Fate/Aristotle   作:駄蛇

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マシュの霊衣解放があるならメルトやメデューサにもあると信じてます!

今回でランルー君討伐戦終了です


ショウジョ ノ シュウエン

 体育館に向かうと、もはや崩落寸前と言っていいほど荒れ果てていた。

 今も2体のサーヴァントが凄まじい攻防を繰り広げているが、状況は芳しくない。

 ランルー君の実力はまだ未知数だとしても、万全なマスターとサーヴァントの実力ならユリウスたちの方が圧倒的に上だろう。

 しかしユリウスはつい先ほど負傷したばかり。必然的にサーヴァントだけの実力勝負になるが、どうもアサシンの動きが少し鈍いように感じる。ランルーくんがコードキャストでも使用したのだろうか……?

「ライダー、アサシンの援護をお願い」

「承知」

 壁を蹴り、天井を蹴って頭上から垂直に落下しながら両者の間に入ったライダーは、突然の乱入に固まっているバーサーカーに一太刀入れる。

 槍に弾かれ攻撃は失敗に終わったが、アサシンが息を整えるには十分な時間を稼げた。

「天軒、どういうつもりだ」

「1対1より2対1の方が有利だと思ってね」

「俺は共闘しないと言ったはずだ」

「ならせめてこっちに攻撃しないでくれればいい。俺たちが勝手にそっちに合わせる」

「……ちっ、勝手にしろ」

 それを承諾だと受け取り、ユリウスの隣に立つ。

「アサシンの動きが鈍いようだけど、攻撃を受けたのか?」

「……………………」

『あれは状態異常だな。スタンではないから毒の類だろう。

 今は大丈夫だろうが、長引けば戦況がひっくり返るかもしれないわよ』

 黙秘を貫くユリウスの代わりに端末からサラの説明が入った。

 その言葉に不愉快そうにユリウスは眉をひそめる。

『その様子だと、状態異常回復のコードキャストを持ち合わせていないか、それとも何かしらの理由で使用できないかのどちらかだな』

「黙れ」

『まあそういうな。今はお前みたいな危険人物でもいないよりマシなんだ。

 天軒由良、治癒薬は持ってるだろう?

 ユリウスに渡しなさい』

「必要ない」

『そちらに選択権はない。

 お前たちが共倒れになるのは私も避けたいのでな。

 まあ、それでも嫌だというのなら、わたしが勝手にアサシンの状態異常を直してやってもいいぞ?

 ついでに色々追加で弄ってもいいのならね』

「……ちっ」

 治癒薬をぶん取るユリウス。あとはそれを使えばアサシンの状態異常は治る。

「使うのはここではない。

 また状態異常のコードキャストを使われたら面倒だ。使うタイミングはこちらで決めさせてもらう」

「つまり、俺とライダーがそのタイミングを作ればいいんだね。

 ライダー、援護をするからアサシンと共闘して隙を作ってくれ!」

「承知!」

 アイテムストレージから黒鍵を取り出し、魔力を流して刃を生成する。まだ黒鍵を介したコードキャストの実行はできないが、やることは一緒だ。

「コードキャスト、gain_str(16);」

 見たところ筋力Bはあるバーサーカーに対してはDのライダーに筋力上昇を使っても厳しいところではあるが、それでも一手、二手と攻撃に転じる機会は増えていく。

 その小さな積み重ねによってできた微かな隙を突いてライダーがバーサーカーの右肩を切り裂いた。

「甘いわね!」

「っ!」

 だというのに、バーサーカーは怯むことなくその槍を振るう。

 間一髪でライダーは避けられたが、今のは一体……

「無駄だ。狂化のせいであいつは痛覚が鈍ってる。

 生半可な傷なら痛がらないし、血を浴びたら回復するぞ」

「……ユリウス?」

 いつの間にかユリウスは俺の横に立ち、相手の情報を与えてくれる。

「魔力が足りなくてアサシンはまともに戦えない。情報を与えてやるから前衛をやれ」

『驚いたな。あそこまで頑なに共闘を拒んでいたのに……

 どういう風の吹き回しかしら?』

「マスター・ランルーを殺すまでの停戦協定だ。俺はここで死ぬわけにはいかないのでな。

 状態異常治癒の礼装があるなら装備しておけ。あいつはこちらのステータスを下げるコードキャストを使う。下手に強化するよりそれらを防いだ方が堅実だ」

「なるほど、ありがとうユリウス」

 ユリウスとの共闘が実現したのは非常にありがたい。

 戦闘中に礼装を切り替えるのは隙が大きすぎるから避けるべきだが、二対一ならその隙もどうにかなる。それなら強化スパイクを装備したまま別の礼装を使うことも可能だ。

 それにランルーくんの戦闘能力が未知数な今、極力サーヴァント同士の戦いで勝つことを目的に作戦を立てたいが、あのバーサーカーを倒すには隙を突いて致命傷を負わせるか、宝具級の一撃でごり押すしかない。

 後者は論外として、前者も痛覚が鈍ってるせいで隙を突くとなら俊敏さを活かして懐に潜り込むぐらいしかないが、それだと一矢報いられる可能性があり危険だ。

 となれば、今はユリウスのアサシンの宝具に頼るしかない。

「宝具何回分の魔力が残ってる?」

「一撃ぎりぎり打てる程度だ。

 今アサシンには宝具を使わず倒せと言っている」

「なら、その一撃で終わらせられるようにこっちで隙を作る。

 トドメは任せるよユリウス!」

 ……不思議だ。ユリウスの視線は隙あらばこちらの背中を刺してもおかしくない殺気を放っているというのに、根拠のない信頼がある。

 不安は残っているが、今はそれを頭の隅においやり、最優先事項であるランルーくんとバーサーカーの撃破に意識を向ける。

 ライダーとバーサーカーの激しい打ち合いは一進一退で、どちらに状況が転んでもおかしくない。

 だからこそ、マスターの援護が重要になってくる。

 先に動いたのは、体育館二階から戦闘を傍観していたランルーくんだ。

「add_poison();」

「……っ、毒ですか!」

 ランルー君のコードキャストがライダーのバイタルに異常を起こす。あれがランルー君の使うコードキャストか!

「コードキャスト、cure();!!」

 あらかじめユリウスからアドバイスされていた通り礼装を切り替えていたため、すぐさま

 それを解除するコードキャストを実行する。

「キミノ サーヴァントモ ガンバルネ」

「……っ!」

 コードキャストを実行する少しの間だけ視線を外していただけだというのに、気付けばランルーくんは二階から俺の目の前にまで移動している。

 とっさに黒鍵を振るうが、苦し紛れの一振りはあっさりと避けられて背後を取られる。

「キミ 彼女ノコト スキ?」

「突然なにを……」

「ランルー君モネ 愛シテイルモノ アッタンダ。タクサン……イッパイ……

 イチバン 愛シタノハ ランルー君ノ ベイビー。

 小サクッテ 柔ラカクッテ トッテモ カワイイクテ……トッテモ 美味シソウナ ベイビー。

 ダケド モウ ミンナ イナイ。ランルー君ガ 愛シタモノハ ミンナ イナクナル」

 咄嗟に距離をとったが特に何をするもなく、ランルー君はただ遠くを見つめて語るだけ。

 そしてその内容からして、もしかして彼女は自分の子供を……

「――主どの!」

 そこにライダーが上から降ってきて、その手に握る刀で今にも切り伏せんとランルーくんを睨み付ける。

「貴様、主どのに何を吹き込んだ?

 返答によってはその首今すぐにでも刎ねるぞ!」

「フフ 怖イ 怖イ」

 刃物のようなライダーの鋭い殺気を受けながらも、ピエロの仮面よろしく飄々とした様子で走り去り、入れ替わるようにバーサーカーが襲いかかる。

「私よりそっちの子豚を気にするなんて余裕じゃない。

 それとも常に守ってないと心配で仕方ないとかかしら? ずいぶん足を引っ張ってるようだし!」

「黙れ小娘! それ以上主どのを愚弄すればその下顎を砕く!」

 真っ向から打ち合うが、それでは腕力が上のバーサーカーに軍配が上がる。

 ……いや、それだけじゃない。

 今のライダーは普段ではありえないほど攻撃を受けており、その露出した素肌は傷がないところを探すのが難しいほどだ。

 そのダメージでさらに動きが鈍っているらしく、バーサーカーの蹴りに対応出来ず、彼女を受け止めようとした俺ともども吹き飛ばされた。

「がっ!?」

「ぐ……っ!」

 致命的な隙を作ってしまうが、そこをユリウスのアサシンが牽制することで追撃は免れた。

『まだ解毒はしていないようだな……

 そろそろアサシンの体力も限界が近いはずだ。

 この状況を打開するにはライダーとアサシンが連携する必要があるわよ』

「ならばすぐにでも私が……っ!」

「ライダー待っ……ああもう!」

 まだ治癒が終わっていないというのに、ライダーは飛び出してしまい、意図せず悪態をつきそうになる。

 アサシンに加勢してバーサーカーの動きを止めようとするが、バーサーカーの槍と尻尾に翻弄されてうまくいっていない。

 むしろ合間に受けるダメージの方がどんどん深刻になっていく。

「これじゃあ回復が追い付かない……!

 サラ、サイバーゴーストに強力な治癒系のコードキャストは?」

『生憎と持ち合わせていないし、お前に装備された状態だと私は自分の魔術を使えない。

 そういう仕様だから諦めなさい』

「じゃあどうすればいい!?

 このままじゃライダーが危ない!」

『口を動かしてる暇があればコードキャスト使って援護しろ。

 ライダーのマスターはお前でしょう!』

 どうしようもない状態に思わず舌打ちをしてしまう。

 アイテムは購入している暇がなかったから持ち合わせはなく、手持ちのコードキャストではライダーを十分に援護できない。

「どうやったらサーヴァントを……」

 ふと脳裏によぎる一つの答え。

 無意識にその視線はマスターであるランルーくんに向いてしまう。

 サーヴァントの消滅はマスターの死亡を意味するが、マスターの死亡はサーヴァントの消滅とは直結しない。

 正確には、魔力が持つ限りサーヴァントは現界できてるから一矢報いることはできる。

 しかし、ランルーくんのサーヴァントはバーサーカー。強力な力を得る代わりに魔力の燃費が非常に悪いクラスだ。

 マスターを討つことができれば、すぐにでもサーヴァントは消滅するだろう。

『変な気は起こすなよ、天軒由良』

 その思考を断つようにサラの言葉が端末越しに聞こえてくる。 

「な、なんのこと?」

『まあ私の思い違いならいいさ。ただ、慣れないことはするなよ。

 お前の性格じゃ、あとで罪の意識に押しつぶされるわよ』

 ……どうやらすべてお見通しのようだ。

 熱くなっていた感情が急激に冷めていく。

 目の前ではライダーたちの剣戟は激しさを増し、より一層バーサーカーに翻弄されている。

 俊敏さを活かして背後を取ろうにもバーサーカーの尻尾がそれを阻み、痛覚が麻痺してるためダメージによる怯みも無いに等しい。

 極めつけに他人の血を浴びることで傷を治癒するその効果がライダーたちの決定打を遠ざけている。

 ランルーくんが傍観しているだけで援護をしていないのは不幸中の幸いだが、有効なコードキャストを持たない俺と魔力不足のユリウスではこの状況を活かすことはできない。

 状況を整理すればするほど今がどれだけ危険な状況なのか突きつけられる。

 それでも、諦めるわけにはいかない。

「ユリウス、この状況を打破する案は?」

「あったらすでにやっている」

 苛立ちを顕にした返答に肩をすくめる。

「ケヒャヒャヒャ……

 君タチモ モウスグオ終イ。モウ少シデ ランルー君ノ 願イ 叶ウンダ」

 仮面の奥に隠された道化師の表情が、歓喜とは違う感情よって歪む。

「ランルー君 愛シタモノシカ タベラレナイ。

 ダカラ 聖杯ニオ願イスルンダ。世界中ノ ミンナノコト 好キニナルヨウニッテ。

 ソウスレバ ゴチソウ イッパイ 食ベラレル」

 哀愁すら漂うその言葉は、彼女の心から漏れた本音か。

 しかし、彼女のサーヴァントであるバーサーカーはその言葉に肩をすくめている。

「正直、私はマスターの考えてることに賛同できないんだけど……

 まあ、私が輝けるステージを用意してくれるなら誰だっていいわ!」

 そしてライダーたちを弾き飛ばし、再三バーサーカーが宝具発動の準備に入る。

 疲弊したライダーたちでは、宝具を阻止することも宝具の斜線上から逃げることも不可能だ。

「ユリウス、さっきみたいにバーサーカーの宝具をアサシンの宝具で相殺することは!?」

「俺の魔力のこともあるが不可能だ。

 さっきはアサシンが若干早く宝具を発動できたからこそ辛うじて相殺できた。

 今から宝具の指示を出しても良くて同時。それだと向こうの声量に押し負ける」

『ちっ、ここまでなのか……』

 首を振るユリウス。その様子にサラすらも万事休すと諦め始めている。

 しかし、まだ手がないわけではない。

 ユリウスと会話しながら、片手間で操作していた端末の操作……礼装の装備変更が終わる。

『……おい、ちょっと待て!

 お前、何をしようとしているの!?』

「説教なら後で何時間でも付き合うよ。けど、今はこの状況を打破するためにはこれしか思いつかない!」

 サラの制止を無視して両足に力を入れる。強く踏み込む動作と魔力に反応しまずは一つ目の装備礼装、強化スパイクに内蔵されたmove_speed();が起動、バーサーカーとの距離を一気に詰める。

 それでもタッチの差で間にあわない。だからこそもう一つの礼装に魔力を回す。

「コードキャスト、gain_str(16);」

 起動するのは筋力上昇のコードキャスト。ただし、ステータスを上昇させるのはライダーではない。

 キャスターと戦ったときのように俺自身のステータスを上昇させる。

「ぐ……っ!?」

 前回とは違いすぐに全身が軋み出し、激痛で思わず顔をしかめる。

『このっ、馬鹿野郎が!!

 あれほど使うなっていったでしょう!』

 これまで呆れられたことはあれど怒られたことはなかったが、今回のサラは本気で怒ったらしく端末越しに聞こえてくる彼女の声色が明らかに変わる。

 しかしもう後戻りはできない。右手に黒鍵を握りしめ、ライダーとアサシンの猛攻を凌いでいるバーサーカーに狙いを定める。

 このまま切りかかるわけではない。いくら筋力を上げたところで、それでもバーサーカーが宝具を放つ方が早い。

 ただし、切りかかるだけが攻撃手段ではない。

 黒鍵は十字架を元にした剣の形をしているが、その本来の在り方は投擲剣なのだと、言峰神父は言っていた。

 無論素人が見よう見まねで習得できるものではないだろうが、今のドーピングした腕力ならただ投げるだけでもそれなりの攻撃になるはずだ。

「届けぇぇぇぇっ!!」

 握り方もフォームもむちゃくちゃで、ただバーサーカーに当たるよう微調整にだけ神経を集中させた投擲。

 振りぬいた際に自分の腕力で腕が千切れるかと思ったが、それほどの勢いで投擲した黒鍵はサラのようにダーツの如く綺麗に飛んでいくことはなく、縦に高速回転しながらバーサーカーへと向かっていく。

「っ!?」

 完全に不意打ちとなった一撃はバーサーカーを仰け反らせ、宝具は体育館の天井に風穴を開けるだけに留まった。

 その衝撃で天井に吊り下げられていた照明や鉄骨などが床に落下し、その場にいた全員が怯んでいる最中、バーサーカーだけは舌なめずりをしながらこちらに視線を向けていた。

「ふうん、そこの真っ黒なマスターと違ってただの無害な子豚と思ってたけど、案外戦えるクチ?

 まあでも? アイドルに花を投げるならともかく、剣なんて危ないもの投げるなんて、ちょっとキツーイお仕置きが必要かしら!」

 ライダーたちが動き出すよりも早く、バーサーカーはその巨大な槍を振り回し、まるで魔女が空を飛ぶために使う箒の如く腰掛ける。

 その矛先は俺をしっかりと捉えている。

絶頂無情の夜間飛行(エステート・レピュレース)!」

「……っ!?」

 直後、槍の持ち手側から魔力が噴出し、ロケットの如くこちらへ突進してきた。

 その光景には驚かされはしたが、予め槍に魔力が集中しているのは感じていた。

 瞬時に手持ちの黒鍵すべてを指に挟み込み、その刃の腹を重ねて盾として待ち構える。

 次の瞬間、こちらの身体を貫かんとする一撃が黒鍵から腕、腕から全身へと伝わり、耐え切れない衝撃によって遥か後方へと吹き飛ばされた。

「が、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 全身を地面に叩きつけられ、ようやく止まったころには体育館の壊れた壁から外へと追い出されていた。

「あははははっ! あなた面白いわ!

 もっと楽しませて頂戴!!」

 おもちゃを与えられた子供のように目を輝かせるバーサーカーは槍を握り直し、一気に距離を詰める。

「主どの!」

 その後を遅れてライダーが追っているが、どうやってもライダーが追いつくよりも先にバーサーカーの槍が俺の身体を貫く。

 バーサーカーの槍が目前に迫ったその時、彼女の足元で強烈なスパークが起こった。

「あ、ぐ……っ!?」

「地雷型の、コードキャスト……?

 他のマスターがここに設置していたのか?」

 誰がどんな目的で設置したのかわからないが、これは絶好の好機だ。バーサーカーの背後でユリウスが治癒薬を使うのも見えた。

 最後のひと押しのために、痛む身体にムチを打って声を張り上げる。

「今だ、ユリウス!」

「わかっている。宝具で決めろアサシン!」

 その一声でローブをまとった暗殺者の背中が大きく蠢く。

空想心音(ザバーニーヤ)

 背中から現したのは、3メートル近い不気味な腕。以前も見た正体不明の一撃だ。

 異様に長いその腕はライダーを追い抜き、バーサーカーを捉えんと伸ばされる。

 普通なら容易に避けられただろうその攻撃は、誰のものかもわからないコードキャストによって一時的に動きを封じられたバーサーカーを容赦なく突き抜けた。

 その変色した禍々しい右腕の中には、どす黒い赤色をした『何か』が握られており――それが心臓だと理解した時にはすでに握り潰されていた。

「――ごふっ!?」

 全身を痙攣させて吐血するバーサーカー。しかしその身体に傷はなく、心臓をえぐりだされたような形跡もない。

 それでも、確かにアサシンの魔手はバーサーカーの命を摘みとったことを悟る。

 ――終った。

 そう確信したが、そこで一つの大きな誤算が発生した。

「ま……だ、終わらないわよ!」

『まさか、戦闘続行スキルか!?』

 外傷は少ないが確実に致命傷を受けたバーサーカーは尚も槍を握り、振り上げた。

 避けることは不可能。そもそも俺だって意識を保っていることすら奇跡なこの状況だ。バーサーカーの道連れの一撃は容赦なく俺へ振り下ろされる。

「――そこまでだ小娘」

 聞こえたのは凛とした少女の声。

 続いて見えたのはバーサーカーの首が刎ねられ、鮮血が吹き出す光景。

 それでもなお槍を振り下ろすが、その矛先は見当違いな場所に突き刺さった。そこでようやくバーサーカーの動きが止まり、ノイズに侵食されて消滅した。

 断末魔を上げることすら叶わず。それはさながら、生前誰にも看取られることなく息を引き取った時のように、あっけ無い終わりだった。

 痛む身体をライダーに支えてもらい体育館の中に戻ると、ランルーくんはボロボロになった床に倒れこみ、手足をバタつかせる。

 それは苦しみにもがいているというよりは、駄々っ子のようで――

「アーア バーサーカー 死ンジャッタ。

 ランルーくんモ 死ンジャウネ。

 アーア オナカ 空イタナァ。オナカ――」

 壊れた玩具のように手足を振り回し、言葉を吐き続けた挙句――ランルーくんは唐突に消えた。

 まるで見えない誰かがテレビのスイッチを切ったみたいに。それは狂ったピエロによく似合う最期だった。

 最期まで、その仮面に隠れた心を理解することなく……

「おめでとう。これにて敗者復活戦は終了した」

 ランルーくんが消滅するのに合わせて言峰神父が姿を現す。

 その不敵な笑みは一体誰に向けたものかわからないが、決して祝福しているわけではないだろう。

「とはいえ、残念ながら生き残ったのは君たち2人だけだ。

 余った1枠は最初に言ったとおりバーサーカーを討ったマスター、天軒由良の不戦勝に利用する。異論はあるかね?」

「好きにしろ。その程度くれてやる」

 こちらを一瞥するがそれ以上何をするでもなく、ユリウスはあっさりと言峰神父の言葉にうなずき、それ以上は何を言うでもなく体育館を去っていった。

 言峰神父も自分の仕事は終わったと言うように姿を消し、ライダーと二人きりになる。

「ひとまずライダーの傷、を……」

 満身創痍な身体はすでに立つことすら難しく、膝から力が抜ける。その身体を支えてくれたライダーは自分も満身創痍だというのに真っ先にこちらを労ってくれる。

「お疲れさまでした。今日はゆっくりと休んでください。

 ……主どのに無茶を強いる私の無力さをお許しください」

 疲れからか音が遠く感じ、まともに彼女の言葉を聞くことはできなかったが、いつもの彼女の労いの言葉なのはわかった。先ほどまでの冷たいものも感じない。

 ……だからこそわからない。一体どうすればこの居心地の悪い状態は改善されるのだろうか。




エリちゃんを容赦無く殺すの気が引けましたが、EXTRAでは救われないらしいので、個人的に振り切らせてもらいました

前回も言った気がしますが、ここから一ヶ月ほど休止します
次回は9月あたりに四回戦を更新予定です

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