更新遅れてすいません。加筆修正が予想以上に手間取りました
今回でひとまず3回戦終了です
屋上に戻るとサラは壁に背中を預けて浅い息を繰り返していた。
こちらに気付くなりサラは怪訝そうに眉をひそめる。
「なんだ、その顔は。
ひどい傷だが生きてここに戻ってきたってことは、キャスターは倒したんでしょう?」
「でも、令呪もサーヴァントも失ったサラは……」
「ああ、そのことか。その件に関しては安心していい。
たぶんお前の考えているようなことにはならないわ」
「……それってどういうこと?」
「説明するより先にこれを見た方が早い」
言いながらサラはモニターを表示させ、俺の目の前へ移動させる。
てっきりサラのバイタルでも明記されているのだと思っていたのだがそれは俺のアイテムストレージだった。
どうやって俺の端末に侵入したのか、という疑問が生まれるが、そこに書かれていたものが予想外すぎてそれどころではなくなった。
「礼装、サラ・コルナ・ライプニッツ……ってええっ!?」
「予想通りの反応過ぎて逆に面白くないな。
まあでも見ての通りだ。私のアバターが天軒由良の所有する礼装扱いになっている。
ここが月でよかったな。
これ、地上なら人権侵害で西欧財閥から指名手配されても文句言えないわよ?」
「いやいやいや! 俺全然身に覚えがないんだけど!?
そもそもあの短時間で何かできるわけないじゃないか!」
そもそも人を礼装として所持することができるのかすら知らなかったし、自分にそこまでの技術があるわけがない。
「私は心当たりあるけどな」
「嘘だろ!?」
思わぬ返しにその場に崩れ落ちた。
もしかして、無意識に彼女に何かコードキャストでも使ってしまったのだろうか……
記憶を掘り返していると、その様子を見たサラがため息をついた。
「天軒由良が私に何かしたかどうかはともかく、こうなった原因に心当たりがあるんだ」
「…………あ、なるほど」
どうやらこちらの早とちりだったようだ。
ただ、俺が何かした可能性は否定してくれないらしい。
「大方、今の私の憑依魔術が原因だろう」
「あ、そういえば髪の色が……」
どういう原理かわからないが、サラがサイバーゴーストを憑依させているとき、髪の毛が青色に変色するのはわかっている。
2-Aの教室で倒れた際にあの詠唱を唱えて憑依していたのは確かだ。
今は銀色に戻っているため、俺が戻ってくる前に憑依を解除したのだろうか。
「前にも少し触れたが、私の憑依魔術はメイガスが行う憑依、降霊とは系統が違う。
というのも私は後天的な憑依体質でな、放っておいたら勝手に悪霊どもが取り憑こうとしてくるんだ。
だから私は、戦闘時に『憑依させる』のではなく、通常時に『憑依を食い止める』ようにしている。
その違いのせいか、私の場合は魂がほぼ完全に同化してしまう。憑りつくことが本質の悪魔と違って、残留思念であるサイバーゴーストは同化しても意識を乗っ取られる心配はないが、少なからず身体にその影響が出てくる。
ダイブ中、つまり今のような電脳体の場合は魂だけの状態だから特に顕著に表れて、身体能力の依存や髪の変色なんてことが起きているわ」
ここまでが前提、とサラは話を一旦区切る。
一応彼女の使っていた憑依がどんなものなのかは理解できた。
ただ、それがどうやってサラが俺の所有物扱いになるのかが理解できない。
それを察したのかサラがさらに説明を加えてくれる。
「まず、令呪を失った今の私は聖杯戦争の参加資格も失った。
本来ならそこで消去させられるところだろうが、その前に私が憑依していたサイバーゴーストが突然私の意志に関係なく消滅したんだ。
理由は……まあ今の説明には関係ないか。
さっきも言った通り、私の憑依は私の魂サイバーゴーストの魂がほぼ完全に同化する。
ムーンセルも消去する前に私をどう定義するのか迷ったんだろう。
参加資格を失った『サラ・コルナ・ライプニッツ』という電脳体の魂は確かに一人分消滅したが、まだ電脳体が残っているんだからな。
そのまま私を消滅させることができたのなら単純だったんだろうけど、すでに消滅した電脳体をもう一度消滅させる手段はとるわけにはいかなかったんでしょうね」
そこで突然サラは何かを取り出す。
「それって、俺がサラに渡した守り刀?」
「やっぱり、この礼装はお前の仕業か」
「護身用にでもなればと思ってね」
「その行動もこのイレギュラーの原因だろうな。
刃が折れたこの礼装はすでに『守り刀』としての名前と機能を失っていた。
ムーンセルはこの礼装の機能として私の存在を再定義したんだろう。
お前が私の持ち主になってるのもその影響だと考えれば納得がいく。
元々『守り刀』の持ち主もお前なんだし」
「地上のスーパーコンピュータが束になっても足元に及ばないほどのムーンセルが、そんなエラーを起こすなんて」
「例外を許さないが故の例外処理というところだろう。
高性能すぎるのも考えものってことよ」
はっきり言って信じられなかった。
サラが消滅を免れたのも、俺がたまたま渡した礼装がサラの電脳体を繋ぎとめていることも。
全てが偶然。
一体どれほどの確率なのか予想すらできない。
「あり得ない話だが現に私はこうして生きてるんだ。
どれだけの偶然があり、どんな過程を踏んだのかはムーンセルのみぞ知るってところだけど、結論は出てるわよ」
確かに、論より証拠がこうして出てしまっているのだから納得するしかない。
「ということは、サラはもう崩壊の心配はないってこと?」
「少なくとも、この礼装が無事な間はな。
今ではこの折れた刀が『サラ・コルナ・ライプニッツ』であり、私というの電脳体を宿らせた礼装であり、そして私にとって生きるための依り代というわけだし」
そう言われて心底ホッとした。
礼装扱いにはなっているが、それはムーンセルにそう定義されているだけで、サラの電脳体まで変化してしまったわけではないはずだ。
なら、その状態を元に戻すことができれば彼女は地上に帰れるのではないか?
ここから戻れるのは一人だけと言われているが、それは聖杯戦争のルール上一人しか生き残れないからの可能性もある。
マスターではなくなったが生き残っているサラならまだ望みはある。
キャスターの言葉に絶望していたが、かすかな希望が見出すことができた。
――しかし、避けられない運命は突然やってくる。
「何を考えているのかわからないが、自分がどのような状況に置かれているのかわかってるかね?」
背後に現れたのは、カソックを身にまとった長身の男性。
その威圧感は下手をすると並みマスターよりも危険な雰囲気を醸し出している。
「言峰、神父……」
そう、失念していた。
今俺が、いや俺
「トリガー二つを入手できなかったマスターを闘技場に誘う事は出来ない。
それはモラトリアム中に相手サーヴァントを倒したとしてもだ。
どうやら色々とイレギュラーが重なってまだ消去が行われていないようだが……」
ゆっくりとした動きで言峰神父が構える。
それは、俺がユリウスに襲われたときと同じ構えだ。
「
ムーンセルに消去されないのなら、私が直々に葬ってやろう」
「待て、言峰綺礼」
言峰神父が一歩踏み出す直前、サラがそれを引き止める。
壁に手をつき、苦しそうに肩で息をしながらだが立ち上がった彼女は、その鋭い眼光は衰えず言峰神父を捉えている。
「……どういうつもりかね。
助けてもらった恩人に情でも移ったとでも?」
「その口ぶりだと話を聞いていたな? なら話は早い。
私の今の状況はお前も理解しているわよね?」
「天軒由良の所有物になっているのだろう?
首の皮が一枚つながったところ残念だが、君も彼の後を追うことになるだろう」
「違うだろう?」
にやり、と挑発的な笑みを浮かべるサラ。
まさかこの状況を打破できる策でもあるのだろうか。
「天軒由良の所有物である私の持ち物は、天軒由良の持ち物も同然。
そして私はトリガーを二つ持っている。
なら、天軒由良が
「………………」
その言葉に言峰神父は目を見開いた。そしてしばらく黙り込んだのち、何かを思いついたのか不敵に笑う。
「なるほど、そういう考え方もあるのか。しかし、このまま何事もなく通過させるのも味気ないだろう。
君たちの対応は追って連絡する」
先ほどまでの殺気をあっさりと収め、言峰神父は屋上から去っていった。
あまりにもあっさりしすぎた展開に頭が追いつかない。
「な、なんだっんだ……?」
「あれが言峰綺礼という男だ。
一応運営監督として行動しているが、本心はこの戦争の行く末を愉しんでいる。
イレギュラーの塊であるお前や私がどんな末路を辿るのか見たいんだろう。
心配しなくても、何かしらの方法で私たちは4回戦に進めるわよ」
「それ、運営監督としていいの?」
「あいつの元になった人物がそういう男なんだろう。
私の父はあいつのことを『素晴らしい信仰心を持つ模範ともいうべき信者』なんて言っていたが、一回戦の時に話してみて理解した。
あれは破綻者だ。
確かに神に対する信仰心は本物だが、自分の面白いと思うことを良しとしている。
神を冒涜している方がまだ人間らしいな。
こんなこと言うのは気が引けるけど、父の目は節穴だったのかしらね」
言いながらサラは肩をすくめる。
それは言峰神父が聞いた人物像と違っていたことではなく、父の評価が間違っていたのことに対して落胆しているようだ。
「……っ」
「サラっ!」
不意にサラがよろめき、その場に膝をつく。
立て続けにいろいろあってサラの容態を気にする余裕がなかったが、よく見れば顔色はマシになっているのに表情は険しく息が荒いままだ。
「もしかして、ムーンセルから何か……」
「いや、これは魔力切れが近いだけだ」
「魔力切れって、キャスターとの契約は破棄されているのに?」
「オブジェクト扱いになったからか、魔力生成の効率が一割未満に落ちてるからな」
「いち……っ!?」
サラは何でもないように言っているが、魔力は生命エネルギーとほぼ同じ言ってもいい。
その生成効率が一割未満に低下しているということは、普通に考えれば今すぐにでも生命維持装置にでも繋ぐ必要がある。
だというのに、当の本人に焦っている素振りは見られない。
「心配するな。普通なら即死亡レベルだろうが、私ならそれでもアバターの維持ぐらいならできる。
まあ、今は直前までに消費した魔力が多すぎて、意識が失うかどうかの瀬戸際を行ったり来たりしてるわけだけど」
「なら早く何とかしないと!
礼装扱いになっているなら、ひとまず俺の魔術回路に接続すれば……」
「バカ言うな。
お前だってそこまで魔力が多いわけじゃないだろう。
今の状態に加えて私の身体の維持まで請け負ったら、それこそ一瞬で枯渇するわよ」
「じゃあどうすればいいんだ!?
せっかく助かったのに、これじゃあ生きながら死んでるようなものじゃないか!」
「案を出すとするならマイル―ムだな。
あそこはマスターやサーヴァントの魔力消費をほぼ0に抑えられる場所だ。
オブジェクト扱いの私でも魔力の回復ができるはずだ」
「わかった、すぐに俺のところに行こう」
サラに肩を貸して屋上から出る。
「何の躊躇もないんだな、お前」
「異性に肩を貸すことに?」
「違う、敵だった私をマイル―ムに連れて行くことにだ。
いくら礼装扱いでお前の所有物になってるとはいえ、寝首を掻こうと思えば簡単にできるのよ?」
彼女は本音を隠していることはあれど、口にした言葉に嘘があったことはない。
おそらく彼女の起源に関係するのだろう。
ならば先程の忠告もはったりではなく、本当にその手段に出る可能性があるということだ。
「まあ、大丈夫なんじゃないかな。
そういう場面でサラは人殺しはしないだろうし」
「……その自信はどこから来るんだ。
キャスターと戦って頭がおかしくなったかしら?」
「うーん、やっぱり俺に対するみんなの対応辛辣すぎないかな……まあいいか。
対話ってただの会話じゃなくて、相互理解のためのやり取りだよね。
それって、戦う相手に対してはすごく相性悪いんじゃないかな?」
シンジの時もダン卿の時も、殺し合いをして、相手が死ぬ間際になってようやく相手がどんな人物だったのか、その一端を知ることが出来た。
その後にあったのは後悔だ。
もしかしたら分かりあえたのかもしれない、こんな状況でなければまた別のあ結末もったかも知れない。そんな甘いと言われても仕方がないような感情が、決戦のあと必ず湧き上がってきてしまう。
それでもどうにか前に進めているのは、すでに終わってしまっているからどうしようもない、という一種の諦めがあるからかもしれない。
失ったものは戻らない。
取り返しがつかないからこそ、前を向いて進むしかないのだから。
「でも、サラは違う。
理解が早いということは、後戻りが出来ないところまで物事が進む前に苦悩することになるはずだ。
最初俺の隙をついて殺そうとしたのは、そんな苦悩をする前に戦いを終わられるチャンスが来たから。
そして、自分の起源に逆らうように極力会話をしないのは、相手を理解しないしすぎないようにするためためなんじゃないかな?」
「……………………」
サラからの返答はない。
もし見当違いなら恥ずかしいことこの上ないが、今はそれでもいいのかもしれない。
彼女の起源の影響かもしれないが、今回は他人のデリケートな部分に踏み込みすぎた。
見当違いであったとしても、これ以上詮索するのは避けるべきだろう。
階段を下りて2-Bの扉に端末をかざし、自分のマイルームに戻ってくる。
この当たり前の行為でさえイレギュラーだらけのサラの場合どうなるのか少し不安があったが、マイルームの出入りぐらいでは何も起こらないようだ。
「私も自分のこと言えないけど、殺風景な部屋だな。
寝ることにしか使ってないの?」
「俺もライダーもインテリアに疎くてね。
ライダーから武器の扱い方を教わるときにここを使うから、あまり物が置けないっていうのもあるけど」
「お前、こんなところで鍛錬していたのか。
どおりで型にはまりすぎてたわけだ」
「そんなにひどかった?
この三週間ずっと稽古つけてもらってたんだけど」
「型どおりなのは悪いことじゃない。
……まあ、この話はまた今度でいいだろう。
あと、もう肩を借りなくても大丈夫だ。
予想通りここなら自分の魔力だけで維持できるわ」
調子を確かめるように身体を動かして彼女は一人頷いた。
確かに息も整ってきているし、痩せ我慢というわけではないようだ。
不意に彼女の視線は部屋の中央に向けられる。
「お前のサーヴァント、あれから目を覚まさないのか?」
「色々手を尽くしているけど、何が原因なのかさっぱりなんだ。傷はもう癒えてるはずなんだけど……」
「外傷が原因でなく、霊基の損傷も修復されているのに目覚めないのなら、おそらくキャスターの『呪い』が原因でしょうね」
「呪い……キャスターの使う呪術が関係しているのか?」
「ああ、そうだ。
キャスターの宝具には爆弾を設置するのとは別に、相手の身体を少しずつ蝕んでいく呪いも付与されている。
バイタルチェックしてみればすぐにわかる。十中八九、お前のサーヴァントが目覚めないのはそのせいだろう。
それさえどうにかすれば、何事もなかったかのように目を覚ますはずよ」
サラに促されてライダーのバイタルをもう一度詳しく確認してみる。
たしかに、微かだが『淀み』のようなものがデバフの働きをしているのを発見した。
これがサラの言っている『呪い』だろうか。
「呪い……状態異常の類いならこれでどうにかできるはず」
ライダーには使うのを控えようと思っていた正体不明のコードキャスト。
背に腹はかえられずその力を行使すると、瞬く間にライダーのバイタルは初期化された。
これで考えうるすべての目覚めない要因は排除したはずだ。
戦闘とはまた違った緊張で、鼓動が大きくなっていくのがわかる。
あとは、ライダーが目覚めるのを……その時を待つのみ。
「ん…………」
寝息とは明らかに違う息が漏れる声。
続いてその瞼がゆっくりと開かれ……
「あるじ、どの……?」
…………ああ。
ただ目覚めて、言葉を交わす。
ただそれだけのことなのに、言いようのない喜びがこみあげてくる。
「ライダー、よかった、本当によかった……っ!」
近くにサラがいることも忘れて涙がどんどん溢れてきた。
聖杯戦争の事情とは関係なく、ただ純粋に目の前の少女が目覚めてくれたことに感謝する。
対するライダーは状況が把握しきれずに困惑した様子だ。
「主どの、私はどれぐらい眠っていたのですか?」
「二日間ずっと眠ってたんだ。
もう目覚めないかと……」
「っ、それではもう今日が決戦ではありませんか!
トリガーは、決戦は!?」
「大丈夫だ、ライダー」
「大丈夫……ではないはずです!
サーヴァントがいなければアリーナを探索することはほぼ不可能ですし、トリガーがなければ決戦場に赴くこともできません。
それになぜ主どのはそんなに大怪我をなされているのですか!?
私は従者として、主どのに安全と勝利を捧げる義務があります。
そうでなければ、私が主どののそばにいる意味が……!」
「ライダー」
ライダーの言葉を遮り彼女を抱き寄せる。
目覚めた彼女が取り乱すのは予想出来ていた。
今の状況を端的に、そしてわかりやすく説明するイメージも出来ていた。
ただ、こうして向き合うとそれより先に言いたいことができた。
「何があったのかちゃんと説明する。
でも、今この瞬間だけは、ライダーが目覚めたことを喜ばせてほしい。
ありがとう、ライダー。またこうしてもう一度話ができて、本当によかった」
心の底からの感謝の気持ちを込め、さらに強く抱きしめる。
耳元に聞こえる、微かな嗚咽が治るまで。
…………
…………………
……………………………
「で、いつまで見せつけられればいいんだ?」
「うぇっ!?」
不意打ちの一言に思わず変な声が出た。
恐る恐る視線を向けると、心底呆れた様子のサラがこちらを見ていた。
「天軒由良、お前は思ったよりあれだな」
「う……」
痛い。
サラの視線が初日の黒鍵のように突き刺さり非常に痛い。
ただこちらも弁解したい。
これは不安になっていたぶん振り幅が大きくなって、いつも以上に喜んでしまっただけなのだと!
もしくは、サラの『対話』の起源が変に作用したのではないだろうか!
他にも色々と思い浮かぶが、どれもこれもさらなる冷たい視線の洗礼を受けそうなので、ここは不本意ながらこの場にあった言葉を返そう。
「えっと、すいませんでした」
その一言でこちらに向けられていた居心地の悪い視線は解消された。
決して、余計に呆れられて視線すら向けてくれなくなったわけではない。断じて。
「あの、主どの。目覚めたばかりで状況が掴めないのですが、どうしてあの者が部屋にいるのでしょうか?
それに、その傷は一体……」
「あー、うん。
いろいろ複雑だから、今まで何があったのか順に説明していくよ」
二日前から何が起こったのか、そのすべてをライダーに説明していく。
昨日まで俺が回復アイテム探しで走り回ったこと。
今朝、サラがキャスターに裏切られ、右手と共に令呪を失ったことから、サラの助言でライダーが無事目覚めてくれたことまで、こと細やかに。
途中、キャスターと俺が戦闘を行った下りでライダーが切腹しかねない勢いで謝罪するものだから、それを止めるのに必要以上の労力を使ったが、なんとか今の状況の整理ができた。
「状況は把握できました。
そのような大事のときにお役に立てず、本当に申し訳ありません。
ですが、もうそのような無茶はなさらないようにしてください。
キャスターとはいえサーヴァントと渡り合えるほどまで身体能力を強化するなど、何が起こってもおかしくありませんから」
「……俺、そこまで危険なことしてたのか?」
「当たり前だ、天軒由良。
同じ電脳体でもウィザードとサーヴァントでは性能が根本的に違う。
1Aまでしか耐えられない回路に何百倍もの電流を流せばどうなるのか、さすがにお前でもわかるでしょう?」
サラの説明に背筋が寒くなる。
身体から悲鳴が上がっていたが、想像以上に身体に負荷がかかっていたらしい。
「今の主どのの身体はサイバーゴーストに近いので規格外の負荷にも耐えられたのでしょうが、使えば使うほど魂にはそのダメージが蓄積されていきます。
下手したら、本体と接続し直した瞬間蓄積していた負荷で身体が内側から破裂する可能性も……」
「わ、わかった。もう使わないからその説明はもう止めにしよう。
聞いてるだけでなんか寒気がしてきた」
正直、この強化を使えばライダーのサポートの幅がもっと広がるのではないかと考えていたが、考えを改める必要があるようだ。
「……ちょっと待て。
しれっと聞き流しかけたけど、サイバーゴーストってどういうこと?」
「あ、そういえば説明してなかったっけ。
なんでも、地上にある俺の本体とここにある俺を繋ぐパスが途切れてるみたいなんだ。
今は聖杯戦争を勝ち抜きながら途切れたパスを繋ぎ直してくれる人を探してるところ」
「………………呆れたな。
私のこと気にかけている暇なんてないじゃない」
「まあ、俺の力じゃどうすることも出来ないからね。
ある意味吹っ切れたって感じかな」
言ってて自分でも苦笑いするしかない内容だが、サラもため息をついて落胆している。
「わかった。
ついでだし、余裕があればそっちの件もどうにかしてみるわ」
「……いいのか?」
「どうせ今の状態をどうにかするには、持ち主扱いになってるお前のことも調べないといけないんだ。
礼装扱いの自分をどうにかするなんていう前例のないことに比べれば、途切れたパスを繋ぎ直すのは難しくない。
さすがに遠坂と比べればウィザードの腕は劣るけど、魂の扱いに関してだけ言えばここにいるどのマスターより上の自身があるわ」
「ありがとう、サラ!
サラが手伝ってくれるのなら頼もしいよ!」
思わずサラの手を握って熱弁してしまう。それが何か気に障ったのかサラは煩わしそうに手を振りほどく。
「言っておくけど、お前のアバターもいろいろ調べさせて貰うからな。
天軒由良のサーヴァント、貴方もそれでいいわね?」
「ライダーで構いません。
解呪の件も含め、改めて感謝します」
「目覚めなくなったのも私たちが原因だ。
恨まれることはあっても感謝される通りはないわ」
「では、ここは水に流すということで」
「そちらがそれでいいなら、私は問題ない」
敵同士だったためどうなるかと思ったが、無事二人が和解できてホッとした。
「いろいろとすることはあるが、今日はもう休む方向でいいな?
普段は稽古をつけているみたいだけど、その身体じゃあ無理でしょうし」
「そう、ですね。
私はともかく今の主どのは休息が必要ですから」
「なら天軒由来の寝具借りるぞ」
「待ってサラ、どうしてそうなるんだ!?」
さも当然のように俺の布団を引きずっていく彼女に待ったをかける。
「なんだ、満身創痍の人間をこの硬い床に寝させるつもりか?
お前思ったよりひどいのね」
「いや、わざわざ俺の布団を持って行く必要ないよね? サラのマイルームにまだ残ってるだろう?」
「私のマイルームがまだあるかも怪しいんだ。そのあたりも明日調べるわよ」
「じ、じゃあ購買部で……」
「残念ながら私はエネミーをほとんど狩ってなかったから所持金がほとんどない。当然改めて寝具を買うような余裕もない。
それはお前も同じでしょう?」
ことごとく提案が却下されて退路が塞がっていく。
「それとも、自分のサーヴァントと同じベッドで寝るのはいやか?」
「う……っ!?」
トドメと言わんばかりの返しが来た。
それを言われたらこちらは何も言い返せない。
というか言い返したら背後にいる病み上がりの相方が確実に悲しむ。
いやもちろん嫌ってわけではないが、これは倫理観的な問題だ。
さすがに男女で同じ布団の中というのは……
「あ、主どの、私は主どのが望むのなら……」
……ああ、それはフォローじゃなくてダメ押しと言うんだよ、ライダー。
冷静に考えたら霊体化という手もあった気もしないでもないが、ライダーをのけ者にしている感じがするのでやっぱり添寝以外の選択肢はなかった。
ということで天軒パーティにサラが加わりました
そして会話から分かる人もいると思いますが、サラがEXTRAでいうところのラニor凛ポジです
彼女たちの代わりにオリキャラが仲間になったってことは……まあそういうことです
その理由なども追々明らかにする予定です