いろいろと思うところはありますが、このまま売れてくれればエクステラ続編も夢ではないと思うので期待してます(そして今度こそアルターエゴを……)
黒衣の暗殺者
殺害の先の救い。
奸邪の先の感得。
一面しか見えないうちは、その本質は理解できない。
どんな行いであれ、必ず善はあるのだから。
★
ダン卿を退けた翌日、再びインターバル期間に入っていた。
お互いマイルームでしばしの休息をとる。
「一応解毒はしたけど、体調は大丈夫かな?」
「お気遣い感謝します、主どの。もう体調は万全です。
ステータスの方も万全とは言い切れませんが、ここまで戻れば余程の敵でもなければ遅れは取りません」
そう言ってライダーは胸を張る。
端末で確認しても、俊敏はAに上昇していた。
つまり二回戦の相手、ロビンフッドよりも上というわけだ。
筋力が未だDなのは申し訳ないが、少なくともこれからは彼女の持ち味である身軽さが生きてくると言えるだろう。
しかしこのままではいけない。ダン卿との一戦は自分の力不足を痛烈に実感することになった。
後から知ったのだが、ダン卿が魔術師として活動し始めたのはこの聖杯戦争の実態を知ってかららしい。
つまり、魔術師としてはまだ新参者の部類に入るということだ。
熟練の魔術師と当たった場合、今まで以上に魔術師としての腕が試されることだろう。
そうなれば、治癒や簡単な援護だけでは太刀打ちできない。
「……ダン卿は俺の前へ進む勇敢さを称賛してくれた。なら、それを活かせるようにもっと魔術師としての腕を磨かないといけない。
これからもよろしく頼む、ライダー」
「もちろんです、主どの!
このライダー、どこまでも主どののサーヴァントとして全身全霊で尽くさせていただきます!」
ライダーの力強い言葉に後押しされ、行動に移るためにマイルームを出る。
まずは購買で礼装を確認だ。戦闘で二つしか使えないにしても、組み合わせ方は多いに越したことはない。
階段を降り一階の廊下に辿り着く。
「――っ!?」
突然、背筋が総毛だった。
この感覚はつい最近味わったばかりだ。
しかし、いきなりすぎて自身のサーヴァントを呼ぶ間も、構える間もない。
圧倒的な力に引っ張られるように後方に……校舎の壁の方に引っ張られる!
しばらくして目を開くと、そこに広がっていたのは無機質な空間だった。
先ほどの感覚から察するに、先日ありすが行なったように校舎の中から不正な入り口を使って転移させられたのだろう。
ありすの姿は見当たらない。一体誰の仕業かと思ったが、そこで一つの仮説にたどり着いた。
たしか、凛の予想でマスター殺しの仕業と言われていなかっただろうか?
「――
その言葉に背筋に氷柱を入れられたかのような悪寒を感じて硬直する。
ボンッと何かが爆発する音、そして続けて重いものが地面にぶつかる音が響く。
音の発生地には倒れているマスターらしき人が一人。
いや、それは『人』と言っていいのだろうか?
「う、上が……上半身が、ない!?」
床に伏しているのは人の下半身だけ。
その上についているべき胴体は消し飛んでいた。
「まるで、頭が爆発したかのような跡ですね。決して警戒を解かないよう、主どの。
おそらくまだ近くに――」
「――お前は異端の魔術師か?」
背後から声が聞こえてくる。
まるで死神の鎌が首に当てられているかのような感覚に喉が干上がるのがわかった。
それでも背後の気配がなんなのか思考を回転させる。
顔は分からないが、声色からして女性……いや少女。
そしてライダーすら反応できなかったとすると、おそらくアサシンのサーヴァント……
そして、彼女の問いはこの数秒後の未来を分ける……!
考えろ、考えろ……!
この問いにはどう答えばいい!?
「貴様、主どのに何をしてる?」
……目の前にも死神のオーラを放つサーヴァントが一人。
俺に当たらないように細心の注意を払った一撃が顔のすぐ近くを通り過ぎ、背後のサーヴァントに伸びる。
「――
囁くような小さな声で先ほどと同じ言葉を呟いた直後、硬いもの同士が当たる重く響く音と共に背後の気配が遠のいた。
「はっ、はっ……は……」
死神の鎌が離れ、無意識に止めていた呼吸が思い出したように再開する。
振り返って敵の姿を捉えると、声の主は思ったよりも小柄だった。ローブに身を包んでいて全く容姿がわからないが、声からして女性だろう。
ローブの隙間から覗くその目はこちらを品定めするようにまっすぐ向けられている。
彼女が、マスター殺しのマスターと契約したサーヴァントなのだろうか?
「君は……」
「答えろ、主どのに何をしようとした?」
ライダーが一歩前に出て刀を向ける。
その姿は、返答次第ではこの場で斬り伏せる、と暗に示していた。
少女はそんな圧に全く怯んだ様子がなく、真っ直ぐにこちらを見据える。
「私は異端の魔術師を排除する。
お前は我らの同志か?」
「えっと……」
同志も何も、記憶がない自分には今までどんな集団に所属していたのかなんて分からない。
ただ、目の前の少女はそんな答えを求めていないだろう。
どんな返答をすればよいのかいいのか思考を巡らしているとライダーが疾走する。
対話ではなく戦闘を優先したらしい。
「その首、我が主どのに捧げなさい!」
……捧げられても困るがライダーならやりかねない。
その証拠に少女の首を狙う一撃には一切の迷いがない。
ライダーを制止させるかどうか躊躇していると、その一撃を避ける仕草もせず少女は微かに口を動かす。
「
「なにっ!?」
先ほども聞いたその言葉を紡いだ少女は鈍く響く音と主にライダーの刀を素手で防いだ。
怯まずライダーが二度、三度と得物を振るうがその刃は少女の皮膚に阻まれる。
「防御系の宝具ですか!」
なおも目にも留まらぬ斬撃を放つが、一向に少女にダメージを与えられた様子が見えない。
そんな少女の背中が不自然に蠢いた。
その瞬間、自分の中で目の前の少女を明確に敵だと判断する。
「ライダー、一旦引くんだ!」
「っ!?」
「
またも紡がれるその言葉。
その言葉に呼応するように少女の背中から新たな腕が飛び出した。
その腕は一般的な腕の長さを優に超えており、ライダーを掴もうとさらに伸びる。
咄嗟にその場から引いたことで辛うじて避けたライダーは、その腕を掻い潜り相手の懐に刀を滑り込ませる。
「
五度目になるその言葉に呼応するように、今度は彼女の髪が生き物のように動き出してライダーの刀を弾いた。
そして、返す刀でライダーの首を刎ねんと振るわれる。
「させない!
コードキャストhack(16);実行」
守り刀を振るい、その斬撃でライダーの首を狙っていた髪の毛の軌道が逸らす。
「感謝します、主どの!」
「向こうの能力は未知数だ。
距離を置いて、様子を見ながら戦おう」
「承知しました!」
ライダーが一度距離を置いたことで戦闘は振り出しに戻り、戦術以外の思考をする余裕が生まれる。
先ほどから何度も彼女が口にしている『ザバーニーヤ』と言う名前は、たしかイスラム教に登場する地獄の管理者である19人の天使のことだ。
これを宝具と仮定した場合、少なくとも彼女は身体の硬化、第三の腕、さらに髪の毛の武器化の三種類を使うことになる。
だが、俺たちが来た直後に殺された生徒が同じ『ザバーニーヤ』で殺されていた場合、この三つ以外に爆破系の宝具もあるということになる。
まさか、天使の数にちなんだ19種類の技があるとでも言うのだろうか?
「どう考えても技のレパートリーが多すぎる……!
1つの宝具の一部を見せているのだとしても、三つに共通するのは肉体改造という点。
爆破系を含めるとその共通点もなくなる。
それに、三つ目の腕が生えるのがそれだけとは考えにくいし……」
「私の本来の宝具も複数の奥義を集めて1つの宝具と成していますが……
あれはどう考えてもその1つ1つが宝具として成り立っています」
まさか、向こうは天使の数と同じ19種類の宝具を持つと言うのだろうか?
どう考えても危険だ。
少女は敵なのだと意識を切り替えて守り刀を構えると、彼女はすでに次の行動に移っていた。
その口が六度目になるその言葉を口にする。
「
「次は一体どん……っ!? っ、っ!?」
身体の中をシェイクされたような感覚に襲われ、気づけば地面に横たわっていた。
何をされたのかわからず、アサシンの喉辺りに魔力が収束しているのを感じてそれが『声』による攻撃なのだと遅れて知った。
見れば、ライダーですらこの攻撃には眉をひそめて膝をついていた。
次第に身体の中が熱くなり、身体の中の魔術回路が暴走し始めているのがわかる。
これはマズい……!
死を覚悟したその瞬間、まるで圧縮されるような圧迫感に空間が支配された。
――気がつくと、元いた場所に立っていた。
身体が沸騰するような魔術回路の暴走も治まっている。
今のは、SE.RA.PHによる強制終了?
「その実力で、どうやって逃げ延びた?」
音もなく、数メートル先に黒服の男性が立っていた。
予選の時と、つい先日も見かけた男だ。
男は顔にかかる長い髪の下、刺し貫くような視線をこちらに向ける。
「ただの雑魚かと思ったが。上級のサーヴァントを引き当てたか、それとも爪を隠した腕利きか……
どちらにせよ、あの死の権化から生き延びたのだ」
男の纏う気配が変わる。
辺りに放たれていた強烈な殺気が怜悧な刃物のように研ぎ澄まされて、一点に向けられる。
「ここで始末するに越したことはない」
「っ……!?」
視線はこちらの首に向けられている。
まずい、校舎ではサーヴァントは戦闘できない。
いや、そもそもサーヴァントがマスターに危害を加えるのは重大なペナルティがかかる。
ライダーの助けを借りれない以上、この男との戦闘は自分でどうにかしなければならない……!
汗が、頬を伝って床に落ちる。
男が静かに一歩踏み出した時――
「そこまでだ、マスター殺しの犯人よ」
誰もいなかったはずの廊下から現れたのは言峰神父だった。
「……監督役NPCか。よく気付いたな」
「そこの少年と有志の情報提供者から、校舎内で不正なハッキングをしてマスター殺しを行っていると苦情が申し立てられたのだよ。
それにしても、ずいぶんとルールブレイクをしているようだな。
予選では葛木教員のデータを上書きしていたようだが……なるほど、ユリウス・ベルキスク・ハーウェイという名前か」
ユリウスと呼ばれた男は、その眉をしかめて舌打ちした。
その表情を見て言峰神父は神父らしからぬ笑みを浮かべる。
「対戦者の片方を潰すなら大目に見たが、さすがに勝者まで数人殺したのはいただけないな」
「あれはアサシンが勝手にやったことだ。
わざわざ令呪一画を使って誓わせた。文句はないはずだ」
「予期せぬマスター殺し『だけ』ならそれでも十分だ。
だがルールブレイクで作ったアリーナでのマスター殺しの方がまだ精算されていない。
なら、この分のペナルティは与えなければなるまい?」
「NPC風情がいいご身分だな」
ユリウスがゆっくりとした動作で拳を握り、すぐに打ち出せるように構えた。
対する言峰神父も静かに片足を前に出して姿勢を低くし、戦闘態勢に入る。
「ただのNPCかどうか、試してみればいい。
所詮私はデータだ。消去されればすぐにリカバリーされる」
どちらともマスターやNPCとは思えない殺気を撒き散らし、一触即発の雰囲気に包まれる。
その状況がしばらく続き、やがてユリウスの方が先に構えを解いた。
「どうせ復元されるなら骨折り損だ。
有力だが殺しやすいマスターはあらかた始末した。
ならそのペナルティをさっさと受けた方が効率的だ」
「それは残念だ。
久々に身体を動かせると楽しみにしていたのだがね」
不敵な笑みを浮かべる言峰神父は端末を開いて何やら入力し始める。
そしてそれを実行した直後、ユリウスの身体が一瞬痙攣した。
「ぐっ!?」
「本当はもっと趣向を凝らしたものにしたいのだがね。
ルールブレイクのプログラムを持っているのなら早急に対処する必要がある。
よって、ペナルティは貴様が持つルールブレイクのプログラム全ての封印と、コードキャストの効果も弱体化だ。
それからそのサーヴァントも校舎内での現界を禁止、及び宝具の弱体化をさせてもらった。
期限は今回殺したマスター一人につき一週間だ。
……おっと、これでは聖杯戦争中に回復することは不可能だが、まあ仕方あるまい」
「……ちっ、どうせなら無期限と言ったらどうだ?」
「そうしたいのは山々だが、全てのペナルティは期限ありに設定されているのでね。
逆に言えば、期限を誤魔化せさえすれば解除も出来るのではないかな?
もっとも、そのためのルールブレイクは封じさせてもらっているがね」
「……このイカれ神父め」
険悪なムードはそのままだが、これ以上状況が悪化する様子はない。
目を細め、ユリウスはゆっくりと歩き始めた。
途中、俺の真横で立ち止まる。
「確か……天軒、と言ったな。
……覚えておこう」
殺意の籠った瞳をこの身に据えたまま、男はこの場を後にした。
これは、言峰神父に助けられたということだろうか?
「程度の差はあれ、ああいう輩もこの聖杯戦争に参加しているということだ。
今回は遠坂凛に救われたな、天軒由良」
「遠坂が?」
「校舎に不正なハッキングを行い使われていないアリーナと接続していると言ってきたのは彼女だ。
それからこの校舎内で不審なコードキャストが感知されると私に通知が来るように弄っておいた。
私がここに居合わせたのもそのおかげということだ」
まさかこんなところでも彼女に助けられるとは思わなかった。
いくら感謝しても足りないくらいだ。
「礼を言いたいのであればこのまま地下の食堂に行けばいいだろう。
先ほど私が食事を終えたときにはまだいたはずだ」
「……NPCでも食事するんですね」
「いかにデータとはいえ、元になっているのは君たちと同じ人間だ。当然人間らしい行動も取る。
せっかくだ、君も食堂のメニューにある麻婆豆腐を食べてみるといい。
私のオススメの一品だ」
「はぁ……」
この神父のオススメというのはどうにも危険に感じるが、暇があれば食べてみよう。
……その後、俺が注文した麻婆豆腐を味見したライダーが今までに見たこともない形相を見せたのだが、それはまた別のお話。
真名はまだ伏せていますが、ユリウスのサーヴァントも原作とは違います(わかる人は一発でわかるレベルの戦闘内容ですが)
原作の方が完結してないサーヴァントを出すのは少し不安がありますが、やっぱり出したかったんです……
次回、4回戦の前にもう1話だけ挟みます