アヴィ先生の実装はよ……できれば全体のクイック性能アップのスキル持ちで。デュマ公でも可。
今回で3回戦+αは終了です
バーサーカーを見送り再び一人になった視聴覚室で、視線は何も映さなくなったスクリーンへ再び向けられる。
ラニの無事は確認できたが、遠坂の安否がまだわからない。バーサーカーの言い方からして、遠坂が勝者扱いになったらしいから、生き残っているとは思うが……
一階の用務室前で待機していればわかるだろうか、などと考えていると、すでに開いている視聴覚室の戸を蹴り倒して人影がやってきた。
「主どの、ご無事ですか!」
「ライダー、どうしてここに」
「どうして、ではございません!
主どのからの魔力供給に妙な揺らぎがあったので、サラどのに頼んで主どのを観測してみたところ、ほかの対戦相手の決戦場に赴いているではありませんか!
主どのにもしものことがあったらと、私は心配で心配で……っ!!」
「……心配をかけてごめん、ライダー」
「いいえだめです! 今日という今日は私も我慢なりません!
四回戦が開始されるまで、主どのにはマイルームで大人しくしていて頂きます。
自由があるとは思わないように!!」
わかりきっていたことだが、またライダーを泣かせてしまった。
涙ぐんだ瞳に睨まれて動くことができない。
何よりライダーの怒りはもっともで、言い返すことができなかった。
……いやでも待ってほしい。
今、割と聞き捨てならないことを暴露してはいなかったであろうか?
この状況では尋ねることもできず、ライダーに悪いことをしたという申し訳なさと、ライダーとサラが一体なにをしたのかわからない不安でなんとも言えない感情が渦巻いてしまう。
『やっぱり無茶したな、天軒由良。
そろそろ首輪ぐらいつけた方が安心なんじゃないかしら』
「さ、サラ!?
どうして俺の端末から声が……」
『連絡できるようにした際にさらに追加機能を付けさせてもらったんだ。
よほどお前を一人でどこかに行かせるのが心配だったんだろうな。
ライダーも快く承諾してくれたわよ』
なるほど、今朝自分の端末がサラの手元にあった本当の目的はそういうことだったのか。
ライダーに信用されてないのは悲しいことだが、実際いろいろ無茶をしてライダーに心配をかけてしまっているのだ。
このような対策を講じられてもた文句を言える立場ではない。
『さっさと戻ってこい。今日一日はみっちり説教だ。
お前の行動はそのまま私の命にも関わるんだから、そのことをみっちりわからせてあげる』
言い返す暇もなく一方的にサラとの会話が切られた。
どうやら、俺の一日はまだ終わらないらしい。
翌日、聖杯戦争始まって以来の居心地の悪い朝を迎えることとなった。
気まずさからライダーと同じ布団に入ることが出来ず、久々の椅子での休息を取ると、目が覚めた頃にはすでにマイルームの出入り口にライダーが門番の如く鎮座していた。
本当に外出を許さないらしい。
サラはマイルームの外にいるようで、なんとも重い空気の中で何もできずにただじっとしているだけの時間が過ぎていく。
その状態がしばらく続き、とうとう痺れを切らしてこちらから話を振る。
「ら、ライダー」
「何でしょうか。外出は諦めてください」
「いやそれはわかってる。昨日は心配させてごめん」
「……謝罪は昨日すでに聞きました」
視線を逸らすライダーに構わず言葉を続ける。
「あのときは無我夢中だったとはいえ、凛とラニを助けたいがために勝手な行動をとり過ぎた。
その結果、ライダーを悲しませることになったんだ。本当に反省している」
改めて頭を下げる。これではただの言い訳だろうが、それでも自分がどういう意図をもって行動したのかを伝えるべきだと判断した結果だ。
ここまで一緒に戦ってきてくれた……支えてくれたライダーへの謝罪を全身で表すために。
「……別に、凛どのやラニどのを助けたこと自体を責めてはいません」
「え、そうなのか?」
「少し、妬けてしまったのは事実ですが……」
「……?」
うまく聞き取れなかったが、ライダーは助ける行為そのものには怒っていないらしい。
「私が怒っているのは、主どのがご自身に無頓着過ぎることにです。
昨日だって、どうやってあの決戦場にいったのかはわかりませんが、普通なら令呪を行使しても出来るかどうかの奇跡です。
運良くSE.RA.PHが帰還処理をしてくれたからいいものの、下手をすればバグとして消滅してもおかしくはありませんでした。
勇気と蛮勇は違うということを理解していただきたい」
「………………」
ライダーの言葉が胸に突き刺さる。
結果的に無事帰還できたとはいえ、分が悪い賭けだったことには変わりない。
キャスターとの戦闘を経て、無意識に思い上がっていたのかもしれない。
「――反省もいいがそろそろ次のことを考えるぞ。
落ち込んだままなのはお前らしくないでしょう?」
マイルームへ戻ってきたサラが会話に加わる。
「自分のマイルームを覗いてきたけど、マイルームの出入りぐらいじゃSE.RA.PHは何もしてこないみたいだ。
おかげで工房も回収できるわ」
「何も持っていないように見えますが……」
「まだマイルームに残してある。
工房を作るためにはある程度の広さが必要だからな。
少しマイルームを弄らせてもらうわよ」
言うが早いか、サラはアイテムストレージから手鏡程度の大きさの鏡を二枚取り出し、それぞれ教室の前と後ろに設置した。
「サラ、これは……」
「合わせ鏡ぐらいは知ってるだろう。
鏡同士を向き合わせると、ニ枚の鏡には無限にも等しい空間が映り込む。
非魔術的には空間を広く見せるための錯覚に使われているが、魔術的にはさらに別の意味を持つ。
私が一番得意とする結界系の魔術よ」
ざっくりと説明をしながらサラが鏡に魔力を込めると、次の瞬間教室の広さが2倍近く広がった。
その光景にライダーと共に息を呑んでいると、視界の端でサラが肩をすくめた。
「今回は錯覚の方に魔術を施して空間拡張として利用するんだが、最低限の部品だとこれが限界か」
「いや、それでもすごいよ」
「やってることは単純だ。鏡に写った虚像を実像と誤認させるだけ。
メイガスが地上で同じことをする場合は魔法クラスだろうが、私たちが今いる電子の世界は言わば虚像の塊。距離に関しては特に曖昧な空間だ。
戸をくぐれば廊下に出るが、逆に言えば『戸をくぐる』というアクションを起こさない限り、いくらこの教室を広げようと廊下とかち合うことはない。
そんなわけだから、地上よりは空間の拡張は簡単よ」
「それって、時間じゃなく俺達の行動にあわせて朝昼晩が動くのも同じ原理?」
「そういうことだ。
ところでライダー、私の工房の部品回収をしたいから天軒由良を借りてもいいかしら?」
「そういうことでしたら」
マイルームから出ることが許可されたとはいえ、最早選択肢すら与えられずに連れ出されるのはどうなのだろう……
複雑な心境のまま廊下に出ると、いつも通りNPCは活動しているが、ほかのマスターは見当たらない。
時期的にインターバル期間で休養中のマスターが多いのかもしれない。
「そういえば、校舎に出ても問題ないんだね」
「私の中にあった『人間部分の私』だけを抽出したから、ほとんどハリボテみたいな状態だけどな」
忌々しそうに自分の身体を観察するサラ。
「魔力とは生命エネルギー。原則生きてはいない礼装は周囲のマナを吸収することはあってもオドを生成することはない。
つまり、礼装扱いになった私は本来なら魔力生成ができないのはもちろん、魔力切れだって起こすことはないんだ。
けど実際に私は魔力切れを起こしているし、魔力の生成も行っている。礼装が自動的に魔力を吸収して私という身体を維持しているのだとしても、その魔力はどこから溢れてきている? 仮にマナを使うのなら、地上ならともかくSE.RA.PHで魔力切れを起こす可能性は少ない。
なら、今の私にも人間としての……魔力を生成する部分が微かながら存在していると考えるのが妥当だ。その人間部分が今の私の1割なら、魔力生成の効率が1割に低下した説明もつく。そのうえ魔力を生成しないのに消費はしてしまう部分が9割ほどあるんだ。魔力切れを起こしてもおかしくない。
あとは私にかかれば簡単だ。『礼装部分』と『人間部分』が混ざっている身体を、一時的に別々に分けさせればいいわけね」
なんでも無いように言っているが、それはすなわち魂を分けるということだ。下手をすれば取り返しのつかない状態に陥る可能性すらある。それを平然とやってのけるのだから、サラが言っていた通り、本当に彼女は魂の扱いに長けているらしい。
「まあ厳密にいえば、分けるというより仕切りを作るっていう方が正しいかもしれないな。
現状、マイルームの外では礼装部分に魔力を回さないようにして自分の身体を維持している状態だ。
その弊害で私の身体能力はすべて1割に低下してるから簡単なコードキャストすら使えない。
まあ、今後はマイルームに籠るのが基本で、戦闘する予定はないしそこまで気にしなくても大丈夫でしょう」
その説明を聞いてホッとした。これで抱えていた問題は一つ解決したと言ってもいいだろう。
直後、背中に悪寒が走った。
振り返ればそこにはカソックに身を包んだ長身の男性……言峰神父が不気味な笑みを浮かべて立っていた。
「何か用ですか?」
「なに、簡単な通達だ。すぐに終わる」
言峰神父の口が意味深な笑みを浮かべる。経験則から、こういう表情の時は大抵ろくでもないことを考えているのがこの神父だ。
「他のマスター同士の決戦場へ侵入したことはもちろん、そのうえ両者が生き残るという結果になる原因を作った君には、相応のペナルティを与えなければいけない」
「……っ!」
わかってはいた。
あのようなルールブレイクを運営が許すわけがない。
最悪の事態も想定して言峰神父の次の言葉を待っていると、わざとらしくため息をついたサラが口を挟む。
「で、そんなもっともらしい建前で私達に何をさせるつもりだ?
校舎の掃除でもさせるつもり?」
…………え?
「ふむ、やはり君がいると話がとんとん拍子で進んで面白くないな。
少しは相手の手の上で踊ってみるというのも体験してはどうかね?」
「生憎とダンスは趣味じゃないんだ。
それで要件は何かしら?」
「追って連絡しよう。
明日には何かしらの連絡手段で伝える予定だ」
「じゃあついでに私からの質問だ。
ラニ=Ⅷと遠坂凛の処遇はどうなるのかしら?」
「さきほど本人たちに伝えてきた。気になるのなら彼女たちに直接聞いてくればいい。
ラニ=Ⅷならまだ保健室で休んでいる」
それだけ言うと、言峰神父は立ち去ってしまった。
「サラ、状況が読めないんだけど……」
「結論を言えば、ペナルティ云々は私達になにか面倒事を押し付けたい建前ってことだ。
私たちの四回戦進出の件も保留になったままだし、まとめてそれに組み込むかもしれないな。
……あの様子だと遠坂凛やラニ=Ⅷもいますぐに処分されることもないだろう。
ただ、面倒なことになるだろうから覚悟はしておきなさい」
「よ、良かったぁ……」
想定していた最悪の事態は回避できたと知り、思わずその場に座りこんだ。
その様子を見てサラは小さく笑う。
「懲りたか?」
短く、シンプルな質問。
それでも何を聞いているのかはわかった。
「さすがにもうライダーに相談なしで勝手なことはしないよ。
これ以上ライダーを泣かせるのはごめんだ」
「その様子だとよほど堪えたらしいな。
女の涙は武器っていうのは本当なのね」
「からかわないでくれ……」
サラの冗談にも今は肩をすくめることしかできない。
「まあその様子なら少なくとも今の状態で無茶をすることはないな。
工房の部品を回収するのは一人でもできる。
10分ぐらいなら好きにしていて構わないわよ」
「え、それって……」
「一時的とはいえ、『一人は死ぬ』という運命を覆したんだ。
その結果ぐらい自分の目で確認しなさい」
先ほどライダーに行った交渉は、俺を外に出すための詭弁だったということか。
「……ありがとう」
サラの気遣いに感謝しつつ走り出す。
言峰神父の言葉が本当なら、ラニはまだ保健室で休んでいる。
一階へ降りてまっすぐ保健室へ向かうと、中ではバーサーカーがラニを看病していた。
桜は見当たらない。どうやら席を外しているらしい。
「バーサーカー、ラニの容態は……」
「一度は目覚めたが、またすぐに眠りについた……
肉体のほうは問題ない。あるとすれば精神力の急激な消費が原因であろう。時期が来れば目覚める」
その言葉にホッと胸を撫で下ろした。
心臓を穿たれたというのに無事というのは驚いたが、どうやら彼女はそういう造りをしているようだ。
「そういえば、言峰神父はここに来ていたかな?」
「あの監督役か。我々の処遇を伝えに来たぞ。
本来ならありえないが、此度の聖杯戦争は若干の人数不足のようでな、このまま4回戦に進めるとのことだ」
「そう、か」
生きているということは、まだ戦いが続くということ。それはわかっていたことだ。
ただ、願わくばラニや遠坂が死なずに済む未来が……いやこの考えはよそう。
ラニも遠坂も死を覚悟してこの聖杯戦争に臨んでいるのだ。この考えは二人の覚悟を侮辱することになる。
「ラニが起きたら、よろしく言っておいてほしい」
「うむ、承知した」
今の俺にできることはない。
ラニのことはバーサーカーに任せて、ひとまずここから出る。
外には、いつからいたのだろう遠坂凛が壁に背を預け、待っていた。
「さて……どういう事か、説明してもらうわよ」
遠坂の鋭い眼光がこちらを射抜く。
その燃えるような瞳には、怒りと敵意。今までで一番激しい色をしている。
真剣勝負の場に割り込まれたのだから、このリアクションは当然といえる。
ここが決戦場なら殺されていても不思議じゃない。
いや、彼女ほどのウィザードなら、ユリウスのようにアリーナもどきの空間に引きずり込んで戦いを仕掛ける事だって可能だろう。
それをしないのは、単に殺しては説明が聞けない、というだけの事。
あの目を見るに、そう考えてよさそうだ。
「他人の戦いに乱入できたら、聖杯戦争のバランスは完全に崩壊するわ。
二人を相手に勝てるマスターは存在しない。
でも……決戦場のセキュリティは最高レベル。たとえ令呪の奇跡があったとしても、戦いを見る事すら不可能のはずよ。
天軒くんがそこまでの腕を持ってるとは思えない。一体どんなからくりがあったってわけ?」
疑問を口にする遠坂はいまだ構えたままだ。
こちらの返答によってはこのまま戦闘を始めることもある、ということだろう。
サーヴァントを連れていない今は圧倒的にこちらが不利だ。
たとえ遠坂がサーヴァントを使わないにしろ、マスターの実力差すらかけ離れている。
戦いを避けるためには、ただ祈りながら正直に話すほかない。
自分にも何が起こったのかわからない部分はあるが、出来る限りその場にあったことを説明していく。
すべてを話すと、遠坂は眉をひそめて顎に触れる。
「……なるほどね、ユリウスの仕業か。
まあ、あなたがあんな反則まがいをするなんて変だとは思ったけど」
戦闘の情報は漏れていない。
遠坂のサーヴァントは依然、その姿以外は不明のままだ。
その事が伝わったらしく、彼女の態度は多少は柔らかくなった。
最も、向けられた敵意と疑念が完全に消えたわけではなさそうだ。
「でも、ユリウスもセキュリティは破れずに引き上げたのよね?
なのに、なんであなたはアクセスできたのかしら。
私も前に調べてみたけど、あのファイアウォールを破ろうとすれば、攻性プログラムで逆に脳が焼かれるわ」
攻性プログラム……思い当たるものといえば、あの静電気のような痛みぐらいだが、その程度で終わるわけがない。
「それらしいものはなかった気がする」
「そんなはずはないわ。
たとえこっちの体は無事でも、本体の脳がとても……あっ」
思い出したように遠坂が声を上げる。
「ごめん、そういえば天軒くんは本体とのパスが切れてるんだったわね。今のは忘れて。
どっちにしても、これから戦い続ける気なら私たちは敵同士。それは変わらない。
ピーピングも、次にやったら見逃さないわよ。肝に命じておきなさい、いいわね」
矢継ぎ早に釘を刺し、早歩きで去っていく。
そんな中、彼女のサーヴァントが現界してこちらに歩み寄ってきた。
「マスターはああ言っておりますが、あの爆発を我々だけでどうにかするのは不可能でした。できたとしても、次以降を勝ち残るのが難しくなる程の致命的なダメージは避けられなかったでしょう。
救ってくださった天軒殿には感謝いたます」
そう言いながらサーヴァントが何かを取り出し手渡してきた。
「これは、絵巻?」
「いつか天軒殿の助けになるかもしれないもの、とだけお伝えします。
拙僧より貴殿が持っていた方がいいと思いますゆえ、どうかお受け取りいただきたい」
「そういうことなら……」
不思議なデータを受け取ると、満足そうに頷いてサーヴァントは去っていった。
中身が見えないように加工はされているが、ロックがかかっているわけではない。罠でもなさそうだ。
今は気にしなくても大丈夫だろう。
それより少し長居しすぎた。早くサラと合流しなければ。
サラと合流してマイルームに戻ると、彼女は拡張した空間にテキパキと設置していく。
サラの主な戦闘スタイルが憑依というメイガス寄りだったのもあり、彼女の工房と聞いて禍々しいものを想像していたが、実際は複数のディスプレイやキーボードが展開している近代的な機器に囲まれた空間だった。
「よし、配置はこれでいい。
天軒由良、黒鍵はまだ残ってるかしら?」
「二本だけなら」
「まあ無いだろうな、ってなぜまだ二本持っている?
今日確かに六本回収したはずだが……ああ、モラトリアム一日目にお前へ投擲した分か。
その二本貸しなさい」
どうやらキャスターとの戦闘の際に捨てた分はきっちり回収してくれたらしい。
アイテムストレージから黒鍵を取り出して手渡すと、サラはそれを工房の機材の中に入れてキーボードを操作しはじめる。
「どうするんだ?」
「ちょっとした仕込みだ。
今後のお前の助けにもなるはずよ」
説明している間に作業を終え、機材から排出された柄だけの黒鍵を彼女は手で持ってじっくりと観察する。
そして一人納得して頷くとこちらに手渡してきた。
「天軒由良、魔力を流して刃を形成してみろ」
「えっ、あ、うん……」
サラが何を考えているのかわからず、言われた通りに魔力を流し、刃を形成する。
特に変わった様子はない。
おもむろにサラが刃に触れたかと思うと刃に突然文字が浮かび上がりーー
「――ひゃっ!?」
正座してこちらを見ていたライダーが突然声を上げた。
思わず視線を向けると、ライダーは気まずそうに俺から視線をそらす。
何が起こったのか気付けたのは彼女のマスターという立場のおかげだろう。
「ライダーの筋力ステータスが上昇している。
ってことは、これは錆び付いた古刀のコードキャスト?」
「そのとおりだ。
ちょっと細工をして、コードキャストを出力できるようにさせてもらったわ」
言いながらサラは自身の端末を操作し、彼女が装備している礼装を表示する。
先日も当然のように俺のアイテムストレージを開いていたが、どうやらサラが俺名義の礼装になったことでお互いの持ち物が共有になっているらしい。
彼女に促されるまま確認すると、俺の所有する錆び付いた古刀がサラの装備礼装になっていた。
「礼装の装備数、お前は2つが限界なんだろう?
この方法を使えばそれだけで戦略の幅が広がるわ」
確かにそれは非常にありがたい。
これまでも対処できる礼装はあるのにそれを装備していないが故に歯噛みすることになったことも少なくない。
「けど、一体どうやって起動するんだ?
俺は特に何もしてないんだけど」
「特別何かをする必要はない。
今まで同様礼装のコードキャストを起動するように、黒鍵に魔力を流すだけでいい。
そうすれば、お前に装備された礼装から任意のコードキャストが黒鍵を介して出力できるわ」
「けど、それって結局2種類の礼装しか使えないんじゃ……」
「その点は問題ない。
今の私はアバターと礼装のどちらの機能も使える。
つまり、アバターとしての機能でお前の礼装を装備し、礼装としての機能でお前が私を装備すればいいのよ」
「……それって」
サラという礼装を装備する。
二日前、キャスターとの戦闘後にサラが魔力切れで苦しんでいる際にも同じ提案したが、そのときはサラの方から却下された。
理由は、俺の魔力ではサラのアバターの維持までは無理だと言われたからだ。
校舎に出るためにサラが自身に施した対策も、魔力を消費する部分を制限することで騙し騙しどうにかなってる状態だ。
俺自身も別段あの時から魔力の量が増えたわけでもないから、危険な行為であることに変わりはないのではないだろうか?
そんな不安を読み取ったのか、サラは肩すくめてため息をついた。
「安心しろ。私がここにいる限り、お前に必要以上の魔力を要求することはない。
昨日の時点でアバターの分離の方と合わせて何度もシミュレートしたから保証するわ」
そんなことしていたら寝る暇なんてなかったのではないかと思ってしまうが、あまりそこは追及しないほうが彼女のためかもしれない。
彼女が俺のためにいろいろと提案してくれたのだ。ここは素直にその恩恵を受けよう。
「それじゃあ、試しに今から天軒由良の魔術回路と私の魔術回路を繋いでみるぞ」
「っ、それはいけません!」
予想外の提案にライダーが慌てた様子で制止する。
「ら、ライダー?」
「あ、う……えっと、その――」
珍しくライダーが動揺している。
彼女自身反射的に止めに入ったのか、次の発言に困っているようだ。
しかし、ライダーがそこまで焦るということは魔術回路を繫ぐということは危険な行為なのだろうか?
未だ知識に乏しいこちらとしてはその辺りの説明はしてもらいたい。
そう思ってサラの方に視線を向けると、彼女は肩をすくめて小さく笑った。
「心配しなくても、ライダーが思ってるような生々しいものじゃない。私は礼装扱いになってるって言っただろう?
普通の礼装同様、端末上から私の礼装を指定するだけで、あとはシステムが勝手に魔術回路を繋げてくれる。
天軒由良、試しにやってみなさい」
生々しいという言葉が気になるが、それを尋ねるのは藪蛇だと判断してさっさと端末を操作する。
しかし特に変わった様子はない。サラの方を見てもそのまま続けろとジェスチャーしてくるだけだ。
促されるがまま、さきほど入力されたコードキャストを脳裏に浮かべて黒鍵に魔力を流す。しかし何も起こらない。
「うまく魔術回路が繋がってないのかな」
「いや、魔術回路の接続はきちんとできている。単純にイメージがうまく出来てないんだろうな。
コツさえ掴めばすぐにできるわよ」
「なら、あとはサラが装備できる礼装の数か。
今の手持ちは守り刀が無くなって6つだけど、どれぐらい装備できそうかな?」
「お前の手持ち礼装すべて私が装備しておく。あ、いや強化スパイクだけはお前が使え。
あれは常時効果が適応される礼装だから直接装備している方が効率がいいわ」
「それはいいけど、サラの方はそんなに装備して大丈夫なのか?」
「舐めてもらったら困る。お前とは身体の作りが違うんだ。……さすがに良い方が悪かったな。忘れてくれ。
ひとまず10個程度なら同時に装備しても問題ない」
サラの潜在能力はすごいと常々思ってはいたが、礼装の装備数でもここまで差が開くとは思わなかった。
「あとはそれぞれ礼装を装備するだけで黒鍵の下準備はすべて終わった。あとは習うより慣れろだ。
今からみっちり練習するわよ」
「お、お手柔らかに頼むよ」
今回はサラの魔術の説明回でもありました。
鏡を使った現象や逸話などをひっくるめた魔術になります。fate世界なら結界魔術のくくりで大丈夫のはず……
一応3回戦のタイトルは
23、25話……水面
26話…ニトクリスの『鏡』
27話…シャーマン
28話…白雪姫の魔法の鏡
29話…マッドハッター
30話…白雪姫の目覚めるシーン
みたいな感じで、『鏡』を連想したり重要な位置にあるもの、もしくは『鏡が関係する物語』に関係するものが極力入るようにしてました。(24話はピッタリのものがなかったですが)
今後もこんな感じの遊びを取り入れれたらなと思ってます