今回サーヴァントの召喚について、独自解釈があります
極力wikiや用語集読み漁っていきますが、今後もたびたび独自解釈が出てくると思います
光が差し込んでいるのか、眩しさに目を覚ました。
朦朧とした意識の中、時間を確認すると丁度午前7時を指している。
「……これもSE.RA.PHに時間と風景を行動に合わされてるのかな」
ゆっくりと上体を起こす。
普通なら背骨が乾いた音を鳴らすのだろうが、電子世界ではそういうものはないらしい。
本人がストレスを感じなければ、基本どんな体勢で休んでも大丈夫なのかもしれない。
「あ、おはようございます!」
声の方へ視線を向けるとライダーが正座でこちらを見上げていた。
戦闘の必要がないからか、今の彼女は武装を解いて軽装になっている。
……下着が丸見えなのもそのままだ。
「本日はどういった予定でいきましょうか?」
「とりあえず対戦相手の確認かな
言峰神父は明朝って言ってたし、そろそろだと思うんだけど……」
と、噂をすれば影がさす。
ちょうど端末に通信が入った。
『二階掲示板にて、対戦者を発表する』
二階の掲示板ということは、マイルームを出てすぐのところか。
指示に従いマイルームから掲示板に向かうと、そこには様々な張り紙が貼られてあった。
そして、その掲示物の中で一際異彩を放つ張り紙が一枚。
そこには二人の名前のみが記されており、一見何の情報なのかわからないが、おそらくこれが対戦相手の情報なのだろう。
片方が自分の名前、そしてもう一つが……
「間桐……シンジ……」
ドクン、と鼓動が脈打つ。
その名前には見覚えがある。
いや、その名前が誰のものなのか知っていた。
「へぇ、一回戦の相手は由良か」
「シンジ……」
背後に立っていたのは青色の頭髪と着崩した制服が目立つ自分の友人。
……と振り分けられていたマスター、間桐シンジだった。
「けど、まあそれもアリかな。
この僕の友人に振り当てられてたってことは、君も世界有数の魔術師ってことだろ。
格下なのは確かだろうけど、一応おめでとうと言っておくよ」
「……………………」
シンジはこちらを見下した口調で煽ってくるが、こちらは今の状況が飲み込めずにいた。
シンジが対戦相手。
つまりそれは、シンジと殺し合わなけらばならないということ。
こちらの反応がないのを不満に感じたのか、シンジはさらに煽り立てる。
「そういえば由良、最後に予選を通過したのってお前だろ?
いいよなぁ、凡俗は!
どうせ最後だからってハンデもらったんだろう?
けど、本線からは実力勝負だ。
勘違いしたままは良・く・な・い・ぜ?」
「っ!」
下品に笑いながら、こちらの肩を軽く叩く。
皮肉にも、その煽りが今にも崩れ落ちそうだった自分を奮い立たせる要因となった。
「シンジ……っ!」
「おや、怒ったかい?
でも僕だって悲しいんだ。
いかに仮初めの友情だったとはいえ、勝利のためには友をも手にかけなければならないとは……!
何と過酷な運命なのか。
主人公の定番とはいえ、こればかりは僕も心苦しいよ」
まるで演劇でもしているかのように天を仰ぐ目の前の友人は、自分に酔い今の心境を述べる。
その会話を打ち切るように、お互いの端末に一通の連絡が入った。
送り主は言峰神父。内容は一層にトリガーが生成されたという知らせだ。
同じく内容を見ていたシンジは端末を仕舞い、この場を去っていく。
「ま、正々堂々戦おうじゃないか
大丈夫、結構いい勝負になると思うぜ。
由良だって、選ばれたマスターなんだからさぁ。
僕らの友情に恥じないよう、いい戦いにしようじゃないか」
おそらくトリガーを入手するためにアリーナへ向かうのだろう。
手を振りながらその場を去るシンジの背中を見送った後も、しばらくその場に佇んでいた。
「……堪えてくれてありがとう、ライダー」
『主どのの指示とはいえ、今のは……っ!』
シンジに煽られている最中、もちろん自分も怒りがこみ上げてきた。
しかし、ライダーの存在が冷静さを取り戻すきっかけになり、彼女に堪えるように指示を出すことができた。
たしか校舎内での戦闘は禁止、加えてサーヴァントがマスターを襲うのは非常に重いペナルティが課されるはずだ。
ただでさえ万全ではない状態のライダーをこれ以上追い詰めないためにも、ここは自分が冷静でいなければならない。
とはいえ、ライダーの感情は今にも爆発しそうだった。
トリガーは後回しにして、ライダーのためにも少し気分転換をしなければ。
シンジから遠ざかるように屋上に来ると、塀に背中を預けて腰を下ろす。
見上げると青空が広がり、雲が風に流されている。
ただしよく見ると、その空は薄く0と1の羅列が覆っていて、ここが電子世界なのだと実感した。
『仮初めの世界とはいえ、こうして空を眺めるのは心が落ち着きますね』
穏やかな時間を過ごすことに徹していると、ライダーの方も段々と落ち着いてきたらしい。
マイルームではなく屋上を選択したのは良かったのかもしれない。
とはいえ、いつまでもこうしてはいられない。
お互い冷静になったところで、ライダーと共に現状を把握する。
「間桐シンジは予選期間中、俺の友人という
『思い出すだけで腸が煮えくりかえります。
とはいえ、主どのはその仮初めの友情も大切なんでしょうか?』
「ああ、予選以前の記憶が無いせいか、元々こういう性格なのかは知らないけど、俺はシンジと戦うことに迷ってる。
言峰神父の言っていた『死』がどういう意味なのかわからないし……」
「あら、こんなところに先客がいるなんて珍しい」
突然投げかけられた声に思わず立ち上がり声の方に体を向ける。
そこには真っ赤な服に黒のミニスカートに身を包んだ少女がこちらに近づいていた。
「周囲に無警戒すぎるけど、とっさの行動は見事ね。
案外戦い慣れしてるのかしら」
「えっと……」
彼女はまるでこちらを知っているかのような口ぶりで話しかけてくる。
しかしこちらは彼女のことを知らない。
予選以前の知り合いだろうか?
「いや、違う……
君はたしか、遠坂凛?」
「あら、どこかで名乗ったかしら?
それともアバターの姿が違うだけで地上であったことあるとか?」
「いや、たぶん予選でこっちが一方的に知ってたんだと思う。
地上での記憶、戻ってないから」
「記憶が、戻っていない?」
こちらの発言に遠坂は怪訝そうに眉をひそめる。
「まあ、私にはどうしようも出来ないか。
とりあえず、御愁傷様、とだけ言っておくわ」
「うん、ありがとう」
「……なんか調子狂うわね。
って貴方その腕!」
いきなり怒鳴りながら左腕を掴まれる。
「なんですでに令呪一画使ってるの!?
まだ一回戦二日目なのよ!」
「あ、いやこれは予選の時に……」
「予選?
予選は令呪とサーヴァントを獲得する儀式みたいなものよ?
サーヴァントに反逆されそうにでもなった?」
「いや、それはない。
俺も朦朧としていたからわからないけど、人形を倒した時にはすでに一画消えてたはずだ。
その後自分のサーヴァントを召喚したから、サーヴァントに対して令呪を使ったわけではないと思う」
「……ちょっと待って」
眉をひそめる遠坂に制止されて口を紡ぐ。
自分の言ってることが信じられないのだろうか?
しかし、ライダーのこれまでの行動が、強制されたものとは思えない。
令呪にそれほどの支配力がある可能性もないわけではないが、やはり彼女の行動は本人の意思によるものだろう。
しばらく遠坂は腕を組んで唸っていたが、やがて神妙な面持ちで口を開いた。
「やっぱりありえないわ。
予選では人形を倒すことで令呪を獲得、その令呪でサーヴァントを召喚するの。
だから、人形を倒す前に令呪を獲得できるのはおかしいわ。
例外があるとするなら、サーヴァント自身がマスターに契約を申し込むような状況でしょうね」
「サーヴァントからマスターに?」
「英霊っていうのはね、普段は座に待機している状態なの。
まあ、本来の英霊のシステムと、ムーンセルの英霊のシステムは同一ではないらしいんだけどね。
で、予選の人形と戦ったあの空間はその座に近い次元に存在するみたい。
マスターの召喚時にかかる負担を最小限に抑えるための処置らしいけど、そういう環境だから、普通ならありえない、召喚されてないサーヴァントからの干渉も可能といえば可能というわけよ。
まあ、普通はそんな物好きな英霊なんていないでしょうけど」
「つまり、俺のようなサーヴァントからの契約もなく、予選突破前に令呪を獲得するのはありえないと?」
「言いたいんだけど、その例が目の前にいるんじゃ否定できないのよね。
記憶が混濁してるだけ、とか理由にすれば手っ取り早いけど、それだと令呪が一画欠けてる説明がつかないし」
色々と考えてくれているが、結局原因不明というところに落ち着くしかないらしい。
「あーもう!
どうしてこんな初対面のやつにここまで労力割いてるのかしら!」
「えっと、ごめん!」
「うっさい、そんなんじゃないわよ!」
「ええっ!?」
一瞬何か悪いことを言ったかと驚くが、よく見れば遠坂は明後日の方向に向かって話している。
ということは、偶然こちらの発言と彼女のサーヴァントの発言が重なって、サーヴァントの方に反論したといったところだろう。
「まあいいわ。
貴方、名前は?」
「え、っと、天軒由良」
「天軒くん、ってことは間桐くんの対戦相手ね」
「どうしてそれを?」
「向こうは口が軽いお調子者だから、結構知れ渡ってるわよ。
ついでに悪評も流してたわね。
天軒くんは臆病で凡俗なマスターだって……」
「――主どのへの暴言はそこまでにしていただけないでしょうか?
いくらその言葉に貴女の意思がないとしても、これ以上は侮辱が過ぎます」
気付けば、ライダーは実体化してその刀を遠坂の首に押し当てていた。
彼女から放たれる殺意はこちらに向けられていないとわかっているのに寒気がする。
そんな殺意を向けられているというのに遠坂は全く動じる様子がなく、しかし素直に両手を上げて降参の意思を見せる。
「言い過ぎたのは謝るわ。
けど、凡俗なのは事実よ。
それに記憶がないってことは、戦う理由も思い出せないんでしょう?」
「……ああ」
「なら、悔いが残らないようにこのモラトリアム中に考えなさい。
間桐シンジに挑むのか、それとも潔く勝ちを譲るのか。
あれでも一応アジア屈指のゲームチャンプだし、何となくで勝てるような相手ではないわよ」
「ああ、わかってる」
「……………」
そこまでのやり取りを聞いてライダーは霊体化する。
もしかしたらの出来事が起こりそうだったが、杞憂に終わって胸を撫で下ろした。
「それにしても、貴方のサーヴァント随分個性的な装備をしているわね」
「あー、うん。まあね」
遠坂のこちらを見る目が痛い。
ライダーの装備は出会った時からで、断じて俺の趣味が入っているわけではない。
あらぬ誤解をされる前に説明しておこうと考えていると、遠坂は再び明後日の方向に向かって会話をしていた。
「それは本当?
……ふぅん、なるほどね。
まあ、気が向いたらそうするわ」
「どうかしたのか?」
「いいえ、こっちの話よ。
ああそうだ。
何か気になることがあったら聞きに来なさい。
気が向いたら対応してあげる」
「え、いいのか?」
「乗り掛かった船よ。
あくまでその時気が向いたらだから、そのまま突っぱねられる覚悟はしておきなさい」
「いや、それでも助かるよ、ありがとう」
「それじゃあ、健闘を祈るわ」
そう言うと遠坂はそこから姿を消した。
転移魔術でも使ったのだろう。
……ライダーの装備の弁明するタイミングを失ったわけだが。
『ずいぶん友好的な方でしたね。
それにしても、私の装備は日本の甲冑のはずですが、この時代の人には珍しいんでしょうか?
流石に、サーヴァントなら甲冑を纏った者もいると思うんですが……』
「け、結構時間経ってるし、そろそろアリーナに行こうか」
うまい返し方が思いつかなかったため話をそらす。
本来の目的の気分転換は十分できたのだ。
そろそろアリーナへ向かうことにしよう。