Fate/Aristotle   作:駄蛇

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FGOで4月1日から何かありそうで楽しみ半分不安半分な今日この頃。是非もないネ!

自分で書いててなんだけど、二回戦の天軒大忙しです


ワンダーランドへようこそ

 アリーナから戻り、さらなる情報を求めて図書室へ向かう。

 ロビンフッドに関する文献を求めて本棚を漁っていると、小さな衝撃に視界が少し揺れる。

「何読んでるの?」

 驚いて視線を下に向けると、白のゴスロリ衣装に身を包んだ少女が抱きついていた。

「こんにちわ、お兄ちゃん。

 今日も絵本読んでくれる?」

 そう言ってありすは昨日と同じく『鏡の国のアリス』の絵本を取り出した。

 すでに相手の素性は明らかになり、とりあえずひと段落は付いている。

『私は問題ありませんよ、主どの。

 周囲の警戒もしていますのでご安心を』

 ライダーもずいぶんご機嫌らしい。

 頭を撫でてもらえたのがそんなに嬉しかったのだろうか?

 ここはライダーの言葉に甘えてありすの相手をさせてもらおう。

 なにより、ありすは地上の天軒由良を知る貴重な人物だ。

「わかった。昨日の続きからでいい?」

「うんっ!」

 この子の無邪気な笑顔を見ていると、今が聖杯戦争中だということをつい忘れそうになる。

 もしかすると、この子は本当に参加している感覚はないのかもしれないが……

「えっと、どこまで読んだっけ?

 名無しの森?」

「そこは終わっちゃったわ。ドルダムとドルディーも、その次もよ。

 次はハンプティダンプティのお話ね」

 そこから再び読み聞かせが始まる。

 昨日と違い時間制限がないため、たっぷりと時間を使って読み進めていく。

 

 ――アリスは自分の頭に王冠が載っているのに気付き、自分が女王になれたことを知る。

 いつの間にか両端に座っていた赤の女王と白の女王からの不条理な質問攻め、食べ物が食べる前に下げられてしまうディナーパーティー、スピーチをしようと思えば食器や女王たちが変形しだして大騒ぎ。

 ついに怒ったアリスは赤の女王を揺すぶる。

 すると赤の女王は二匹の飼い猫のうちの一匹に変わりこれが夢だったのだと知った。

 

「――果たしてこの夢はアリスの夢だったのでしょうか、それとも赤の王の夢だったのでしょうか……おしまい」

 途中、ありすに顔を弄ばれるなどの妨害こそあったものの、どうにか読み終えることができた。

「ありがとう、お兄ちゃん。

 とっても楽しかったわ」

「どういたしまして。

 俺もありすが喜んでくれたのならうれしいよ」

「やっぱり、お兄ちゃんは優しいわ。

 あたし(ありす)とお兄ちゃんが似てるからかしら」

「……似てる?」

「そう。あなたも私も穴だらけ。

 私は絵本の表紙がなくなって、あなたは絵本の中身がなくなった。

 私は中身があるから読めるけど、あなたは読めずに捨てられちゃう。

 そしたら『あの人』が現れて、あなたの中身を埋めちゃった。

 ただし中身はつぎはぎで、流れが変わったまがい物」

 ありすの詩は相変わらずわからないことだらけだ。

 しかし、その言葉に胸がざわつく。

「ありす、君は何を……」

「だけど覚えておいて、お兄ちゃん。

 たとえ流れが変わってしまっても、最後はきっとハッピーエンド、あはははははっ!」

 昨日と同様ありすはどこかへ行ってしまう。

 図書室に残された俺は、ありすの言葉を反復していた。

 中身はつぎはぎ。

 流れが変わったまがい物。

 独特な言い回しのありすの言葉は、わからないが的を射ている感じがして胸騒ぎがする。

「ずいぶんと懐かれているわね」

 背後からかけられた声に振り返ると、遠坂が本棚に身体を預けていた。

 心なしか、疲れているように見える。

「遠坂、どうしたんだ?」

「天軒君を探していたのよ。

 ちょっと時間いいかしら?」

 遠坂が、俺を探していた?

 なんだかわからないがひとまず席に座るように促す。

 席に座った彼女はホッとしたように息を吐いた。

「なんだか体調悪そうだけど、無理しない方がいいと思うよ」

「これぐらいなら平気よ。

 それに、このことは今日中に伝えておきたかったから」

 そう前置きをした遠坂はこちらに振り返り、表情を引き締めた。

「伝えたかったのはありすのことよ。

 天軒君、このままだとあなたちょっと危険かもしれないわ」

「どうして、ありすの対戦相手ではない俺が危険なんだ?」

「今日またアリーナに乱入してきたありすと初めて戦闘してみてわかったけど、あの子の魔力量は尋常じゃないわ。

 その余波のおかげで私の対戦相手のサーヴァントは消滅。

 まあ、私のサーヴァントも瀕死に追いやられたわけだけど」

「それって……っ!」

「ああ、私なら大丈夫。

 サーヴァントも頑丈さが取り柄なやつだから、残るモラトリアムとインターバルを休養にあてれば回復するわよ。

 だから、天軒君が気にするのはありすだけでいい。

 あの子が危険な一番の理由。それはあの子はこの聖杯戦争をただの遊びの一環だと思っていること。

 この意味がわかる?」

 遠坂の問いに首を横に振る。

「簡単に言えば、あの子にルールは関係ないってこと。対戦相手でもない私に攻撃してきてるんだから間違いないわ。

 一秒後には正反対のことをするかもしれない子供が、並のウィザードじゃ太刀打ちできない力を持ってる。

 ここまで説明すれば、天軒君が危険な理由も理解できた?」

「つまり、俺がありすの遊び相手として攻撃を受ける可能性があるってこと?

「そういうこと。下手したらそのままなぶり殺しにされる可能性もあるわ。

 ホント、あなたって運がいいのか悪いのかわからないわね」

 遠坂はこちらに同情しているが、自分はまだ実感が持てない。

 あれほど純粋無垢なありすが、関係のないマスターに牙を剥くなんて……

「無知ゆえの冷酷。無邪気ゆえの残酷。

 その上あの子には手に余る力がある。感覚としては猛獣ね。

 向こうは戯れてるつもりでも、その爪は人間にしてみればれっきとした凶器だもの」

 遠坂の言っている意味はわかる。

 しかし、ありすの顔を思い浮かべると、あの子を敵として認識するのには抵抗があった。

「……言っとくけど、私が天軒君を探してたのはただ怯えさせるためじゃないわよ?」

「え、俺にありすに近づくなって言いに来たんじゃないのか?」

「逆よ逆。

 神出鬼没なありすを避けろと言ってもそうそう避けられる相手じゃないし、天軒君はどちらかというと火中の栗を拾いに行くタイプだし。

 避けるよりも、もしもの対処が出来るようにしておいたほうがいいでしょう?」

「それは、そうだけど……一体どうするんだ?

 ラニはヴォーパルの剣をもう作れないって言ったし」

「ええ、正直ジャバウォックが出てきたら自分の不運を呪うしかないわ。

 その時は全力で逃げてちょうだい。

 だから、私が伝えられるのはありすの展開する固有結界のほうよ」

「固有結界!?

 それこそ手の打ちようがないんじゃないのか?」

 すでに一度イスカンダルの固有結界を経験しているからわかる。あれは世界そのものだ。

 あのときはライダーの宝具と相性がよかったからいいものの、そう簡単に突破できるものではない。

 なのに、遠坂の表情には余裕が見える。

「確かに、初見殺しな効果ではあるけど、対処法がわかれば天軒君にも突破できるわ。

 天軒君、ありすに『鏡の国のアリス』を読み聞かせてたみたいだけど、その中に『名無しの森』っていう森が登場するわよね?」

「あらゆる名前がわからなくなる森か。

 読んだばかりだし内容は覚えてる」

「なら話は早いわ。ありすの固有結界はほぼそれと一緒よ。

 固有結界に巻き込まれたら最後、マスターは自分の名前を始め、自分に関する記憶がどんどん忘れていくの。

 最後には自分の存在ごと忘れ去ってしまうんじゃないかしら」

 聞けば聞くほど強力な固有結界だ。

 単純な戦力のぶつかり合いの王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)とはまた違った系統で厄介なのは間違いない。

「そして、固有結界から抜け出す方法は、その中で自分の名前を口にすること」

「……名前を忘れてしまうのに名前を言わないといけないって矛盾してないか?」

「だから初見殺しなのよ。

 まあ解除の方法はそう難しいものではないわ」

 そう言いながら遠坂は一枚の紙を差し出した。

 そこにはボールペンで書いたらしい文字が綴られていた。

「あめのきゆら……

 俺の名前?」

「そ、天軒君の名前よ。

 これをありすの固有結界の中で読むだけで固有結界は破壊されるわ」

 物語の中では、アリスは森を抜けたから名前を思い出している。

 森を抜けたから名前を言える、という因果関係を逆転し、名前を言うことで無効化しているのかもしれない。

「ありがとう、助かるよ。

 でも、こんな方法で固有結界を破るなんて、さすが遠坂だな」

「……答えを出したのは私だけど、ありすのヒントがなかったら厳しかったでしょうね」

 そう言って遠坂はまた新しい紙を取り出した。

 そこには子供らしい文字で『あなたの名前はなあに?』と書かれていた。

「固有結界が展開されていたアリーナにこの紙が落ちてたわ。

 これを相手が持ち出せるような状態でアリーナに置いておくのが発動条件なんでしょうね。

 他にも色々ありすが話してくれたし、やっぱりありすはこの聖杯戦争を遊びとして認識してるだと思う」

 たしかに、普通ならそんな重要なことを話すわけがない。

 ありすなりに相手が諦めないように考えての行動なのだろう。

「ちなみに、その紙ってラニに見せたのか?」

「……もしかして、ラニが言ってた遺物ってこんなのでもいいの?」

 言いながら、遠坂はアリーナで拾ったという紙をヒラヒラと振る。

「確証はないけど、固有結界の発動条件にもなるんだったら十分じゃないかな」

「そう、ならこの後探してみるわ。

 ヴォーパルの剣の交換条件だし」

 優勝を争う敵同士であってもきちんと約束を守るのだから、遠坂はとことん律儀な性格だと思う。

「それはそうと、ありすが去り際に言ってた言葉って……」

「俺のことを示唆してると思う。

 地上の俺のことを知ってるらしいし」

 結局何を言っているのかわからなかったわけだが。

 それを聞いた遠坂は顎に手を置いて黙り込んでしまった。かと思えば、さっさと立ち上がる。

「それじゃあ私はこれで失礼するわ」

 図書室から出て行く遠坂を見送り、自分も彼女から貰った紙を懐にしまう。

 静かになったことで、ありすの言葉が再び反芻し始めた。

「……ライダー、さっきのありすの言葉の意味ってわかる?」

 答えを求めるというより静寂を避けるために背後に控えている自分のサーヴァントに尋ねてみる。

 が、彼女から返答がない。

「ライダー?」

『え、あっ、申し訳ありません!

 ちょっとぼーっとしてしまって……』

「ライダーが上の空になるなんて珍しいな。

 アーチャーと戦闘したばっかりだし無理させちゃったかな、ごめん」

『い、いえ、とんでもない!

 ただ、今日いろいろとあったのは事実ですし、主どのももう休まれてはいかがでしょう?

 剣の鍛錬も、今日一日程度なら休んでも大丈夫ですので』

「ありがとう、ライダー。

 悪いけどそうさせてもらうよ」

 ダン卿との一戦からありすとの戯れ。

 いくら電脳体だからといっても身体を酷使しすぎたのかもしれない。

 お互いに今日はゆっくり休むべきだ。

 

 

 翌日、アリーナに向かう道中で白のゴスロリ少女と鉢合わせになった。

「こんにちは、お兄ちゃん!」

「こんにちは、ありす」

 いつも変わらずな笑みを浮かべるありすに、こちらも変わらず挨拶を返す。

 遠坂の言う通り、俺は危機感がないんだろうなと自覚する傍ら、ありすが今日の遊びを提示する。

「今日はアリーナで遊びましょう」

「え、アリーナ?

 アリーナは対戦者同士以外は別々になるから、俺とありすが一緒のアリーナに入るのは無理だよ」

 ただ遠坂の言っていた通り、ありすはその制約を通り抜けてくる可能性がある。

「心配ないわ!

 あの怖い狩人も来ない場所よ」

 そう言ってありすは走って行ってしまう。

「ついて来い、ってことかな」

『なにやら危険な香りがします。

 行くなら十分な注意が必要かと』

 ライダーの警告に頷く。

 制服のポケットに例の紙が入っていることを手探りで確認してからありすを追いかける。

 追いかけた末にたどり着いたのは校舎の屋上だった。アリーナとは正反対の場所だが、一体どうするつもりなのだろうか。

 いつの間にか黒のありすも増えて、ありすたちは屋上のとある壁の前で振り返る。

ありす(あたし)ね、抜け穴を見つけたの。

 白いうさぎが通る秘密の抜け穴よ」

「ここを通ればいつもと違う遊び場に行けるの!」

 だからお兄ちゃん、と二人の声が重なる。

 得体の知れない雰囲気に全身が危険信号を発するが、こちらが行動を起こすよりありすたちの方が早かった。

あたし(ありす)と一緒に遊びましょう!」

 それを引き金に風が吹く。

 ……いや、これは壁に吸い寄せられる!?

「強制転移か!?」

『主どの!』

 正体に気づいた時には時すでに遅く、視界は暗転していた。

 

 

 目を開けると、そこには西洋のお茶会のような、長いテーブルと人数分の椅子が並べられていた。

「ここが、アリーナ?

 ずいぶんと様子が違うな」

 それでも警戒を怠ってはいけない。

 転移の影響か少し眩暈がするが、無防備を晒さないように注意をしなくては。

 そこにあの二人組みが姿を現した。

「あ、お兄ちゃん目覚めたのね!」

 彼女たちは嬉しそうにお互いの手を握り合っていた。

 こちらを歓迎するように少女は無垢な笑顔を浮かべる。

「ようこそ、ありすのお茶会へ」

「お茶会? ここはアリーナじゃないのか?」

「ええそうよ。ここはアリーナ。

 でもあたし(ありす)たちを邪魔をするエネミーには帰ってもらったわ」

「ここにいるのはあたし(アリス)あたし(ありす)、そしてお兄ちゃんたちだけよ」

 ここにいるのは俺たちだけ……?

「主どの!」

「……っ!」

 誰かに呼ばれてハッとする。

 振り返れば心配そうにこちらを伺う一人の少女。

 彼女は……

「ねえあたし(アリス)

 お兄ちゃんはあれ、ちゃんと覚えているかしら?」

 こちらの思考とを遮るように、二人の少女はさらに言葉を紡ぎ出す。

「お兄ちゃんに聞いてみないといけないわ、あたし(ありす)

 そして二人の少女と視線が交差する。

 あくまで無邪気なその瞳。されどその行いが善とは限らない。

「お兄ちゃん。

 あなたのお名前はなあに?」

「俺の、名前?」

 ………………………………あれ?

 変だ、思い出せない。

 まるで本戦初日の保健室の時のようだ。

 ……いや、そうじゃない。

 そもそも初めから自分に『名前』とかなかったんじゃないのか?

「主どの! 固有結界です!」

 先ほど声をかけてくれた少女が何かを叫ぶ。

 けれども、その言葉を理解することができない。

「ふふ、面白いでしょ。

 わたし(ありす)が考えた遊び。

 最後にはお兄ちゃんもサーヴァントも無くなっちゃうんだから」

「ここはみんな平等なの。

 アナタとかオマエとか、いちいち名前なんてみーんな思い出せなくなっちゃうの。

 お兄ちゃんもすぐにそうなるわ」

「貴様……!」

 刃物のような鋭い眼光を向ける少女。

 しかしそれ以上行動を起こすことはなく、二人の少女に背を向ける。

「主どの、メモを読んでください!

 このままでは本当に消えてしまいます!」

 メモ……そうだ、ポケットに入っている紙。

 それを取り出し開けると、そこに書かれていたのは()()記された文字の羅列だ。

 それの意味はわからないが、それを読めばいいことだけはわかっている。

 隣の少女が何かバツが悪そうにしているが、気にせずその文字を読み上げる。

「フランシスコ……ザビ……!?」

 数秒の沈黙。

 ――待て。落ち着け、まだ慌てる時間じゃない。

 この単語が何なのか不明だが、間違いなく、致命的に間違っている。

 よく見れば、このフランシスコな単語の裏にも文字が書かれている。

 この単語の方を口にしよう。

「あめのきゆら」

 一字一句、間違いなく発音する。

 この文字が持つ意味は分からないが、言う必要性はあったはずだ。

 ………………………………………………。

 なのに、一向に何かが起こる気配がない。

 一体、何を間違えた?

 ――まずい、

 ――――だんだんと、

 ――――――いしきガ、

 ――――――――トオノイテ……

 そのとき、世界に亀裂が走った。

 何が起こったのかわからないが、二人の少女は慌て出す。

「いけないあたし(ありす)

 赤の王様が怒ったわ!」

「それは大変!

 早く逃げましょう、あたし(アリス)

 何かを言いながら消えた二人を追うように、俺たちも何もわからないまま見えない力に引っ張られた。




ノルマ達成()
EXTRAの二次創作をするなら絶対に入れたいシーンです

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