まだできてませんが、絵柄だけで見れば剣豪の牛若っぽい子が今回の推し鯖になりそうです
四回戦も大詰めです
詰め込みすぎたから減らしました
アリーナ探索と鍛錬を終え、マイル―ムで状況を整理する。
結局今日もレアエネミーには遭遇することはなかった。
「なんか、うまく言峰神父に踊らされた感じだね」
「諦めろ、あいつはそういうやつだ。裏をかこうにもそのさらに裏をかかれるかもしれないからな。
確証がない限りは大人しく遊ばれるしかないわ」
「サラでも言峰神父の真意は読めないんだね」
「……言っておくが、私は
ただあのエセ神父の場合は、その言動が私たちの慌てふためく姿を見たいって感情からきてるのはわかっても、彼の言う通りにした場合にそうなるのか、裏をかいた場合にそうなるのかまでは私にもわからない。そもそも、あいつはそういう感情を隠す気がないから私の起源とは相性が悪い。
天軒由良はいろいろとわかりやすいんだけどな。
『大丈夫』って言うときは大抵大丈夫じゃないぐらいならわかるわよ?」
「ちょっと」
しれっと酷いことを言わないでほしい。たしかにやせ我慢をすることはあるが、それはライダーに余計な心配をさせないために言っているのだから。
言葉に出さないまでも抗議の視線を送るが、それに対してため息で返された。
「それを相手が理解してくれるかはまた別だろう?」
……やっぱりサイコメトラーなのではないだろうか? それとも俺が読まれやすいだけなのか。できれば前者であってほしいと心から願う。
サラの余計な一言に不満はあるが、言峰神父に対する評価にはおおむね賛成だ。あの神父は運営者としては信用できても人間としては信頼してはいけないと直感が告げている。
「ともあれ、明日は確実にレアエネミーが出現する。今日のところはもう寝ろ。
休息も立派な鍛錬よ」
「そうだね。ライダー、サラ、明日はよろしく頼む」
「お任せください、主どの! 必ずやあのエネミーの首を献上してみせます」
「うん、倒してくれるのはありがたいけど首はいらないからね?」
そして翌日、モラトリアム六日目のアリーナに剣戟の音が鳴り響く。最初は音と音の間隔が長かったのが次第に短くなり、それに伴い響く音も重くなる。数回に一度挟まれる破砕音がその激しさを物語っていた。
その破砕音が二回ほぼ同時に響くと、激しかった剣戟はぴたりと止んだ。
「――最初と比べると見違えましたね、主どの」
「誉めるなら首筋に当ててる刀どけてからにしてほしいかな?」
「あくまで向上しているだけで、まだまだ妥協点には達していませんゆえ、それを自覚してもらうためにも必要なことです」
「さいですか」
以前のように仰向けに倒され、その首元に刃を当てられたこの状況。たしかに実力不足は認めるが、そろそろエネミーぐらいなら問題ないとおもうのだが、全くと言っていいほど妥協はない。
「主どのは危険であるかどうかに関係なく行動することが多いと十分に理解してます。もちろんそれを改めるのが不可能であることも。ですので、これは主どのの身の安全のためでもあるのです」
と言ってくれるのはありがたいのだが、ここ数日の彼女との鍛錬だけで今まで経験した中でもトップクラスの死線を何度も感じた気がする。過保護とスパルタが化学反応を起こすと彼女のようになるらしい。
「そもそも、何で俺たちレアエネミー討伐前にこんな鍛錬始めたんだっけ?」
「主どのが『今回は少し前に出させてほしい』と無理をおっしゃるからではありませんか。先の結果のとおり、まだまだ主どのの戦闘能力は一人前とは言い切れません。ですので、くれぐれも、前に出て戦おうなどと思わないでくださいね?」
いつもより念入りに釘を刺されるのは、今日がレアエネミーと戦闘を行う日と確定しているからか。
マスターの指示が悪かったのが原因とはいえ、ライダーはあのエネミーに一度敗北しているのだ。生前数々の困難を乗り越えてきたライダーにとってあの程度のエネミー相手に敗走を余儀なくされたのは、俺には想像できない屈辱だったのかもしれない。なら、今度こそ勝たなくては。
『天軒由良、朗報だ。レアエネミーの出現を確認できた。幸いその広場からそう遠くない。
ライダーの力を存分に発揮するためにも、今いる場所に誘い込みなさい』
「わかった、じゃあレアエネミーまでの誘導をお願い。
ライダー、行こう!」
「承知しました!」
一度呼吸を整え、ライダーとともにアリーナを駆ける。
サラの誘導に従って通路を突き進むと、半透明な壁を隔てた向こう側に目的のエネミーを視認できた。
左腕が異様に肥大化した人型のエネミー。さすがにサーヴァントと比べると見劣りするが、エネミーというくくりでは間違いなくトップクラスのステータスだろう。それはただ決められたコースを巡回しているだけだろうが、丁度そのコースを阻むように俺たちが立っている。このままいけば、次の曲がり角でかち合うだろう。
「まずは俺のコードキャストで注意を引く。そこから広場まではライダーが中心になって俺が援護、でいいよね?」
「承知しました。主どのもお気をつけて」
手短に打ち合わせを済ませ、お互い得物を構える。
エネミーが壁から身体を出した瞬間、左手に持つ黒鍵へ魔力を流し、コードを刻む。
「hack(64);>key」
振り抜くモーションで放たれた斬撃は若干のホーミングをしながらレアエネミーに直撃。
スキル使用中などではないためスタンこそしないが、先制攻撃として、なによりこちらの存在を気づかせるには十分な一撃だった。
遅れてこちらに気づいたレアエネミーはすぐさま体勢を低くして突進を開始する。
「っ、さすがに逃げ切るのは無理か」
「主どのはそのまま走ってください。打ち合わせ通りここからは私が!」
勢いに乗り始めたレアエネミーの動きを止めるため、ライダーが側面に回り込みから刀を振るう。
「……っ!」
そして以前と同じく苦い顔をするライダー。踏み込みが浅かったようには見えないため、どうやらあのレアエネミーはかなりの強度を持っているらしい。
ライダーの攻撃をもろともせず突き進むレアエネミーは着実に俺との距離を詰めてきている。
「というか狙いは俺なの!?」
『一撃目食らわせたのがお前だからじゃないか?』
「そんな単純思考はやめてほしいなホント!」
ライダーの一撃で怯まないのなら俺のコードキャストでも無理だと考えた方がいい。あとを追うライダーも決して遅いわけではないが、攻撃を弾かれ体勢を立て直すまでに開いた距離はなかなか詰まらない。
ライダーが追撃を加えるにしても、広場まで誘導するにしても、一度俺の方で対処する必要があるだろう。
「こうなれば一か八か……」
『どうするつもりだ?
ライダーの攻撃に怯まない頑丈さなら強化したコードキャストとはいえ止められないわよ』
「わかってる。足元にhack(64);を放って牽制してみるよ。最初から俺の攻撃はダメージソースとして考えてないし」
「主どの!!」
ライダーの切羽詰まった声に反射的に振り返る。距離を詰めていたとはいえまだ射程外にいたレアエネミーは跳躍で一気に迫り、肥大化した左腕を振り下ろそうとしている。
完全に予想外の行動に頭が真っ白になる。直前に考えてした作戦も忘れ、どう動くべきなのか考えることができない。だというのに、身体は勝手に動いていた。
左足を軸にしつつ重心はさらに左へ傾け、レアエネミーの攻撃から少しでも遠ざかろうと身体を反時計回りにひねる。だがそれでも完全には避けきれない。そう直感が告げるとすぐさま右手に握る黒鍵を逆手に持ち替え、振り下ろされる左腕の側面を黒鍵の刃の腹で叩いた。身体をひねる勢いを乗せたその悪あがきはかすかに左腕の軌道をそらし、俺のわずか数センチ隣に振り下ろされた。
攻撃が不発に終わったことによって生まれたレアエネミーの隙は、ライダーが追いつくには十分すぎるほどだった。
壁を蹴り、レアエネミーの頭上を取るライダー。その一振りはさきほどのものよりさらに力の加わった一撃となるだろう。だがそれでもレアエネミーの強固な身体にダメージを与えるには心もとない。
それはライダーも承知のうえだ。一瞬だけこちらに向けられた彼女の視線が、次に俺がするべき行動を教えててくれた。
「――gain_str(16);>key!」
威力が足りないのであれば補強すればいい。
瞬間的に筋力が上昇したライダーの一撃は、はたから見ていても確かな手ごたえを感じた。
その証拠に、さきほどはびくともしなかったレアエネミーの体勢が崩れ、自身の勢いを殺しきれず通路を転がっていった。
「とっさの回避、そしてそのあとの的確な援護、お見事です主どの。これで多少はあやつの体力も削れたことでしょう」
「ライダーのおかげだよ。でも……」
全部がうまくいくほど、世の中は甘くはないらしい。
レアエネミーが前方へ転がったことで立ち位置が逆転してしまったのだ。俺たちが誘導しようとしていた広場へと続く道は、今はレアエネミーの背後へと伸びている。
それでもライダーは不敵に笑い、それにつられて俺も笑みを浮かべた。
「ですが、それは些細なことです」
「だね。それに、俺たちはいつも有利とはいえない状況から逆転してきたわけだし」
コードキャストを使用して脆くなっているであろう左手側の黒鍵の刃を生成し直し、その隣でライダーは腰を落としていつでも動けるように構える。
対するレアエネミーも跳ねるように起き上がって再び体勢を低くする。どうやら再度突進を繰り出すつもりみたいだが、あまりにも単調だ。
「あれなら避ける必要もないね。俺がコードキャストで牽制するから、ライダーは追撃お願い」
「承知!」
先ほどはレアエネミーが走り出してすでに十分な勢いがついた状態だったからライダーの攻撃でも止められなかったが、走り出す前であれば俺のコードキャストを足元に放つだけでも十分足止めになる。
そして生まれた隙を突くようにライダーの一撃がレアエネミーにダメージを与えていく。先日のように指示に迷うこともない。思考もきちんとできている。こうなればもう大丈夫だ。
ほどなくして、レアエネミーとのリベンジマッチはこちらの完封で幕を下ろした。獲得したPPも他のエネミーより二倍近く多い。
……他のエネミーより格段に強いのに、アリーナ内のアイテムボックスを漁ってる方が資金調達は捗るというのは少し悲しい。とはいえ今の俺たちにとっては資金以上に得るものがあったから不満はない。
それに、これで少しは購買部に貢献もできるだろう。
『思ったより呆気なかったな』
「もともと手強いけど苦戦するほどじゃないってサラ自身言ってたじゃないか」
『まあそうだが、ここまで早くお前たちの連携が改善されるとは思ってなくてな。
数日前のいざこざが嘘みたいね』
「それもサラのおかげだと思うけどね」
これで戦闘面の不安は解消された。あとは言峰神父に撃破報告をして黒鍵を強化してもらえば四回戦のタスクは全て終える。
そう考えていたら、視界の端で何かが動いた。
「?」
振り向いてみるがその先は丁度曲がり角だったらしく、動く何かをきちんと見ることはできなかった。だが、一瞬だけ見えたそのシルエットはまるで……
「主どの、どうかされましたか?」
「あの角を人みたいなのが曲がっていった気がして……
まあ見間違いだよね。俺以外にこのアリーナにいるマスターやサーヴァントなんていないはずなのに」
ここのところ夢や幻聴で精神的に疲れているから、幻でも見えたのだろう。そう結論付けようとしたのだが、サラが真剣な声色で呟いた。
『いや待て。念のためアリーナ全体を大まかにスキャンしてみたんだが、明らかにエネミーではない何かが移動している。なんだこれは……
こんな反応見たことないわよ』
彼女自身、自分の言っていることが信じられないという様子だ。
はっきりと人間と言わないのはそれだけ異様な状況なのだろうか。
「……確認、してみた方がいいよね」
『無茶はするな。正直何が起こるのか私にもわからない。
危険を感じたらすぐさまリターンクリスタルで戻りない』
ライダーの方へ視線を向けると、彼女も俺の意見を尊重して頷いてくれた。アイテムストレージにリターンクリスタルがあるか確認してから、細心の注意を払い謎の反応の後を追いかける。
決して早いというわけではないが遅くもない。丁度俺の小走りと同じぐらいのスピードでその反応はどんどんアリーナの奥へと突き進む。
『反応がアリーナ最深部、トリガーが格納されているアイテムボックスが配置されている部屋で止まった……いや反応が消えた!?
いったいどうなってるの?』
「誘い込まれた、って可能性もあるね。ライダー、周囲の警戒をお願い」
すでにいつでも抜刀できる状態で待機しているライダーを引き連れ、反応が消えた場所へと進む。
今まで感じたことのない、相手の正体がわからないという緊張感は、いつも以上に精神をすり減らされている。そのせいか、いつもは考えないような思考が働いた。
「アリーナ最深部まで進んで反応が消えるって、まるでトリガーを入手しにきたマスターみたいな挙動だね」
我ながらおかしなことを言ったと思う。対戦相手不在のアリーナに自分以外のマスターがいるなどあり得ない。
だというのに、その考えは予想外の方法で覆された。
「な……」
トリガーが格納されているアイテムボックスは、対戦相手が不在であろうと二つ設置されている。それは第一層の時点で把握しているし、この第二層もそうであることは2日前トリガーを取得した時点で確認している。だから、本来なら未開封のアイテムボックスと開封済みのアイテムボックスが一つずつなければおかしいのだ。
「なんで、二つとも開封済みなんだ!?」
リターンクリスタルで校舎へ戻ってくると、すぐさま言峰神父を探すために教会へと向かった。こういう時に限って校舎内を徘徊していることが多いのだが、今回は運良く鉢合わせすることができた。
ステンドグラス越しに差し込む光を眺めていたカソック姿の男性はこちらに気づいてゆっくりと振り返る。
「どうしたのかね、そんなに急いで。心配せずともレアエネミーの討伐はこちらでも確認できた。心配せずとも約束は守るとも」
「それより先に確認がしたい。
俺の対戦相手は本当に不在なんですよね?」
「……なんだと?」
そのような問いが今更投げかけられるとは思っていなかったらしく、怪訝そうに目を細めた。
「君も確認しただろう。対戦相手が不在の場合は掲示板に相手の名前が表示されることはない。
君の対戦相手は間違いなく不在だ」
「ならどうして俺しかいないはずのアリーナでトリガーが入ったアイテムボックスが二つとも開封されているんだ!?」
「……少々待ちたまえ」
記憶の欠損を指摘したときのように端末を操作して何かを確認し始める言峰神父。しばらくして返ってきたのは、一番望まない結果だった。
「確かに君のいるアリーナで本来余っているはずのトリガーが一組持ち出されている。
ハッキングや強行手段ではなく、
だがそれはおかしな話だ。現在生き残っているマスターは13人、しかしトリガーを入手したマスターが14人分存在するのだから」
「マスターの数を間違えるなんてことは?」
「それこそ万が一にもあり得ない。
ふむ、これは君の周りで再三奇妙なことが起こっていると考えるのが妥当だろう」
「勘弁してくれ……」
四回戦になってからこんなことばかりだ。ここまでイレギュラーばかりだとさすがに悪態もつきたくなる。
「原因究明に努めるが、あまり期待はしてくれるな。なにぶんこのような現象はムーンセルの記録にもない。
今日のところはマイルームで休むといい。あそこは端末に記録されているマスターごとのIDがなければ入れない絶対不可侵領域だ。
いかにイレギュラーな存在といえど、さすがにそこまでは入ってこれまい」
それでももしかしたら、という不安は残る訳だが、他の部屋に比べればマシなのはたしかだ。
「それから黒鍵の改良の件だが、さすがにすぐにとはいかない。ただこの状況で丸腰というのは心細いだろう。
私の手持ちにすでに改造を施した黒鍵がいくつかある。今回の迷惑料だと思って持っていくといい」
言いながら言峰神父は取り出した黒鍵をこちらへ投げ渡す。それと交換するようにこちらも手持ちの黒鍵を投げる。
渡された黒鍵の刃生成を試みるがとくに問題はない。生成スピードや魔力消費も変わっている様子はない。
「……強度を確認したいので、ここでコードキャストを起動してみてもいいですか?」
「特別に許可しよう」
言峰神父が指を鳴らすと、とたんに教会内が半透明な壁でコーティングされる。……妙に凝った演出だ。
「まあ別に気にすることじゃないけど。
hack(64);>key」
左手で黒鍵を握り、誰もいない方向へ向けてコードキャストを放つ。威力に関しては特に変わった様子はない。あとは刃の強度が維持されているかどうかだけだ。
「ライダー」
「承知」
黒鍵を前に突き出すと、短い掛け合いでライダーは現界して自身の刀を振り下ろした。たちまち重い金属音が教会内に鳴り響くが……
「お、折れてはないね……」
『それは黒鍵がか? それともお前の腕がか?』
「も、もちろんどっちも……」
思っていた以上にライダーの一撃は重かった。というより普段は受け流すように角度をつけていたのを今回はまともに受けてしまった自分が悪いのだが。
「あわわわわわ……っ!!」
「だ、大丈夫だから。痺れてるだけで時間がたてば治るから。だから首刎ねようとしないで、ね?」
真っ青を通り越して真っ白になりつつあるライダーを細心の注意をはらってなだめる。
「……苦労しているようだな」
言峰神父に憐れみを込めたまなざしを向けられるとなぜかイラっとするのだが、今は気にしてはいられない。ひとまず黒鍵の強度が問題ないことは確認できたのだからもらう物だけもらってさっさと去ろう。ライダーの気をそらすにはそれが一番だ。
言峰神父から譲り受けた黒鍵は2本。これから改良してもらう8本も加われば十分な戦力増強となるだろう。
「この数の改良にはさすがに時間がかかる。明日の朝には渡せるようにしておこう」
「随分と協力的ですね」
「先ほども言ったが、今回君の身に起こっているのは明らかなイレギュラーだ。聖杯戦争の監督役として、私の想定していないことで運営に支障をきたすのは避けたいのでね」
どうやら彼なりの美学に基づいての行動らしい。理解はできないが手を貸しているのはありがたい。素直に言峰神父に感謝をして教会を後にした。
ということで正体不明の対戦相手の登場です
元々その設定で進めてたんですが、伏線の部分をことごとく削除してたっぽくていきなりの登場になってしまったかも……
余裕を持った投稿がしたいですね()
次回、四回戦終結です
あと四回戦のサブタイトルの遊び要素も次回説明します