Fate/Aristotle   作:駄蛇

29 / 61
羅生門お疲れさまでした
あの討伐スピードは魔神柱狩りを彷彿としました


三回戦も佳境に入りました


帽子を被った道化師の狂気

 教室を出て、図書室の前を走り抜ける。

 そのあとを追うキャスターの姿に怯えるNPCやマスターの阿鼻叫喚が響き渡るが今は気にしていられない。

「キヒヒヒヒッ!

 どうです、どうします? このまま逃げてても元マスターの命は助かりませんよぉ?」

 キャスターの攻撃をぎりぎりで避けているが、運がいいわけでも、こちらの回避能力がキャスターの攻撃を避けるに足るほど高いわけでもない。明らかに手を抜いて遊んでいる。

「ひとまずアリーナへ……」

「おおっと残念!」

「っ!」

 階段に足を向けた瞬間、それまで弄ぶように動いていたキャスターが急に目の前に現れた。

 とっさに守り刀を構えると、次の瞬間には目視できないほどの速度の蹴りを入れられる。

「ごふっ!?」

 衝撃とともに吹き飛び、数メートル床を転がってようやく止まる。

 身体が真っ二つになるかと思ったが、意識を失うことだけは免れた。

 サラを庇うように身体を捻ったのがダメージを相殺するように働いたらしい。

 しかし……

「ひひっ、ご自慢の刀、折れてしまいましたねぇ」

「ぐ……」

 キャスターの言う通り、守り刀は刀身が折れ、礼装としての効力を失ってしまった。

 くわえてキャスターが階段の前に立つ限り、二階から移動する手段がなくなってしまった。

「きひっ、キヒヒヒヒッ!

 さあ、鬼ごっこはおしまいですかぁっ!?」

「ぐ……っ、私を舐めるなキャスター!」

 迫り来るキャスターに万事休すかと思われたところに、サラがコードキャストを実行する。

 一瞬の浮遊感の後、目の前に広がる風景が屋上のそれになっていた。

「今私が憑依させているサイバーゴーストの転移魔術だ。

 キャスターにもこの転移魔術については教えていないから、これで多少の時間稼ぎにはなるはず。お前はここに隠れていろ。

 これ以上傷を負う必要はないわ」

 サラは俺を振りほどき、ドアノブに手を伸ばそうとする。が、その腕を掴んで静止させる。

 彼女の鋭い眼光がこちらに向けられるが、怯んでもいられない。

「……どういうつもりだ?」

「それはこっちのセリフだよ。

 俺が代わりに行く。サラの方こそここで待っていてくれ」

「お前、バカなのか?

 お前と私の実力差は……っ!」

 煩わしそうに腕を振りほどき、殺意を感じるほどの眼光を向けるサラだが、膝に力が入らなくなったのかその場に崩れ落ちた。

 先ほどよりも呼吸が荒く、戦闘どころかまともに歩くのすら厳しいだろう。

「今の君よりは俺の方がマシだと思うけど?」

「そういう問題じゃない!

 お前がそこまでする必要がないって言ってるのよ!」

「身体が勝手に動いていた、って言うのもあるけど……

 決戦場ならまだしも、校舎で、しかもサーヴァントに裏切られて終わるなんて、こんな終わり方納得しないはずだ」

「……それはお前には関係ないことだ」

「関係あるさ」

 自分のアイテムストレージを列挙し、サラに見せる。

「トリガーを二つ取ることができなかった俺たちは、決戦場に行くことができない。

 今日を迎えた時点で俺たちの負けは確定している。

 だから、俺たちの代わりにサラには生き残ってほしいんだ」

 シンジとダン卿を殺し、奪った命の重みを背負って生きると決めた。

 それが終わってしまうなら、せめて勝者となるはずだたサラだけは救いたい。

「……いくらキャスターとはいえ、相手はサーヴァントだぞ。

 お前自身の武器は守り刀しかなかったのに、それすら折れて使い物にならない。

 そんなお前に、何ができる?」

「できるできないじゃない。やるんだよ。

 どうせここで逃げたって、決戦場に行く資格のない俺とライダーは今日消えるんだ。

 それなら、無様に足掻いてでもキャスターを止める」

「……お前、周りからよく呆れられてるだろ」

「よくご存知で。

 まあでも、対抗策がないわけでもないよ。

 少し不安要素は残ってるけど、今のこの状況なら思い切って出来そうだ」

 とはいえ、武器がなくなったのは痛い。

 素手は論外として、何か別の礼装で代用できないか考えなくては。

 その様子を見かねてサラは小さくため息をこぼした。

「なら、これを持っていけ。

 私にはもう必要ないわ」

「これは、黒鍵?

 柄だけしかないみたいだけど」

「ある程度の実力者なら黒鍵の刃は魔力で編める。

 父が私に譲ってくれる際に、強度が下がる代わりに簡単に刃を形成できるように改良してくれたから、お前にも使えるはずだ。

 六本しかないけど、素手よりは、何倍もマシ、でしょ……う……」

「っ、サラしっかり!」

 限界が近いのか、とうとうサラは床に倒れこんでしまう。

「……………………」

 そんな状態でなお、彼女の口が微かに動いている。

 何か俺に伝えようとしているらしい。

 その言葉に耳を傾け、彼女の伝えたかったことを一字一句逃さないように集中する。

 すべてを伝え終わったサラは、こんどこそ力尽きて意識を失ってしまった。

 一応まだ息はあるが油断はならない。

 肉体がいつまでもつかもわからないのだから。

「……ありがとう」

 受け取った黒鍵はすぐに取り出せるように、アイテムストレージの中でも上の方にソートしておく。

 気休めにもらならないだろうが、黒鍵の代わりに刃が折れた守り刀は護身用としてサラの手に握らせた。

 ここからは、俺の仕事だ。

 校舎の中に戻ると、キャスターは二階から動かずにこちらを出迎えてくれた。

 もしかしたら惨状になっているかと恐れていたが、他のNPCたちを襲う気はなかったらしい。

 邪魔が入らないよう呪術で組まれた壁で閉じ込めているだけだった。

「おや、もしや転移していたのですか。

 てっきり姿を隠すコードキャストを使ったのかと思って探していました。

 元マスターのコードキャストは本当に多彩で把握するのが大変ですねぇ。

 まあそれはそれとして、上から降りてきたということは、上に元マスターはいるということですか」

「行かせるわけないだろう。お前の相手は俺だ」

「きひっ、ワタクシを倒せるとでも?」

「倒すんじゃない、サラを救うんだ。

 お前ならどうすればサラが救えるのかわかっているんだろう?」

「ええ、もちろんですとも。

 ですが知っているのと話すのは別の問題ですよ?」

「ああ、そうだろうね」

 サラから託された黒鍵を両手に握る。

「なら、力づくで話したくなるようにするまでだ!」

 足に力を籠め、キャスターに肉薄する。その速度は先ほどと比べると体感で2倍近くになっていた。

 その光景にキャスターは一瞬目を見開き、すぐに不気味な笑みを浮かべる。

「礼装の力ですか!」

「ああ、そうだ!」

 移動補助系のコードキャストmove_speed();が常時解放される強化スパイクという礼装は、ここの購買部で購入できる商品の中で唯一マスターを対象とした効果を持っている。

 その効果は歩行速度の強化。

 アリーナの探索に役立つと思い舞が入荷したのはいいが、需要がなくて困っていたのを半ば押し付けられる形で譲ってもらったのだ。

 まさかここで役に立つとは思わなかった。

「ですがそれでもワタクシからすれば遅いですねぇ! 一撃も軽い!

 元マスターからその武器を譲ってもらったようですが、すべて合わせても六本しかないでしょう?

 たったそれだけでワタクシに勝てるとお思いで?」

 予想はしていたが、キャスターはサラが現状何本黒鍵を所有していたのか把握していたらしい。

 黒鍵の一撃を払いのけて距離をとったキャスターが壁を蹴って急接近してくる。

 真正面から受けないように黒鍵で受け流すが、それでも有り余る威力に黒鍵は砕け、身体が持っていかれそうになる。

 ……落ち着け、もっと綺麗に受け流せるはずだ。そうでなければすぐにこちらの武器が尽きる。

 再度黒鍵に魔力を流して刃の再形成を……

「している時間も惜しい!」

 刃を再形成するのとアイテムストレージから取り出すのでは、どちらが早いかあらかじめ確認している。

 だからこそ刃が砕けた黒鍵は潔く投げ捨て、すでに刃を形成している黒鍵をアイテムストレージから取り出して打ち合う。

 ――残り四本。

 こちらの攻撃が簡単に弾かれるせいで、次第にこちらの攻撃に回れる時間が短くなっていく。

 しかしこれは想定内。

「なら、威力を上げさせてもらう!

 コードキャスト、gain_atr(16);実行!」

「およっ!?」

 本来はサーヴァントに使用する強化系のコードキャスト。

 それを無理やり対象を自分自身へと変更させる。

 もとは自分が持つ正体不明のコードキャストの解析のため、アリーナ探索の合間にコードキャストの勉強をしていたのが発端だ。

 もし、その対象をマスター自身に変えることができれば、今まで以上にマスター同士の戦いが楽になるかもしれない。

 そんな素人考えで浮かんだのがこれだ。

 幸いコードを変える必要はなく、出力方法を調整するだけだった。

 それでも練習が間に合わずぶっつけ本番になってしまったが、結果は成功。

 サーヴァント相手でも守りを崩すほどの威力を出力することができた。

「……づっ!」

 しかしその直後腕に痛みが走り、思わず顔をしかめる。

 さすがにサーヴァントと打ち合うほどの強化となるとこちらの身体に悪影響が出るらしい。

 それに初めての二刀流。

 いつものライダーから受けていた指導の通りとはいかない。それに言峰神父が言っていた通り、この黒鍵という武器は剣戟には向かないらしく、振る際に違和感を感じる。

「けど、それがなんだ……!」

 この状態での立ち回りは初めてだが、キャスターを目で追うことができるならギリギリ対応できる!

 確かにキャスターは速い。

 逃げに徹していたときはダメージを受けないことを意識しすぎてすべての攻撃を避けようとしたせいで、余計な隙を作るうえに相手の攻撃回数が増えて避けずらくなるという悪循環だった。

 だが、いざ戦うと心に決めれば……ある程度のダメージを覚悟をしたならば、受け流しつつ攻撃を加えることで相手の攻撃回数を減らすことができる。

 そして、動きが速い()()なら俺はそのスピードで動くライダーをずっと見てきている!

「その速さはすでに予習済みだ、キャスター!」

「キヒヒヒッ!! 面白い、面白いですよ貴方ぁ!

 そこまでの無茶をする人間など、生前でも見たことがありません!

 貴方のような愉快な人と出会えるなんて、なんとうれしいことでしょう!!」

 キャスターの動きが一層俊敏に、かつ変則的に変わっていく。

 つい先日見た、ライダーとの一戦で行ったキャスターの動きだ。ただし、ライダーの指摘通り、牽制での攻撃も加わっている。

「楽しい、楽しいですよ!」

「っ!」

 脇腹を切り裂く一振りは黒鍵を一本犠牲にしながら制服の布が切れる程度に済ませる。

 ――残り三本。

「ああ、惜しい、実に惜しいことをしてしまいますねぇ!」

「ぐ……っ!」

 続くハサミを鈍器のようにして側頭部を払う一撃も防ぐが、その衝撃で手から黒鍵が離れてしまった。

 ――残り二本。

「ここで殺してしまうなんて、なんて悲しいことなんでしょうか!!」

「つぁっ!」

 続く横薙ぎの攻撃はとっさに取り出した黒鍵二本で辛うじて黒鍵で防ぐが、その衝撃で体勢が崩れた。

 すぐに立て直すことはできたが、その一瞬の隙でキャスターを見失ってしまう。

「ですが夢半ばに崩れ落ちる絶望もまた、美しいものですからねぇ!!」

 次に認識したのは死角から目の前に着地し、ハサミを最大まで開いたところだった。

 これは、ライダーが避けた最後の一撃と同じ……!

 肉体的に、これを飛んで避けることは難しい。かといって後退するのも間に合わない。

 それをわかっていて、キャスターもこの一撃で決めるつもりなのだろう。

 ハサミが閉じられる。間もなくして、この身体は上半身と下半身が別々になってしまうだろう。

 無論、対策がなければ、だが。

「予想通り、だっ!」

 上体を後ろにそらしながら、膝を折る。

 ただそれだけではまだ避けきれない。

 だからこそ、両手の黒鍵の刃をハサミが閉じるのを阻むように持ち上げ、軌道を逸らそうと試みる。

 お互いの武器がぶつかり合う。

 こちらの刃は無残に砕け散ったが、目的通りハサミの刃は反らした上半身の上を通過した。

「なんと……っ!?」

 サラから受け取った黒鍵はすべて使い果したが、キャスターの顔が呪術の発動を防がれたときと同じような驚愕の表情を浮かべる。

 ようやく作り出した、決定的な反撃のチャンス。

 これを無駄にしてはいけない!

 体勢が維持できず倒れていくなか、刃が砕けた黒鍵を投げ捨てて、片腕を地面につきながらそこを支点に身体を一回転させる。

 その際にキャスターの手に握られたハサミを蹴り上げると、手から離れたハサミは天井に突き刺さり、キャスターの主力武器を奪うことに成功した。

「づ……」

 上昇した筋力にモノを言わせて無理やり動いたからか、身体の至る所から悲鳴があがる。

 しかし止まってはいられない。着地したのち、すぐさまキャスターに向けて走り出す。

 キャスターは右腕を蹴り上げられた無防備な体勢からまだ復帰できてないのに、その笑みは崩れていない。

 大方、サラから受け取った黒鍵をすべて使い果していることを理解しているのだろう。

 確かに『受け取った黒鍵』はなくなった。

 しかし、『手持ちの黒鍵』なら……三回戦一日目に不意打ちで投擲された黒鍵はまだ残っている!

 アイテムストレージの最後の黒鍵を取り出し、余裕の笑みを浮かべたキャスターへ肉薄する。

「なん、とぅっ!?」

 笑みを絶やさない道化の表情が崩れる。

 しかしもう遅い!

 渾身の一振りをキャスターへーー

「……っ!」

 あと一歩のところで踏み出した足に激痛が走る。

 コードキャストの無茶な使用の弊害が、よりにもよってこのタイミングで起こってしまった。

 そのせいで手元が狂い、決め手となるはずだった一振りはキャスターの身体を浅く裂く程度に終わってしまう。

「まだ、だ! あと一撃……」

「あまり舐めてもらっちゃこまりますねぇ!」

「ごふっ!?」

 体勢を立て直したキャスターの蹴りが身体にめり込み、後方の壁まで吹き飛ばされた。

 これ以上にない、最高のタイミング。それを活かせなかった。

 キャスターは天井に突き刺さったハサミまで回収したうえで距離をとる。

「いやぁ、これはこれは、久々に肝を冷やす一撃でした!

 サーヴァントならまだしも貴方のような半人前のマスターにここまで追い込まれるとは!」

 口が裂けたのかと思うほど不気味な笑みを浮かべるキャスターに莫大な魔力が吸収され、周囲に拡散し始める。

 この攻撃はすでに見ている。正体不明、回避方法も不明、すべてが謎に包まれたキャスターの必殺の一撃。

 だが、すでに対策方法はわかっている!

 そして、身体は……まだ動く!

 ゆえに臆することなく駆け出した。

 その目の前で、キャスターはどこからともなく取り出した時計を周囲にばら撒く。

「そのお礼に特別にワタクシのとっておきの爆弾で葬りましょう!

 微笑む爆弾(チクタク・ボム)!」

「コードキャスト――――――!」

 時計が爆発しあたりは爆煙で充満してしまう。

 あまりの衝撃に悲鳴をあげるNPCの声も聞こえてくる。

「キヒヒヒヒッ!!

 ワタクシの宝具の前にはどんな相手であろうと――」

「油断はするもんじゃないよ、キャスター」

「ひょっ!?」

 煙で見えないが、確かな手応えを感じている。

 しばらくして煙が晴れた。

 黒鍵は片方がキャスターの右腕を深々と突き刺さし、もう片方はキャスターの首元に突きつけている。

 こちらも爆発の影響でそれなりに火傷を負ってはいるが大したことはない。

 キャスターは右腕に刺さった黒鍵よりも、こちらの傷が少ないことのほうが気になっている様子だ。

「なぜ、ワタクシの宝具でそれだけのダメージしかないのです?」

「サラから聞いた。お前の真名も、その宝具も。

 キャスター、いやメフィストフェレス、お前の宝具は『爆弾を生み出す宝具』じゃなくて、『爆弾を設置する宝具』だと」

 メフィストフェレス。

 ゲーテ戯曲などで登場する、ファウストが呼び出した悪魔の名前。

 しかし、目の前にいるこのメフィストフェレスは史実とは違う存在らしい。

 その正体は魔術師であるファウストが生み出したホムンクルス。

 そのホムンクルスが、無辜の怪物によって悪魔メフィストフェレスの力を得た姿だという。

 真名を指摘したことで、キャスターはどこか遠くを見て笑った。

「……ああ、そこまでバラしてしまったんですねぇ。

 まあ、このような終わり方もまた一興でしょうか。

 ですが、なぜ貴方がワタクシの宝具を防ぐことができたのかわからないですねぇ」

「……簡単に言えば、俺のコードキャストと相性がよかっただけだよ。

 微笑む爆弾(チクタク・ボム)は魔術回路や霊基に『バグ』を仕込む宝具。爆発はその結果起こるものだ。

 そして、俺が持つコードキャストには状態異常や呪いといったものをまとめて初期化するものがある。

 お前が宝具を発動した瞬間、このコードキャストで初期化すれば俺の身体から爆発は起こらない」

「なるほど、ワタクシの元マスターが宝具のことを話した時点で……いえ、ワタクシが元マスターを裏切った時点で宝具は無効化されたも同然だったわけですか。

 裏切るのが性分の悪魔が裏切った時点で負けが濃厚になるとは、なんたる皮肉」

「………………」

 キャスターの言葉に嘘偽りはない。

 そしてこれ以上何か奥の手があるようには思えない。

 なら、なぜ……なぜこの男は、愉快そうに不気味に笑っているんだ……!?

「ですが、貴方は最後の最後で致命的なミスを犯しましたねぇ!

 いやはやこれはこれは!」

「何を、言っている?」

「この状況になればワタクシが負けを認め、元マスターが助かる方法を開示すると思ったのでしょうが、ワタクシから言わせてもらえば甘いんですよぉ!!」

 次の瞬間、キャスターは()()()()首元に突きつけられた黒鍵に深々と突き刺さった。

 首から鮮血が噴き出し、それが致命傷であることをまじまじを見せつけられる。

 あまりの光景に唖然としていると、致命傷であるにもかかわらずキャスターは笑みを浮かべる。

 そして、喉に開いた穴から空気が漏れながらもキャスターは気にせず語りだす。

「貴方の目的は『サラ・コルナ・ライプニッツを助けること』であり、『キャスターを殺すこと』ではないはずでしょう?

 ならば貴方はワタクシの右腕だけでなく、四肢を切り落とし、口をふさぎ、ワタクシが自殺できない状況を作るべきだったんですよぉ!

 切り落とされた右腕を再び繋ぎ直せさえすれば、元マスターは再び聖杯戦争に参加することができる。

 ただしそれはマスターとサーヴァント、そのどちらもが生きていることが必須条件。

 ここでワタクシが死ぬということは、つまりつまりぃ、どういうことかおわかりですねぇ!?」

 そこで初めて、自分の行為の愚かさを知ることになった。キャスターを説得することを少しでも考えたのが失敗だったのだ。

 4回戦のことを考えず、死なない程度に戦闘不能にさせて、再度契約を結ばせるべきだったのだ。

 すべては、俺の判断ミス。

 それでは、これはまるで……

「貴方が彼女を殺すことになるんですよぉ!!」

「……っ!」

 キャスターの言葉が鋭い刃物となり、胸に深々と刺さる。

 助けられた可能性を、俺自身が摘み取った。

 サラの願いがほぼ叶わないとわかっていたとしても……

 死ぬまでの猶予をどう過ごすべきなのか、彼女自身が考えるための時間を、俺が奪った……

「いい顔ですねぇ、絶望に叩き落された人の表情というのは何度見ても飽きません!

 勝負に勝って試合に負けるとはこのこと!

 あなたの絶望する顔が拝見することができただけでも満足です。

 キヒヒヒヒヒ――――――ッ!!」

 完全にノイズに浸食されたキャスターが消滅する。

 勝者と敗者が一体どちらなのか、それを曖昧にさせる笑い声と共に……




サーヴァントはマスターでは倒せない。
SNの時点でこの常識崩れまくってたのでこれぐらいはいいですよね()

順調に天軒が人外への道を進んでてちょっと困惑中

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。