Fate/Aristotle   作:駄蛇

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CCCイベントも残りわずかですね
?「CCCイベントが終わるとどうなる?」
?「知らんのか。新しいイベントとガチャが始まる」
復刻候補多数、2周年イベント(予定)、Apo放送記念(予定)etc...
水着イベまでに絞っても本編以外に候補は盛りだくさんですね()

最近土曜更新を忘れがちですが、CCCイベントが終わればいつも通りの更新に戻ると思います


秘奥を覗く危難

 翌朝、アリーナ第二層の開放とトリガー生成の通知で目覚めると、すぐに図書室へ足を運んだ。

 中は耳が痛いほどの静寂で、見渡してもNPCぐらいしか利用していなかった。

 本線開始時には128人いたマスターも二度の決戦を経て残れるのは単純計算で32人ということになるのだから、この状況も仕方ないのかもしれない。

 少し感傷に浸ったのちに、昨日できなかった情報収集の遅れを取り戻すために手当たり次第に悪魔に関する書物を調べていく。

 途中、他にマスターが来なくて暇を持て余した間目が度々サポートをしてくれて、その度に有稲が間目を注意するというのを繰り返すこと1時間弱。

 悪魔と契約としたと言われるほどの才能を持つ音楽家、悪魔に取り憑かれるが無事祓うことができた少女など、悪魔と契約、ないし取り憑かれたと言われている人物は何人かピックアップできた。

 そこから魔術師(キャスター)の適正が有りそうな人物に絞ると、最終的に『ソロモン王』と『ファウスト』の名だけが残った。

 ソロモンといえば召喚魔術の祖とも言うべき偉大な魔術師だ。

 ソロモン72柱と呼ばれている72体の悪魔を使役した存在として、その名前を知らないものはいないと言っても過言ではないだろう。

 キャスターの適正もこれ以上にないほど持ち合わせている。

 ただ、ソロモン自身が悪魔だと言われた逸話は存在しないし、無辜の怪物のスキルを得るような文献も見当たらない。

 すべての召喚魔術師の憧れとも言える存在であるから、そんな魔術師の願望が彼を歪めた可能性はあるが……

 対するファウストは悪魔と契約した人間として最も有名な錬金術師と言えるだろう。

 錬金術師であるからキャスターの適正も十分。

 願いを叶える代償としてメフィストフェレスに自分の体を奪われた逸話があるため、無辜の怪物によってあの悪魔のような容姿とステータスを得たのも辻褄が合う。

「これは、真名はファウストで確定かな」

『あとは宝具の情報がほしいですね。

 錬金術師ですし、その類の魔術でしょうか?』

 今入力した情報も含めて情報を整理するが、やはり情報が足りない。

 少なくともあと一度くらいは戦闘をしておきたい。

「けど、あの様子だと俺と戦闘するのは極力避けるだろうな……」

 何か彼女の注意をこちらへ向けられるような情報はないかと図書室の本を読み漁っていく。

 時間が流れ、そろそろ切り上げようとしたそのとき、一つの単語が目に飛び込んできた。

「……サイバーゴースト」

 ここ最近立て続けに聞いたその単語は、自分がそれに近い存在だと知ったからか不思議と目に入ってくる。

 気づけば、その手にはサイバーゴーストに関して記された本を開いていた。

 目を通したことを要約すると、一般的にサイバーゴーストとは死亡したウィザードの魔術回路がネット回線に焼き付くことで発生する、一種のバグのようだ。

 魂をデータ化するウィザードの性質上、優秀なウィザードほど魂が一人歩きし易いらしく、転じてサイバーゴーストになり易いらしい。

「死者の記録、か」

 レオが言っていた言葉を思い出す。

 死後も残る魂の一部。

 もしかすると、シンジやダン卿もどこかでサイバーゴーストとなっているのだろうか?

 未練がましいが、敵でもなんでもない関係で会えるなら、もう一度……

「……あっ」

 ハッとして思わず声をあげる。手詰まりの状態に差した一筋の光。しかし、これは利用してもいいものなのだろうか……

 自分が納得する理由を見つけるには時間がかかりそうだ。そう考えていたのに、状況は待ってくれない。

 図書室の戸が開かれ、中に入ってきた女性と視線が交錯する。

「サラ……」

「熱心に調べものか。

 少なからず情報は与えてしまったし、ある程度までは絞られてるかもね」

 肩をすくめる彼女は、サーヴァントの真名を絞られたというのに全然焦る様子がない。ポーカーフェイス、というわけではない気がする。

 となると、真名が知られるのはあまり痛手ではないのか、それとも……

「それほど『別の目的』のほうが重要ってことなのかな」

 俺の放った言葉に彼女の鋭い眼光に若干の殺意が宿る。

「私のことを調べるな、とは言わないが、あまり知ったような口を利くのはやめろ。

 何も知らないやつに指図されるのは気分が悪いわ」

 吐き捨てるように放たれた拒絶の言葉にたじろいでしまう。やはりこれは彼女の琴線に触れる話題のようだ。

 ……彼女の目的のおおよその予想はついている。それを指摘すれば、彼女は激高して俺に殺意を向けるだろう。

 これはそれだけ彼女のプライベートな部分に土足で踏み荒らす内容だ。

 殺し合いをする関係とはいえ、そこまでしていいのだろうか?

 それも、ただ一度の戦闘を行いたいがために……

 言うべきかどうか、じっくりと考え数十秒が経過した。

 いつまでも無言でいる俺に興味がなくなったのか、サラは俺の隣を通り過ぎていく。

「待って」

 彼女の背中へ言葉を投げかける。

 反応はない。しかしもう止まることはできない。

「君が聖杯戦争よりも優先したいこと、それは……

 死んだ父親のサイバーゴーストを探すことだよね?」

「……………」

 返答はないが、若干彼女の肩が震えていた。

 そこに畳みかけるように自分の考えを打ち明ける。

「君の父親が亡くなったのは10年前。

 その直後からサイバーゴーストを探し始めたとすると、それだけの期間があれば地上のネットワークはほぼ探し尽くしたんじゃないかな?

 それでも君は見つけることができなかった。だから、最後の希望としてこのムーンセルにダイブした。

 それなら聖杯に興味がないのも説明がいく。

 サイバーゴーストに会えるだけでいいのなら、最後まで勝ち進む必要なんてないんだから。

 さすがに理由まではわからないけど、もしかして遺言を……」

 最後の言葉は余計だった。

 後悔して口をつぐんだ時にはすでにサラが俺の胸ぐらを掴んでいた。

 背後で霊体化しているライダーが殺気立つのがわかるが、何もしないように手で指示を出し、サラと向き合う。

 表情はいつもと変わらないが、怒りを抑えているのは明らかだ。

 それでも胸ぐらを掴んだこの状況を周囲の人間から見えないように調整をしているのはさすがとしかいいようがない。

 お互いの息がかかりそうな至近距離で、サラは極力感情を抑えて静かに口を開く。

「私たちは敵同士、情報を集めるのは当たり前だ。

 それでも、越えてはいけない一線というものがあるのをお前は知らないのかしら?」

「俺もここまで他人のプライベートに足を突っ込んだのは初めてだよ。

 それについては悪いと思ってるし謝る。でも……」

 胸ぐらを掴むその腕を掴み返す。

 本当に悪いと思っているからこそ、ここからは自分も胸の内をさらけ出す。

「なら君も、対戦相手のことをちゃんと見たらどうなんだ?」

「なんだと?」

「俺は未熟な人間で、この聖杯戦争に参加したマスターの中でも最弱かもしれない。

 でも、シンジやダン卿はこんな俺でもちゃんと『敵』として、倒すべき障害として認識してくれていた。

 対して君は対戦相手を見ていない。

 常に別のところを見ていて、戦闘中でも自分の逆鱗に触れない限りは敵とすら認識していない。

 たぶん一回戦からずっとそうなんだろう? 敵を敵だと認識されずに葬られる相手の気持ちを考えないのか!?」

 なぜこんな言葉が出てくるのか、自分でもわからない。自分の感情に正直になろう、と意識すると自然とさっきのような言葉が湧き出してきたのだ。

 ――命が死ぬのは死者になったときではなく、正者の中から存在が消えてしまったときである。

 不意にイスカンダルから言われた言葉を思い出す。

 命を奪ったのなら、その奪った命を背負って生きなければならない。

 それが後悔という足枷となるのか、栄誉を示す勲章になるのかは人それぞれだろうが、その人生になんらかの影響があるのは確かだ。

 なのに、目の前の彼女はそれを放棄している。おそらく、それがどうしても許せないのだと自己分析する。

「目的があるならそれでもいい。でも聖杯戦争に参加した以上、対戦相手のことをないがしろにするな!

 俺を見ろ! 今君がどうにかするべき相手はこの俺だ!」

 肩で息をしながら、今彼女に伝えるべき言葉をぶつけた。

 しばしの静寂が訪れ、胸ぐらを掴んでいた手が離された。

「なら、今からアリーナで決着をつければいい。

 今度はちゃんと引導を渡してあげる」

「望むところだよ」

「その威勢が最後まで続くといいな。せめてまともな戦闘になるように準備してから来い。

 それまで体育倉庫前で待っててあげる」

 そんな忠告とともに図書室の戸は閉められた。

 静まり返った空間で一度深呼吸をしていると、図書室にいたNPCがもれなくこちらを見ているのに気付いた。

 中には校舎内で戦闘が起きるとでも思ったのか、運営委員会に連絡しようとしてるNPCまでいる。

 ……冷静になってみると、結構やばいことを口走っていたんじゃないだろうか!?

「は、早く出よう、ライダー!」

『え、あ、承知しました!』

 変な噂が立たないことを祈りながら、サラの後を追うように図書室を後にした。

 

 

 手持ちにが十分であることを確認して、サラの待つ体育倉庫前へとまっすぐ向かう。

「思ったより早かったな。

 殺される覚悟はできたかしら?」

「殺されるつもりはないよ。俺はこれからも勝ち続ける」

 売り言葉に買い言葉な受け答えをして、二人してアリーナ第二層へと足を踏み入れた。

 中は一回戦、二回戦と同様、各回戦の一層と似たような雰囲気の通路が延々と続いている。

 すぐに始めることもできたが、広い場所を探すことで意見が一致したためそのまま並んで歩き始めた。

 殺し合うと意気込んだ二人が並んで歩いているというのは、はたから見ればなんとも変な状況なことだろう。

「やけに静かですねぇ」

 しばらく無言のまま足を進めていたが、静寂に痺れを切らしたキャスターが口を開いた。

「マスターがあそこまで怒りを露わにするのは聖杯戦争始まって以来初めてでしたので、てっきりバチバチと火花を散らしたままだと思っていたのですが?」

「口を開くなキャスター」

「手厳しい!

 ですが残念ながらそれは不可能ですねぇ。

 ワタクシおしゃべりなので、こう言った面白みのない無言が続くのは我慢ならないんですよ。

 ときにライダーのマスター殿?」

 キャスターがぐにゃりと上半身を動かしこちらを向いた。

 咄嗟にライダーが前に出て刀に手をかける。

「ややっ! ここで戦闘するつもりはありませんよ。

 ただお尋ねしたいことがありまして、この際だから聞いてしまおうと思ったのです」

「……不快なものであれば直ちに斬りふせる」

 一言忠告をしたライダーは身を引いた。

 ……ピリピリとした殺気は隠す気もなく放ったままだが。

「では失礼して。

 どうやらそちらのマスターはワタクシのマスターに非常に興味がおありのご様子。

 そこでこのキャスターめがその情報をちょこぉぉっとばかしお話しようというわけでございます。

 悪い話ではありませんでしょう?」

 不気味な笑みを浮かべるキャスターの口から提案されたのは、驚くべきことにサラの情報の公開だという。

 思わずサラの方を向いたか、彼女は特に気にした様子もなくただただ歩みを進めるのみ。

 その挙動を同意と受け取ったのかキャスターは独り言のように語り始めた。

「そうですねぇ、まずは彼女とその父の関係からでしょうか。

 実はワタクシのマスター、親に捨てられた悲しい過去があるのです!

 驚きました? こんな可憐な少女を捨てなんて、ああなんて非情な親なんでしょう!

 しかしそれもそのはず、マスターは事情によりちょっとばかし悪霊に取り憑かれやすい体質なのです。

 いくら我が子といえども悪魔に取り憑かれたその姿はそれはそれは恐ろしいものだったのでしょうねぇ。

 あ、今もワタクシという悪魔に取り憑かれてしますね、キヒヒヒヒ!

 でもご安心を。ワタクシは従順さにおいて右に出るものはいない、と自負しておりますので!」

「話が逸れているぞ、キャスター」

「おやこれは失敬。ついつい楽しくなってしまいました。

 では改めて……

 そして! 実の親に捨てられた哀れな我がマスターを救った者こそハンフリー・ライプニッツなのです!

 彼はそれはそれは優秀なエクソシストだったらしいですからねぇ、ワタクシほどの悪魔ならまだしも下等な悪魔なら簡単に祓えたそうですよ」

 つまり、彼女はライプニッツ家に拾われた養子ということなのか。

 予想もしていなかった事実だったが、どこか納得した自分がいる。

 養子なら、レオたち西欧財閥が知らなくても不思議ではない。

 ハンフリーという男性とサラの関係は傍から見れば、エクソシストとその患者に近いのだから。

「……無駄話も時間を潰すのには役に立ったみたいだな。

 戦闘にもってこいの空間に着いたわよ」

 丁度キャスターの話が終わったところでサラが立ち止まった。

 見ると、彼女の言う通り程よい広さがある空間が広がっていた。

「なれ合いもここまでだ。

 殺しあう覚悟は決まっているかしら?」

「……ああ」

「それは何よりだ。

 さっきの話で変に同情していたのなら今すぐその首を切っていたところよ」

 右手に握られた黒鍵をチラつかせるサラ。

 その表情は冗談を言ってるような様子ではない。

 ……こう言ってはなんだが、彼女の行動はまるであべこべだ。

 今も、彼女の口ぶりではいつでも殺すことができたのだろう。

 なのに正々堂々と真正面から戦うことを望んでいるように見える。

 ダン卿のように正々堂々を信念にしているわけでもないのは、初日の隙を狙った不意打ちからわかる。

 どこかこちらを品定めしているような、観察しているような雰囲気があるから、自分のお眼鏡に叶った者に殺されたがっている、なんて可能性もある。

 しかし彼女は今、聖杯よりも優先しているハンフリーのサーバーゴースト探しの最中なのだからそれもないはず。

 ……わからない。

 彼女の心の内が全然見えてこない。それでも状況は刻一刻と進んでいく。

 お互い一定の距離をとったところで戦闘態勢に入る。

「主どの、何やら迷っているようにお見受けられますが……」

「ああ、ごめん。少し考え事をしてたんだ。

 けどもう大丈夫だ。今は目の前のことに集中しよう」

 本当はサラの真意がわからず混乱したままなのだが、ついさっき彼女に『ちゃんと相手を見ろ』と言ったのは自分自身だ。

「行くぞライダー!」

「はい、主どの!」

 意識を切り替えろ。今から行うのは殺し合い。

 SE.RA.PHの介入があるため決着がつかないかもしれないが、油断すればここで終わってしまうのだから。




我ながらすごいセリフを天軒に言わせちゃたなと思ってます。どこの俺様系キャラだって感じですね
一応こんなセリフを言ってしまった理由はちゃんとあるので後々説明をいれます

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