サウザー!~School Idol Project~   作:乾操

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Chapter3・非情の現実!!

 南斗六聖拳が一人、『妖星』のユダは夢を見ていた!

 

「レイ……俺がただひとりこの世で認めた男……」

戦いの決着はついた。ユダはレイに羨望と嫉妬を抱いていたことを告白し、今まさに絶命しようとしていた。

「せめてその胸の中で……」

 ユダはレイの胸に身体を預け、瞳を閉じる。

 だが!

「……?」

 なぜかレイがグググとユダの方へ身体を傾けてきた。

「なっ……貴様、このおれがまさに死のうとしているのにっ……!?」

 ユダは抗議するがレイは聞かない。聞かないばかりかさらにユダに体重をかけ、そのまま二人で倒れてしまった。

 レイは掛布団のようにユダの腹の上にうつぶせで横たわっている。

「くっ、どけっレイ! お、重い……ぐああああ!」

 

 

 

「はっ!?」

 目が覚めると朝で、窓からカーテン越しに射し込む朝日がベッドの天蓋を照らしている。

「夢……」

 首を横に巡らすと何故か半笑いですやすや眠るサウザーの顔があり、朝からイラッとさせられた。しかし、それよりも、腹部に感じる圧迫感が気になった。

「重ッ! なんだ!?」

 顔を起こして足もとを見やると、腹の上でユダの身体に垂直になるように……ちょうど夢の中のレイの如く掛布団のように……シンがうつ伏せで横たわっていた。うつ伏せのシンは腹が圧迫されて苦しいのか知らないがしきりに、

「ケン……ケンシロウ……ふっぐ……」

と呻いている。

 ユダはワナワナと身体を震わせると、シンを跳ねのけるように起き上った。

「クソッ! どけ! 起きろシン!」

「すふぉっ!」

 突然跳ねのけられたシンは身の危険を感じたのかすぐさま目を覚まし、ベッドから跳躍してユダから距離を取った。

「なっ……ユダ!? 貴様なぜおれの城に……!?」

「ここが貴様の城ではないからだっ! 寝相が悪いにも程があるぞ! だいたい、なぜこのユダ様がシン(貴様)、サウザーと同じベッドで寝なければならんのだ!?」

 この部屋のベッドはキングサイズの大きなものが一つだけである。修羅の国基準のキングサイズであるから広さは十分であるとはいえ、大の漢三人が同じベッドで一緒に寝ると言うのは些か気持ち悪すぎた。

「おれが知るか! そもそも、嫌ならそこのソファで寝ればよかっただろう!?」

「あんなところで寝たら美容に悪いだろうが! ……クソッ、シュウの奴、許さんぞ……!」

 シュウとレイの部屋は普通にツインルームであった。シュウは出国前の部屋割りで、

「このタイプの部屋はベッドがかなり大きい上に天蓋付きだそうだぞ?」

と三人に薦めていたのである。自前の城を持つ三人としては大きなベッドに慣れている事もあり、彼の薦めを受け入れたのだが……。

「まさ一部屋で三人纏められるとは……!」

「正義面してる割に意外と狡い手を使うなアイツ」

「おのれシュウ……! ええい、起きろサウザー!」

 どうしようもない苛立ちからユダは隣のサウザーをゲシゲシと蹴る。

「う……うぅん……お師さん……」

「貴様が寝言を言っても気持ち悪いだけだっ! 起きろっ!」

 

 

「なぜ朝からそんな濃厚かつ気色悪い話を聞かねばならないのだ?」

「誰のせいだと思っているっ!?」

 引き気味のシュウにユダが吠えた。

 早朝。μ'sと5MENの一同は朝食前にランニングをするべくホテル近くの公園へ集合していた。半ば昨晩の報告かいみたいになっている。

「私達の部屋も似たような感じだったわ」

 ユダらの話を聞いたニコが言う。

 ニコ、穂乃果、絵里の三人部屋だったのだが、ユダ、サウザー、シンの部屋同様何故かベッドは大きなものが一つという作りで、しかも用意された小物類やメイキングから推察するにハネムーン仕様の部屋であった。

「レズの三人組だと思われてるわよ」

「そんなことより早く行こうよ!」

 凛が一同に呼びかける。走るのが好きな彼女だ。見知らぬ土地でワクワクしている。

「よーし、いっくにゃー!」

 ピョンと一つ跳ねあがると彼女は元気よく走りだした。

「にゃにゃにゃにゃー!」

 それに負けじとサウザーも、

「フハハハハー!」

 と走りだす。

「凛ちゃんもサウザーちゃんも元気やねぇ」

「そうね。じゃあ、私達も行きましょうか」

 

 早朝の気持ちの良い冷気が走る面々の顔を撫でる。大都市の中にあるにもかかわらず、まるで自然の中を走っているかのように錯覚させた。

「街の中なのにこんな自然があるなんてすごいねぇ」

 走りながらことりは感動を込めて辺りを見回した。

「実はこれ全部人工的に設置されたものなんだって。いわば超巨大庭園みたいなものなんです」

「すごいねぇ。花陽ちゃん何でそんなこと知ってるの?」

「それはもちろん! ここは私が来てみたかった場所でもあるから!」

 

戦闘羅琉公園(セントラルパーク)』! 

 かつてはここも都市の一部であった。しかし、修羅同士のあまりにも激しい戦いから街は崩壊! 以降ここは公園として再整備され、修羅たちの憩いの場、そして死闘の場として愛されているのだ!

 

「この道を形成する窪地も戦いで抉られた地面を整備したものなんだよ」

「へぇ~、綺麗に見えるけど恐ろしい場所なんだねぇ」

 しばらく走っていると、一同の目に小さな石造りの野外劇場が飛び込んできた。ドームを縦に切ったような形状をしていて、修羅の国でのライブ場所を探していたこともあり、興味をそそられる。

「登ってみようよ!」

「また穂乃果はそう思いつきを……勝手に登って良いのでしょうか」

「ええと思うよ? 公園の公共物やし、変な事しなければ特に禁止もされてへんみたいやし」

 と言うわけで、μ's九人は脇の階段からステージに登った。サウザーも登ろうとしてきたが大男一人混じるだけで圧迫感が尋常ではなかった為無理やり降ろした。

 九人は横一列に並んでみる。

「塩梅はどのようだ?」

 シンが呼びかける。

「いいステージだですよー」

 穂乃果の答える通り、音響機器の無い屋外で声を響かせるための工夫などがお洒落に凝らされた作りとなっている。ここでやるのも悪くはないだろう。

「でも、やや手狭かも……5MENなんてステージ破壊するかも?」

 広々としたステージすらも破壊しかねない5MENのライブである。開始早々に破壊する光景が目に浮かぶようだ。

 と、そこへ。

「吾曹!」

「ん?」

 声の方へ向くと、数人のボロがひょこひょこと近づいてくるのが見えた。

「爬!」

「袍!」

「えっと、う、うぃーあージャパニーズスチューデント……」

 突如異国の言葉で話しかけられて戸惑いつつも自己紹介をしようとする穂乃果。しかし、イマイチ通じていないらしく、ボロたちは互いに顔を見合わせるばかりである。

 すると、希が、

「曹!」

「散?」

「吾曹剝空琉愛弗!」

「!?」

 希の説明(?)を聞くやボロたちは驚いた様子で……顔は見えないが、動きで分かる……慄きながらひょこひょことその場を去っていった。

「希ちゃんすごーい!」

 異国の言葉を操る希に穂乃果が賞賛の声を上げる。

「それにしても、なぜ彼らはあれほどに驚いていたのでしょう?」

「そりゃ、スクールアイドルと言えば修羅、という国やからね」

 一緒にいる五人はまだしも、女子高生九人がスクールアイドルを名乗ることに驚いたと見える。

「やっぱり恐ろしい国だなぁ」

 ことりはブルルと身体を震わせる。

「フフ……所詮は下郎。南斗鳳凰拳の前に跪くのみ!」

「サウザーちゃんは気楽でいいね」

 

 

 朝食を終えた一同はさっそく観光……もといライブの下見するべく街へと繰り出した。

「おぉー! 見えてきたー!」

 最初に向かったのはこの街の象徴ともいえる、巨大な女人像(通称ジャイアント女人像)のある島である。読者の皆様もご存知の通り、北斗神拳の伝承者が真の伝承者となるために北斗琉拳伝承者と対決する『天授の儀』が行われることで世界的に有名な場所でもある。

「ことりちゃん撮って撮ってー!」

 穂乃果はジャイアント女人象をバックにポーズを取る。

「穂乃果ちゃん、北斗神拳伝承者みた~い」

「ここでライブするのも映えるかもしれませんね」

 一同の中でも見たい見たいと言っていた花陽は特に大興奮状態であった。

「ほぁ~、北斗宗家の歴史を感ぜられる素晴らしい像だよぉ」

「上野の美術館にあったのはこれのレプリカなんだね。すっごいにゃ~」

 サウザーも感心した様子で見上げながら、

「ほう……我々も南斗を象徴する像なり作らねばならんなシュウ様?」

「構わんが子供たちをさらうような真似はするな。……む、マキの様子が変だぞ?」」

 見ると、先ほどまで元気だったマキが一変してフラフラと立ち尽くしており、意識が朦朧としているかのようであった。その割には目は爛々と輝いているようで、異質である。

「こ、これは!」

「かよちんどうしたの?」

「マキちゃんに北斗宗家の亡霊が憑りついている!」

「えぇ!?」

 ジャイアント女人象の聳えるこの島は北斗宗家にとって最も神聖な場所に一つ。故に、数世代にわたる宗家の人間たちの亡霊がうようよといるのだ!

「なんでマキちゃんに取りつくにゃ? まさか、マキちゃんには北斗宗家の血が!?」

「いや、だってマキちゃん可愛いから……」

「宗家は真っ姫患者の集団だった……!?」

 マキちゃんが生まれる前からの真っ姫患者集団という筋金入りにも程がある亡霊たちの出現にはさすがに恐怖した。わしわ神拳でマキを除霊し正気に戻すと一同は慌てて島を後にした。

「あそこでのライブは無理そうですね」

「マキちゃん的には良い場所なんじゃない? ファンがいっぱいいて」

 ニコが皮肉交じりにいう。しかしマキは水を飲みながら、

「ファンは生きてる人間であってほしいわ」

と疲れた様子で呟いた。

 

 武牢怒通り(ブロードウェイ)! 戦闘羅琉公園と似たような感じの経緯で生まれた区画である! 特に耐霧棲巣喰獲唖(タイムズスクエア)は『世紀末の交差点』として有名である。

「『てふぁにぃ』ってところで朝食食べる映画で有名なんだよね? サウザーちゃん知ってる?」 

「フハハ! 当然だろうが……美味すぎて涙がちょちょぎれるとか、きれないとか?」

「おぉ!」

「全然違うわよ?」

 昼食はその近くにあるレストランでとることとなった。

 修羅の国に来たら食べておきたいのは、何といってもハンバーガーである。日本のそれと違ってハンバーガー自体も、付け合わせのポテトも、ジュースも何もかも修羅サイズであった。

「うん、うまい!」

「穂乃果、がっつくと太りますよ」

「今は別にいいじゃん! それにほら、こうやって食べると美味しいよ?」

 穂乃果に促されて、海未も恥ずかしがりながら口を大きく開けてハンバーガーにかぶりついた。

ほうへふは(こうですか)?」

「あはは、海未ちゃん変な顔」

ほほは(穂乃果)!」

「こらこら海未、頬張りながら話さないの」

「そう言うエリチも口の周りにソースついとるやん」

「あらやだ……」

「このサイズ全部食べたらさすがに()()()そうだな」

「シュウ様も歳だな? フフ……おれは全然平気だし?」

「その張り合おうとする精神はなんなのだ?」

 

 昼食を終え、一同は服屋へ入った。

 ことりの希望である。衣装担当としては気になるところらしい。

「やぁ~ん、海未ちゃんかあいいっ」

 なんやかんやでマネキン役をやらされることになった海未は顔を真っ赤にしながらことりにされるがまま色々な服を試着した。

「修羅の国っていうから肩パッドとかそんなのしか売って無いと思ったけど、可愛い服もあるんだねぇ~!」

「こ、ことり……少々裾が短いというか……」

「上半身裸の人だって大勢いる国だし平気だよ!」

「それとこれとは話が違うでしょう!?」

「フハハハハ!」

 一方、サウザーは大量のアクセサリーを購入し全身に取りつけて喜んでいた。店内照明に反射して無駄に眩しい。

「帝王たるもの、『高級感』も必要だからな」

 サウザーが何か動くごとに身に付けたアクセサリーがぶつかり合ってジャラジャラと音がする。非常にうるさい。

「いるよな、旅行先で無意味なアクセサリーを衝動買いするやつ」

「完全に修学旅行に来た男子中学生のノリだな」

 レイとシュウの呆れ声もどこ吹く風、青春を謳歌するサウザーは楽しそうに高笑いするばかりであった。

 

 一通り目ぼしいものを見て回ったμ'sと5MENは街の一角にある高いビルへ上った。そのビルには展望階があって、夜の街並みを一望することが出来た。

「わあぁぁ……」

 夜空の星をそのまま地上に降ろしたような、そんな夜景であった。

「きれいね……」

 街を照らすのは電気の明かりだけではなく、火はもちろん、その辺の修羅が放っているオーラ的な何かの明かりもあるから、複雑な色調を見せている。混沌ゆえの美と言えた。

「どこも素敵な場所で、迷っちゃうね」

 ことりが苦笑しながら言う。 

 ライブステージは全く決まらなかった……観光してただけじゃないかと言う者もいるが、それで素敵だと思った場所をライブステージにするつもりだったのである。修羅の国には暴力だけではなく魅力も溢れていた。

「初めは、遠い異国の、武が支配する国で私達らしいライブが出来るかどうか不安でしたが……まぁ今も結構不安ですが……不思議ですね、スッと馴染む街です」

 故郷は水平線のはるか向こう。にもかかわらずホッとするような、そんな街だ……。

「……そっか」

 凛がふと気付く。

「この街、秋葉原に似てるんだにゃ」

「何故そう思うのだ?」

 シンが問いかける。

「うんと……うまく言葉に出来ないなぁ……」

「……なるほど、凛の言う通りね」

 凛に代わって絵里がこの不思議な感覚の説明をしてくれた。

「アキバっていうのは、新しいものをどんどん吸収して、どんどん変わっていく……そんな街なの。初めは音ノ木坂にサウザーがいる程度だった世紀末要素が、今では秋葉原全体に広がっているのはそういうことなのよ」

 最初の頃、秋葉原近辺の世紀末要素はサウザーだけだった。しかし、いつしか聖帝軍が音ノ木坂を中心にはびこるようになり、やがて野良モヒカンが闊歩しだし、ついには『アキバドームの地下にはビレニィプリズンがある』といった意味不明な設定までもが誕生してしまった。にもかかわらず、そこで暮らす人々は当然のようにそれを受け入れている。

 これは秋葉原と言う街の特性が引き起こしたことである。新しいものを何でも吸収する懐の深さ故に、秋葉原近辺は世紀末と化したのだ。

「修羅の国に流れる一歩間違えれば死ぬ感じの空気……これは、今の秋葉原の空気のそれと一緒なんだわ」

 そう、μ'sの一同は知らず知らずに世紀末の空気に馴染んでしまっていたのだ。暴力が支配する世界の空気に懐かしさを覚えるようになってしまっていたのだ。

「そういうことだったのですね」

「いや海未ちゃん何納得してんの!?」

 穂乃果が吠える。しかし、納得しているのは海未だけではない。穂乃果以外、みんなが「なるほど」といったような表情を見せている。

「穂乃果、あなたもここ(修羅の国)の空気に安心感を覚えているのではないですか?」

「うっ……そ、そんなこと」

「嘘おっしゃいよ」

 マキが優しく諭す。

「穂乃果、分かっているはずよ。振りだけは世紀末組と一線を画していたつもりのようだけど、あなたはもう世紀末に生きる人間なの」

「そ、そんな……」

 穂乃果はサウザーや世紀末理論に対しいつもツッコミを入れていた。それは、自分がごく普通の女子高生だという思いがあったからだ。だが、今日、この場所で、穂乃果は指摘通りある種の『安心感』を得ていた。力が支配するこの国で何故か感じてしまう腑に落ちるような感覚……それは、彼女が『世紀末に片足突っ込んだ人間』になっていたという証拠に他ならなかった。

「わ、わたしは……私は……うわあああ!」

「穂乃果!」

 気が付けば、穂乃果は走りだしていた。

 ビルを降り、一人夜の街を駆け抜けた。

 いつしか降り出した雨にも構わず、穂乃果は修羅の街を走り続けた。

 

つづく




名前がどちらかと言えば男塾だし世界観もDDだし分かんないね。
あとシリアス(?)は続かないよ。悪いけど。

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