みなさんはぐだぐだ明治維新頑張ってください
私は月からやってくる自称小悪魔系後輩とその娘たちのために魔力を貯めます
二回戦もモラトリアム最終日、だんだんとEXTRAから乖離していきます
翌日、最後のアリーナ探索を終えた帰りに地下へと立ち寄ると、購買部のカウンターで暇そうに頬づえをついている舞と目が合った。
初日から色々あって休息期間以来の久々の来店を笑顔で出迎えてくれる。
「お、この薄情者」
「……久々の出迎えの第一声目がそれってどうなのかな?」
「冗談だって。
運営委員の間でも君のことは色々噂になってたからね。来れないのは仕方ないってわかってるよ」
「まあ、確かに色々あったけど」
まるで二戦分のイベントを一気に消化したような気分だ。
すると、舞の表情がニヤリと笑みを浮かべる。
「幼女と四六時中遊んで……」
「ちょっと待ってそれとんでもない誤解生むから!」
遊ばれているとはわかっているが止めなければ風評被害が拡大するのは目に見えている。
他のNPCにどんな噂が広がっているのか不安だが、図書室にいた間目と有稲にはきちんと誤解は解いたはずだ……たぶん。
「心配しなくても図書室にいるあの子達の誤解はちゃんと解けてるよ」
「ならその誤解を再度拡散する可能性がある行動はしないで欲しいんだけど」
「それは無理」
「……そろそろ泣きたくなってきた」
「私としては是非とも見てみたいね」
にひひ、と悪戯な笑みを見せる舞に肩を落とす。
なんだか自分と彼女の上下関係が決まってきてるようでどうにかしたいのだが、性格的に無理かもしれないと思い始めてきた。
一連のやりとりで満足したのか、舞はようやく店員らしく振る舞い始める。
「それで今日は何をお探しかな?」
「いや、最近顔出していなかったから見に来ただけなんだ」
「おっと、冷やかしはごめんだよ」
「ついさっきまで冷やかしてきた人が言うセリフじゃないよね。
強いて言うならエーテルが欲しいかな。コードキャストで回復はできるけど、俺の魔力も無尽蔵じゃないし」
「なるほど、じゃあさっきのお詫びに少しサービスさせてもらうよ」
言いながら彼女はこちらが出した料金より少し多めのエーテルの塊、そして『とある礼装』を手渡してくれた。
「ちょ、エーテルの塊は助かるけど、さすがにこれは……!」
「いいからいいから。
割といい品だと思うんだけど買ってくれる人がいなくて困ってたんだ。
在庫処分ってことでもらってくれるとありがたいな。それから、これも私の奢り」
「これは、やきそばパン?」
「そ、マスター用の携帯食料。
戦うのはサーヴァントだけじゃないんだから、自分のことも気にかけなきゃダメだよ?」
「……ありがとう」
「わかればよろしい」
得意げに胸を張る舞につられて自然と笑みがこぼれる。
本当に、自分は誰かに助けてもらってばっかりだ。
彼女たちの恩を無駄にしないためにも、明日に向けた最後の情報戦を開始する。
「舞、ダン卿ってここに来たことあるかな?」
「来てることは来てるけど、業務的な会話しかしてないよ。
何を何個ください、とか」
でも、と舞は顎に指を添えて天井を見上げ、何かを思い出そうとする。
「あの人の礼装なら見たよ。
強化パーツ的なものを探してたみたいだけど、ここにはそういうのは置いてないからあっさり引いたけど」
これは思わぬ収穫だ。
尋ねる姿勢が自然と前のめりになる。
「それ、どんな形だったんだ?」
「結構パーツを外してたけど、狙撃銃の形をしてたよ。
弾丸の形をしたカートリッジを切り替えることで、いろんな種類のコードキャストが長距離から使える代物だね、あれ。
とはいえ必要不可欠なカートリッジは完全オーダーメイドだし、普通のハッキングに長距離狙撃なんて必要ないから、わざわざ使う人なんていないんだけどね」
「だけど、この聖杯戦争に関しては対人戦になるから距離は重要になってくるってことか」
一般人にとっては扱いづらい礼装には違いないが、それを生業としてきた元軍人であるダン卿が使うのであれば鬼に金棒であることは間違いない。
てっきり慎二の時のようにマスター同士は目に見える範囲で戦うものだと思ってた。
しかし、ダン卿が狙撃銃型の礼装を使うのなら話は別だ。
アーチャーの不可視化と組み合わさると一方的に攻撃される可能性も出てくる。
「ありがとう、舞。
対策できるかわからないけど、おかげで考える時間はできたよ」
「どういたしまして。
また利用してくれるのを待ってるよ」
舞に見送られて地下食堂をあとにする。
二階へ上がった時、三階へ続く踊り場から言いようのない寒気を感じて反射的にそちら見上げた。
「……………………」
踊り場に立っている黒衣の男は無言でこちらを見ている。
ボンヤリとだがその姿には見覚えがある。
確か、予選で先生のロールを与えられていた……葛木、だっただろうか?
「……やめておけ。
どうせあと数日の命だ」
こちらに冷たい視線を向けたまま、男は階段を上がっていく。
『今の男、非常に危険です。
現役を退いているらしいあの老騎士と違い、現役の殺し屋でしょう。
この聖杯戦争の特性上、すぐに何かあるとは考えづらいですが、今後あの男には注意された方がよろしいかと』
霊体化したまま、ライダーの真剣な忠告を受ける。
「けど、なんだか周りを気にしてるようだった。
もしかして、誰かに見られるとマズイことでもしてるのかな?」
『その可能性はありますね。
……主どの、好奇心は猫を殺すと言いますし、あの男を不用意に追うことは避けましょう。
もしマスター殺しの犯人があの男なら、サーヴァントなしでマスターを殺すことも容易い』
ライダーの必死の制止に、階段を上がることは断念した。
何か重要な手がかりを見逃してしまった気がするが、確かに不用意な行動は控えるべきだ。
今日はこのままマイルームに戻ろう。
――そして、私は観測する。
同刻、校舎三階の奥の曲がり角、マスターどころかNPCですらあまり立ち寄らないその一角。
人気のないその場所で一人の命が尽きようとしていた。
廊下に佇むのは赤い装束の少女。
その視線の先には壁を背に力なく座っているのはゴスロリに身を包んだ二人の少女。
その身体は痛々しい傷とノイズで今にも消滅しそうであった。
「……何があったのかしら?」
遠坂自身、ここに来たのは偶然以外の何物でもない。
ただ暇を持て余して、屋上以外に校舎にハッキングされた跡がないか探している最中に、今にも消えかかっているありすを発見したのだ。
ありすは遠坂の問いに答えず、微笑みで返す。
いや、答えないのではなく答えられないのだ。
よく見ればすでに耳はノイズに浸食され聴覚の機能が停止している。
「ごめんね、お姉ちゃん、何も聞こえないの……。
でも、ありがとう、お姉ちゃん……。
お兄ちゃんにも、ありがとうを言いたかったけど……もう言えないね……」
「安心しなさい。
それぐらいなら私から言ってあげる」
何も聞こえないとわかっていても、遠坂はそう返答する。
たとえ聞こえないにしても、それが人としての敬意の表し方だ。
「ごめんね……お姉ちゃん。
ほんとは……もっとおてつだいしかったけど……バイバイ」
砂糖菓子の細工が砕けるような、音ときらめきだけが一瞬残り。
もう、そこには何も無かった。
それに追うように、黒の砂糖菓子も崩壊が早まった。
「あなたが『アリス』ね。
単刀直入に聞くわ。何があったのかしら?
ありすと違ってまだ聞こえてるんでしょう」
「ええ、聞こえているわ。
でも、一言で説明するのは難しいの。だから……」
「ちょ、ちょっと貴女一体何を――」
アリスの魔力が急速に増幅し、それに比例するように崩壊が早まる。
もうあと数秒もしないうちに消えてなくなるだろうが、アリスに躊躇いはない。
「寂しいアナタに悲しいワタシ。最後の望みを叶えましょう――」
それは宝具の発動だった。
とっさのことに遠坂はのけぞるが、それが攻撃ではないことにすぐに気づいた。
――
それが、ありすのサーヴァントである『アリス』の真名であり、宝具である。
固有結界そのものである彼女は、マスターだったありすの夢を形に変える、いわば小さな願望機。
しかしありすが消えた今、彼女を守る盾や矛は不要。
ならばとアリスはありすの最後の願いを叶えるために、宝具の在り方を変化させる。
それは物語の朗読。ありすの最後の望み。
「ばいばい、お姉ちゃ――」
声では間に合わない情報量を一瞬で遠坂に託し、アリスは今度こそ砕け散った。
その身体は偽物だが、落ちる涙まで偽物ではないだろう。
二人の少女が消滅すると、すぐさま遠坂は次のことに頭を切り替える。
自分の蒔いた種とはいえ、やることが増えてしまったのだ。
「ああもう……! 変なことに頭突っ込んだとは思ってたけど、蓋を開けてみればとんでもないもの見つけた気分だわ!
というか、元はと言えばあのバカサーヴァントのせいで……!」
七つの海域を巡る戦い。
その海の底で蠢く魔物に気付いてしまったのは、果たして幸か不幸か――――。
そして時間は過ぎ、決戦の時が訪れる。
教室を出ると一回戦同様、言峰神父が佇んでいた。
「いよいよ決戦の日となった。
今日、各マスターどちらかが退場し、命を散らす。
その覚悟は、出来ているかね?」
――命を散らす。
それは文字どおり相手の命を奪う行為。
二回戦に上がったマスターはみなそれを経験し、ある人はその罪の重さに潰れ、ある人は覚悟を改め歩みを進めていることだろう。
「全ての準備が出来たら、私の所にきたまえ。
購買部で身支度をする程度は、まだ余裕がある」
一回戦同様の定型文言い終わると言峰神父の姿が消える。
昨日の時点で準備は終えている。今回は誰に会うこともなく階段を降りた。
そう言えば、一昨日の出来事から遠坂を見ていない。
昨日が決戦のハズだから、もし勝ったのであればまた会えるのでは、と思っていたのだが……
『主どの、今は目の前の敵に集中しましょう」
「そう、だね。ごめんライダー」
深呼吸をして浮き足立った気分を落ち着かせて階段を降りると、一階の用務室前には言峰神父が微動だにせず佇んでいた。
そして目があうと意味深な笑みを浮かべてから決まり文句を口にする。
「ようこそ、決戦の地へ。
身支度は整えたか?
扉は一つ、再びこの校舎に戻るのも一組。
覚悟を決めたのなら、
「……ここに」
「よろしい、ではそれを扉にインストールしたまえ」
言峰神父に従って二つのトリガーを用務室にインストールする。
トリガーを認証した引き戸は鍵が開く音とともに開かれ、中に招かれた。
エレベーターに乗るのはこれで二回目となるが、同じように半透明の壁に隔たれた向こうには対戦相手の二人が立っていた。
「…………」
ダン=ブラックモア。
彼はただこちらを見据えている。
エレベーターが降下し始めてしばらく経つが、まだ一言も交わしていない。
ライダーも何も話す気はないようで、ただ重い重圧に耐える時間が続いていると、不意にアーチャーと視線があった。
「……どうよこの重い空気。
うちのダンナは無駄がなさすぎてねぇ。茶飲み話とはいかねえのよ。
そっちのマスターさんも退屈してるようだし、ちょっくらうちのマスターに話しかけてみないかい?」
「え……?」
いきなり話を振られて戸惑ってしまう。
「相手にしなくてもよろしいかと、主どの。
そちらのマスターは尊敬に値しますが、その下にいるのがこれですから。
いっそのこと、マスターとサーヴァントの立場を逆にしたらいいのでは?」
「そうであったならどんなに楽か!
うちのダンナはちょいと潔癖すぎてね、英霊らしからぬオレとしちゃあ困りもんだ」
鼻で笑いながらアーチャーがわざとらしい仕草で煽る。
「しかしあれかい? アンタは英霊ぜんぶが高潔な人格者だと思ってるクチ?
だったら疲れるぜぇ?
真正面から戦うのが好きなのはいいが、また背中から撃たれないように注意しな」
「ご心配なく。私も臨機応変に手段として搦め手を使うこともあったし、すべての戦を真正面からしたわけではない。
それしかできないあなたと違って」
「はあん。そっちもそっちで大変そうだ。もちろんマスターが、だが。同情するぜぇ?
ちなみに聞くが、おたくは闇打ち、不意打ち、だまし打ちは嫌かい? ってか、そもそも汚い殺し合いらダメ?
卑怯な手口は認められないかい?」
「……否定はできない」
そもそも一回戦でシンジを欺こうとしたのは俺の考えだ。
高潔な戦いをできるほどの実力がないのも事実。
すでに宝具が使えないという縛りがあるのだから、俺もなりふり構ってる場合じゃないかもしれない。
「そいつぁ重畳。
毒と女は使いようってな。
いい勝負になりそうだ」
「ずいぶんと楽しそうだな。
アーチャーよ」
それまで沈黙を貫いていたダン卿が口を開いた。
「おや。そう見えましたかい、ダンナ?」
「……うむ。
戦いを目前に控えながら、倒すべき敵の人となりを楽しんでいる。
……少なくともわしにはそう見えるな」
「ご明察。
お喋りなのは、ま、大目に見ていただければと。なにしろ敵と話すこと自体珍しくて。
あと、ダンナはもちっと若者の生の声ってのに耳ぃかたむけるべきですよ?
これ以上老けちゃったらつまんないっしょ」
「……気遣いには感謝するが、無用だよ。
戦いに相互理解は、余分な荷物だ。
敵を知るのは決着のあとにするべきだな」
「うは、ほんっと遊びがねえよこの人!
ただでさえハードな殺し合いなのに、よけいストレス溜まっちまいそうだ。
こんなんじゃ次あたりに気疲れで自滅しちまいますよ?
なあ、あんたもそうだ思うだろ?」
アーチャーがこちらに話を振る。
それに答える前にライダーが前に出て対応してしまう。
「気負いすぎるのは士気に関わりますが、あなたのそれはかえって部隊の規律を乱す。
まるで言葉に重みがない。
それでは人は動かないでしょう」
「そっちには聞いてねえっての。
そもそもオレは一匹狼だっつうの。
部隊なんざ率いるどころか無縁の存在だ。
まあ、そっちは結構部下を引っ張り回してたんじゃねえの?
お前みたいに一人でなんでもできる天才ってのは、部下なら使いようだが、隊長になると破滅するってのが定石なんだよ」
「自分で部隊を持ったことがないと言ってる人間が言いますね。
勝手な妄想で語るべきではないと知れ」
「俺が率いなくても敵が部隊で来るんだから見てれば分かるんだよ。
酷いもんだぜ? 自分が出来るからってそれを押し付けられる部下の顔はいっつも死んでるからな!
まあ、そっちの方がオレとしては楽で良かったけどな。
連携が取れてない部隊ほど楽なものはないぜ」
心なしか二人の言い合いがヒートアップしている。
お互い気に触る部分があったのだろうが、このままではこのエレベーター内で戦闘が起こりそうな勢いだ。
「前々から思ってましたが、貴方は手段を選ばないというよりプライドがないように見える。
そんな人間が英霊とは笑わせる」
「……………………」
不意にアーチャーが口を閉ざして眉をひそめた。
「当たり前だろ。
理想とか騎士道とか、そんなの重苦しいだけでしょうよ。
死に際は身軽が一番だ」
「……だがアーチャーよ。
戦いではわしの流儀に従ってもらうぞ」
「げ。やっぱり今回もっスか。
はいはい、わかってます、了解ですよ。オーダーには従います。
あーあ、かっこいいよオレのマスターは。
こんな小僧相手でも騎士道精神旺盛ときた。
……けどなあ、誰でも自分の人生に誇りを持てるわけじゃねえって、そろそろ分かってほしいんだけどねぇ……」
アーチャーの表情が一瞬曇る。
最後に呟いたその言葉は、よく聞き取ることができなかった。
大きな音と激しい震動が伝わりハッとする。どうやら到着したらしい。
ついに戦う時が来てしまったようだ。
目の前の、堅き意志を持つ軍人と。
「発つぞ、アーチャー。
戦場に還る時が来たようだ」
今回の決戦場は廃墟と化した市街地だった。
崩れた建物と、それを押しのけ成長する植物がこの空間の空虚さを強調している。
「ここで決めるぞ、アーチャー」
「ああ、そうしようか。
そろそろこの迷惑な天才痴女には退場してもらいたいからな!」
「倒れるのはそちらのほうですよ、臆病な狩人。
信念のない矢など一生かかっても私に当たることはありません。
無駄に矢を消費するのも勿体無いですから、おとなしく私に斬られた方がいいのでは?」
「言ってくれるじゃねえの。
二本矢程度防げずマスター守らなかったやつがよく言うぜ」
「……ああそうだ。あの時のお礼をしなければいけませんでした。
殺す前に貴方の矢を貴方自身に刺さなくてはいけませんね」
「やれるもんならやってみな。
今度はきちんと主ともども射殺してやるからよ!」
両者の間ではなんとも言えない憎悪が渦巻いている。
これがお互いがお互いを煽りに煽りあった結果というのはどうにも反応に困るが、静止させるよりはこのエネルギーをうまく制御した方がいいだろう。
そして、開幕の鐘が鳴る。
第二回戦の決戦が、今始まる。
ということでありす、およびアリスの退場しました
三回戦がどうなるのかは置いておいて、次回は二回戦決戦です