Fate/Aristotle   作:駄蛇

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新宿クリアした方はお疲れ様です。まだの人はストーリーを楽しんで自分のペースで頑張ってください
ストーリー序盤は真名がわからず考察する、というのはfateらしくて面白いですね


今回の話ではあの双子が出てきます


幼い双子のジョーカー

 モラトリアム3日目。

 アリーナ探索を終えてから、ラニだけに任せるわけにもいかないと思って図書室に足を運ぶ。

 昨日手に入れた矢について何かわからないかと本棚を物色していると、視界の端に何か小さな人影が映った。

「……なんだ?」

 思わず視線を向けると、そこにいたのは本棚の奥でコソコソしている小さな少女だった。

 白いゴスロリ衣装はこのレトロな雰囲気には不釣り合いだ。

 なのに少しだけしっくりきているのは、彼女がいるのが児童図書のコーナーだからだろうか。

「きみ、こんなところで何してるの?」

「なんだ、お姉ちゃんじゃないのね。びっくりした」

「お姉ちゃん?」

「お姉ちゃんはあたし(ありす)の新しい遊び相手。

 今はかくれんぼで遊んでるの!」

 屈託のない笑顔で答える少女の名前に聞き覚えはないが、その見た目は記憶にあった。

 たしか一回戦で聞き込みをしたときに出てきたゴスロリの少女だ。

 手袋越しにうっすらとだが右手に令呪も見えるし、この子もマスターらしい。

 今は一人しかいないが、かくれんぼと言っていたから別々のところに隠れているのだろうか?

 そんなことを考えていてふと視線をありすの方に戻すと、不安そうな眼差しでこちらを見ていた。

「お兄ちゃん……あたし(ありす)のこと覚えてる?」

 不意にありすはそんなことを尋ねてきた。

 はて、今までにこの子と会ったことなどあっただろうか?

 いや、どこかで会っている気がする。この感覚は、一回戦のとき遠坂を初めて見た時に似ている。

 となると、予選のときにこの子に会ったのだろうか……

 ただ、会ったのならシンジやレオのようにちゃんと覚えているはずだ。

 ならば可能性としては遠坂のときと同じく、直接は会ってないかすれ違う程度だったのだろう。

「ごめん、今記憶が曖昧で……

 今まででに君に会ったことあるのかな?」

「そっか、お兄ちゃんも覚えていないんだね。もしかすると、気付いてもいなかったかな。

 あたし(ありす)はただ、見つめてるだけだったから……

 あたし(ありす)、お兄ちゃんならお友達になってくれそうな気がしてたの。

 やっとあたし(ありす)もお友達が出来るって……

 だから、お兄ちゃんが行っちゃったときは……かなしかったし、さびしかった」

 俺が行っちゃった、とはどういうことだろう。

 予選で会ったのなら、体育倉庫の扉からあの空間に向かったときのことを言っているのか?

 いや、でもありすの口ぶりだと俺よりあとにありすはこの予選を通過したことになる。

 俺の記憶では俺が最後の通過者だから、時間的にそれはない。

 ならば考えられる可能性は、地上で俺はこの子と会っていた?

「ありす、君は地上での俺のことを知ってるのか?」

「地上のではないけれど、あなたが誰なのかは知ってるわ。

 話したことはなかったけれど、あたし(ありす)は見ていたから」

『見ていた』の意味はこの際どうでもいい。

 重要なのは、記憶を失う前の天軒由良を知ってるということだ。

「教えて欲しい、俺は一体どんな人だったんだ?」

「どうして知りたいの?」

「どうしてって……

 自分自身を知りたいのは当たり前だろう?」

「じゃあこれを読んでほしいわ!」

 そう言って渡してきたのは『鏡の国のアリス』の絵本だった。

 ルイス・キャロルが著した児童小説、『不思議の国のアリス』の続編だ。それを子供向けに編集したものらしい。

 これを読むことに意味があるのかわからない。本当にただ遊んでほしいだけなのかもしれない。ただ、読めば教えてくれるのなら読まない手はない。

 ライダーも止める様子はないしここはありすの提案に乗ろう。

「ね、いいでしょう?」

「わかった、いいよ」

「やったぁー!」

 その場でぴょんぴょんと跳ねるその姿は、年相応の行動で微笑ましい。

 ありすに手を引かれて椅子に座らされ、そこで読み聞かせをする準備をする。

 しかし……

「……ありす?」

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「いや、どうして俺の膝の上に座ってるのかなって……」

「ここが一番見やすいもの」

 ありすがいるのは、椅子に座った俺の膝の上だ。そこから、開いた本を覗くようにしている。

 はっきり言おう、周囲の目がこの上なく痛い。

『……………………………』

 特に背後の自分の従者の視線が……!

 一回戦より図書室の利用者が少ないのが唯一の救いだ。

 ……運営委員の間目知識と有稲幾夜がヒソヒソ言ってるのは後でライダー含めて誤解を解こう、と静かに決意した。

 絵本を開くと、中身は本編の概要に近いものだった。

 

 ――ガイ・フォークスの日の前日、暖炉の前で糸を繰っていたアリスは飼い猫と相手に空想ごっこを始める。

 しばらくして、アリスは実際に鏡の中の世界に入れることに気付き、そちらの世界に入り込んでしまう。

 その世界で鏡文字になっている『ジャバウォックの詩』を見つけたあと外に出たアリス。

 途中何度もループしてしまう道に悩まされながら、アリスは喋る花々が植えられた花壇に行き当たり、そこで赤の女王を見かけた。

 ループする道を逆手に取り女王に追いついたアリスは、丘からの景色でこの世界がチェス盤のように区切られ、ゲームになっていることを知る。

 そして女王の助言により、アリスは駒としてゲームに参加することを決める。

 

 全12章からなる物語の冒頭の1、2章はこんな流れだ。

 絵本だと侮っていたが、これをすべて読むには時間がかかりすぎる。

 そう思いながら読み聞かせをしていると、しばらくして図書室の戸が開かれた。

 勢いよく中に入ってきたのは、黒のツインテールを揺らす少女――遠坂凛だ。

 息を切らしている彼女は図書室内を見渡していて、誰かを探しているようだった。

「……いた! ありす見つけたわ、よ?」

 ……遠坂の微妙な表情がこの上なく痛い。

 まあ、幼女を膝に乗せて読み聞かせしているこの状況は誰でも困惑するだろうが。

「天軒君、もしかしてそういう趣味?」

「断じて違う!」

 ただでさえ定期的に周囲の人に呆れられてるのに、ここにきてロリコンの汚名が加わるのは勘弁願いたい。

 そんなこちらの心情などお構いなしに、ありすは残念そうに頬を膨らませながら膝から飛び降りる。

「残念……みつかっちゃった。

 あたし(ありす)の負けだね」

「大人気ないのは承知。

 勝ったんだから、どういう原理か知らないけどアリーナにいる居座ってるあのサーヴァントをどかしてもらいましょうか!」

「えっ?

 お姉ちゃん、あの子はサーヴァントじゃないよ?」

「は…………?」

 遠坂の表情が固まる。

 状況がイマイチ掴めないが、彼女たちのアリーナには、遠坂クラスのウィザードがサーヴァントと見間違う敵がいるということだろうか。

「そうだ! 特別にヒントはあげるね。

『ヴォーパルの剣』ならきっとあの子も止めることができるわ。

 でもそれはどこにらあるとも知れない架空の剣――

 さあ、どうやって見つけたらいいでしょう?」

 ――ヴォーパルの剣。

 それは、とある怪物を葬るために登場する武器の名前だ。その怪物の名前はついさっき目にしたばかりだ。

 そこに突然、新たな人影が会話に混じる。

「しーっ。

 それ以上は内緒にしなきゃ。約束でしょう」

 少女はありすと鏡写しのように瓜二つだった。

 唯一違うのは、その服がありすと対照的に真っ黒である点ぐらいだ。

 もしかして、この子がさっきありすの言っていたアリス……?

「そうね、あたし(アリス)

 後はお姉ちゃんの宝探しの時間だわ」

 遠坂を置いてけぼりにありすとアリスはどこ吹く風でクスクスと笑う。

「じゃあ帰りましょう。

 お姉ちゃん、お兄ちゃん、あたし(ありす)と遊んでくれてありがとう」

「お兄ちゃん、絵本を読んでくれてありがとう。とっても楽しかったわ。

 お姉ちゃんも遊んでくれてありがとう。

 また明日も遊びましょう」

 二人の少女はそう言いながら離れていく。

 ふと、ありすがこちらを振り向き……

「絵本、最後まで読めなかったけど、特別にちょっとだけ教えてあげるね。

 貴方は貴方。地上のお兄ちゃんとは関係ないわ」

「ちょっと待って、一体どういう――」

「また今度絵本の続きを読んでね。バイバイ、お兄ちゃん!」

 無垢な笑顔を浮かべながら、ありすはどこかへ行ってしまう。

 あの様子だと、マイルームにでも帰ってしまったのだろうか。

 だとすると、今日はもうあの子たちに干渉することは不可能だ。

「仕方ないわね。

 ほとんど答えが出ているから対処できるし良しとしましょうか」

 その隣で肩をすくめ、ため息をつきながら頭を振る遠坂。

「ありがとう、天軒君。

 あなたが足止めしておいてくれたおかげでどうにか見つけられたわ」

「俺もありすが地上の俺を知ってるっていうから、教えてもらう代わりに本読んでただけなんだけどね。

 それより、ヴォーパルの剣ってジャバウォックを倒す剣だよね?」

「そうよ。

 理性のない怪物に有効な概念武装(ロジックカンサー)

 まさかあんな汎用性のないものに頼らないといけないとはね」

「アテはあるのか?

 アリーナにはないって言ってたし、たぶん購買部に売ってるようなものでもないし……」

「無ければ作ればいいのよ、と言いたいところだけど、あれ錬金術(アルケミー)の領域なのよね。

 残念だけど、錬金術に通じたマスターを探して交渉するしかないわ」

「錬金術、か」

 ただ忘れてしまっているだけかもしれないが、俺の知り合いにも錬金術に精通しているマスターはいないかもしれない。

 そう思ったとき、なぜかラニの顔が脳裏に浮かぶ。

 ……まただ。

 この不思議な感覚は気味の悪いものだが、この感覚に従えば正解にたどり着けそうな気がしてきた。

 とりあえず、今はラニのことを遠坂に聞いてみよう。

「遠坂、マスターの中にラニって女の子がいるのは知ってるか?」

「ええ、優勝の有力候補だから知ってるわよ。

 アトラス院出身で……アトラス院?」

 調べた情報を確認していただけの遠坂の眉間にしわがよる。

 やはり、彼女が突破の糸口なのだろうか。

「天軒君、ナイスフォローよ。

 確かアトラス院が得意としているのは占星術と錬金術。彼女が扱える可能性は大いにあり得るわ。

 あとは探して交渉に持ち込めれば……」

「俺、ラニのアドレス持ってるけど」

「何で持ってるのよ!」

 何故か怒られた。

 ひとまず彼女を落ち着かせつつ事のいきさつを説明する。

 状況を理解した遠坂はまずため息をつき……

「あなた、知り合いの層が妙に偏ってないかしら?」

「偶然なんだから俺に言われても困る」

 散々な言われように涙が出てきそうだが、ラニへの連絡は問題なく済ませる。すると、急な申し出にも関わらずすぐに彼女は来てくれた。

「ごきげんよう。

 期限はまだ一日ありますが、どうしましたか?」

「遺物とは別件でちょっと。

 ラニって、ヴォーパルの剣を錬成することはできる?」

「……特定対象にのみ有効な魔術礼装ですね。噂には聞いたことがあります。

 錬金術ですので、素材さえあれば練成も可能ですが、どうして天軒さんに必要なのでしょうか?

 ブラックモアのサーヴァントには関係ない代物だと思いますが」

「えっと……」

「天軒君、ありがとう。

 私の問題だし、ここからは私が説明するわ」

「貴女は、遠坂凛ですね」

「……アトラス院はウィザード全員のことを把握している、ってのはあながち間違ってもないのかしら」

「実力のあるハッカーの記録なら熟知しています。

 ミス遠坂ほどの腕前のハッカーなら尚のことです」

「そう、まあ隠すようなことでもないし、それはいいわ。

 それより、ヴォーパルの剣の方よ」

 遠坂が説明を引き継いだことで、二人の会話を眺めるだけになる。

 説明と交渉を経て、遠坂が素材を提供する代わりに練成するという流れで落ち着いた。

 遠坂が取り出したマラカイトは、ラニの魔術によって瞬く間に一振りの剣へと姿を変える。

「……流石ね。

 これだけの質で練成された礼装は初めて見たわ」

「ですが、私の力ではこれを使えるのはおそらく一度きり。

 よく考えてお使いください。

 二度は練成できないでしょうから」

「一度使えるだけで十分よ。対価は、ありすに関係する遺物だっけ?」

「はい。私の目的は、人間(ひと)を知ることですから」

 不意にラニの視線がこちらに向けられる。

 彼女は深々とお辞儀をして……

「天軒さん、ありがとうございます。

 やはり、貴方に協力を要請したのは正解でした」

「まだ俺はラニに何も出来てないよ。

 明日、遺物は渡せるからその時に頼む」

「お待ちしています。

 それでは、ごきげんよう」

 挨拶を済ませたラニは静かに図書室を後にする。

 彼女には手間を取らせたかもしれないが、遠坂を手伝えたのは良かったと思う。

 例え敵として戦う時が来るとしても、その時までに蹴り落とすような真似はしたくない。

 遠坂に言えば半殺しでは済まないような気もするが……

「はあ、まさか天軒君にとんでもない借りができるなんて」

「何気にひどいよね」

「当然感謝はしてるわ。

 こんなに早く問題が解決するとは思ってもみなかったもの。

 それに、他の誰かに交渉してたらどんな要求が来てたかわかったもんじゃないわ」

 こちらはただ遠坂のために、と動いていたつもりだが、どうやら思っていた以上の貢献をしたらしい。

 MVPはもちろんラニだろうが。

「おかげで第二層も無事突破できそうよ」

「もしかして、もう遠坂は4日目なのか」

「ええ、私も対戦相手もほぼ無傷で二回戦進出だったから、決戦後のインターバルは必要なかったみたい。

 まあ今回も私の敵ではなさそうだけど、問題はありすのほうね。

 本来アリーナは対戦相手以外とは交わらないはずだし、なによりそんなルールブレイクしたらペナルティどころじゃないでしょうに。

 どうやってあの子私のいるアリーナに入ってきたのかしら……」

 考え込む遠坂だがこちらは何のアドバイスもできない。

「今度ありすにあったときに聞いてみようか?」

「……案外それが一番手っ取り早いかもしれないわね。

 さすがにこれ以上借りを作るのもなんだし、それはこっちでなんとかするわ。

 それじゃあ、お互い頑張りましょう。

 ヴォーパルの剣(これ)の借りは絶対返すわ」

「ああ、遠坂も頑張って」

 お互いを労い、遠坂とも別れる。

 図書室から他のマスターの気配がなくなったことで、ようやく後ろで待機していた自分の従者に声をかけることができた。

「色々とありがとう、ライダー。

 俺のわがままに付き合ってくれて」

『少々複雑な心境ではありますが……主どのに仕えるのが私の役目ですから』

「お詫びに何か俺にできることはないかな?

 俺に出来ることならなんでもするけど」

『何でも、ですか?』

 霊体化しているが、ライダーの肩がピクリと動いたのがなんとなくわかる。

 しばしの沈黙の後、ライダーは恐る恐るといった様子で口を開く。

『こ、この件は自室に戻ってから改めて……』

 何やら歯切れが悪い。

 そんなに言いづらいものなのだろうか。

「あんまり大変なのは急には無理だよ?」

『も、もちろん主どのに迷惑はかけません! ……たぶん』

 最後の一言がすごい不安だが、ここは大人しくマイルームに戻るしかない。

 椅子から立ち上がり、図書室を後にした。

 

 

「……………………」

「……………………」

 マイルームに戻ってから話を聞くという流れだったはずだったのに、ライダーは落ち着かない様で正座したまま一向に口を開いてくれない。

「ライダー、無理に考えなくても、思いついたときでいいんだよ?」

「は、はい!」

 それからしばらくして、意を決してライダーが口を開く。

 一体どんなお願いが飛び出すんだろうか。

「よ、よろしければ、主どのに、少し、頭を撫でて貰えると、嬉しいです」

「それでいいの?」

 思わず聞き返してしまった。

「め、迷惑でなければですが」

 恐縮そうに肩をすくめるライダーには悪いが、一回戦の決戦後、頭を撫でる以上に恥ずかしいことをした気もするのだが……いや、これはやぶ蛇だ。

「わ、わかった。じゃあ失礼して」

 若干赤くなる顔を誤魔化すようにライダーの頭に手を伸ばす。

 密着する機会は多かったが、初めて触れる髪は予想以上にサラサラで言葉を失った。

 ライダーの方はというと……

「えへへへ……」

 ……なにこの可愛い生き物。

 見た目相応の表情を見せるライダーを見ると、ライダーのお願いに応えることができてよかったと思う。

「ありがとうございました!」

「これぐらいならいつでも大丈夫だよ」

「っ! ありがたき御言葉。

 この牛若丸、これからも頑張れます!」

 ……本当にこれでいいのかちょっと不安になるが、ライダーが喜んでいるならいいのかもしれない。




FGOの牛若丸の幕間であの反応は反則だと思います。あれは撫でる以外の選択肢はないですね

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