サウザー!~School Idol Project~ 作:乾操
+前回のラブライブ!+
南斗五車星の山のフドウは普段は音ノ木坂学院で用務員をしている。
Hudo 「Squirrel?」
Hanayo「NO! They are alpaca.」
Hudo 「...Squirrel?」
Hanayo「No! This is an alpaca.」
Hanayo「Alpaca is very cute!」
Hudo 「Oh,very cute...a...al...」
————リス!
※
「祝・ファーストライブ成功ーっ! フハハハハ」
なんちゃってシャンペンをかざすサウザーの後ろでブルとリゾがクラッカーを鳴らす。
ライブの晩、サウザーの居城の食卓には豪華な食事が並んでいた。ファーストライブの『成功』を祝しての晩餐会である。そして、晩餐会の参列者はサウザーと同じくμ'sのメンバーである穂乃果、ことり、海未の三人である。
「大成功って……お客さんのほとんどが聖帝軍の方々だったではないですか」
海未が呆れ声で言う。
μ'sの目的は、この学校の廃校を阻止すること。
今回のライブは、そのための第一歩として校内の生徒にμ'sの存在を知ってもらおうというものであった。知ってもらい、ファンになってくれれば、そこから広がる活動というものもある。
「しかし、入り口にはかなりの数が来ていたらしいではないか。μ'sの名は知れ渡っているであろう」
「それはそれで問題です! なんでその人たちが入ってこられなかったのか分かりますか?」
「フッ、シャイなのだろう」
「私達を危ない集団だと思ったからです!」
講堂に溢れんばかりの世紀末モヒカン軍団を呼び集める四人組だと思われていると考えておおよそ間違いではあるまい。
このままではタイトルも『校内風紀壊乱者伝説 μ'sの拳』に変えなければならない。
しかし、海未に対してことりは言う。
「でも、お客さんはお客さんだし、、優劣をつけるのは、ちょっと……」
「う……まぁ、ことりの言う事も一理ありますけど……」
釈然としない様子の海未に穂乃果も、
「そうだよ海未ちゃん。その点で言えば、今回のライブは成功だよ……?」
「言う割に疑問形なんですね」
実際のところ、穂乃果とことりも今回のライブはお世辞にも大成功したと言えないと思っている。お客に優劣をつけるのがダメだというのなら、本来招待した人々が観覧できなかったという事実もまた許されないことなのだ。
とはいえ、これらは過ぎてしまったことである。
「振り向いてばかりいては先へは進めないであろう?」
「なんか良いこと言ってるんでしょうけど不思議と腹が立ちますね」
腹が立っても、真実である。
現在のμ'sに必要なものは新たな仲間だ。さらに活動の幅を広げるにはμ'sを『アイドル部(仮称)』として正式に部活動登録をする必要がある。しかし、それには最低初期メンバーが五名必要であり、四人しかいないμ'sでは申請できない。
「しかもなんか私達生徒会長に凄い嫌われてない?」
穂乃果が言う。
「嫌われているというか、危険視されてる感じだよね」
ことりの言葉は正しい。
正確には、μ's自体ではなくサウザーが生徒会長に敵視されている。罪状は主に生徒会室の破壊活動だ。
生徒会長に危険視されていようがされていまいが、とにかく最低あと一人メンバーが必要である。
「そういえば、ライブの時、客席に一年生の子がいたのが見えましたけど、その子は誘えないのでしょうか」
海未の言う一年生とは、小泉花陽と星空凛の二名である。世紀末と化した客席において場違いと化していた二人であったから、μ'sの目に留まっていたのだ。
あんな場所にまで見に来てくれるからには、アイドルに並々ならぬ興味があると見て間違いないだろう。
「それなら、明日声をかけてみよう!」
海未の提案を受けて穂乃果が叫ぶ。
かくして、μ'sの新メンバー勧誘活動が再び始まった。
※
翌日、昼休み。
四人は新メンバーの勧誘……特に、件の小泉花陽、星空凛の二名……に励んでいた……はずであった。
「ことりちゃーん、新メンバー勧誘しなきゃだよー」
「分かってる~。もうちょっとだけ……」
しかし、動物飼育小屋の前を通りかかった瞬間、そこで飼育されているアルパカの魔力にことりが捕まってしまった。
この音ノ木坂学院ではいつからか二頭のアルパカを飼育している。つぶらな瞳が可愛い白アルパカ(♂)とやや乱暴な性格の茶アルパカ(♀)である。
——この二頭のアルパカは、かつて黒王谷の馬たちとしのぎを削り合ったアルパカ軍団のボスであった。しかし、数々のドラマを経て、現在は平和な音ノ木坂学院で暮らしている。二頭のアルパカをめぐる壮大な物語は、いずれ機会が訪れれば読者の皆様にもお話するかもしれないし、しないかもしれない。たぶんしない。——
「ヴェエェエェエ」
ことりが首筋を撫でるとアルパカは気持ちよさげに啼き声を上げた。それに呼応するように、ことりもハフゥと溜息を吐きつつ愛で続ける。
「ことり、昼休み終わっちゃいますよ!」
「フハハ」
「サウザーも餌をあげてないで!」
海未の説得空しく、ことりはアルパカを愛で続け、サウザーは餌やりに興じている。終いには穂乃果も、
「もうこの際アルパカが新メンバーでいいんじゃないかな。ほら、文字にすると啼き声がマキちゃんっぽいし?」
「ヴェエエエ」
「何言ってるんですか穂乃果は!」
海未はプンスコ怒り声をあげた。すると、サウザーから餌を貰っていた茶アルパカが「うるさい!」と言わんばかりの様子で怒りながら海未に唾液を発射した。
ちなみに、アルパカが発射する唾液は攻撃用に胃液も混ざっているため、とてもくさい。
幸い、海未は日ごろことりの嘆願波で鍛えられていたため唾液は回避することが出来た。
「危ないですね!」
「ヴェエエッ!」
海未とアルパカの間に緊張が走る。
しかし、その緊張の間にサラリと割って入る体操服姿の一年生があった。
「よーしよし」
その一年生は飼育委員らしく、ブヒヒンと興奮する茶アルパカを撫で、すぐに落ち着かせてみせた。落ち着かせると、くるりと振り向いて、
「大丈夫ですか?」
「ええ、何とか。嫌われましたかね」
「いえ、ちょっと遊んでただけだと思います」
遊びにしては殺意ビンビンだった気がしないでもない。
するとここで、一年生の顔を見た穂乃果が突然「あー!」と声を上げた。
「ライブに来てくれた小泉花陽ちゃんだよね!?」
「え、あ、はい、そうです……」
なんと、飼育委員の一年生は四人が探していた一年生の片割れ、小泉花陽であった。アルパカ小屋のまえでもたついているだけで向うからきてくれるとは、μ'sには神が味方しているようだ。
「丁度さがしてたんだよ!」
穂乃果は素早く花陽の傍に寄り、肩をガシリと掴むと顔をズイと寄せた。花陽は驚いて身体を少しのけぞらせる。
「あなた、スクールアイドルやってみる気はない!?」
「ええっ!?」
穂乃果の突然の誘い(本人はずっと昨日から考えていたことだから、『突然』なんてつもりはない)にますます驚く花陽。
そこに、ここまで珍しく黙っていたサウザーも加わった。
「誘っているのだから加わってしまうがいい。入れば俺とお揃いの紫タンクトップが着られるぞ?」
「は、はぁ……?」
「今ならピンクもあるぞ?」
「はぁ、そうですか……」
サウザーがどこからともなくタンクトツプを取り出して、さも羨ましかろうという風に見せびらかしてくる。当然だが、花陽はそんなタンクトップなぞ毛ほども欲しくはない。
「フハハハハ。どうだ、μ'sに入りたくなってきたのではないか?」
サウザーが笑いながら詰め寄る。
「ひえぇ……」
その気迫に花陽の口からは思わず変な悲鳴がこぼれた。
と、ここで彼女に助け舟がやって来た。
「かよちん、そろそろ行かないと体育遅れちゃうよー」
凛が花陽を呼びに来てくれたのである。凛がやって来るといつも嬉しくなる花陽であるが、タンクトツプを装備した男に詰め寄られている状況下ではその喜びもひとしおである。
しかし、忘れてはいけないのが、凛もまたμ'sの勧誘対象なのである。
自称凄腕スカウトマンの聖帝サウザーは勧誘の相手を花陽から新しくやって来た凛にチェンジする。
南斗聖拳の華麗な足さばきで凛の傍へ素早く移動するサウザー。驚く凛を無視してさっそく勧誘を開始する。
「貴様もμ'sに入るのだ。今なら俺とお揃いとピンク色のタンクトップがもらえるぞ」
「ひどいセンスだにゃー」
「ピンクが嫌なら他も各種揃えているぞ? 貴様にはこのターコイズとか似合うであろう」
「そんなの着るくらいなら銀座をマッパで徘徊する方がマシだにゃ」
凄まじい嫌がりようである。
サウザーの気迫に恐れ戦いた(全然そうは見えないけど)凛は彼の元をすり抜けてはなれ、怯える花陽の腕をガシリと掴んだ。
「この人たちに関わってたらタンクトップ着せられるよ! 逃げよう!」
「酷い誤解をされてますね私達」
「でも仕方ないのかなぁ……?」
海未とことりに至っては半ばあきらめムードである。だが、やはり穂乃果は諦めることが出来ないようで、すっかり怯えた後輩二人の傍へ素早く接近し、説得を始めた。
「二人ともスクールアイドル始めてみようよ! きっと楽しいよ! 別にタンクトップは着なくていいから! 私たちも着る気ないし!」
「あ、あの……」
もじもじする花陽。
「大丈夫! 怖くないって!」
迫りくる穂乃果。その後ろではサウザーがタンクトップをチラチラしている。
着なくていいなんて絶対嘘だ。こいつ等着せる気満々だ……花陽はそう思わざるを得ない。
だが、花陽と穂乃果の間に凛が割って入った。
「かよちんが嫌がってるでしょうが!」
「まぁそう言わずに。凛ちゃんだっけ? ここは一つ、どうかな? スクール……」
「お断りします!」
凛はぴしゃりと言い放つと花陽の手を掴み、逃げるようにその場を後にしようとした。
だが、その背中にサウザーが呼びかける。
「フハハハハ。断るのは構わんが、その代わり我が聖帝軍が四六時中貴様らをつけ回すことになるぞ?」
敏腕凄腕スカウトマンの最終手段はまさかの脅迫である。聖帝は恐怖と力で他人を支配するのが大好きなのだ。
花陽と凛はサウザーの言う聖帝軍がどのような人間で構成されているかを知っている。そうであるから、この脅迫はかなり効果的であった。あのような連中が付け回してくるなんて、考えただけで辟易するのだ。
「……かよちん行こう!」
「う、うん!」
とりあえず、次の授業に遅れそうなこともあったから二人はサッサとその場を離れることにした。その背中を見送りながら、サウザーは満足げに、
「とりあえず、二人確保だな」
「サウザー、あなたは私達の想像を遥かに超える馬鹿ですね」
海未にはもう怒る気力すら残っていなかった。
※
体育の授業が終わり、教室に戻った花陽と凛。
「高校って怖いね。あんな先輩がいるなんて」
水筒からお茶を飲みながら凛が言う。
『あんな先輩』というのは無論μ'sの四名である。穂乃果、海未、ことりの三人からしたら迷惑極まりない話だが、彼女たち一年生からすると皆同じようにうつるものなのだ。
しかし、花陽は脅されることで凛とは違う心の変化が生まれていた。
「……ねえ、凛ちゃん」
「にゃ?」
花陽は恐る恐る、だがどこか期待に膨らんだような調子で、衝撃的なことを口にする。
「……スクールアイドルだけど」
「うん」
「……一緒に、参加してみない?」
「……うん?」
言われた瞬間、凛は処理が追いつかないPCのような表情を見せた後、その顔を徐々に驚きの物へと変化させていった。
「えっ!? 参加っ……えっ!?」
「うん。μ'sのお誘い、答えてみない?」
「いやいやいや!」
凛は水筒を放り出して花陽の肩をガシリと掴んだ。
「危ないって! 不審なひとの誘いに乗っちゃダメだにゃー! 脅しに屈するのもダメだにゃー!」
「違う違う、脅しに屈したとかじゃなくてね?」
花陽は荒ぶる凛をどうどうと抑えると、ちょっとうつむき加減に話し始めた。
「私ね、実はスクールアイドルに興味あったんだ。見るだけじゃなくて、自分も歌ってみたい、って」
花陽には小さなころから密かに抱いていた夢があった。それは、大好きなアイドルのようにステージの上で歌って踊ること。
この学校にスクールアイドルが生まれた時、そして、そのグループがメンバーを募集していると知った時、小さな夢の実現がすぐそばまで近づいていることを知った。
だが、彼女の中の理性が夢へ歩み寄る気持ちの前に立ちはだかった。
自分は声だって小さいし、あがり症だし、運動神経も低い。こんな自分がスクールアイドルなんて絶対に無理だ。
だからかつて凛にμ'sに参加してみたらどうかと訊かれた時、花陽は、
「私は普通に一人のお客さんとしていろんなアイドルを見ていきたいの」
と自分を偽ったのだ。
これからも一人のファンとしてμ'sを応援していこう。
そう思っていた。
だが、今、彼女はμ'sから直々にメンバーに加わらないかとお誘い……というより脅迫されている。
思ってもみなかったスクールアイドルへの道。それが今、向うから半ば無理やり示されているのだ。
「確かにあの先輩たちは何考えてるのか分かんないし、倫理観滅茶苦茶だし、どう考えてもまともな集団じゃないよ?」
「メッタぎりだにゃー」
「でも、なんだか私、変われそうな気がする……今これに答えないと、ずっと変われない、ずっと自分に嘘をつき続けていかなければならなくなる……そんな気がするの」
花陽は俯いていた顔を上げて、凛の瞳を見つめた。その瞳のかつてない力強さに凛は息を呑む。
「私、μ'sに加わるよ!」
※
放課後の屋上。
そこで練習に励んでいたμ'sの元を花陽と凛の二人が訊ねた。
そして、高らかに宣言した。
「私達を、μ'sの仲間に入れてください!」
あんな
「ど、どうしちゃったの……?」
「もしかしてサウザーの脅しのせいでは……」
「あ、あのね、無理しなくてもいいよ? サウザーちゃんだって本気じゃないだろうし……」
あたふたと弁明する三人。しかし、二人の目を見るや、けっして脅しに怯えてやって来たわけではないということをすぐさま理解した。
「ほ、ホントに、加わってくれるの?」
穂乃果が問う。それに花陽と凛は、
「は、はい! 私もスクールアイドル、やってみたいです!」
「凛はかよちんが心配だから一緒に参加するにゃ」
二人の言葉に穂乃果はしばし呆然とした。そして、自分を取り戻すや否や「ありがとうっ!」と手を広げて二人に思いっきり抱き付いた。
「これからよろしくね! 花陽ちゃん! 凛ちゃん!」
穂乃果の言葉を受けて嬉しそうにはにかむ花陽と、照れくさげに笑う凛。二人の顔を、赤い夕陽が明るく照らし出していた。
「フハハ……またもおれのスカウト力が証明されてしまったな」
三人を眺めながらサウザーが笑う。
「何故でしょう、喜ばしいはずなのに無性に腹が立ちますね」
「それもまたサウザーちゃんの力なのかもしれないね」
「フハハハハ―ッ!」
かくして、μ'sは合計六人(暫定メンバーのマキを入れると七人)となった。部活動として申請する定員を上回った。
これにて一安心……かとおもいきや、これからこそが、μ'sにとって本当の試練の始まりであった。
ちなみに、加入するも警戒心バリバリであった凛だが、二日もすればμ'sにすっかり馴染んでしまった。
良くも悪くも彼女は単純なのである。
中学一年生レベルのの英文にすらGoogle先生の協力が必要な作者の英語力。英語なのんたんってすごいんだね。