石の貯蔵は十分とは言えませんがあとは引ききるまでです
エクステラの続編も進行中なのでまだまだ楽しみは尽きません
今回から三回戦が開始、対戦相手も登場です
凪の水面
死者の残響。
その言葉が、思いが、真実とは限らない。
それでも求め、
生きる意味となすのなら、
肉体を捨て、魂を燃やし。
仮初めの肉体で、理想を求めて現の夢を見るがいい。
★
翌朝、三回戦の相手が決定した知らせを受けて掲示板の前に立っていた。
「サラ・コルナ・ライプニッツ……」
聞いたことがない名前だった。
ダン卿の時のように、名前から誰かを連想することもない。
「おやおやおや?
今回はなんとも無害そうなマスターですねぇ」
飄々とした男の声がした方を向くと、まるで威嚇しているかのような鋭い視線を放つ女性が立っていた。
腰まで伸びた銀髪はシンプルにポニーテール、さらに魔術的な意味があるのか下瞼を沿うように赤い化粧を施していて、カソックを改造したような服に身を包んでいることから、慎二やダン卿のようにアバターを弄っているは一目でわかった。
とはいえ、流石にさっきの声は彼女のものではないだろう。
ならば一体誰だったのだろうか?
「さきほどの声はわたくしでございまぁす!」
「……っ!?」
辺りを見回していると頭上からピエロみたいな男? が現れ、思わず尻餅をついてしまった。
ライダーも虚を突かれた様子で、反射的に現界しつつ刀に手を伸ばして戦闘態勢になる。
「貴様っ!!」
「ら、ライダー、落ち着いて。
ただ驚いただけだから」
「ですが、こうして突然現れたのは奇襲では?」
「たぶん、向こうに戦闘意思はないよ」
「えぇ、えぇ、わたくしここで戦う気など一切ございませんよぉ?
わたくしこう見えて平和主義ですから!」
飛んだり跳ねたりしゃがんだり、なんとも忙しいサーヴァントだが武器を構える様子はない。大方こちらを弄んでいるだけなのだろう。
なんとかそれを理解してくれたライダーも渋々ながら霊体化してくれた。
……改めてその男を見ると、ピエロを連想するような、なんとも奇抜な格好をしている。
特に頭から生えたあの角は一体なんなのだろうか。
「君が次の対戦相手のサラさんでいいんだよね?」
「私のことはサラでいい。
そう聞くということは、お前が天軒由良でいいのかしら?」
「うん。それで、彼が君のサーヴァント?」
「サーヴァントというより悪魔だな。
そして私はそんな悪魔に取り憑かれた悪魔憑き……いや、そんなことはどうでもいいか。
こちらのキャスターが迷惑をかけたな。すまない。
こいつはこういう性格なのよ」
「取り憑かれてるとは心外ですねぇ。まあ悪魔なのは否定しませんが!
それでもサーヴァントとしては私ほど完璧な従者は他にはいないと思いますよぉ」
キャスターの言葉は重みがなく、どれが真実なのかわかりづらい。
言峰神父とはまた違った取っ付きづらさがある。
隣で眉をひそめるサラを見ていると、どうやら彼女も同じ感想を抱いてるようだ。
「悪いが七日間はこの調子だが付き合ってほしい。
最期の相手がこいつだったことは呪っても構わないわ」
「……悪いけど、俺もここで終わるつもりはないよ」
「ならいい。
どちらにしても、この七日間のうちに決まるから」
こちらを煽るようなことを言った割にはあっさりと引き下がり、階段を降りていった。
「なんだか、心ここにあらずって感じだな」
『といいますと?』
「視線はこっちを見据えてるはずなのに、意識はこっちを向いていない感じ、かな」
人間観察が得意なわけではないので確信は持てないが、シンジやダン卿とここで会った時はどちらも俺を『敵』として認識してくれた気がする。
だが彼女からはそれが感じられなかった。
違和感に首を捻っていると、次の行動を促すように一通の通知が入った。
例のごとくトリガーがアリーナに出現した報告だ。
「サーヴァントもそうだけど、今回の相手も一筋縄じゃいかなそうだ。
頑張ろう、ライダー」
『承知しました、主どの!』
もはやお馴染みになった転移の感覚が治ると、目の前に半透明な壁に仕切られた空間が広がっていた。
そして、もう一つの気配も……
「まさか、アリーナに入って早々に遭遇するとは思いませんでした」
ライダーが得物を構えながら一歩前に出る。
その視線の先には銀髪の女性と、奇抜な衣装に身を包んだ道化師。
相手のキャスターの右手には片手剣かと見間違うほどの巨大なハサミが握られている。
まさかいきなり遭遇するとは思わず思考が停止する。
「……行くぞキャスター」
「おや、いいんですか?
こんなお手頃なところに敵が転がり込んできたわけですし、ここで始末するものとばかり思ってましが?」
「見た目は人畜無害そうなマスターだが、三回戦まで上がってくるならある程度の実力者だろうからな。ここで焦って倒そうとして時間を浪費する必要もない。
今戦わなくてもどうせ決戦場で決着はつけられるわ」
サラはこちらを一瞥するだけで奥に進んでいってしまう。
「殺意を振りまいてる割には消極的ですね。
てっきり隙あらば攻撃を仕掛けてくるような方かと思っていましたが」
「でも、時間がかかるとは言ったけど負けるとは言っていない。
初見で戦ったとしても勝てる自信があるんだと思う」
しかし困った。
戦わないとなると今度は敵の情報が入って来ないという問題が出てくる。
今までは九死に一生を得るような戦いを強いられても、それによって敵の情報が得られるというメリットがあった。
真名に至れないにしても、せめて相手の戦闘スタイルぐらいは知りたい。
「自分から戦闘を仕掛けるか……
いやでも敵の力量がわからないのに仕掛けるのはリスクが」
「なら、私に考えがあります!」
ライダーがイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべる。
……真っ当な策ではない気はするが、ライダーならいい案を思いついたに違いない。
ライダーの指示に従ってみよう。
「………………」
「…………………何をしている?」
「うん、まあそうなるよね」
サラの冷たい目線が突き刺さる。
気まずい、この上なく気まずい!!
俺がいるのはサラの少し後方、そこから彼女の後を追うように歩いていた。
「そちらに戦闘意思がないのなら、わざわざ離れる必要はありませんから。
そちらはどうぞこちらを気にせずエネミーと戦闘してください」
前を歩いているライダーの顔は見えないが、おそらくしてやったり顔をしていることだろう。
たしかに、相手はこちらと交戦する意思がないのなら、ある程度近づいても問題ないということだ。
戦闘に巻き込まれない位置にいればこちらは戦闘回数を減らせるから疲労も少なくてすみ、相手の戦闘スタイルを一方的に知ることもできる。経験が積めないのは別で時間を取ればいいだけだ。
理屈はよくわかるし、とても効率的だ。サラからの「お前何やってるんだ」と言わんばかりの視線さえ耐えれれば、だが。
「ふふふふふふっ! どうやら今回のマスターは随分と面白い方のようですねぇ。
わたくし面白いかたは大好物です」
「戦闘に集中しろ、キャスター。
さっさとトリガーを取って退却するわよ」
「カシコマリィィッッ!!」
サラの指示を受けてキャスターの動きがさらに機敏になる。
飛び跳ね、しゃがみ、壁を蹴り、まるで身体がゴムで出来ているかのような動きでエネミーの攻撃を躱し、巨大なハサミでエネミーを切り刻み、時には閉じた状態で鈍器のように叩きつける。
キャスターなのに肉弾戦なのはこちらに手の内を見せないためだろうか?
もしこれが本来のスタイルだとしても、一撃一撃は軽い。筋力はD相当だろう。
しかしその俊敏さは異様だった。
先ほどから蜂型の素早いエネミーとも戦闘をしているが、それすらも翻弄するほどだ。
ライダーにも匹敵するほどだからランクはAということになる。
「これは、それぞれのマスターの指示がどれほど的確かが重要になってくるな」
気づけばサラの視線を気にせず対策を練っていた。
そのせいか、通り過ぎたばかりの通路にエネミーが発生したのに気付くのが遅れる。
「……っ、ライダー!」
俺の頭上を越えて着地と同時にライダーがそのエネミーを両断する。それにホッとして気を緩ませたのが悪手だった。
背後からこちらを切り裂くような殺気が向けられる。
振り返ると二本の剣が目前に迫ってきている!
とっさに守り刀を取り出せたのは奇跡に近い。しかしその刀で防げたのは顔面を狙っていた一本だけ。
残る一本が脇腹に突き刺さった。
「ぐっ、あ……っ!?」
燃えるような痛みに耐え切れず膝をつく。
キャスターの武器ではない。
これは、サラの礼装か!?
「主どの! 貴様、はかったな!」
「戦闘はしないとは言ったが、攻撃しないとまでは言っていないぞ。隙を見せればそこを突くのは当然だ。
考え事にふけって背後に現れるエネミーに気付かず、サーヴァントへの指示が遅れたうえこちらの警戒を怠るなんてとんだ間抜けね」
「く…………!」
反論のしようもない正論にライダーも俺も黙ってしまう。
好戦的でない相手が初めてで油断しすぎていたのを今更気付くとは情けない。
「手練れだと思っていたがとんだ見当違いをしていたらしい。
そちらのサーヴァントはキャスターと互角かそれ以上だがマスターがこれではな。
これなら最初に戦闘をしておくべきだったかもしれないな。
……とはいえ、疲弊して万全とは言えないキャスターではさすがに分が悪い。悪運だけは人並み以上だということか。
これまでもそれで勝ってきたのかしら?」
ため息まじりに肩をすくめたサラはそのまま奥に進んでいく。
「待て、小娘」
その歩みをライダーが引き止める。
「何か言うことでもあるのか?
先ほど私が言ったことはすべて正論のはずよ?」
「ええ、確かに今回は私も主どのも油断が過ぎました。
今日ここで死ぬことを免れたのも悪運の強さでしょう。
ですが、これまでの決戦もすべてそれのおかげだったのだと侮辱されるのは我慢ならない!」
ライダーはその手に握る刀をサラたちに向け、はっきりと、迷いなく宣言する。
「主どのは確かに未熟です。ですが着実に成長されています!
最初は届かない刃も、必ず最後には届かせる!
予言してやろう!
貴様らは今ここで私たちを討たなかったことを必ず後悔する!」
それはマスターである俺への絶対的信頼。
盲信してるわけでも、虚言を吐いてるわけでもなく、本当に俺が彼女に勝つと、そこまで成長すると確信しているかのような言葉だった。
宣戦布告を受けたサラは何も言わずに歩みを再開する。
隣に立つキャスターも滑稽な者を見る目でこちらを見下していた。
二人が見えなくなったのを確認して、ようやく突き刺さっていた剣を引き抜いた。
「ぐ……!」
アーチャーの毒同様、出血によるバイタル低下は校舎に戻ればどうにかなるとして、抜く時の痛みはどうしようもない。
痛覚の遮断をするウィザードもいるそうだが、生憎とそんな技術は持ち合わせていない。
痛みに耐えて剣を抜き終えると思わず仰向けに寝転びそうになる。
が、それを柔らかいものが支えてくれた。
「……ライダー?」
「主どの、申し訳ありませんでした。
従者である私がついていながらこのような……」
「いや、今回は完全に俺のミスだ。
もしライダーがエネミーを倒しにいってくれなかったら、結局俺はエネミーの方からダメージを受けてたわけだし。
俺もライダーも油断してた、今度から気をつけよう。それで終わりだ」
ライダーの性格は理解している。
このままでは謝罪合戦になってしまうので、さっさと話題を変えて話を進めたほうがいい。
「とりあえず明日ラニ会いに行こう。
というか、ラニも勝ち残ってるのかな?
たぶんそう簡単に負けるとは思えないけど」
「……………………」
……ん?
心なしか、俺の頭を支えてくれているライダーの手が、ギリギリと締め付けてくるような……
「ら、ライダー?」
「あっ、はいなんでしょう!?」
ハッとしたようにライダーが声を上げる。
同時に頭の圧迫感もなくなった。一体なんだったのだろうか?
「まあいいか。
ラニからサラが投擲したこの剣について聞きたいんだ。
もしかして彼女の遺物になるんじゃないかと思ってね。
うまくいけば、ダン卿の時のようにラニに頼めば敵の情報が手に入るかもしれない」
「なるほど、さすが主どのです!
それを見越してあえて攻撃を誘ったのですね!」
「いや、結果論だし俺そんな策士じゃないからね?」
さすがにそれは負け惜しみに聞こえて悲しくなってくる。
まあ、転んでもただでは起きない精神なのは認めるが。
「さすがに今日ラニを探すのはバイタル的に厳しいけど、できればトリガーだけは取得しておきたい。
肩を貸してもらうことになるけど、お願いしてもいいかな?」
「はい、お任せください!」
ライダーは嬉しそうに返答し、頭を支えていた手を俺の肩を抱くに伸ばし、もう片方の腕を俺の膝を抱えるように伸ばし……
「ってこれお姫様抱っこじゃないかな!?」
「大丈夫です!
歩くのに支障はありませんし、戦闘もその気になれば!」
「待って、戦闘だけは絶対避けて!
このまま刀振るわれたら俺の寿命が縮む――」
最後まで言わしてくれなかった。
疾風の如きスピードでアリーナを走り抜けた結果、1分ほどで最深部まで駆けつけることができた。
あまりのスピードでエネミーが戦闘をしかけてくる暇さえなかったのと、サラたちがすでに帰還していて鉢合わせにならなかったのは不幸中の幸いかもしれない。
何はともあれ、第一層のトリガーは入手することができたが、どうやってマイルームまで戻ってこれたかはよく覚えていなかった。
ありすに代わって対戦相手はオリキャラです(fate作品の登場人物との名前被りもないはず……)
サーヴァントも、まあわかる人はわかっちゃいますよね
サラの詳しい容姿などは後日イラストでアップしようと思います