことにしよう。

 端末を操作してシンジのサーヴァントイスカンダルについての情報を記載していく。

「先ほどの戦闘で理解していただけたと思いますが、アリーナでの戦闘や探索は鍛錬だけでなく、相手の情報を探る機会にもなります。

 あそこまで自身の情報に無頓着なサーヴァントがいることには驚きましたが……」

「でも、おかげでシンジのサーヴァントの情報は十分わかった。

 できれば今日中にトリガーも入手しておきたい。

 そこまで頑張れるか?」

「はい、もちろんです!」

 笑顔で頷いているが、彼女も満身創痍だ。

 極力エネミーのとの戦闘は避けてアリーナの奥へと進んでいく。

 途中からはエネミーの数が多くて避けきれなくなったが、そこはライダーが上手く捌いてくれた。

「ずいぶんエネミーの出現率が高くなってきましたね。

 これは最深が近いということでしょうか」

「かもしれない。

 昨日はここまで来なかったからわからないけど……あ」

 前方に二つのデータファイルを発見して駆け寄る。

 その雰囲気だけで、他のデータファイルとは違うのがはっきりとわかる。

「これがトリガーなのか?」

 一人呟きながらファイルを展開すると、シンジが見せてくれたものと同じデータが抽出できた。

「やりましたね、主どの!」

「ライダーのおかげだ。ありがとう」

 隣で満面の笑みを浮かべるライダーにつられて口元が緩む。

 お互い疲労しているが、この瞬間だけはその疲れを忘れることができた。

 とはいえ、ここから資金稼ぎをするのは肉体的に難しいだろう。

 止むを得ず、今日のアリーナ探索はここで終了となりモラトリアム二日目が終了した。




シンジのサーヴァントがドレイクの姉御からイスカンダルに代わってるのは、趣味といえば趣味なんですが、一応こうなった理由は存在します
それについては追々明らかにしていきたいと思ってます

今年の投稿はこれが最後となります
来年もどうかよろしくお願いします

ところで、CCCイベントが来るまで(正確にはメルトリリスがうちのカルデアに来るまで)私のチュートリアルは終わらないんですが、いつまで続くんです?()

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