Fate/Aristotle   作:駄蛇

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CCCイベントを終えた方はお疲れ様です。素材集め頑張ってください
まだの方は自分のペースで楽しんでください。
終局特異点をクリアできずに参加できなかった方、復刻までに万全の布陣を整えておきましょう。これは見なきゃ損なレベルです

そして、メルト、リップ、鈴鹿御前が当たった方はおめでとうございます


十字架の剣

 翌日、身体の調子を確かめると傷は痛むが、動くのにそれほど支障はなかった。

 自身を治癒するコードキャストは持ち合わせていないが、生身同様に自然治癒はアバターにも存在する。

 この校舎では普通より治癒が早く、一晩寝れば大抵の傷は回復するみたいだ。

 そうとわかれば今日こそはラニを探すべく行動に移す。

「たぶん図書室か三階にいるはず……」

 マイルームから廊下に移動すると、賑やかしのNPCが往来する廊下で一箇所だけ異様な雰囲気に包まれていた。

 気になって近づくとその理由はすぐにわかった。

 対戦相手の発表があったのだ。

 さらにその組み合わせがNPCや他のマスターたちの注目の的になっている。

「遠坂……ラニ……」

 向かい合っているは俺がよく知る、ここまで何度も助けてくれた恩人の二人だった。

「――まさかここで有力者同士が潰し合うなんて願ったり叶ったりだ」

「――どっちが勝つと思う?」

「――おい、誰かあいつらの戦闘をモニタリングできるウィザードいないのか?」

 みな思い思いに感想を述べる。

 その内容は優勝候補が減ることへの感嘆や、二人の手の内を知るチャンスだと考えているものばかりだ。

 当たり前だ。

 ここにいるマスターは全員敵なのだから。

 敵の心配をする必要などマスターなどいないだろう。

 ……自分を除けば。

 一週間後、どちらか一人が消える。

 どれだけの強者だろうが例外はない。

 わかっているが、胸を締め付ける痛みは和らぐ気がしない。

 その視線の先で彼女らは一瞬だけお互いを確認しあい、殺気や会話の応酬もなく、ごく自然に視線を外し、左右に分かれた。

「……遠坂凛とラニ=Ⅷ。実力伯仲だな。

 このレベルの敵が潰合ってくれるとは都合がいい」

「ユリウス……っ!」

 突然の声に身体が硬直する。さらにそれがマスター殺しの暗殺者であること、そしてその彼に背後を取られたことに冷や汗を感じた。

 反射的に振り返るがユリウスは視線を向けるだけでこちらに危害を加えるつもりはないらしい。

「勝者も手の内を隠せる戦いではなかろう。

 見る事が出来れば、有益な情報になるだろうな」

 その視線に若干の苛立ちを覗かせるも、それ以上は何も言わずに去っていった。

 呟いた言葉の意味はようわからないまでも、その視線から俺が何かを邪魔したようだ。

 ユリウスも去り、賑やかしでいたNPCも各々に行動し始めてなお、俺の心は揺らいでいた。

『主どの、今までも彼女たちはほかの対戦相手と戦いながら手を貸してくれていたわけですし、今回だけ臆する必要などないのでは?』

「そう、だね。とりあえずラニに会いに行こう」

 方向からして図書室に向かったのだろうか。

 気は重いが足を動かすことにした。

 

 

 3回戦となると図書室もだいぶ人気が少なくなってきた。

 そんな中、一人黙々と本を読む少女に近づいていく。

「ラニ、今大丈夫かな?」

「これは、由良さん。ごきげんよう。

 今日はどういった要件でしょう?」

「この武器の持ち主の星を詠んでほしいんだけど」

 毎度お馴染みの彼女の言葉に出迎えられた後、要件を伝えつつサラの使っていた剣を取り出し、彼女に手渡す。

 抜き身の剣に指を走らせアーチャーの矢のとき同様何かを呟いたラニは、図書室の窓から見える電子の空へと視線を向けた。

 そして、彼女は視線を伏せて首を振る。

「……申し訳ありません。

 どうやらこれは持ち主と縁が深くはないようです」

「どういうこと?」

「少し星を探してみましたが、この遺物に繋がるものが多く、一つ一つの輝きが微かなものなのです。

 おそらくこれは固有の武器ではなく、一定の思想のもと大量に生成され、多くの所有者が存在する武器ではないかと」

「つまり、これじゃあ星を詠むのは不可能ということか」

「はい、力になれず申し訳ありません」

「い、いや、こっちこそ邪魔しちゃってごめん」

 頭を下げるラニにこちらも頭を下げ返した。

 わざわざ呼び止めて手伝ってもらったのに、そのうえ謝罪させるなんて面目が立たない。

「2回戦で対戦相手の情報を手に入れられたのはラニのおかげなんだし、すでに十分助けられてるんだ。

 改めてお礼を言わせてくれ。ありがとう」

「そう、ですか……

 お役に立てたのでしたらよかったです。

 それでは、ごきげんよう」

 ラニにお別れを告げ、図書室を後にする。

『結局、小娘の情報は手に入りませんでしたね』

「そんなすぐに手に入るとは思ってなかったけどね。

 にしてもこの剣、コードキャストが仕込まれた礼装ってわけでもなさそうだし、一体なんなんだろう?」

「ほう、また面白いものを手にしているな」

 何かわからないかと自分なりに剣を観察していると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

 振り返ると、そこにいたのは不気味な笑みを張り付けて、常に傍観者としてすべてを見ているかのような長身の男性。

「言峰神父、どうしてここに?」

「私がここにいてはおかしいかね?」

 神父が教会を離れていいのか? なんて言葉が喉まで上がってきていたのを思わず飲み込んだ。

 のらりくらりと言い逃れするだろうし、するだけ無駄だ。

「言峰神父はこの武器のことを知っているんですか?」

「私の人格の元になった人物に縁があるのでね。

 それは聖堂教会の代行者が死徒を浄化するときに用いた、黒鍵と呼ばれる概念礼装だ。

 死者を成仏させるための十字架に刃をつけた投擲物と考えればいい」

「投擲物? 剣ではなくですか?」

「重心の関係で剣戟には向かないのだよ。もちろん剣として使えないことはないがね」

 確かにサラもこの武器を振り回すのではなく、俺に向かって投擲していた。

 あれは奇襲のためにそういう手段をとったのではなく、最初からそれが正しい使い方だったということか。

「まあ投擲物としてもそれほど使い勝手のいいものでもないうえ、マナが枯渇したことで死徒がいなくなった今ではただの武器にしかならんだろうがね」

「つまり、サラは聖堂教会の人間ということか……」

「さすがに私もそこまではわからん。

 少なくとも無関係ということではなさそうだが。

 気になるのならあの太陽の騎士を従えてる少年にでも聞いてみるといい。

 今の聖堂教会は西欧財閥の傘下に成り下がっている。

 あの少年なら、その黒鍵の持ち主の正体もわかるのではないかね?」

 太陽の騎士を従えた……ガウェインのマスターであるレオのことか。

 確かに言峰神父が言っていることはもっともだ。

 だが一つだけわからないことが残っている。

「なぜ貴方が俺にアドバイスを?

 監督役のNPCならそんな義理もないでしょう?」

「気にするな、ただの気まぐれだ。

 その剣の持ち主とお前がどんな戦いを見せてくれるのか、少し興味が湧いたがね。

 それでは、健闘を祈る」

 何事もなかったかのように去っていく言峰神父の背中に若干困惑する。

「ホント何だったんだろう?」

『本人の言う通り、ただの気まぐれだったとしか……

 ともあれ、敵の素性は掴めましたね』

「ああ、これをとっかかりに何かわかればいいんだけど」

 毎度のことだが立ちはだかる障害が多い。

 昨日のライダーの言葉が俺のせいで虚言になってしまわないように、コードキャストの問題も含めて、一つ一つ解決していかなければ。

 意気込みを新たに、まずは地下の購買へ足を運んだ。

 客が来ない状況に退屈していたのか、来店者を見た舞の顔がぱあっと明るくなる。

「あ、やっときたね。昨日とか誰も来なくて退屈してたんだよ。

 こんな今なら食堂まで降りてきてこっちに挨拶しない薄情ものでも大歓迎だよ」

「うん、その感じ一周回って安心してきたよ」

 図らずしも乾いた笑いが漏れる。

 この辛辣な応対も逆にここまでくるとすがすがしい。

「まあでも、二回戦を勝ち残れたのは舞のくれたやきそばパンのおかげだ。

 本当にありがとう」

「……はあ、ほんとお人よしだなね、君。

 とはいえこれは言うべきだね。二回戦突破おめでとう」

 相変わらず呆れられるのは納得いかないが、それでも祝福されるのはやっぱりうれしい。

 敵だが利害の一致などで俺を手助けしてくれる遠坂やラニ。

 サーヴァントとして俺を慕い全力でサポートしてくれるライダー。

 舞はそのどれでもない、中立の立場で俺を応援してくれるのだから。

「ありがとう、舞。

 それで、今日はサーヴァントのステータスを強化するコードキャストが欲しいんだ」

「ならこんなのがあるよ」

 さすがは購買委員というべきか、注文をするとあっという間に該当する礼装を提示してくれる。

「開運の鍵、純銀のピアス、錆び付いた古刀。

 それぞれサーヴァントの幸運、魔力、筋力を強化する礼装だよ」

「じゃあ全部お願い。

 同時に装備できなくてもできる限り組み合わせのパターンが欲しい」

「まいどありー。ほかに欲しいものは?」

「今のところは大丈夫。

 ところで、サラって女の人ここ利用してるかな?」

「あー、あの銀髪の人ね。

 一回戦に一回話した以来ここは利用してないよ。

 というか、その一回もなんか変な感じだったけど……」

「なんだか、わけありそうだね」

「まあね。

 普通に会話をしてたはずなのに、いきなり文脈関係なく謝罪して帰って行っちゃうんだもの。

 しかも、この校舎にいるNPC全員が一切の漏れなくあの人と会話してるっていうんだから驚きだよね」

「え、全員!?」

 思わず聞き返してしまった。

 簡単な会話しかしてないとはいえ、それを一人残らず行うなんて普通はしない。

 というより、よほど注意していないと全員に会話をするのは難しい。

「対戦相手の情報でも探してたのかな?」

「私からは何とも。

 何なら直接聞いてみるのもいいんじゃない?

 今でも校舎中を歩き回ってるみたいだし。こういうこと聞くってことは、次の君の対戦相手なんでしょ?」

「いや、対戦相手だからこそ直接聞くなんて無謀なことできるわけないじゃないか。

 というか、なんで僕の周りのアドバイスって敵に直接聞けって言うのかな!?」

「君になら案外あっさり言ってくれそうな気もするんだけどね。

 ほら、人畜無害そうだし」

 にしし、といたずらっぽい笑みを浮かべる舞。

 近頃思うのだが、このNPCは少し自由すぎやしないだろうか?

 とはいえ、彼女のおかげでサラの校舎での行動の一部が知れたのはいい収穫だ。

 いざというときは校舎を歩き回っていれば彼女に会えるかもしれないのだから。

 

 

 対戦相手について少しばかりだが情報が得ることができたため、今回はアリーナではなくマイルームへと向かった。

「主どの、アリーナへは向かわれないのでしょうか?」

「ああ、今日はもしかしたら行けないかもしれない。

 ちょっと試したいことがあって」

「試したいこと、ですか?」

 首を傾げるライダーの言葉に頷いて目の前に半透明のディスプレイとキーボードを表示させる。

 インターバルなどの合間を縫って、一応ウィザードの基礎知識ぐらいは図書室で調べてきた。

 ウィザードはこのキーボードでどんなコードキャストにするかをプログラムする。

 そして、それをそのまま実行するのではなく、実行プログラムとして物質化して持ち歩いてる。それが礼装だ。

 一応そのまま実行することもできるが、毎回一からプログラムを書く必要があるから、戦闘しながらだと隙が大きすぎる。

 ……そう考えると、最初のほうのシンジは余程油断していたのだろう。

 すぐに多種多様なプログラムをかけるのは確かな才能あってこそだろうが。

 そして、ここからが本題。

「礼装にインプットしたりして固定したコードキャストでも、端末上で再度組み直しができるみたいなんだ。

 これなら、俺が今使ってる正体不明のコードキャストの内容もわかるかもしれない」

「なるほど、さすが主どのです!」

 ライダーが目を輝かせて尊敬の眼差しを送ってくるが、実際は遠坂のアドバイスのおかげだ。

 もしかして、遠坂もこのコードキャストの正体がわからないから、俺がこうする様に仕向けたのだろうか?

「まあ、疑って仕方ないか」

 記憶した通りに端末を操作し、そして問題のコードキャストを起動する。

「――■■■■ 。

 って、なんだこれ!?」

 端末に起動したコードキャストのプログラムらしきものが表示される。

 しかし、これは……

「これはコードキャスト、なのか?

 いやそもそも文字なのか?」

 本に記載されていたものを試すのもかねて、あらかじめ適当な礼装で起動確認はしている。

 そのとき表示された文字列と確かに似通っているのだが、全く読み解くことができない。

 まるで天使の文字で書かれた書物のように、読解どころか取っ掛かりさえ見つけることができないのだ。

 こんな危険なコードキャストを今まで使ってきたのかと背筋に冷たいものを感じるが、同時に納得してしまった。

 なにせ、俺はこのコードキャストでアーチャーの宝具すら解除してしまったのだから。

「でも、確かに遠坂の言うとおりだ。

 これだけのコードがあって、効果が状態異常の初期化なわけがない。

 けど……」

 今後も使っていいのか?

 得体のしれないコードキャストで、代償があるかもしれない。

 すでに影響が出ているのか、今後出るか、それとも使っても問題ないのかすらわからない。

 それが、使う俺ではなく対象にしてるライダーの方に影響が出る可能性もある。

「ライダー、今後このコードキャストを使うのは控えよう」

「主どのがそう仰るのでしたら、私は異論はございません。

 ただ僭越ながら、もし私のことを心配しているのでしたら気になさらないでください」

「それでもしライダーに何かあったら……!」

「主どの、私はサーヴァントです。

 あなたの剣となり、盾となって仕える従者。

 主どのが危険になれば、まず私が身を挺して脅威を払います。

 主どののサポートを受けている私が万が一には負けることはないと自負しておりますが、もし遅れをとってしまった場合、残念なことに主どのも敗退してしまう。それだけは回避しなければなりません。

 ですので、もし使わなければ危険だと判断した場合は迷わず使っていただきたいのです」

 ライダーのまっすぐなお願いに言葉に詰まってしまう。

 この不明なコードキャストを使わないに越したことはないが、出し惜しみしすぎてライダーが倒れてしまっては本末転倒なのは事実。

「わかった。約束する」

「はい、ありがとうございます」

「……なら、このコードキャストを使わない戦闘方法を試すのと同時進行で、いざ使う時に使いこなせるようにこのコードキャストの解析も継続しないとだめだね。

 アリーナに行こう」

『はい、主どの!』

 ……まったく、ライダーはずるい。

 そんなうれしそうに微笑まれては、こちらも全力で応えるしかないじゃないか。




今回はサラは登場せず、身の回りの状況の説明、ヒント、謎の一部解明などになりました。
次回から本格的に相手の情報について探求していきます
それまでにサラの容姿設定などのイラストを仕上げてUPする予定です

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