Fate/Aristotle   作:駄蛇

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お久しぶりです。
水着フランでテンション上がってからのApoのフランロスで精神的大ダメージを受けてる真っ最中です

今回から四回戦ですが、今回もタイトルで遊んだ結果、各話文字数が1万近くになると思います


4回戦:――――
波風絶えぬ中にある平穏


 願望は本来の道筋を乖離させる。

 乖離させた事象は願望を阻む足枷となる。

 この矛盾もまた、人間の性だろう。

 理想の話、思い通りに進む物語でさえ、予期せぬ事象は訪れる。

 

 何の、為に

 

 

 ★

 

 

 ランルーくん討伐戦から二日が経過した朝。

 ここ最近はライダーと同じ布団で睡眠をとることに気まずさを感じていたのだが、今回ばかりはお互い傷がひどく、甘えたことは言っていられなかった。

 身体の調子を確かめるようにゆっくりとした動きで上体を起こす。その隣には正座で主人の目覚めを待つ従者の姿。2日程度期間が空いただけだというのに、その光景を懐かしく感じてしまう。

 昨日一日を丸々休養に当てたことで完治とまでは言えないがだいぶマシになり、ライダーとのギクシャクした雰囲気も若干ながら改善したように思える。

 

『2階掲示板にて、次の対戦者を発表する』

 

 そこに送られる四度目の通知。

 それは、敵を倒すための七日間の始まりを告げる鐘。

 不戦勝でもこの通知が来るのは予想外で一瞬通知の意味が頭に入ってこなかったが、気を取り直して2階の掲示板に向かう。

 すでに4度目になる光景、しかしそこに書かれている告知はいつもとは違っていた。

「俺の名前だけ……?」

「不戦勝の人間はそのように掲示されるのだよ」

 声に振り返ればそこには言峰神父が相変わらずの笑みを浮かべて佇んでいた。このカソックに身を包んだ男性はいつも前触れもなく現れるものだから毎回心臓に悪い。

 ただ驚かされるだけなのも癪なので、少し疑問に思っていたことを目の前の運営担当に尋ねてみる。

「ひとついいですか?」

「なにかね?」

「ユリウスがこの校舎は複数あると言っていました。 それはどういう意味なんですか?」

 そのことか、と言峰神父は肩をすくめる。

「さすがに128人のマスターを一つの校舎で運用するのはトラブルが起きる可能性も高くなる。

 それを極力避けるため、そしてサーヴァントを維持するための処理を軽くすために、ムーンセルは複数の校舎を設定してそれぞれに20体前後のサーヴァントとマスターを配置させている。

 一回戦で知り合ったマスターに二回戦で全く会わず、三回戦で再び出会う。なんてことが起こっても不思議ではないのだが……

 どうやら君はそれに気づかないほど周りが同じ校舎に配置されたか、非常に鈍感だったかのどちらかだろう」

 相変わらず一言余計だが、おかげで状況は把握できた。

 なるほど、今までは運が良かったが、遠坂やラニに毎回相談できるわけではないというわけか。

 そこにトリガー生成の通知が入る。

「トリガー生成の通知か。念のために忠告しておくが、不戦勝でもトリガーの入手は今までどおり行ってもらう。マスターとの決戦がないただのタスクなど張り合いがないだろうがね。

 では、検討を祈る」

 その言葉を最後に言峰神父は姿を消してしまった。

 不戦勝だから何をすればいいのか途方に暮れるかと思っていたが、トリガー取得が条件ならばアリーナに向かうとしよう。

 

 

 アリーナに足を踏み入れると、目の前に広がるのは深海を連想させる深い青色の風景が広がっていた。三回戦のステージは光が差す幻想的な海底神殿という印象だったが、今回は再び二回戦や一回戦の風景に戻ったように感じる。

 対戦相手がいないということは、必然的にこのアリーナを探索するのは自分一人のみだ。風景も相まって足音に若干の虚しさを感じつつアリーナを探索していくがイマイチ気が進まない。

 校舎でいたときにはそれほどでもなかったが、こうしてアリーナでエネミーと戦闘を行っていると、胸の中ではもやもやとした感情が渦巻くのだ。

 本当に自分が生き残っても良かったのか、と……

 その資格、生存の理由(レゾンデートル)は何だ?

 シンジは死にたくないと嘆きながら最期まで生きることに執着して死んでいった。

 ダン卿は、その真の想いがどこにあったにせよ戦うことに意義を見出し、覚悟を持ち、その結果を全て受け止め、果てて行った。

 サラは自分の命を犠牲にしてでももう一度父に会いたいという信念を持ち、己の身体が未知の状態になりつつも突き進んでいる。

 ランルーくんはその真意を知る前に討つことになったが、その仮面の奥には狂気以外の何かを感じた。

 自分には彼らの命を奪い、背負うに足る目的があるのだろうか……。

 ダン卿は言った。

 戦いに意味を見出してほしい、と。

 自分が誰なのか思い出せないような人間に、そんなものが見出せるのだろうか。

『心ここにあらずだな』

「……ごめん。情報収集をしないでいいから、別のことに思考を使ってしまうみたいだ」

『別に謝らなくてもいい。それに記憶がないお前には自己消滅を避ける意味でも自己分析は必要だ。

 まあでも、今はもっと別のことを考えるべきじゃないかしら?』

 ちょうど目の前でライダーがエネミーを切り伏せ、こちらに戻ってきた。

「主どの、無事エネミーの首を討ち取ってきました!!」

「ありがとう、ライダー」

 頭をなでると彼女は気持ちよさそうに目を細めて頬が緩む。

 わからないと言えば、ライダーの態度もいまいち把握しきれない。

 討伐戦ではそれしか方法が思いつかなかったとはいえ、コードキャストによる無茶な自己強化や相手サーヴァントの攻撃を誘導するといった行為により、ライダーとの溝は深まったと思った。

 しかし実際は彼女が今も怒っているという風には見えない。戦闘面でも俺が後衛を務めている間は普段通りだ。だが、俺が援護のために前に出ようとすると、無理をしてでも早急に戦いを終わらせようとする。

 そんなライダーの様子に気を取られ、自分の指示がきちんとできているのか不安になっている自分がいる。非常にまずい悪循環だ。

『気が乗らないなら、少し私の探し物の手伝いをしててもらってもいいか?』

「探し物って?」

 おつかいでも頼むような軽い切り出し方で一体何を言うのかと詳しい内容を待つ。

『私の右手だ。

 あれから探してるけど見つからないのよね』

「いやそれ絶対軽いノリで言うものじゃないよね!?」

 予想の斜め上をいく探し物に思わず叫んでしまった。

 今までなんでもないような顔で過ごしていたために忘れかけていたが、彼女の右手は三回戦の際に自身のサーヴァントによって切り落とされている。

「俺の方から切り出すの忘れてたのは悪いと思ってるけど、右手が見つからないなんてかなり深刻じゃないか!」

「そうでもないぞ? イメージしやすい動作としてタイピングを選ぶウィザードが多いが、端末の入力なんて手でしなくても問題ないからな。

 物体の持ち運びも一度データにしてアイテムストレージにでも入れれば片手すら必要ないわよ」

「そういう問題じゃ……っ! まあ、サラ自身がそう解釈してるなら俺がとやかく言う必要はないんだろうけど。

 それで、どうしてアリーナなんだ? 切り落とされたのって確か2-Aの教室だったはずだけど」

「そこはすでに黒鍵を回収したついでに探してる。その後も合間を見つけていろいろ探し回っているんだが全然見つからなくてな。すこし調べてみると、どうやら用途不明の物質は一度アリーナに転送されて一定期間放置された後に削除する仕組みらしい。

 教師のロールを当てられているNPCがそれで嘆いていて、それに他のNPCが同情の念を送っていたから間違いないでしょう――」

「そう言うことは早く言ってよ!

 ライダー、今日中に探し出そう!」

「え、あ、はいっ! 承知しました!」

 まさかの時間制限付きにライダーを置いていく勢いで走り出す。ここまでのアリーナ探索は身が入ってなかったが、こちらのモニタリングは常にサラがしているはずだ。

 その彼女が何も言わないということはまだ見つけていないのだろう。となれば、可能性があるのはまだ足を運んでいない空間だ。

 一日でアリーナ踏破など今まで一度もしたことはないが、今まで何度も手助けをしてくれたサラのためだ。何としても今日中に探し出したい。

「でも、アリーナはアリーナでもこの四回戦の階層で大丈夫なの?」

『その辺りも含めて微妙なところだろうな。黒鍵が回収できたから、その時点で校舎が変わっていなかったのは確実だ。なのに私の右手だけなかったということは、考えられるのはアリーナに転送されたか他のマスターに拾われたかの二択だろう。後者ならもう打つ手はないな。そんなわけだから、ほどほどの捜索で構わないぞ。最悪見つからなくてもアバターの方を弄って復元すればいいだけだからな。

 わざわざお前に頼んだのは、令呪がまだ刻まれているならお前の助けにもなるからよ』

「そういう問題じゃないだろう。データとはいえ、自分の身体が欠けてるなんて……」

 そんなの、自分なら考えたくもない。

 とはいえ、サラの性格だと本当のことを言っているのだろう。勝手な意見を押し付けないように余計な言葉は飲み込み。代わりにアリーナの隅々まで注意を払って奥へと進む。

 ライダーに道を切り開いてもらいながらのアイテム探し。どんな形で放置されてるのかもわからない状態での捜索は困難を極めたが、ようやく今までに目にしたことがないデータの塊が浮遊しているのを発見した。

 見つけるまでは手間がかかったが、見つけてしまえばあとは通常のアイテムボックス同様に展開するだけ。ここにきてダミー、なんて最悪の事態も想像してしまうが……

「疲れすぎて切り落とされた右手見ても全然驚かないや」

『人様の手に対してその反応もどうなんだ? ……令呪はすでにはく奪されているか。

 まあ私はすでにマスターではないし、仕方ないかしらね』

 なんとも締まらないが、これで目的は達成した。

 正確な時間はわからないがおそらく半日以上の時間を要することになった。アリーナも残るはトリガーがある最深部へと続く通路ぐらいだろう。

 ……逆に言えば、トリガーがある通路をことごとく外してきたということにもなるのだが。

「あとはトリガーを取るだけだけど……悪いけどトリガー取得は明日でもいいかな?」

「たしかに今の主どのは疲労がたまっていますから妥当な判断でしょう」

「それに桜や舞にお礼がまだだったから、出来れば今日中に済ませておきたいんだ。サラ、悪いんだけど右手を渡すの少し遅れるかもしれない」

『別にわざわざマイル―ムまで来る必要はないぞ。今の私はお前の持ち物にも干渉できるんだ。私の右手はお前がアイテムストレージに入れてくれればこっちで勝手に回収させてもらう。

 お前が帰ってくるまでにこっちは勝手に右手の修復を済ませておくわ』

 サラの言葉に甘え、アリーナから校舎に戻るとまず桜へのお礼とラニの容態の確認のために保健室へ向かった。

 中を覗くと桜がベッドのシーツを取り替えたり花瓶の花の種類を変えたりと、保健委員らしい事務処理を行っていた。

 電脳空間ではあまり意味がないことだというのに、やはり彼女はマメだと思う。

 それからすぐにこちらに気づいた桜は穏やかに微笑んで迎えてくれる。

「こんにちは、天軒さん。今日はどういったご用件ですか?」

「この前の弁当のお礼、改めて言おうと思って。

 おかげでどうにか四回戦まで生き残ることができた」

「こちらこそお役に立てたのなら光栄です。あ、こちらが完成品になりますので、どうぞ」

 言いながら手渡された重箱には、色とりどりの料理が鮮やかに盛り付けされていた。見ているだけで食欲がそそられる。

「今回から各回戦ごとに一つだけ支給しますので、忘れずに取りに来てくださいね。

 サーヴァント用に調整していますから、マスターである天軒さんに食べてもらってもこれと言った効果がないのでオススメできませんが、サーヴァントの治癒効果はばっちりです!」

 よほどの自信作なのか、珍しく桜は自信たっぷりに胸を張る。

 ……舞との交換条件でこれを彼女に譲ることになるのだが、申し訳なさすぎるのでそのことは伏せておこう。

「それから、昨日ようやくラニさんが目覚めました。

 そちらのベッドで休んでいますので、様子を見てあげてください」

 言いながら桜はカーテンで仕切られたベッドの方を指さした。

 それで要件は済んだと言わんばかりに作業に戻った桜にもう一度礼を言ったのち、そっとカーテンをめくって中の様子を確認する。

 あまりに気配がなかったので眠っているのかと思ったが、意外にもラニは身体を起こし、その目でこちらをしっかりととらえていた。

「よかった。目が覚めたんだね」

「あなたは、何者ですか? 天軒由良」

 何の脈絡もなく、唐突に問いかけられた。その表情には若干の警戒の色が見える。

 自分は何者なのか……それがわかるのなら、ここまで悩むコトはない。

 自分はいったい何者なのか。その答えはいまだ得られていない。

「決戦場のファイアウォールを破って介入できるほどの……いえ、それよりも()()()()()()()()()()()霊子ハッカーなど、アトラスの書物(ライブラリ)に記録があってもおかしくありません。

 しかし、該当するデータは無い」

「……え?」

 ラニの言葉の意味が理解できなかった。

「ま、待って。待ってほしい!

 俺がラニの令呪を消費した? その二画失っている令呪は、ラニが使ったものじゃないのか?」

「一画使用したのは私も記憶しています。しかし、バーサーカーを呼び戻すような命令はしていなかったと思います。……記憶が曖昧なので断言はできませんが」

 言いながら目を伏せるラニが嘘をついている様子はない。つまり、本当にラニのあずかり知らないところで令呪が使用されたことになる。

『……………………』

『……………………』

 背後で霊体化したライダーと、端末越しに聞いているはずのサラも無言のままだ。

 無意識にサラなら何か知ってるのでは、と予測していただけに、この沈黙は非常に重くのしかかる。

 まさか本当に、俺がラニの令呪を使ったとでもいうのだろうか?

「……あなたは本当に霊子ハッカーなのですか?」

 その問いに答えることはできない。俺は、一体何者なのだろうか……

「どうやら、あなた自身その答えを探してるようですね。では、この件は保留にして質問を変えます。何故、私を助けたのですか?」

 現状脅威にはなりえない、と判断したのか、ラニから向けられていた警戒の眼差しは若干ながら薄まった。

 代わりに投げかけられたのは先日の俺の行動について。なぜ俺がラニと、そして遠坂を助けようとしたのか。

「あのままだとどちらか、もしくは両方が電脳死を迎えていた。

 結局、俺のしたことはそれを先延ばしにしただけかもしれない。それでもあの状況を前にして、目の前で人が死ぬのをただ黙って見てるだけっていうのは俺には無理だった。

 記憶を失う前の自分はどうかはわからないけど、少なくとも今の俺はそういう性格らしい」

「……傲慢ですね」

「よく言われるよ。特に助けた本人からね」

 ラニの的確で容赦のない指摘に苦笑いで返す。

 またも呆れられたかもしれないが、こうしてまた彼女と会話ができたのは素直にうれしく思う。

「本当に、不思議な人です」

 その言葉を最後にラニは再び横になって静かに目を閉じた。しばらくすると微かに寝息が聞こえてきて、タイミングを待っていたかのように彼女のバーサーカーが姿を現した。

「久々に穏やかな寝顔だ。マスターの中で何かが腑に落ちたのであろう」

「バーサーカー、意識を失っている状況でマスターは令呪が使えるのか?」

「不可能、ということはないであろうな。

 普通は命令と共に行使されるが、強く願った場合は本人の望む結果が訪れるように行使される場合もあるかもしれん」

 バーサーカーも可能性を口にすることしかできないようだ。

 このことは、ひとまずラニの言うとおり保留にするしかなさそうだ。

 

 

 保健室を後にしたあとは地下の食堂奥にある購買部に立ち寄る。

 ここ数日いろいろとありすぎてご無沙汰になっていたが、購買委員の舞は相変わらずの笑顔で迎えてくれた。

「あ、生きてた」

「久々に会った第一声目がそれってどうなの?」

 妙に棘のある発言も相変わらずだ。

「ここ最近全然見なかったからね。また無茶してたんだって?」

「うん、まあそれなりに……」

「君が認めるってことは、かなりヤバイことやったってことだね。ホントに反省してる?」

「なんかいつもより風当たり強くない?」

「そりゃ、君は誰かが定期的に止めてあげないといつの間にか暴走しちゃうからね。自分でも少し踏み込み過ぎてる気もするけど」

『そこまでにしてやってくれ。

 いろいろあって本格的に参ってるのよ』

「…………」

 またか、とでも言いたげな舞の冷たい視線が突き刺さる。

「たらし」

「その言葉は全力で否定する!」

 それでもなお疑う視線にいろいろと言いたい事はあるが今はやめておこう。

 話をそらすために使うようで桜に悪いが、ここに来た目的を果たすために桜弁当を取り出す。 いきなり取り出したからか舞はその重箱と俺の顔を交互に見る。それからようやく合点がいった様子で手を叩いた。

「やっぱり君なにかズレてるよね」

「先に何か言うことあるんじゃないのかな!?」

 本当に今日は何なのだろうか……

 なぜかいつにも増してサラの言葉が辛辣に思える。

「ごめんごめん。ホントに持って来てくれると思わなかったからさ。

 NPCとの交渉なんて守らなくてもいいのに」

 舞は自虐ではなく本心でそう言っているようだが、それは何か間違っていると思う。

 NPCとはいえSE.RA.PHの中では等しく一つの命だ……と思っている。もしそれが他のマスターから見れば異端であろうとも、俺には関係ない。

 目の前にいるのが過去の人格をベースにした虚像であろうと、俺の知る天梃舞という人物は目の前にいる少女一人だけなのだ。

「まあでも、この購買部は君がお得意様だからね。今後ともご贔屓に頼むよ。

 四回戦にもなると購買部のアイテム買いに来るマスターも減ってきてて、売上も伸び悩んでるからね」

「売上って関係あるの?」

「生き残ってるマスターの数が減ってくると校舎の数を最適化するんだけど、その際にNPCも選別を行うんだよね。まあ、桜や言峰神父みたいに聖杯戦争で最重要の役割を担ってるNPCなら、全校舎に配備されていて情報をリアルタイムで共有してるから関係ないけどね。

 で、そのとき購買委員の選別基準になるのが売り上げなんだよ。それだけマスターたちと交流があるってことにもなるし、効率的な運営のことを考えればそういうNPCを残した方がいいからね。

 私の性能が低いと判断されれば、次からは別の子になるかもしれないね」

「え……それは困る」

 思わず口から心の声が漏れてしまった。

 彼女の言うことが本当なら、最悪5回戦から別の購買委員が購買部を担当することになるかもしれない。

 しかし、ここまで勝ち進めたのは少なからず舞の手助けがあったからだ。勝手なのは承知だが、これからも彼女に購買部を担当してほしい。

「………………」

 舞はしばらくキョトンとした様子でこちらを見ていたが、やがてため息をつきながら肩をすくめた。

「ホント、君の対応にはいつも困るよ。私を残したいっていうなら、もっと売り上げに貢献してもらわなきゃね。この前のエーテル大人買いとかしてもらおっかなー」

「その大人買いで全財産使って買ったの知ってて言ってるよね?」

「あれぐらいしてくれないと私も売り上げに期待できないからね」

「ぐ……わかったよ。

 俺もエーテルの手持ちがないのをどうにかしたいし、資金が集まったら買いにくるよ」

 ニヤニヤとした笑みを浮かべる舞に見送られて購買部を後にする。

『たらし』

「だからなんでさ!?」

『まあそれは置いておいて、お前はあの購買委員と仲がいいんだな』

「そりゃ、一回戦からずっとお世話になってるからね。エーテルを安くしてることやアドバイスをくれることもあったし。ここまで勝ち進むのにいろんな人に助けられているけど、舞もその一人なのは間違いないよ」

 消費アイテムだけでなく、マイルームにある布団だって舞が無料で譲ってくれたものだ。

 他のマスターがどうであろうと自分の中では彼女の存在は決して小さくない。

「……とはいえ、やっぱり俺は甘いのかな」

『そうでもないぞ』

 返って来たのは予想外にも肯定的なものだった。

『物資補給は戦闘の基本だからな。必然的に物資を提供してくれる商人には多くの人間が集まってくる。そして接する人数が多ければ多いほどより多種多様な情報を得られる。尖った情報は他のNPCも持ってるだろうが、有力な情報を安定して得られるって点ではああいったロールのNPCが一番なんだよ。

 加えて物資補給はその持ち主の武器と直接関係があることも多い。場合によっては購入した商品から相手の戦術や武器を推測することだって不可能じゃない。

 そういうわけだから、情報戦においては案外ああいう人材こそ重宝するのよ』

 その言葉には思い当たる節が何度かある。ダン卿のときは戦闘をしないと絶対にわからないであろう武器の情報をあらかじめ知ることができた。サラのときも、どこに行けば彼女と遭遇しやすいか目星をつけることができた。

『まあ、そういうのを気にせずあのNPCと関係を築いたからこそ、向こうから善意でいろいろいろしてくれるんだろうけどな。

 今後も彼女の手を借りたいなら、彼女の言うとおり資金を貯めて売り上げに貢献することね』

「……うん、そうだね」

 サラの言葉は俺の対応への賞賛だったかもしれない。ただ、どことなく舞がすごい人物なのだと褒められている気がして、不思議と胸が熱くなるのを感じた。




ということで四回戦は不戦勝で進行していきます。
三回戦の構成上ほとんど掘り下げられなかったサラについて、ここで少しでも掘り下げれたらなと思ています。


ひとまず更新は再開しましたが、いまだストックが少ない状況ないです。
個人的に各回戦の最初から終わりまでは週一で途切れることなく更新したいと考えているので、四回戦の話が終わったあと五回戦の話を更新するまでに期間が空く可能性があります。ご了承ください。

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