サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
+前回のラブライブ!+
南斗五車星が一人、風のヒューイは自らのグループのあり方、というか自らのグループ内での立ち位置に疑問を抱いていた。
彼には、自分が雲のジュウザの次くらいにはアイドルっぽいという自信があったのだ。
しかし、現実は彼に冷たく、五車星ファンは実質ジュウザファンとなっている。
それに納得できなかったのだ。
そんな彼の前に、一人の男が現れる。
「俺は、天狼星のリュウガ!」
お互いカチューシャを装備していることもあって意気投合した二人は、新生ユニットとして共に歩んでいくことにした。
ビジュアルもなんかひと昔のアイドルっぽくて、おばさまウケしそうだし。
※
不審者との対決の翌々日、μ'sの一同は生徒会室に押しかけていた。
「何の用かしら?」
絵里が露骨に嫌そうな顔で訊いてくる。「
「会長、なんか怒ってる……?」
「良く分からない人だにゃー……」
「しっ、聞こえるわよ……」
一年生達はそんな絵里に怯えてしまっている。
実際のところ、絵里が嫌いなのはサウザーであって、そのほかのメンバーは困りものの後輩たち程度の認識しかない。ただ、彼女が元来不器用なのと、サウザーへの恨み……主に亡き生徒会室扉の恨み……が表に出過ぎているため、μ's全体を極度に敵視しているような印象を受けるのだ。
そんな絵里に対し、穂乃果は言う。
「部活動の申請に来ました。人数もキチンと五人以上います」
彼女はメンバーの署名の入った申請書を絵里に手渡した。
「……確かに、五人以上、七人いるわね」
「頭数揃っているい以上、貴様に残された選択肢は認めるか髪を剃るかの二択だぞ?」
サウザーがフフンと自信満々に謎の選択肢を突き付ける。
だが、絵里の口から出た回答はμ'sメンバーにとって予想外のものであった。
「残念だけど、認められないわね」
「えっ!?」
なんでも既にこの学校には『アイドル研究部』なる部が存在するため、似たような目的の部をむやみやたら増やすのは許されない、と言う事だそうだ。
「初耳なのだが?」
サウザーが言う。すると、絵里はちょっと嬉しそうに、
「だって、訊かれなかったし?」
……後に希が語るには、この時ほど悪い顔をしていた絵里は今まで見たことがなかったという。絵里の言葉にサウザーは悔しそうに唸る。これには生徒会長もすこぶる嬉しそうである。
サウザーに一泡吹かせたことである程度満足したのか、彼女は途方に暮れる後輩たちに一つアドバイスをくれた。
「何なら、現アイドル研究部と交渉なりして来ると良いんじゃないかしら?」
「交渉、ですか?」
「そう。部の統合は別に校則違反じゃないし、生徒会としても乱立されるより助かるのだけど」
それを聞いたμ's一同は喜んで、絵里に礼を言い(無論サウザー以外である)、一目散に生徒会室を後にしていった。
後輩たちを見送り、ポケットから取り出した一口チョコを幸せそうに口に放り込む絵里。そんな彼女に希は意外そうな視線を送った。
「なに? じろじろ見て」
「いや、意外やなぁ、って? エリチ、あの子たちの事認めて無いのとちゃうの?」
「ええ、認めて無いわよ。でもだからと言って活動を妨害なんてできないし、放っておいたら
「なるほどなぁ」
感心する希。絵里は壊された入り口を見つめながら、扉の代わりに暖簾でも掛けるかと思案していた。
※
絵里に言われて勇んでアイドル研究部の部室に向かうμ's一同。その部室は校内でもあまり訪れないような場所にひっそりと存在していたこともあり、見つけ出すのには一苦労だった。
「ここかな?」
穂乃果が指さす扉。そこは一見すると単なる物置か何かにしか見えないが、よく見ると小さく『アイドル研究部』と書かれたテープが貼り付けてあるのが見える。
「でも、真っ暗ですよ?」
海未が指摘した通り、扉のガラスの向こうは電気が消され、真っ暗であった。どうやら、まだ部長は来ていないらしい。
「待ちますか?」
花陽が言う。しかし、サウザーは、
「フン、このような扉破壊して、我々で占拠してしまえばいいではないか?」
サウザーはこの学校の扉を壊し慣れている。彼の手にかかれば薄い扉の一枚や二枚、紙を裂くが如く簡単に破るであろう。
しかし、それが出来るのはμ'sのメンバーがいないときだけ。流石に今度は穂乃果たちに止められた。
そんなことをしている内、部室の主が彼女たちの前に姿を現した。
「あっ」
そして、姿を現した少女はμ'sを見るや顔をひきつらせた。
μ'sも少女の顔を驚愕の表情で見つめる。
特徴的なツインテールに高校生にしてはちんまりとした体つき。その姿は服装が変われども見間違うことは無かった。
「この間の不審者!」
穂乃果が叫ぶ。
「誰が不審者よ!」
「ここの生徒……ていうか、アイドル研究部の部長だったんですね」
花陽が何故かやや尊敬の念を込めて言う。
しかし、『不審者の少女』こと矢澤ニコにはここで「そうです私が部長ですどうぞよろしく」などと言えるほどの胆力と言うか図々しさは誰かさんと違って無いらしい。彼女は驚いて身動きの取れないμ'sメンバーの間を小柄な体を活かしてすり抜けるとそのまま部室へと飛び込み、扉を勢いよく閉められてしまった。
「おぉ、南斗特有の身のこなし!」
花陽が感嘆の声を上げる。
「そういうもんなのかにゃー」
「ちょっと部長さん! なんで逃げるんですか!」
穂乃果はドアノブに手を伸ばして扉を押し開けようとする。が、内側から鍵を掛けられたか、何か大きなものを積まれたらしく、ピクリとも動かない。
「開けてください! 部長さぁーん!」
穂乃果が扉を叩く。
「ことり、どうしましょうか」
「うーん、外から入る、にしても窓も閉まってるだろうし……」
考えあぐねることり。だが、聖帝の居る限り、開かない扉の存在に悩むことなど無いのだ。
今度は、止めても無駄である。
サウザーは扉の前で華麗に飛翔した。
「む、なんか寒気が……」
「やだエリチ、風邪?」
あえて詳しくは書かないが、アイドル研究部部室の扉はどのような形にせよ開かれ、一同は中へ入ること叶った。
「おぉ……」
部屋に入ると、一同は言葉を失った。
『アイドル研究部』を名乗るだけあって、室内には日本全国津々浦々往古来今の資料、グッズが所狭しと並べられていた。まさか生徒会がアイドルグッズ購入の予算を承認するとも思えないから、並べられた数々の品は全てこの部屋の主である矢澤ニコの私物なのだろう。その途方もない収集意欲にある種の呆れと尊敬を感じたのだ。
対して、ニコはいかにも不機嫌そうなしかめ面をしていた。当然である。
「勝手にじろじろ見ないでよね」
「じゃあ触るとするか」
「そういうことじゃないわよ!」
シャーとサウザーを威嚇するニコ。
そんな彼女を尻目に、棚を眺めていた花陽は何かを見つけたらしく、急に叫び声をあげた。
「あああああああ!」
「うわ、かよちんびっくりしたにゃー」
「こここここ、これは……!」
わなわなと震える彼女の両手に握られているのは大きなDVDボックスである。箱には煌びやかな文字で『伝説のアイドル伝説』と描かれている。
「これ、持ってる人始めて見ました!」
尊敬のまなざしをニコに向ける花陽。彼女の純粋な瞳にはさすがのニコも照れて顔を赤くする。
「ま、まぁね! アイドル研究部たるもの、持っておくべきだから!」
「すごいです!」
この『伝説のアイドル伝説』は限定生産品であるため非常に稀少(故に存在が伝説化して『伝説の伝説のアイドル伝説、伝伝伝』と呼ばれている)らしく、アイドルファンにとっては垂涎の品らしい。そんなものを持っているともなれば、花陽が尊敬して当たり前のことなのだろう。
そんなニコに謎の対抗意識を燃やすのがサウザーである。
「フフフ……このおれもその『伝伝伝』に負けず貴重な品を持っているぞ?」
「ホントですか!?」
花陽が食いつく。しかし、サウザーを見ながら穂乃果は海未とことりに耳打ちする。
「なんか嫌な予感がするんだけど」
「奇遇ですね、私もです」
「しない方がおかしいんじゃないかな?」
不安を他所にサウザーは「例の物を持ってこい!」と部室の外に呼びかける。すると、モヒカン二人によってシーツを掛けられた『何か』が台車に乗って運び込まれてきた。
「また勝手に校内に入りこんで……」
「いや、それより海未ちゃん? あれの大きさってさ、やっぱり……」
穂乃果が息を呑む。ことりも同様で、
「台車も含めると大体190センチくらいかな? 大きさ……」
と慄きを隠せない。
対するサウザーはゴキゲンなもので、
「『伝伝伝』なぞ、所詮は下郎の玩具に過ぎぬわ!」
と高笑いしている。そして、「見るがいい!」と掛けられていたシーツを豪快に払いのけた。
「これぞ『時価1000万円のクリスタル・ガラスをあしらった等身大ケンシロウフィギュア』だ!」
「サウザーちゃんマジか!」
一同は悲鳴を上げた。この等身大ケンシロウフィギュアはある意味触れてはいけない聖域的アイテムなのである。
「ちなみに300万円で購入しました」
「やめろって!」
全身にあしらわれた50万個のクリスタルが室内の蛍光灯の光を受けて虹色に輝いている。そんなケンシロウフィギュアをサウザーは部室の隅に鎮座させようと置いてあったアイドルグッズをどかした。
「ここに飾っておこう」
「ちょ、なにするのよ!?」
「フフフ……アイドル研究部のマスコットにすればよかろう?」
「どんなマスコットよ! ていうか勝手にグッズをいじるな!」
「売って部費の足しにすればよかろう?」
「それならそのケンシロウフィギュアを売りなさいよ!」
サウザーの傍若無人な態度に激オコなニコである。そんなニコを穂乃果は、
「まぁまぁ、落ち着いてください」
となだめた。そして、どうにかニコを交渉の席に着けさせることに成功した。
「……で、用件はなに?」
ジュースを一口飲んで気を鎮めたニコは穂乃果たちに問うた。
「はい、ニコラス先輩」
「ニコよ」
「ニコ先輩、実は私達、スクールアイドルやってまして」
「知ってる。どうせ生徒会に話しつけてこい言われたんでしょ?」
「おお、話が早い」
穂乃果はあははと笑いながら身を乗り出した。
「で、ニコ先輩!」
「お断りよ」
だが、ニコにはお願いする隙は無かった。彼女にあるのはμ'sへの拒絶だけのように見えて、まさに『取り付く島もない』というべき状況であった。
穂乃果は食い下がる。
「いえ、別にアイドル研究部を廃部にしろとかいうわけじゃ無くて……」
「なんにせよお断りよ。前にも言った通り、アンタ達はアイドルを汚してるのよ!」
「そんな……」
海未がニコの言葉に反発しようとする。しかし、不思議と、その先の言葉が出てこなかった。
「……ほ、穂乃果、ほら、否定してください」
「んふぅ?」
誰かさんのせいでしどろもどろになるμ'sにニコは呆れ交じりのため息をついた。そして、ある質問をぶつけてきた。
「アンタ達、キャラづくりしてるの?」
「キャラ」
「づくり?」
一同が首を傾げる。それにニコは「そう!」と言うやガタンと音を立てて立ち上がり、拳を握って語り始めた。
「アイドルに求められるものは非日常な夢のような時間よ! アイドルは文字通り、偶像としてお客さんの期待に答えなきゃいけないの! その辺にいる高校生の気構えじゃダメなのよ! つまるところアンタ達のキャラが薄いのよ!」
「キャラが薄い!?」
穂乃果が驚愕の声を上げる。
「これで薄いんですか私達!?」
「うっ……へ、平均値の話よ! 一人アホみたいに濃厚でも周りが着いていけなきゃ意味ないでしょ」
ニコの言葉にサウザーは嬉しそうに笑う。
「要はあれだな? このおれこそアイドルに相応しいと言うわけだな?」
「いや全然違うし」
ニコはここ一番のため息をつき、μ's一同を見回した。そして、「たくしょうがないわねぇ」と呟き、手本を見せてあげると言うと一同に背を向け、一瞬の間の後、満面の笑みに愛らしい手振りを添えて振り返った。
「にっこにっこ(割愛)」
ニコが見せつけてきたものはまさしく『あざとさ』の塊だった。これがアイドルに求められるものなのかと、尊敬と同時にちょっと引いた(花陽だけ感動していた)。
「これは……」
「なんというか……」
言葉に困る一同。
しかしそんな中、サウザーだけが例の不敵な笑みを浮かべていた。これはろくでもないことを考えているに違いない。
「その程度、我々でも出来るわ」
これである。この台詞はニコも聞き捨てならなかったらしく、
「ほーう? じゃぁそこの聖帝、やってみなさいよ」
と挑発してみせた。
だが聖帝は相も変わらず不敵に笑いを浮かべている。
「誰もおれがやるとは言っておらん。……北斗神拳の西木野マキよ!」
「あ?」
だんまりを決めていたマキは不意に振られて驚いたのか変な声を出してしまった。
「そこの
「な、何で私が……」
「やらねば、あることないこと吹聴して社会的信用を失わさせるぞ?」
「くっ……」
サウザーお得意の力と恐怖による支配である。さすがにこれには強気なマキも屈せざるを得ない。そんな彼女にニコやμ'sメンバーも、
「ほら、やってみなさいよ」
「マキちゃん、ファイトだよ!」
「うるさいわよ!」
ニコと他メンバーの視線を一心に集めて、マキはいよいよ追い詰められる。
「…………」
……しばしの沈黙の後、マキはいよいよ覚悟を決めた、深呼吸した後彼女はニコ同様一度一同に背を向け、振り返ると同時に笑顔で振りつけしてみせた。
「マッキマッキマ~☆ うぬの秘孔に
………沈黙。その後、顔を真っ赤にしたマキが、「どうよ」とニコを睨んだ。
そんなマキに、ニコは慈愛に満ちた微笑みを向けて、
「……うん……いいんじゃない?」
「ぬうぅぅぅぅぅぅ!」
※
その後、何やかんやあってμ'sは部室から(等身大ケンシロウフィギュアと共に)追い出された。
「ああん、ニコ先輩!」
穂乃果が扉の向こうに呼びかけるが、返事はない。
「駄目みたいですね……」
「まぁ、うっすら分かってたけど……」
ことりの言う通り、何となくこのオチは読めていたから一同のショックはそれほどのものではなかった。しかし、だからと言ってこのまま引き下がるわけにもいかない。
「どうするにゃー。ニコ先輩、凛たちの事目の敵にしてるっぽいにゃー」
「そうともちがうような……サウザー先輩はどう思いますか?」
花陽が訊く。
「フハハ……案ぜずとも、奴は所詮南斗水鳥拳の一派に属する下郎。南斗鳳凰拳に降るのは自明の理ではないか」
「花陽、サウザーにまともな答えを期待するだけ無駄ですよ」
はぁ、と途方に暮れるμ's。
その中で、マキだけが新しい世界への扉を開きかけて一人ドキドキしているのだった。
つづく