CCCが好きな身としてはこのイベントは最高の一言に尽きます
紆余曲折ありましたが無事メルトも迎えられましたので大満足です
あとがきの方に3回戦の対戦相手サラのイラストを添付しました
モラトリアム3日目、初日、二日目と全く情報を得られたわけではないが、決定的な情報が得られずただ自分の力を磨くことになった。
「コードキャストの内容もさっぱりだ。
せめてサラの情報は集めないと……ってあれは」
階段を上っていく人影に気づいて視線を向けると、特徴的な服装に身を包み銀髪を揺らしながら登っていく女性の姿見えた。
『どうやらあの小娘のようですね。
舞どのが言ってた、校舎の探索中なのでしょうか?』
「追いかけてみよう」
彼女の背中を追うように階段を上る。
三階に足を踏み入れ周りを見渡すと、三年の教室前にその姿を見つけた。
彼女は何もない空間に向かって口を動かしている。
てっきり人気の少ないここでサーヴァントと話してるのかと思ったが、よく凝らして見ると彼女の前に人が立っている。
旧式の学生服のようなものに身を包んだ、存在の薄い男。
項垂れているようだが、彼女の言葉に微かながら反応している。
「サイバーゴーストですね」
凛とした声で、現実に引き戻される。
気がつくと横にはレオ、そしてサーヴァントのであるガウェインが立っていた。
サイバーゴースト……
つい先日遠坂に言われた言葉だ。
完全なサイバーゴーストではない、と彼女は言っていたが、確かに本物を見ると自分がそれとは違う存在なのだと実感した。
「セラフには何兆、何京という生命の記憶が保存されています。
細菌の一つから、もちろん人間に至るまで。
生物の生死の連鎖が人を生み出した奇跡に比べれば、あらかじめ設計図が用意されているセラフの中で擬似的生命が生まれる事は、そう不思議ではないのかも知れません。
あれは恐らく、そういう類のものでしょう。
生きた肉体を持たない死者の記録……無害なデータです。
気にする事はありませんよ」
つまり、あのサイバーゴーストはムーンセルが観測した誰かの記憶を元に再現されたものということだろうか?
存在が曖昧かどうかの違いだけで、NPCとあまり変わらないのかもしれない。
「サラはそのサイバーゴーストに何を話してるんだろう?」
単純に気になったことを聞いただけなのに、レオは少し意外そうな表情を浮かべた。
何か変なことを言っただろうか?
「サラ、というのは彼女の名前ですか?」
「ああ、サラ・コルナ・ライプニッツ。
俺の三回戦の対戦相手だよ」
「ライプニッツ?」
レオの目が一瞬細まった。
「黒鍵を持ってたから聖堂教会の関係者じゃないかなって他の人から聞いたんだけど、やっぱりレオも彼女のこと知ってるんだね」
「いえ、彼女のことは残念ながら。
ただ、聖堂教会に所属するエクソシストだったハンフリー・ライプニッツという男性なら記憶しています」
「同じ苗字……父親か何かかな。
いや、それより『だった』というのは今は違うのか?」
「十年ほど前に亡くなられたそうです。
優秀な信徒で武術の腕も確かだったということで、今になっても聖堂教会ではもちろん、西欧財閥にまでその名は知られていますよ。
ただ、ご息女がいらっしゃったとは耳にしたことがありませんでしたので、天軒さんの言葉は意外でした。」
「なるほど……」
言峰神父の言ってた通り、彼女は聖堂教会に所縁のある人間だったらしい。
黒鍵も父から譲り受けたのかもしれない。
ふと視線を三年教室前に向けると、すでに彼女の姿も、サイバーゴーストの姿もなかった。
こちらに歩いてきた気配もなかったし、教室の中に入ったか転移で移動したのだろう。
俺達も今は校舎ですることはない。
レオと別れると足早にアリーナへと向かった。
「……主どの」
ライダーの言葉に頷く。
アリーナの中にある、俺たち以外の気配。
再びサラと探索するタイミングがかち合ったようだ。
「ちょうど良かった。
聞きたいこともあるし、こちらから仕掛けよう」
「承知しました!」
一回戦では場の雰囲気でこちらが待つことはあれど、基本はシンジの戦闘にこちらが立ち向かうスタンスだった。
続くダン卿は積極的ではないにしろ、仕掛けてくるときにはどっしりと構えて待ち構えていた。
今回はそのどちらでもなく、非好戦的な彼女にこちらから戦闘を仕掛けることになる。
息を整え、感情を落ち着かせたところで彼女を発見した。
「……お前か。何の用だ?
以前の戦闘で力の差は見せつけたと思ったのだけど?」
「力の差があるからって、挑んじゃいけないってきまりはないよ」
「なるほど、また叩きのめされたいわけか。
いいわ、来なさい」
ほんの少しだけ彼女から殺気が放たれる。
彼女の隣で立っていたキャスターの口が裂けるように開かれ、愉快そうな笑い声をあげる。
「おやぁ、これから戦闘ですか?
心苦しいですねぇ、これでもわたくし平和主義なんですよ?」
「この中で一番好戦的な輩が言う言葉には思えないですね、キャスター」
「きひひひひひ!
それでは行きますよぉ!」
ジャリンッ!! と鉄同士が擦れる音を立ててキャスターのハサミが開き、ライダーへ向かって跳躍する。
速い……!
後方から見ていても速いと思っていたが、こちらに向かってくると体感速度は桁違いだ。
「ふっ!」
しかしライダーもそれに反応して攻撃をいなす。
戦いやすい地形ではないが、臨機応変に戦うしかない。
『――アリーナ内での戦闘は禁止されています』
久々のアナウンスを聞きながら守り刀を実体化させ、ライダーに指示を出す。
「ライダー、今までの相手より速さが段違いだ。
大振りはしなくてもいい。背後を取られないように気をつけて!」
「承知しました!」
再び跳んだライダーがキャスター打ち合うのと確認し、自分の戦う相手に視線を移した。
「てっきりまた剣を投げてくると思ったよ」
「手持ちだって無尽蔵じゃない。
完全な隙を見せれば迷わず投擲してたが、穴はあるけど完全に無防備というわけでもなかった。
さすがに未熟といっても三回戦まで勝ち上がってるだけはあるわね」
「若干貶されてる気もするけど、褒め言葉として受け取っておくよ」
息を整え、守り刀を握り直して一気に駆け出す。
もし投擲されても対応できるように警戒をしながら、こちらをじっと見据える少女に向かって刀を振るい――
「筋は悪くない。
でもいまいち踏み込みが甘いな」
「ごふ……っ!」
彼女の姿が消えたかと思うと、次の瞬間腹部を衝撃が突き抜けた。
それが膝蹴りだと理解したところで、さらに膝、脇腹、頭と蹴りを入れられ半透明な壁まで吹き飛ばされた。
「……殺す気でやったはずだが、とっさに身体をひねって衝撃を分散させたか。
剣を振った直後だというのによく動けたわね」
何が、起こった……?
いや、複数回蹴りを入れられたのはわかっている。
それを目の前の彼女が繰り出したという事実に実感が持てないのだ。
「さきほどハーウェイ家の当主と会話していたようだな。
何か私の情報を得たのかもしれないが、女だから接近戦に持ち込めばどうにかなるとでも思ったか?
その考えが未熟なのよ」
一息で接近してきた彼女の脚が再びブレた。
反射的に腕で防ぐが、あまりの衝撃に再び吹き飛ばされる。
「聖堂教会の本来の敵は死徒、そして神の奇跡を侮辱する異端の魔術師。
それらを討つ者が戦闘が不得手だと思うのか?」
再三彼女の脚が鞭のようにしなる。
今度は避けたというのにその風切り音に背筋が凍る。
「すでに聖堂教会の在り方が変わっているが、父はマナが枯渇する以前から聖堂教会に所属する代行者だった。
その父から戦い方を教わった私が弱いわけがない。
いや、あってはならないのよ!!」
右手の指の間に挟んだ黒鍵がまるで獣の爪のように振るわれ、守り刀との間に火花が散った。
「力がないのに歯向かうな!
殺意がないのに立ちはだかるな!
私はお前に構ってる暇はないのよ!」
さらに左手にも複数の黒鍵を握り、左右から繰り出される猛攻にこちらは辛うじて耐えることしかできない。
そんな危機的状況だというのに、不思議と意識は戦闘とは違う部分に向いていた。
初日は殺す瞬間まで無関心だった彼女が、ここにきて初めて感情を見せたことに……
「もしかして、この聖杯戦争を勝ち抜くよりも大事な用がここにあるってことなのか?
サラ、君は一体何のために……」
「っ、それを言う義理はない!」
「っ!?」
防いだというのに腕にまで響くその一撃は、サラの方もかなり無茶な振り方をしたのだろう。守り刀と打ち合った黒鍵の刃は折れてあらぬ方向へと飛んでいった。
そこで一度攻撃が止み、両者とも距離を取った。
刃が折れた剣を見て眉をひそめたサラだが、次の瞬間には刃がまるで生えるように形成され、完全に復元された。どうやら刃はいくらでも替えがきくようだ。
距離を取ったことでこちらは膠着状態となるが、背後で繰り広げられているライダーたちの戦闘は逆に激しさを増しているようだ。
「……そろそろSE.RA.PHの介入が入る頃か。
サーヴァントは互角のようだけど、マスター同士の戦闘になれば貴方に勝ち目はないわね」
……まずい。
未だ取っ掛かりが見えない状態で、向こうに勝ち筋を教える形になってしまった。
このままでは今後も向こうから仕掛けてくることはないだろう。
下手するとアリーナに入るタイミングすら噛み合わないように調整されるかもしれない。
それでは向こうの情報を得るのは絶望的だ。
なんとかこの戦闘でサラがこちらに好戦的になるようなものを見つけなければ!
考えろ、今までの会話で彼女の興味を引けそうなものを……!
『――強制終了します』
無慈悲なアナウンスと共に抗えない圧迫感に襲われ、戦闘前の立ち位置に戻された。
隣に立つライダーも状況を理解して納刀し、対するキャスターはわざとらしく肩を落とす。
「おやおや、もう時間切れですか。
残念ですねぇ……もう少しで首を取れそうだったんですけどねぇ」
「ほざくな道化師。
最初から勝つ気がない太刀筋に討たれるほど未熟ではない。
勝つことではなく戦うこと……いや相手が傷つく様に快楽を得る狂人が」
「ひひひひっ!
せっかく楽しくなってきたというのに残念です。
この続きはいずれ近いうちに」
そう言うとキャスターは一歩下がり口を閉ざした。
サラは煩わしそうに舌打ちをする。
「私は特に言うことはないぞ。力の差はハッキリした。
決戦の日までこれ以上接触する必要もないでしょうね」
「……っ!」
やはり彼女はもうこちらに興味を示していない。
このままでは今後彼女に接触するのは難しくなる。
こちらに背を向けて去っていく彼女にかける言葉を探すが、それが見つかる前に彼女の姿は見えなくなっていた。
「主どの、敵の情報は何か掴めたでしょうか?」
「いや、サラが聖杯戦争よりも大切な目的があるっていうのはわかったけど、それが何なのかはわからなかった。
ライダーのほうはキャスターについて何かわかった?」
「はい、どうやらあのキャスターは無辜の怪物のスキルでかなり強化されているようでした。
これは今の私が持つスキル判官贔屓と似たようなもので、本人の意思や姿とは関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられた場合に付与されます。
影響力はまちまちですが、私のように宝具が変化してしまうこともありますね」
「そういえば、最初サラ達に会った時にキャスターが自分は悪魔だって言ってたね。
もしかして、あのときの言葉は本当のことだったのか?」
「可能性はあります。
悪魔が英霊として呼ばれるかはわかりませんが、あの道化師が無辜の怪物によって悪魔に変化してしまった類ならある程度真名を絞れるかと」
本来は悪魔ではないが悪魔として扱われる存在……悪魔と契約した英霊などが該当するだろうか?
ひとまずキャスターの真名を調べる方向性は目途が立った。
「ひとまず図書室で情報を集め、て……」
「主どの!」
膝から力が抜けて崩れ落ちそうになるのをライダーが支えてくれる。
サーヴァント戦は何度も行って来たが、どこまで行ってもライダーのサポートという立ち位置だった。
初めて積極的に戦闘したことで、自分の身体が限界を迎えていたらしい。
「ごめん、腰が抜けたみたい……」
「今日はもう休みましょう。
まだモラトリアム中ですから、情報収集は明日でも遅くはありません」
「そう、だね。悪いけどアリーナ出るところまではお願いできるかな」
「承知しました」
ライダーに肩を貸してもらってアリーナの出口を目指す。
三回戦まで勝ち進んでもなお、自分は未熟なのだと実感することとなった。
――そして、私は観測する。
天軒たちが戦闘を行った場所から、さらに奥に続く通路。
アリーナから対戦相手の気配が消えたことを確認すると、銀髪の女性は緊張の糸が解けたようにグラつき、壁に体を預ける。
先ほどの天軒との戦闘で負傷したわけではないのに、その表情は苦痛に歪み全身から脂汗を滲ませている。
「よろしければお手をどうぞマスター?」
「必要ない。
伸ばした手をハサミで切られたら堪らないわ」
差し出された手を振り払い、サラは自分のサーヴァントであるキャスターを睨みつける。
呼吸が浅く今にも倒れてしまいそうなのにその眼光は衰えていない。
その拒絶の眼差しを真正面から受けているにも関わらず、キャスターはその表情を歓喜に歪ませる。
「ひひひひっ!!
ここまで信用されていないのも新鮮ですねぇ。
ですが従順なサーヴァントとして、マスターに頼られないというのは寂しいでございますよぉ?」
「……ほざいてろ」
壁を使いながら立ち上がり、サラはフラつきながらも一人で歩き始める。
「私はまだ、お前を自分のサーヴァントだと認めたつもりはない。
私の目的は、私自身で完遂させる。
お前はそのための道具よ」
「悲しいですねぇ、きひひ」
全ては自分のために、使えるものは迷わず使って、前へ、前へと歩みを進める。
その目の前に立ちはだかるように現れる一体のエネミー。
「キャスター」
「カシコマリィィ!!」
キャスターのハサミが命を狩る音を奏で、エネミーを両断する。
サラを守るために振るいながらも、その刃はゆっくりと、確実に彼女の首を捉えている。
これが彼女たち。
お互いを補い合って前へと進む天軒たちとは真逆の、騙し騙されあう歪な関係。
それでも、両者は確実に己の求めるものへと近づいていく。