いろいろとFateからの供給が多すぎて毎日が楽しみです。
タイトルでわかる方もいると思いますが、今回と次回はあのサーヴァントが登場します
朝、外出を許可してくれたライダーと共に校舎へ移動する。
目の前に広がるのは見慣れた廊下の風景。しかし今までと明らかに違う雰囲気に眉をひそめる。
「……静かすぎる」
昨日もマスターとすれ違うことはなかったが、それでも賑やかしのNPCは廊下を歩いていた。だというのに、今日はそういった人影すら見当たらない。
「もしかして、固有結界?」
『いえ、魔力の流れも感じませんでしたのでそれはありえません。
正真正銘、聖杯戦争に使われている校舎です』
気味の悪い状況に周囲を警戒していると、突然校内放送が流れはじめた。
『運営委員からのお知らせです。
校舎にいるマスターは至急体育館へ集まってください。
繰り返します――』
内容は運営からの招集。
今までのようなメールと掲示板による対戦者の発表とは違った趣向だ。
ふと脳裏に浮かぶのは、昨日の言峰神父の言葉。
「どう思う、ライダー?」
『行ってみましょう。
どの道、このままここにいても何もわかりませんし、罠であっても私が必ずお守りします』
「わかった、じゃあサラにも連絡をーー」
『心配しなくてもマイルームにも放送は流れていた。
それに工房を設置したおかげで端末を経由してそっちの状況はリアルタイムでモニタリング出来ているから安心しなさい』
……今後の自分のプライバシーというものに不安を感じてしまったが、ひとまずここは体育館へと向かった。
体育館に足を踏み入れた瞬間、全身の毛が逆立った。ユリウスのアサシンに背後を取られた時を彷彿とされるその空間で佇んでいる人影が二人。
赤い巻き毛におどけた表情の仮面。派手な衣装に長身痩躯。本来は陽気なピエロを連想させるような仮装なのだろうが、ぽっかりと開いた穴の奥から覗く双眸は蛇のようにぬらぬらと暗く光っており、陽気とは程遠い。
その隣にはサーヴァントらしき少女の姿。露出の高い可憐な衣装に身を包み、見ようによってはアイドルを連想させるかもしれない。しかし、すらりとした脚とは別にスカートから覗かせた黒い尻尾と、マイクスタンドにも見える巨大な槍が、彼女が人ならざる存在なのだと語っている。
「お下がりください、主どの! あの者たちは危険です」
すでに抜刀した状態でライダーが前に出る。
情報過多で整理しきれず混乱していると、体育館に手を叩く音が響いた。
音のする方へ視線を向けると、カソックを見にまとった長身の男、言峰神父が立っていた。
言峰神父の姿を視認したサーヴァントは退屈そうに尻尾を振り、眉をひそめて問いかける。
「貴方がこの舞台をセッティングしたディレクター?
こんな観客がいない殺風景な場所であたしに何をさせようっていうのかしら?」
「それは今から説明しよう。
……ちょうどマスターも全員集まったようだ」
言峰神父の言葉の通り、俺とピエロ以外に9人の男女が体育館へと入場してきた。
その様子を見たサーヴァントは満足そうに笑みを浮かべる。
「開演ギリギリに来るのはいただけないけど、思ったよりいるじゃない」
最終的に十数人のマスターらしき人物が集まった。
ほとんど見覚えのないマスターたちだが、その中に一人だけ知ってる顔に思わずその名を口にする。
「……ユリウス」
「貴様もこの茶番に巻き込まれたのか。
一体何をしでかした?」
「それは、どういう意味なんだ?」
ユリウスの言葉の意味が分からず聞き返すと、図っていたかのように言峰神父が語り始めた。
「マスター諸君、集まったようだ。
ここには同士討ちによって二人ともが消滅する寸前だったもの、そして二つのトリガーを揃えられず、モラトリアム中に敗北が確定したものなどが集まっている。
本来ならルールに従い消滅させるのだが、知っての通り二回戦までにそこにいるマスター殺しが勝者を数人殺害したことで、トーナメントの人数が合わなくなってしまった」
「…………ちっ」
言峰神父の言葉にユリウスへ視線が集まり、彼は不機嫌そうに眉をひそめる。
言峰神父はしばしその様子を愉しむように眺めてから、再度説明を続ける。
「聖杯を掴むに相応しい強者を選ぶため、不戦勝という手段は極力避けたい。それならば消滅する運命にあった者を再度参加させて戦わせた方がマシだ。
そこで、君たちには特別に敗者復活の機会を与えようと思う」
言峰神父の発言にざわつく中、彼は体育館の中心にいるピエロを指差す。
「そこにいるのは予選の時から度重なる警告を無視し、破壊活動を続けてきた違反者だ。
その被害はマスター殺し以上。
これ以上は大会運営に支障をきたすと判断し、三回戦をもってこの二人を消去することが決定した。
しかし、ただ消去するだけでは面白くないうえ、なによりマスターが減っていく一方だ。
そこで、君たちには先ほど言った敗者復活の権利を賭けてこの違反者を討伐するゲームをしてもらいたい」
「そこのピエロを殺したマスターが聖杯戦争に復帰できるということか?」
マスターの一人が言峰神父に問いかける。
それに対して言峰神父は首を横に振った。
「空きは3人分存在している。まあ候補者は10人であるためそれでも足りないがね。
よって、討伐完了時に生き残っているマスターがそれ以上いた場合、生き残ったもの同士でその席を巡って争ってもらうことになる」
「それじゃあ逃げ回って他の全員が疲弊するのを待つほうが有利じゃない」
「その通りだ。だからこそ、討伐したマスターには別に報酬を与えることとしよう。
報酬は、自分が戦う対戦相手のサーヴァント情報を一体だけ閲覧できる権利、などどうかね?」
「……っ!!」
その場にいたほとんどのマスターがその言葉に息を呑んだ。
ここまで勝ち進んできたマスターなら、サーヴァントの情報がどれほど重要なのかは身を持って知っているハズだ。
その情報が無条件で手に入るのだから、得る側は最大のアドバンテージであり、得られなかったものは自分のサーヴァントの情報を知られるディスアドバンテージとなる。
これほどハイリスクハイリターンな報酬は存在しないだろう。
「協力し、最後の最後に出し抜くのもよし。
報酬は諦めて他の者の弱体化を待つため逃げ回るのもよし。
それぞれの戦い方で挑むといい」
「もし、討伐する側の脱落者が空きよりも少なくなった場合はどうなるのかしら?」
「その場合は仕方がない、空いた部分はまた不戦勝という形をとることになるだろう。
……ふむ、なら不足が出た場合、違反者を討伐した者は四回戦が不戦勝になる、ということとしよう」
「な……っ!?」
この神父、とんでもないことを提案したぞ!
ただでさえ3枠の敗者復活権を奪い合うバトルロワイアルだというのに、さらに不戦勝を狙うならば一人余計に倒す必要がある。
つまり、仮に残りが3人になったとしてもさらに戦いが繰り広げられることになる。しかもルール上、違反者を討伐する前に、だ。
下手をすれば、1人になっても確実な不戦勝権の獲得のために争いが起こるかもしれない。
言峰神父はそれをわかっていて言っている。
この状況で俺たちがどんな行動を起こすのか愉しむために……!
「この討伐戦ではアリーナとマイルームへ続く道はロックされている。
その代わり、今回限り校舎内での戦闘を許可しよう。
各自違反者の討伐に励んでくれたまえ。
……というのでどうかね、マスター・ランルーのサーヴァントよ」
「質問があるわ。
逆に私がここにいるサーヴァントを全員殺しちゃったらどうなるのかしら?」
「今までのペナルティの白紙。分解処分の取り消し。
これだけのサーヴァントを相手にして生き残っているのなら、聖杯の求める強き者の候補として十分な素質があるということだろう」
言峰神父の提案に、ランルーというマスターのサーヴァントは愉快そうに笑った。
「ええ、いいわ最高よ!
今日は久々のブラッドバスね!」
「ウン ランルー君モ オ腹スイタ。
コレダケイレバ 一人グライ 食ベラレルヒト イルカモネ」
サーヴァントは見の丈ほどある巨大な槍を床に突き刺すと、背中から翼を生やし、ふわりと浮いて矛先に着地する。
「はぁい、豚ども。
今日は私のライブに集まってくれてありがとう!
雷鳴轟くヤーノシュ山より舞い降りた鮮血の唄歌い!
ハンガリーにその名も高い私は――」
「ランサー、オクチ チャック」
「おっと、私ったらテンションが上っていろいろと喋ってしまったわ。
真名を伏せるのはマネージャーとの契約だったわね」
マスターに釘を刺されて自重したが、彼女の振る舞いはまるでアイドルがライブ時に使うマイクパフォーマンスのようだった。
突然始まったそれに、その場にいたマスター全員が唖然として動けないでいた。
「お礼に私のとびっきりのナンバーでイかせてあ・げ・る!!」
「っ、宝具がくるぞ!」
気づけば敵サーヴァントの口に尋常ではない魔力が収束していて、今にも宝具が放たれそうとしていた。
反射的に叫ぶとそれに反応してライダーは俺を担いで出入り口へと走る。
他のマスターたちも俺の言葉にハッとし、各々体育館から撤退しているのが見えた。
直後、体育館の屋根に大穴が開くほどの衝撃波が突き抜け、それが討伐戦の幕開けの合図となった。
敗者復活という名目で行われている、ランルーくん及びそのサーヴァント討伐戦。
校舎が揺れるほどの衝撃が度々起こっているということは、すでに戦闘が始まっているのだろう。
そんな中、俺は校舎一階の廊下を走っていた。
「主どの、一体どちらへ?」
「この校舎に俺たち敗者復活候補以外のマスターやNPCがいないか確かめておきたい。
もしこの戦闘に巻き込まれでもしたら大変だ」
「承知しまし……っ、主どの下がって!」
ライダーが抜刀しながら前に出たかと思うと廊下の奥から迫ってきた黒い『何か』を弾いた。
それはよく見れば人の毛髪であり、刃物と同等の硬度を持ってこちらを襲ってきている。
このような攻撃をしてくる敵を一人だけ知っていた。だからこそ、背後からくる奇襲に対応することが出来た。
「ユリ、ウス……っ!」
黒鍵がユリウスの拳を受け止める。
ただの拳のはずなのに、その一撃はサラとの打ち合いよりも重く響く。
「この攻撃を防ぐか。
どうやら、ただサーヴァントの強さだけで勝ち上がってきたわけではないようだ」
「どうして今ここで俺たちが戦う必要があるんだ?
今はランルー君のサーヴァントの方が優先だろう」
「あの女ぐらい俺一人でもどうにかなる。
すでにサーヴァントの情報もわかっているからな」
「女って、あのマスター女性なのか!?」
思わぬ真実に場違いな声を上げてしまうが、その反動のおかげでお互いの距離が離れた。
「その程度も知らないのかお前は。やはりさっきのは運がよかっただけか。
校舎内を走り回っていたのは逃げるためだろう?」
「違う、俺は無関係なマスターやNPCがいないか確認してただけで……」
「校舎内で戦うために設定されたこの場所にそんな邪魔者いるわけがないだろう。
その口ぶりだと、本選に使われている校舎が複数あることも知らないのか。本当に、なぜお前のようなやつが生き残っているのか甚だ疑問だ」
『はいはい、いがみ合うのはそこまでだ、ユリウス』
端末から響いたサラの声が、拳を構えるユリウスを制した。
一瞬怪訝そうに周囲を確認していたユリウスだが瞬時に状況を把握してこちらに向き直った。
「サラ・コルナ・ライプニッツか。
端末から通信とは何のようだ?」
『言わないとわからない頭ではないと記憶していたんだが、まあいい。
お前、本当に一人であのピエロを相手できると思っているのかしら?』
「……………………」
『黙りか、まあいい。
あのランルーくんとかいうマスターは私も一度会ったことがあるから言えるが、性格は狂っていても魔術回路は天性のものだ。
彼女自身の戦闘能力はわからないが、サーヴァントのステータスは魔力供給でブーストしてるでしょうね』
「だったらどうした。たとえ俺一人では厳しいのだとしても、他のマスターを利用してやればいい。
その指摘は天軒由良を殺さない理由にはならない――」
直後、ユリウスの言葉を遮るようにユリウスの背後の壁を貫通して何かが反対側の壁へ激突した。
その正体は俺たち同様体育館に集まっていた女性マスターの一人だ。
しかしその姿はボロボロで、なによりその身体にはランルーくんのサーヴァントが持っていた槍が突き刺さっている。
「ライダー、あの人を助け――」
いまだアサシンを牽制し続けてくれているライダーに指示を出そうとしたところに、槍が刺さった女性を追うように崩れた壁をくぐり、ランルー君のサーヴァントが姿を現した。
彼女の方も決して軽いものではない傷を負っていて、その戦闘がどれだけ激しかったのかを物語っている。
「貴方のサーヴァントには随分と手こずらされたわ。でも、これでお終い。
貴方が死ねばサーヴァントもそのうち消滅する。
バーサーカーなんてマスターがいなければすぐに魔力切れ起こすクラスだもの。
まあ、私も同じクラスだから少し複雑な気分だけど」
言いながらサーヴァントは槍を握り、一気に引き抜く。
「あ、ああああああああ――っ!!」
断末魔と共に噴水のように吹き出すマスターの鮮血をサーヴァントは浴びるように受けて心地よさそうに目を閉じる。
その鮮血はすぐさま魔力に変換されてサーヴァントに吸収されていき、彼女が受けていた傷が跡形もなく癒えていった。
「……吸血鬼め」
ユリウスは忌々しそうに呟いてから右手で自分のサーヴァントに指示を出し自分のもとに引き返させる。
それに伴いその相手をしていたライダーも隣に戻ってきた。
「……あら、こんなところにいたのね最後の子豚ども」
「さい、ご?
まさか、すでに他のマスターを倒したっていうのか!?」
「ええそうよ。ちょっとはやると思っていたけど、やっぱり負け組じゃ私を倒すことはできなかったわね。
それで、あなたたちはどうなのかしら?
あのディレクターの話じゃ、あなたたち二人だけはルール違反のペナルティでここに来たって話じゃない」
獲物を狩る獣のようにサーヴァントは舌なめずりをする。
ここで戦闘をするか、情報整理のために一時撤退するか……
「っ、ライダー何を!?」
判断をしかねているとライダーが敵サーヴァントに攻撃を仕掛ける。
しかしそれはお互いの武器がぶつかり合うだけに終わり、むしろ敵サーヴァントの腕力がライダーの態勢を崩した。
「熱狂的なのは嬉しいけど、ステージに上がるのはマナー違反よ!」
「がはっ!?」
無防備となった胴体に敵サーヴァントの尻尾が振り抜かれ、天井と壁に打ち付けられながら俺の後方まで吹き飛ばされた。
「ライダーっ!」
「だい、じょうぶです……」
立ち上がろうてしているがその足元は覚束ない。どう見ても重傷だ。
その治癒に時間がかかっていると、またもサーヴァントの口に魔力が集まっていく……!
体育館では出口から逃げることができたがここは校舎の廊下で、しかも階段は敵サーヴァントの背後にひとつだけ。
保健室側なら教会のある中庭に逃げ込むこともできたが、不幸にも今いるのはアリーナの出入り口である体育倉庫側。完全に袋小路だ。
ライダーの回復も終わっていない絶体絶命の状況で、ユリウスのアサシンが動きを見せた。
「――
「――――
直後、両者が宝具が衝突する。
アサシンが放ったのは、ユリウスにアリーナへ引きずり込まれた際最後に受けた、聞こえない『声』による攻撃。
対するランルーくんのサーヴァントも声を使った宝具らしい。
奇しくも似た系統の攻撃同士がぶつかりあうと、それは衝撃波となって廊下一帯を走り抜ける。
その衝撃は凄まじく、廊下の窓ガラスは一面砕け散り、俺とライダーの身体が壁に叩きつけられるほどだ。
『なんだこの馬鹿げた攻撃、端末越しなのに耳が潰れそうだ……!
天軒由良、今から送るデータをインストールしなさい!』
まともに思考が働かない状態で、サラに言われるがまま藁にもすがる思いで端末に送信されたデータをインストールする。
直後、耳を抑えるほどの音はまるで最初からなかったかのように聞こえなくなった。
「これは……?」
『設定した音量と音域以外の音をシャットアウトするコードキャストだ。
本当は精神統一をする際の補助に使うものだが、弄って使えばこの通りだ』
「すごいな、こんなコードキャストがあるなんて」
『……まあ、さすがに宝具相手には直撃ではなくてもすぐに砕けるみたいだが』
サラがため息混じりに呟くと、見えない壁が壊れるような感覚と共にコードキャストがその効力を失った。
同時にサーヴァント同士の音対決も終わりを迎えたらしい。
アサシンとユリウスは相手の宝具が直撃こそしないにしろ、俺よりも近い場所で受けたことで膝をついていた。
対する槍を携えたサーヴァントは不愉快そうに頭を抑えている。
「なによ、あれ! 耳障りな音ね! アイドルなら失格レベルよこんなの!
……いいわ、ここは一旦引いてあげる。
さすがに連続で歌い続けるのは身体が持たないし、化粧直しも兼ねてバックステージに戻るわ」
地団駄を踏みながらも冷静に状況を把握したサーヴァントは自分が開けた穴を通って離脱していった。
「ひとまず、助かったのかな」
「あの様子だとマスターの元で治癒をするつもりでしょう。
その間にこちらも対策を立てなければ今度は助からないかもしれません」
いつもは一人でも討ち取ってくるなんて言い出しかねないライダーがここまで警戒するとは驚いた。それだけ強敵ということか。
となれば、人数は多いに越したことはない。
「ユリウス、ここは共闘するのはどうだ?」
「俺が、貴様と?
何を馬鹿なことを。ふざけているのか?」
「俺とライダーだけじゃランルー君は倒せない。
ユリウスたちもさっきの攻防で傷を負って万全じゃない。
なら、ここは協力するしか手はないと思うんだけど?」
「必要ない」
これ以上の会話は不要だ、とでも言わんばかりにユリウスはアサシンを引き連れて去ってしまう。
あの様子では共闘を承諾してもらうのは厳しいか……
『まあ、ユリウスに関しては背中さえ刺されなければ問題ない。ひとまず保留としよう。
まずはあのサーヴァントの対策よ』
「わかった。
結構キーワード言っていた気もするけど……」
『おかげで真名も特定できた。
ハンガリー出身でブラッドバスに関連があるといれば、一人しかいない。
血の伯爵夫人、エリザベート・バートリー。
クラスはさっきのセリフを聞く限りバーサーカーね』
――エリザベート・バートリー。
十六〜十七世紀に実在したバートリ家の女性で、カーミラのモデルとなった人物の一人。
己の美貌のために600人以上の娘の生き血を浴びた鮮血魔嬢であり、最期は大量殺戮の罪でチェイテ城の一室に幽閉され、誰にも看取られずにこの世を去ったとされる。
先ほど血を浴びて傷が回復したのは、血で美貌を維持しようとしてた伝承がスキルになったのだろう。
『魔術師でも騎士でもないただの女性だと思ったがまさか竜の娘だったとは……
無辜の怪物でも持ってるのかしら』
「そうだとすると、かなり厄介な敵になるね」
ライダーのステータス自体は万全に戻ったとはいえ、体調のほうが万全ではないのだ。
行きあたりばったりでは足元をすくわれる可能性が高い。
なるべくライダーの強みである俊敏さを活かせる地形での戦闘が望ましい。
「……本当に誰もいないんだな」
現在地から近い広い地形として地下の食堂に足を運んでみたが、利用者が一人もいないことをこの目で確認し、ユリウスが言っていたことが本当なのだと実感した。
購買も覗いたが、舞の姿はもちろん他の購買委員もいない。
「この場所なら有利に戦えるかな?」
「はい、広さも高さも、遮蔽物として使える机や椅子もあるので申し分ない場所です」
「なら――」
「主どのは遮蔽物に隠れていてください。
必ずあのバーサーカーめの首を討ち取って見せますゆえ」
「…………何を、言っているんだ?」
「この空間であれば如何に竜の娘といえど私の方が有利に立ち回れます。
主どのは後方からコードキャストの援護をしていただければ問題ありません」
「いや待って、待ってほしい!
確かに俺はサーヴァント相手には何もできないだろうけど、マスターの妨害ぐらいなら……」
「それで何度大怪我をされましたか?
やはり、主どのは何もわかっておりません」
「確かにここ最近は無茶しすぎたと反省してる。でも聖杯戦争のルールでサーヴァントは敵マスターを攻撃できない。
ならマスターを止められるのは同じマスターの俺だけ。これまでもそうやってここまで来たじゃないか!」
『おいお前たち、今が戦闘中ってこと忘れたのか?』
サラの忠告の言葉も今は気にしていられない。どうも昨日からライダーの様子がおかしいのだ。
確かに無茶をしたし心配させてしまった。それを怒るライダーには悪いと反省しているし、彼女の言い分にも納得している。
ただ何かがおかしい。間違っていることに対してはマスターにであろうとはっきり言うという彼女のスタンスとは何かが違う。
そのことについて追及しようとしたそのとき、別の場所で校舎が震えるほどの衝撃と尋常ではない魔力の消費を感じた。
『おそらくユリウスとランルーくんが戦闘を始めたんだろう。
ここから少し離れているようだし、場所は体育館で間違いない。で、どうするのかしら?』
端末越しにサラに判断を迫られる。ライダーはこちらの顔色を伺うのみ。その視線は何を言おうとしてるのか察することができない。
「……体育館に向かおう。
あそこもライダーが戦うのには有利な地形だし、2対1に持ち込めるならそっちのほうがいい」
「承知しました。では急ぎましょう」
いつものライダーらしい返答。なのに、なぜか今回だけは距離が遠かった。
ということでエリザベート・バートリーとランルーくんの討伐戦です。
シリアス路線のエリちゃんは公式では空の境界イベ以来だからか、書いててすごい新鮮でした。
次回でこの討伐戦が終了予定ですが、そのあとの4回戦は現在執筆中で、すこし時間がかかりそうです。
なので、もうしわけないですが、来週の更新の後1か月ほど週一更新をストップします。